<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」第2部・学校づくり編 #6 特別対談「コミュニケーション力を育てる 学校経営」

菊池実践を追試している3つの学校の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載、第2部。今回は、愛媛県松山市立道後小学校の佐藤郁子校長と菊池先生との対談(2025年11月)によって、「コミュニケーション力を育てる学校経営」について提案します(肩書は取材当時のものです)。

目次
校長・佐藤郁子先生より、学校の現状報告
今年度は、対話・話し合いの深化を目標に、授業研究に取り組んでいます。全教科において、コロンタイム(対話の時間)を位置づけるとともに、研究指定を受けている社会科を中心に研究を進めています。全教科や「輪話和タイム」を続ける中で、子供たちは話し合いに慣れてきましたが、まだまだ深め合うところまでは至っていません。
そこで、対話の深まりについて教師のゴールイメージを明確にするためのシートを作成しました。
1学期から2学期へ、そして最終3学期のゴールを目指して「どのような子供を育てていくか」を共通理解するためです。
教師間の話し合いも活発に取り入れたおかげか、放課後の職員室での雑談が盛り上がっています。職員室が居心地のいい場所になっていると感じています。
「学年主任を中心に、チーム〇学年として機能してほしい」という思いを、教頭・主幹・学年主任に伝え、水輪のように広がっていけばいいな、とイメージしています。
研究においては、研修主任と社会科主任、研究3部会の部長と事あるごとに話し合いを行っています。その結果、私が望む方向に、少しずつですが進んでいると感じています。
今年度はリーダーに伝えることで、校長がシャカリキにならなくても事が進むようにと考えながら取り組んでいます。階段を一つ一つ上がるように、ゆっくりと目標に向かって進んでいきたいと思っています。
もちろん、まだまだ教職員全員に浸透し、全体が一つの方向を向いて進んでいるわけではありません。しかし、それでいい。私の意を汲んでくれる教職員が一人でもいてくれることを喜びに、自分の思いを伝えながらやりたいことをやっていきます。
子供とともに授業を楽しめる教師に

──4月(2025年)から半年以上が経ちましたが、どのような効果がありましたか。
佐藤 全学級でコミュニケーションゲームやミニディベートを行う「輪話和タイム」をよく参観していますが、熱心に取り組んでいる学級は和やかな雰囲気ですね。私自身も全学級に入って授業をしていますが、本当に子供たちの動きが軽い。
「輪話和タイム」は、コミュニケーション力アップのトレーニングです。コミュニケーション力が育つと、話し合いも深まり、子供たちの知的レベルがどんどん上がっていくことを実感する教員も増えてきたかな、と感じています。
菊池 一斉指導型の授業と同じようにきちっと進めていくタイプの教師は、コミュニケーションゲームをするときも、教室の前に立ったままです。子供を「指導する」という感覚から抜けきれないのです。
教師も子供たちの中に入ることで、心理的にも物理的にも「一緒に学んでいる」という姿勢が子供たちに伝わっていき、教室に安心感が生まれる。それを授業でも活用する。こうしたベクトルはなかなか伝わりにくいのが現状ですね。
教師がいつも教室の前にいると、子供とのかかわりの動線も単線になります。
子供の中に入ることで、発表している子だけでなく、周りの子供たちとの言葉のかけ合いやみんなの聞き合いが幾重にも生まれ、重厚な複線になっていくのです。
佐藤 教師の立ち位置や動きは大きなポイントですね。
菊池 一斉指導型の発想で机間指導をすると「できたか、できないか」という見方になりがちです。「ここはこうでしょ」「こうするんだよ」と指導してしまう。もちろん、その視点も大事ですが、参加型の授業を目指すのであれば、中心は教師ではなくて子供たちです。教師も活動の中に入り、子供が声をかけやすい雰囲気をつくることが必要です。
一部の“できる子”を指名してスムーズに流すのではなく、「みんなと一緒に考えていこう」という姿勢が、教師の立ち位置につながっているのではないかと思います。
こじつけかもしれませんが、「子供たちの中に入れる」ということは、教師自身も楽しんでいることだと思います。子供の成長、変化、子供たちの発想の豊かさ、そういうことを一緒に楽しめる。
佐藤 その通りだと思います。とはいえ、壁はまだまだ高いようです。教職員には、「『挙手指名型の授業』から脱却するために、いろいろな方法を試して、全員参加型の授業をしてほしい」と相当言っているのですが、なかなか進まないのが現状です。
まずは私自身が授業を見せる。そして、菊池先生の授業を見てもらうということを継続していますが、難しいですね。毎日学級を回っていますが、ほとんどの学級が挙手指名型の授業から脱却できていません。
菊池 現状打破のために、帯タイムに「輪話和タイム」を入れた。ようやく軌道に乗り、子供たちと一緒に楽しむ空気が教室に生まれてきた。けれども、肝心の授業の中に活かすことができない。佐藤先生は、相当難しいことに挑戦していると思います。
学習ゲームでは一緒に笑い合っていたのに、授業になると途端に統率する。そうしなければ教師としての威厳が保てないと、無意識のうちに感じているのかもしれません。
にぎやかな空気を「和やか」ととらえるのでなく、「集中できていない」「好き勝手をしている」と勝手な理由をつけて否定しているうちは、授業を変えるのはなかなか難しいのでしょうね。
佐藤 伝わる人には伝わるけれど、伝わらない人にはいつまでも伝わらない(笑)。二極化していますね。
なかなか変われないのは、大人である教師

