<キャッチボール連載>若手女性教員の奮闘日記 毎日が全力疾走!♯1「厳しさ」と「ゆるさ」の狭間で

菊池省三先生が主催する教育実践研究サークル「菊池道場」の若手、高田ゆり彩先生と田中麻莉子先生が交替で執筆するキャッチボール連載。若手ゆえのリアルな悩みと葛藤、そして、全力疾走の日々の中に訪れる教員ならではのかけがえのない喜びを、飾らない等身大の言葉で綴ります。
今回の執筆者/田中麻莉子(千葉県公立小学校教諭)

目次
はじめに
はじめまして。田中麻莉子と申します。
今年度で教員5年目になりました。これまで初任から、4年生→1年生→5年生→6年生と担任させていただき、今年度は初めての3年生を担当しています。初任の時、子どもたちと毎日を過ごしていく中で、「私は教師として、子どもたちの時間を預かっているのだ」ということを実感しました。毎日緊張して、綱渡りをしているような気分でした。毎日のように「今日も失敗した」と、子どもへの申し訳なさを感じながら、帰宅していました。そんな日々を過ごしているとき、「菊池道場」に出会いました。
これまで、菊池省三先生をはじめ多くの全国の先生方や同僚の先生方に日々の実践についての悩みを打ち明け、「どう学級をつくっていくべきか」「どう子どもと向き合っていくべきか」について話し合いをさせていただきました。そうする中で、「申し訳ない」という気持ちだけでは、前には進めないということを学びました。
毎日の教室から、悩み、考え、子どもと一緒に成長していきたい――ーそんな想いでこの連載を書かせていただきます。
忘れ物への対応
今年度(2026年度)が始まって、3か月が経ちました。4月には緊張していた子どもたちも、朝教室に入って来てすぐにケラケラと笑いながら友だちと話をしている姿、休み時間に楽しそうに係活動に打ち込む姿、授業の時間に笑顔で意見を言い合う姿など、子どもらしい温かみを感じる姿が多くみられるようになりました。その反面、「これは、教室のゆるさではないか」とドキッとすることも多くなってきました。
これまでの経験上、4月には、子どもたちや保護者の方から「お姉ちゃんみたいな先生で良かった」と言葉を頂くことがあります。とてもありがたく嬉しい言葉です。しかし、この「お姉ちゃんみたい」な教師であるがゆえに、学級の成長、そして子ども一人ひとりの成長を止めている側面があるのではないかとも感じています。そして、成長を止めてしまう「教室のゆるさ」の原因の一つに、「教師と子どもの距離感」があるのだと考えています。
4月のある朝の時間のことです。私が教室に入ると、Aさんが突然、「あー!」と頭を抱えて叫びました。見ると、ランドセルの中を焦りながら覗いていたので、何か忘れ物をしたのだなと思いました。
案の定、Aさんは宿題であった漢字ノートを家に忘れてきてしまったのです。その後、Aさんは、ちらっちらっとこちらを見て、「どうしよう…」と言いながら、私の近くを何度も歩き回っていました。言い出せないのだな、と感じ、私はさり気なく「どうしたの?」と聞きました。すると、Aさんは、「漢字ノートを忘れたので、明日持ってきます」と言い、私は微笑みなが「分かりました。明日は忘れずにね」と返事をしました。
数日後、またAさんが宿題を忘れてしまいました。その日は、私の近くにいた友達に「どうしよう!漢字ノート忘れちゃったー!」と言いながら、私のことをちらっと見ました。一瞬のことでしたが、とても迷いました。ここで、「えー、忘れたの?」と子どもたちの話に割って入ると、ゆるい関係になってしまいます。しかし、自分から報告に来るまで待つのでは、後出しの指導になってしまうような気がしました。なぜなら私は先日、Aさんに自分から声をかけて終わっているからです。私は、先日のAさんとのやり取りを反省しました。
もちろん、学級全体として、「忘れ物をしてしまったら自分から先生に報告にくること」というルールは共有しています。しかし、私は最初のAさんとのやり取りでそのルールを確認することができていなかったのです。
その日、Aさんと改めてルールを確認しました。そして、私の話を真剣に聞いた後、「宿題を忘れました。すみません」と言葉にすることができたAさんの素晴らしい姿を取り上げながら、「責任を持って『忘れ物をしてしまいました』と自分のことを報告する。それも公の行動の一つです」と、学級全体に話しました。

