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<キャッチボール連載>若手女性教員の奮闘日記 毎日が全力疾走!#4 啐啄同時~ 一人一人の良さを、一点の曇りもなく全員に伝えきれるか

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

菊池省三先生から学び続ける全国各地の教師たちが集う教育実践研究サークル「菊池道場」を代表する若手お二方によるキャッチボール連載がスタート。子どもと向き合う上での葛藤、毎日の忙しさ、そして奮闘の日々の中に訪れる至福の瞬間……。若手教員の等身大でリアルな日常を綴ります。

今回の執筆者/高田ゆり彩(埼玉県公立小学校教諭)

Aさんの「成長ノート」から

1学期が終わり、2学期が始まりました。前回、田中さんが書いてくださった「2:6:2の法則」の“6”の話を受けて、夏休み中ずっと考え続けてきたことがあります。それは、私の担任する学級のAさんという一人の子どもの変化を、私自身がどこまで「見取れて」いたのかということです。Aさんは、ここで言う“6”のお子さんです。正直、はっきりと見取れていたと言い切れる自信はありません。ですが、そのわからなさも含めて、今回振り返ってみようと思います。

今年、私は6年生の担任をしています。発達段階的に自我が確立されてきているこの学年では、心の成長が、行動面や態度面といった現象面にすぐには表れにくいものです。現象面ばかりを見ていると、教師は「変わらないこと」に不安を覚えたり、焦りを感じたりして、子どもとの心の距離感がどんどん離れていってしまいます。だからこそ、現象面だけに囚われず、その子の内面にどんな考えがあり、どのような変化があったのかを丁寧に見取っていく必要があります。そのために私が普段使っているのが、菊池先生のご実践である「成長ノート」という取組です。
「成長ノート」とは、教師がテーマを与え、子どもがそれに対して作文を書き、教師がコメントを返していく中で子どもたちを育て、成長させるためのノートです。

Aさんは4月、「先生へ」というテーマで書いた最初の成長ノートに、こう記していました。

「きんちょうすると、声が出なくなります。人前がとても苦手です。」

正直で、飾りのない言葉でした。今振り返ると、この時点で私は、Aさんがどのように、どんなきっかけで変わっていくのか、まったく見通しを持てていませんでした。
4月から5月にかけて、Aさんの姿に大きな変化を見取ることはできませんでした。

ある日、みんなの前で発言することを全員がゲーム感覚で経験してもらおうと、自由起立発表を目指した授業を行いました。その日の Aさんの成長ノートには、「早く終わらせたいから、早めに立って発表することができました。」と書いており、発表そのものへの苦手意識が、Aさんの中に強く残っているのを感じていました。

6月、ある日の社会科の授業でのことです。同じ立場同士の話し合いの場面で、Aさんは友達と一生懸命話し合い、自分の意見をしっかり持てるようになっていました。私は、これはみんなの前でも発表できる意見だと思い、「この意見、全体の場でも発表してみたら?」と声をかけました。そのときのAさんの不安そうな表情を、今でも覚えています。結局その日は、Aさんが全体の場で発言することはありませんでした。

今考えると、私の声かけは「発言すること」自体が目的になってしまっていたのではないか、と振り返っています。Aさんの中で、「発言することがみんなの学びにつながり、それが自分自身の学びにもなる」という実感が育つ前に、私は形だけを急いでしまったのかもしれません。
人一倍繊細で、周りの空気を敏感に感じ取ってしまうAさんにとっては、少し早すぎたのだと考えています。
その反省があり、授業に「参加」していることの意義を、発表場面以外でも子どもたちと共有し、広げていきたいと考えました。そこでその授業の後に、「友達と一緒に一生懸命相手への反論を考え続けていたよね。本気で参加していましたね。」と Aさんに伝えると、嬉しそうな表情をしていました。

そして7月、「奈良の大仏はもっと小さくてもよかったか」というテーマで、ディベートの授業を行いました。
この授業の後の Aさんの成長ノートには、次のような文章が書かれていました。

「わからないことをわからないままにしてしまう自分もいて、そんな自分から変わりたいと思いました。わからなかったらすぐ質問をしてわからないことをなくしていきたいです。」

私は、「『わかったつもり』から『すぐ質問する自分』に変わりたい、という気持ちは、Aさんの成長しようという思いの表れですね。」とコメントをして返しました。

Aさんは、何をきっかけに成長したのか

その後の振り返りの授業でのことです。全員がお互いに質問をし合う時間に、Aさんが自分から立って、友達に大して質問をしたのです。小さな声を震わせながらの発表でしたが、みんなに自分の考えを伝えようとする気持ちが、ひしひしと伝わってきました。私は一瞬の驚きと、深い感動を覚えました。

ただ、その瞬間どう関わるべきか、私はとても迷いました。発言できたことへの価値をみんなの前で価値づけたい気持ちもありました。でも、それをしてしまうと、Aさんにとっては過度な注目になり、次へのハードルを上げてしまうかもしれない…。
私はAさんにとって、この発言が「成功体験」として残ることを、何より大切にしたいと思いました。そこでその場では「Aさんの言葉を私が一番の聞き手になって受け止め、新しい気づきとして受け止める」という関わり方を選びました。

