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<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」3学級での実践レポート~2026番外編③ 千葉県船橋市立田喜野井小学校6年1組

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。第1部の番外編として、植本京介生の学級(6年生)における2025年11月のディベートの授業記録をお届けします。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

任・植本京介先生より、学級の現状報告

学年ごとにクラス替えを行うので、今年度から受け持った子が半数、昨年度から引き続き受け持った子が半数の学級です。
この学年は、入学以来、指導の難しい学年でした。5年生では、中心になっていた子供たちを分ける形で学級編成を行い、今年度もその子たちの人間関係を考慮しました。
新年度が始まると、4年生のときに落ち着かなかった子供たちが、生活面でも覇気が感じられず、担任に対してもやや反抗的な態度をとるなど、再び不安定な様子が見られました。保護者との連絡を密に取りつつ、学校生活では「ほめ言葉のシャワー」や係活動などの「菊池実践」を行い、安心できる教室づくりに取り組んでいます。
このような実状を踏まえ、「自分の考えをまっすぐ前を向いて話せる子」を1年後のゴールイメージにしました。
聞き合うことで自分の考えを築き上げられる子。その子なりの「強い学び手」になり、それが機能するような集団にしたいと考えています。
対話・話し合いについては、昨年度から持ち上がりの子と、今年度から学級に来た子とで経験の差がかなりありました。
それでも、話し合いのたびに、“キーマン” になる子が生まれたので、その子をクローズアップし、周りに価値づけていきました。ディベート大会も、昨年度に引き続き行いました。
こうした積み重ねによる成果もあり、話し合いに前のめりになる子が徐々に増えてきました。

菊池先生による授業レポート

3. 19

黒板に書いた数字を指差しながら菊池先生が、
「これは何の数字か、当てずっぽうで言える人?」と尋ねると、
「ホワイトデーのお返し?」と男子が “予想” した。菊池先生が笑いながら、
「隣の人と『ホワイトデーではないぞ』と言いましょう」と話すと、みんなが大笑いした。次の子が、「卒業式」と答えると、みんなから大きな拍手が起こった。
「卒業式まで、あと4か月ですね」と菊池先生が言いながら、ある新聞の写真をみんなに見せた。新聞には、

<90歳の今でも同窓会 変わらない友情温める>

という見出しがつけられている。
「この写真を見て思ったこと。何でもいいので、隣の人と意見交換しましょう」
当てられた縦1列の子たちが発表した。

⚫︎クラスの人数が半分ぐらいになっている
⚫︎90歳でも友情を温めている
⚫︎2011年の記事だから、今から14年前の記事である
⚫︎昔、友達だった人と、90歳の今でも友達である

菊池先生が、
「この記事は、小学校の同窓会だそうです。同窓会というのはどういう会か、5秒だけ相談しましょう」と問いかけた。
縦列で発表。

⚫︎昔の同級生たちが大人になって集まること
⚫︎小学生だった人が20歳くらいになって集まる
⚫︎昔友達だった人たちと集まる会
⚫︎同じクラスだった人と思い出を話す

「見出しにある『変わらぬ友情』とはどういうことだろう。成長ノートにズバッと書きましょう」
菊池先生の問いかけに、子供たちは思い思いにノートに書き込んだ。
「書けていなくても友達と写し合えばいい、いつもの仲良しじゃない人とも話す。じゃあ、席を立って自由に意見を交換し合いましょう」
子供たちは立って移動しながら意見を交換し、そのままの位置で発表した。

⚫︎これからもずっと仲良しでいる
⚫︎昔からずっと変わらない
⚫︎友情を分かち合うこと
⚫︎亡くなるまで(続く)
⚫︎いつまでも小学生のような仲が続く

今の自分が未来を決める

発表を終えると、菊池先生が、
「もう一つ、大事な話があるんだけれど、してもいい?」とみんなに尋ねた。
子供たちがうなずき、自分の席に戻ると、菊池先生がある町の教育長の話を始めた。