不規則発言への対応
4月の算数の授業の時です。号令をかけ、授業を始めようとした時、「先生、ノートは使いますかー?」と質問をされました。前日の算数の時間が、復習プリントを使った学習だったからでしょう。
私は、「使います」と答えました。すると、「先生、それは書いた方がいいですか?」「1マス空けますか?」と次々と質問が来るようになり、授業のテンポが落ちていくのを感じました。
音楽の時間の初めにも似たようなことがありました。私が全体に向けて話をしているときに、鍵盤ハーモニカを忘れたことを休み時間に報告できなかったBさんがぱっと立ち上がって、私の近くまで来ました。私の話を遮るように「先生、鍵盤ハーモニカを忘れました」と言いました。
もちろん、子どもたちに悪気はありません。むしろ、「きちんと授業を受けなければ」「しっかり報告しなければ」という真面目な思いで行動しているのだと思います。
しかし、このままでは授業のスピードが落ち、どんどん教室がゆるくなっていきます。そこで、何が原因なのかを考えました。年度初め、私は、子どもたちと1対1で繋がることを大切にしています。子どもとの信頼関係をつくるためです。しかし、それを意識しすぎたせいで、子どもたちには私しか見えなくなってしまっているのではないかと思いました。「自分と先生」だけの関係にとどまり、教室にいる他の仲間が見えていないということです。
そして、それは私が「応えすぎてしまっていた」ことに一つの原因があると思いました。
その後は意識して、「今は聞く時間です」「心で頷きましょう」などの言葉をかけ、子どもたちが「教室は公の場なのだ」と、学級全体を見渡すことができるように関わっています。
その結果、だんだんと授業の中で、「今は何を優先するべきなのか」と子どもたちが考える様子が見られるようになりました。しかし、それだけでは、教師と子どもの距離感を遠ざけただけでもあるのかもしれません。
5月からは「質問タイム」「ほめ言葉のシャワー」の実践を始めました。「子ども同士の距離感を近づける」ことが一つの意図としてあります。「先生に見てもらおう」ではなく、「みんなに成長しているところを見せよう」という行動が見られるようになりました。それが、だんだんと子どもたちの「自分らしい公の姿を見つける」安心感につながり、学級全体で成長しようという空気をつくっていくのだと感じています。
「教師と子どもの距離感」を考え直すことと同時に、私たちは「子ども同士の距離感」もまた考えなければならないのだと思いました。
※この連載は、原則として月に1回公開します。

次回の執筆者・高田ゆり彩先生へのメッセージ
菊池道場の学習会で出会って以来、いつもいろいろなセミナーや学習会にご一緒させていただき、ありがとうございます。1年上で、先を歩いている教育熱の高い高田さんと学べることが、とても楽しいです。
さて、以前学習会でお会いした時、私たちの考えるべきテーマの一つとして、「厳しさ」があるのではないか、という話になりましたよね。子どもたちの成長のためには、「怖さ」を与える必要はないと思いますが、ときには一歩前に踏み込んで負荷をかける「厳しさ」は必要だと思っています。
しかし、教師と子どもの距離感が近すぎては、その負荷をかけることができず、子どもたちが成長の機会を失ってしまうのではないでしょうか。
日常の一つ一つの場面における教師の振る舞いによって、子どもとの距離感は決まっていくのではないか、と最近ふと考えました。
高田さんは、子どもとの距離感についてどのようなことを意識して関わっていますか?それが、学級や子どもたちの1年後のゴールの姿とどう関係しているのか、年間を通しての高田学級の実際を知りたいです。
お返事、楽しみにお待ちしています。
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取材・文/関原美和子

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