さらにその後、1学期最後の Aさんの成長ノートに書かれていた文章を紹介します。
テーマは「過去の自分と今の自分」でした。

「今までは、まわりの人がどう思っているのかを決めつけていた自分でした。でも、6年3組に来て、思ったことがあります。失敗しても笑い合っていたことです。わたしは、前に声が出なかった時、笑われて、そこから心を閉ざしてしまったのかなと思います。前に出て話す=声が止まってしまうと同じで、5年生の時もそうなっていました。でも今は、本当にみんな優しいんだと思えたから、不安が少しずつ消えたのかなと思いました。」

以下が、私が赤字で返したコメントです。

「Aさんへ  ものすごい自己開示ですね。教えてくれてありがとうございます。(中略)なぜ、6年生になって、みんながやさしいと気づけたのか、そう思えたのか知りたいな..……変われたきっかけがあったんですよね。」

私には、Aさんの変化の理由がわかりませんでした。対話中心の授業なのか、成長ノートの積み重ねだったのか、それとも私の知らないところでの友達との関わりだったのか――。

Aさんの成長ノート

そこで、Aさんに直接インタビューをしてみました。
私が「何がきっかけで、発言できるようになったと思う?」と問うと、

「わたしが話しているときとか、友達が話しているとき、周りの友達がみんなニコニコしていた。」
と答えました。

……結局、はっきりとした成長のきっかけが何だったのかは、わかりませんでした。
ですが、今振り返ってみると、6月から始めた「ほめ言葉のシャワー」が、Aさんが変わるきっかけの一つになっていたのではないかと考えています。「ほめ言葉のシャワー」は、その日の日直の子に対して、全員が自由起立で良いところを伝え合う活動です。記録を遡って見ていくと、Aさんは少しずつ、自分から立って友達にほめ言葉を伝えるという行動を見せていました。

「発表をたくさんしていますね。授業熱心な人なんですね。」
「放送委員の時に、ハキハキとみんなに聞こえやすい声で放送していましたね。相手の立場になって考えられる人ですね。」
「先生にいきなり無茶振りされても、みんながやる気が出るような号令をかけていましたね。無茶振りに強い人ですね。」

これらは全て、Aさんが友達に対して伝えたほめ言葉です。並べてみると、そのどれもが「発言する」「ハキハキ話す」「人前で堂々とする」という、Aさん自身が劣等感を感じていた部分と重なる言葉だということに気づきました。自分がなりたい姿を無意識のうちに友達の姿に重ねて、自然とそこに目を向けるようになっていたのではないか、と思いました。

終業式の日、私は黒板いっぱいに、クラス全員分の良いところを書きました。
1学期間、成長ノートやほめ言葉のシャワー、日々の雑談の中で見てきた一人一人の姿を、言葉にして渡したかったからです。

その黒板を書きながら、私は改めて感じたことがありました。その子自身のよさを、一点の曇りもなく、周りの児童に言い切れる自分でいられているかどうか。

Aさんは人一倍感性が強く、豊かで、敏感に感じ取れる子です。教師にとって気になる子でも、 Aさんにとっては大切なクラスメイトです。そんな「気になる子」もまとめて、担任が一人一人のよさを言い切れるか。これが、教室に安心感をもたらす土台になるのだということを、「みんな優しいんだということに気づいた」というAさんの言葉から改めて気づかせてもらいました。

そんな担任の見る目を土台としながら、「ほめ言葉のシャワー」を通して「人の良いところに気づこうとする努力」を積み重ね、自分が「こうなりたい」と憧れる友達が近くにいる教室の環境をつくっていく――。
この二つが、なかなか声を出せなかったAさんを、少しずつ上へと押し上げていたのではないか。今はそう考えています。

1学期最後に、「クラス全員の良いところ」をびっしりと書いた黒板。


※この連載は、原則として月に1回公開します。

次回の執筆者・田中先生へ

今回、Aさんの変化と向き合いながら、菊池省三先生の出演されたテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で知った「啐啄同時」という言葉を、何度も思い出していました。ひな鳥が卵の中から殻をつつく「啐」と、親鳥が外から殻をつつく「啄」。そのタイミングが合ったときにだけ、殻は破れるという言葉でしたね。

対話・話し合いの授業、そして、ほめ言葉のシャワーを通して、友達同士の関係づくりがAさんの成長を後押ししていたのではないかと気づいたのは、夏休みに入って、記録を追ってからのことでした。私はAさんが、どこで、どのように心が育っているのかを、はっきりとは見取れていません。本人にとっても、変化のきっかけは語れないものなのかもしれません。子どもが成長しようと自らの殻を破ろうとしている「啐」を見取り、ここぞという時に、「啄」として手を差し伸べることができる教師でありたいと思う一方で、その難しさをこの1学期で痛感しました。

田中さんは、子どもの中に育っている「啐」を、どのように見取っていらっしゃいますか。そして、一つの見方に囚われず「啄」のタイミングを図るために、日々どんなことを大切にされていますか。次号でぜひお聞かせください。楽しみにしています。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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