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深谷圭助先生の「言葉が育つ教室」ー辞書引き学習からひらく語彙指導 #1 なぜ今、語彙指導なのかー「わからない」はどこから生まれるのか

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中部大学教授

深谷圭助

「辞書引き学習」で著名な深谷圭助先生が、「量子認知学」の考え方を基に、「AI時代における語彙教育のあり方」について提案する全10回連載。安易にデジタルデバイスに頼ることなく、子どもたちの語彙力を確かに伸ばす実践について、毎回具体的に提案します。

執筆/深谷圭助(中部大学教授・例解学習国語辞典』(小学館)編集代表) 

1教科書を読めない子どもたち、入試で読解することを求められる子どもたち

ある授業でのことです。
教科書を読んでいた子どもが、こう言いました。
「先生、よく分からない」

どこが分からないのかを尋ねると、
「言葉の意味は分かるけど、文の意味がよく分からない」と言うのです。

この言葉に、「語彙指導の本質」が表れています。
「言葉の意味は分かるのに、文の意味が分からない」というのは、どういうことでしょうか。

例えば、「ごんぎつね」の授業において、

「『兵十がはりきりあみを持ち出した』というところだけれど、どうして兵十は、はりきっていたの?」

と聞いてくる子どもがいます。
こうした子どもたちは、「言葉の意味」を知っていても、それらの単語が、文章の中でどのようにつながっているかを考え、その言葉がどのようなニュアンスを文に与えるのかまでは、なかなか捉えきれていません。授業において、そういうことはしばしばあることです。

ここで、「冷たい」という言葉について考えてみましょう。

「水が冷たい」
「態度が冷たい」

同じ「冷たい」でも、使われる場面によって意味は微妙に異なります。

ところが、学校の語彙指導では、

「冷たい=温度が低い」

というように、「一つの意味に固定して教えてしまうこと」が多いのです。
これでは、子どもたちは言葉を「点」として覚えるだけで、文章の中で生きた意味として、「点」を「線や面」として捉えることができません。

「言葉」を「点」ではなく、連続する線や面として捉えることができれば、言葉の持つイメージの先を想像することができます。言葉は、単独では存在し得ないのです。子どもの言葉も、あなたの言葉も他の言葉に意味として連なっているはずなのです。

2語彙は「世界の見え方」をつくる

語彙力とは、「知っている言葉の数」ではありません。それは、「世界をどのように切り取り、どのように理解するかという力」です。同じ出来事を見ても、語彙が豊かな子どもは、より繊細に、より多面的にものごとを捉えることができます。

「語彙が豊かである」というのは、それだけ、諸表現に対する「解像度」が高いということです。「解像度」を高めるための言葉の指導として分かりやすい例として、図画工作科の作品鑑賞における指導が挙げられます。

図工(美術)の作品鑑賞にあたっては、鑑賞する際に使える語彙、表現についてあらかじめ教える必要があります。語彙、表現が豊かな子どもは、より鑑賞するための視点が増え、解像度が高くなるからです。

逆に語彙が限られていると、世界(例えば美術作品)はぼんやりとしか見えません。だからこそ、語彙指導は国語だけの問題ではなく、すべての学びの基盤となるのです。

3.「調べて終わり」になっていないか

では、学校での語彙指導の現状はどうなっているでしょうか。
多くの場合、「分からない言葉を調べる」「意味を書き写す」という活動で終わってしまっています。

しかし、これでは言葉は定着しません。なぜなら、子どもは「正解」を一つ覚えただけで、その言葉の広がりやつながりに触れていないからです。

4明日からできる小さな工夫

では、どうすればよいのでしょうか。
まず、次のような一言から始めてみてください。

「この言葉を他の言葉で言い換えてみましょう」
「この言葉にはほかにどんな意味があるかな?」

たったこれだけで、子どもたちの言葉に関する思考は大きく変わります。

「冷たいって、人にも使うよね」

「心が冷たいってことかな」

「心が冷たいって、氷が冷たいと違う意味なの?」

「じゃあ、冷たいって、優しいの反対?」

「冷たいの反対は、温かいだよね?」

このように、言葉は徐々に広がり始めます。

5語彙指導は「広げる」ことから始まる

本連載では、語彙を「覚えるもの」から「広がるもの」へと捉え直し、教室で実践できる具体的な方法を紹介していきます。辞書の使い方も、その一つです。辞書は、単に意味を調べるための道具ではありません。言葉と出会い、言葉を広げるための装置です。

次回は、「意味は一つではない」という視点から、子どもの語彙理解をどのように変えていくかについて考えていきます。

小学館の例解学習国語辞典。筆者の深谷先生が編集委員代表を務めた。
小学館の「例解学習国語辞典」第12版。筆者が編集委員代表を務め、このジャンルでのシェア1位を誇る。
深谷圭助先生

筆者プロフィール
ふかや・けいすけ。子どもの自ら学ぶ学習意欲と語彙力、言語活用能力、読解力を短期間で圧倒的に高める「辞書引き学習法」の開発・提唱者。子どもの学習意欲の低下や学力低下といった問題を打開する確かな指導法として、教育界で一際注目を集めている。その効果の高さから国内の教育現場はもちろんシンガポールなど海外でも導入されている。講演では子どもたちに実際の指導を行うことで学習意欲と学力向上を実感できる内容を盛り込み、また、教育現場における正しい指導法を伝授する。

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