Point1
教師の話に注目させたいときは、「~~してもいい?」と会話調で話しかけ、指示するときは「~~しましょう」と促す。子供の発言に対しては、軽く驚いてうなずく。会話体で話して子供たちをリラックスさせて動かし、リアクションで認める。授業は、教師が一方通行で進めるのではなく、子供たちと一緒に作り上げていくライブなのです。
「何かを発表しなくてはいけない」「間違えてはいけない」「失敗したらいけない」「笑われるかもしれない」「先生から叱られるかもしれない」「先生がフォローしてくれないかもしれない」「そもそも教室に自分の居場所はあるのか」──子供たちは、心の中でそういうプレッシャーと戦いながら学んでいます。
ぐにゃっとだらしなく姿勢が崩れている子は、そういうプレッシャーに負け、「どうせ自分はできないから…」と投げやりになっているのかもしれません。その姿を見て、教師は「だらしない」と咎めますが、実は教師が、そういうプレッシャーを与えているのではないでしょうか。

「今、70歳になった教育長も定期的に同窓会をしています。でもその同窓会に呼ばれない人がいるそうです。どんな人なのか。ズバッとノートに書きましょう」
1文字でも書いた子が席を立って発表した。

⚫︎いじめっ子とか、印象が悪かった人。
⚫︎印象が薄くて忘れられた人
⚫︎問題児
⚫︎亡くなった人
⚫︎仲が悪かった人
⚫︎犯罪者
⚫︎人に迷惑をかけたり嫌な思いをさせた人
⚫︎かかわりがなかった人
⚫︎海外とかにいて、来られない人

菊池先生が続きを話した。
「在学中、人に嫌なことをしたり、みんなで何かをするときに勝手なことをしていたりした人は、何年経っても同窓会に呼ばれないそうです。今の話からどんなことを学びますか?」
子供たちは再びノートに書いた。
友達と意見交換し、発表。

⚫︎一度持たれた印象はなかなか覆せない

菊池先生が、
「なかなか覆せないということは、未来の自分を決めてしまうということなんだね。深いねえ」と言いながら、<今の自分が未来を決める>と板書した。

⚫︎人に嫌なことをしたら、避けられたりする

「されていやだったことは、ずっと心に残るんだね」と菊池先生がうなずき、<いやなことは記憶に残る>と板書した。

⚫︎人が嫌がることはしない

菊池先生が、
「じゃあ、逆に『また会いたいな』と思ってもらえる人はどんな人でしょうか」
1つでも書けた人が席を立ち、発表した。

⚫︎話し合いがおもしろかったり、笑顔が多い・人を大切にする
⚫︎困っているときに助けてくれる
⚫︎話していて楽しい
⚫︎相手のことを考える
⚫︎紳士
⚫︎性格が合う
⚫︎優しく、仕事を手伝ってくれる
⚫︎パーソナルスペースにずかずか入らない
⚫︎うれしかった、楽しかった思い出がある
⚫︎悪いことをしない
⚫︎誰にでも優しくできる
⚫︎「陰キャ」(内向的な性格)と「陽キャ」(陽気な性格)を区別しない
⚫︎周りの空気が読める
⚫︎相手の嫌がることをいわない
⚫︎すごいことを成し遂げる

「『どうしてそう思ったのかな?』と考えながら聞く。同時に、『自分はどうだろう?』と自分にも問いかけながら聞く。それが聞き合い・学び合いということなんですね」と菊池先生が話すと、みんながうなずいた。

今の自分、今の学級を数字で表すと

「では、『今、自分はそういう人になっているぞ』という人は4、『まあまあなっている』人は3、『あまりなっていない』人は2、『全然なっていない』と思う人は1をノートに書きましょう。これは発表しません」
子供たちは真剣な表情でノートに向かった。
「6年1組は何番が多いと思いますか?」
菊池先生が縦列の5人に尋ねると、1人が2、4人が3と答えた。

Point2
「自分がどれだけできているか」は、自分自身と向き合う問いです。自分自身の言動や考え方を客観的に見つめ直し、今後に活かしていく内省をすることで、自己開示ができるようになっていきます。だからといって、本音で書いた答えをみんなの前で発表する必要はありません。
こうした問いの発表は、「自分はどうか」ではなく、「私たち(自分の学級)はどうか」も考えさせます。自分自身だけではなく、他者まで広げて考えさせるのです。
客観的に自分の学級を見つめ、今後どうすれば成長し合えるかを考えるこの問いは、他者理解へとつながっていきます。
まだ2だと感じたとしても、真面目な子は忖度して控えめに答えます。とりあえず無難な3を選ぶ子もいるでしょう。4だと言い切れないところに、今の教室の状態が出ているのではないでしょうか。

「植本先生から、話し合いができている学級であると聞いています。こういう話し合いができる教室で学ぶ友達とは、『また会いたい』と思えるんじゃないかな」と菊池先生。
次に、6年1組のみんなが楽しそうに話し合いをしている写真を何枚か見せた。
「これはみんなが、一緒に頑張ってきたときの写真です」と菊池先生が話すと、みんなの笑顔がこぼれた。
「4と書いた人はその上へ、3、2、1の人は4へ向かうために、自分は何をやめて何をしなければいけないか、ノートに書きましょう」
菊池先生の問いかけに、子供たちはサッとノートに書き込んだ。
「質問し合って、聞き合って、理解し合うのが対話です。今から、また自由に話します。そのとき、2つの対話をしてもらいます。
1つめは、相手が考えたきっかけやエピソードを『どうしてそう思ったの?』と深掘りして聞くこと。2つめは、友達の意見に対して、『自分はどうなんだろう?』と自分に問いかけること。
友達との対話、自分との対話。これができるようになったら、クラスの嫌なことはなくなります。そういう対話をいろんな友達としましょう」。
子供たちの意見交換の速度が上がった。

Point3
書くことは、自分との対話において欠かせない活動です。
教師はそこを意識し、子供たちにきちんと書かせる “圧” をかけることが必要です。
タブレットに頼ると、知らない漢字を読めたり、絶対解の “正解” を見つけたりすることはできますが、自分の中から見つける納得解の答えを見つけてはくれません。
対話は、①内容・事項、②相手、③自分、の3方向で成り立ちます。この中で、一番のキモは自分です。自己内対話ができるようになるためにも、書くことは欠かせない活動です。

意見交換後、何人かが発表した。

⚫︎もっといろいろな人と話す
⚫︎みんなのためにできることをする
⚫︎人が喜ぶことを言えている自信がないから、これからもっと意識する
⚫︎いろいろな人とまんべんなく話せるようにする
⚫︎嫌な人の陰口を言わないようにする
⚫︎人と自分を区別してしまうけれど、どんな人とも区別しないで接するようにする
⚫︎前は嫌がることをしたけど、今、自分の態度を改めた

男子の発表に、菊池先生が、
「前のよくない行動を省みることができるのは、すごい自己開示だね。みんなで拍手!」と話すと、みんなが大きな拍手を送った。

祝!!   田喜野井小学校六年一組 同窓会

発表後、菊池先生が上のように板書し、
「計算すると、みなさんは2103年に90歳になります。そのとき、『また会いたいな』と思えるように、今、考えたことに一生懸命取り組んで、卒業式までの一日一日を大切に過ごしてください」と授業を締めくくった。

菊池省三先生から植本先生へのメッセージ

なかなか一筋縄ではいかない子供たちがいる中で、その子も含めた学級全員を成長させるには、大変なエネルギーが必要です。
授業の質を高めつつも、子供たち一人ひとりのプラス面に目を向け、マイナス面を潰していく生徒指導的な取組を授業の中でも行っていかなければならない。子供たちに引くことなく、押していく植本先生の姿が感じられました。
中堅教師としてこれまで積んできた経験だけでは乗り切れないことを、「わからないこと」としてしっかり受け止め、どうすればいいか学び続ける。即効性はなくても、一つひとつ積み重ねていく。子供の成長を信じる“覚悟”が伝わってきました。

菊池省三先生による授業解説

卒業に向け、「なりたい自分」「あるべき学級」を意識させることで、子供たちに「そのために自分がすべきこと」を明確化させたいと考えました。
友達との信頼関係ができることで、対話・話し合いは成り立ちます。
「いろいろな友達と対話をすると、自分自身のことも分かって、自分の成長を実感できる。だから対話・話し合いは大切なんだな。もっと対話・話し合いをして、もっと自分を成長させたい」という成長への憧れをもつことで、卒業までの残りの時間での成長が加速していきます。
そのために、対立する話し合いを設定し、自分で意見を考え、他者の意見にふれる。お互いに自己開示する。
同窓会の写真は、いわば自分たちの未来でもあります。自分を省み、相手を思いやり、お互いに成長し合うことでみんなが笑顔で語り合える未来が拓ける。未来の姿に憧れを抱くことで、「もっと成長したい」という気持ちが卒業まで加速していくのです。

卒業、そしてその先の未来を意識させた話し合いに、子供たちの熱い意見が飛び交う。
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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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