菊池 そもそも、対話・話し合いは、さまざまに形を変えながら、どの研究テーマにも入っているはずです。
道後小では、「授業改善」「対話・話し合い」「環境整備」の3部会を立ち上げ、校長、教頭、教務主任、学年主任と、いい意味で上から下ろしています。その辺りの効果はどうですか。
佐藤 私の意図を読み取れる人を3部会の部長に置きました。各部で創意工夫しながら進めてもらっていますが、とても満足しています。
最近は、「輪話和タイム」を中心に、対話・話し合いの授業をどう組み立てていくか、どうレベルアップしていくかについて、話し合いを進めてもらっています。
道後小に赴任して3年目にして、少しずつ浸透してきたと感じられるようになりました。
菊池先生がよく言われる「2:6:2の集団理論」でいうと、上位2割の先生方は、自分たちで理解して「あの活動はよかったね」「もっとこうした方がいいのでは」と、どんどん進めてくれます。情報を提供すれば、それを活かした取組を自ら考えていく流れができ、教職員の人間関係も穏やかな雰囲気になっています。
一方で、下位の2割、つまり否定的な先生方にももちろん声をかけます。情報を提供し、先生方の授業を観察し、よかったところをほめて認めていますが、無理矢理引っ張ることはしていません。
菊池 そうですね。上位の2割が「輪話和タイム」などの活動を通してメリットに気づくことで、中位の6割を引き上げていく。これが、良い形のトップダウンです。
理論上では、上位が8割になったところで、下位の2割を引き上げていくようになるはずですが、実際はそう順調に進められるものではありません。3~4年という長いスパンで見ていく必要がありますね。
佐藤 とはいえ、上位2割のリーダーにも、十分伝わりきらないことも多々あります。
先日、市の教育委員会から社会科の授業を見てもらい指導を受ける機会がありました。その際、新しい研究主任が「研修はKJ法で進めたい」と希望しました。
校内研修で、アイデアや意見を付箋に書き出し、グルーピングしていくKJ法を取り入れている学校もありますが、私はあまり効果を感じないので、昨年は取り入れませんでした。でも、今年度、研究主任に抜擢した教諭が意欲を示したので、私からは、担任している学年や教員の年齢等、いろいろと混ぜ合わせてグループを作ることだけお願いして、取り組むことにしました。
KJ法での研修会では、課題や成果がそこそこ明確になりましたが、そこで終わり。言いっぱなしで満足し、その先に進まないのがKJ法の問題点なんですね。
そこで、「KJ法での発表を受けて、今後取り組むべきことを掘り下げてほしい」と3部会に指示しました。3部会から出てきたのは、「『輪話和タイム』で子供たちの対話力が高まってきた」「振り返りに力を入れて研究している」「子供たちが社会に興味を持つような掲示物をしている」など、今、取り組んでいることの“アピール”に終始してしまいました。「今後、取り組むべきことを深めてほしい」という言葉が、「今まで何をしてきたのか?」という意味に受け取られてしまったのかな、とがっかりしました。
うちの校区は教育熱心な地域で、子供たちの学力も高い。だからこそ、教員の教育観が変わればもっと子供が伸びるし、もっと高みを目指せると思っていますが、肝心の教員を変えることの難しさを実感しています。
菊池 対話・話し合いの取組には、教師一人ひとりのライフヒストリーが映し出されます。ライフヒストリーまで含めた授業観が培われていく。一斉指導型の授業でキャリアを積み重ねてきた教職員は、なかなかそのベクトルを変えることができないのでしょう。
佐藤 道後小では、3年前から菊池実践と選択理論心理学の理論を研究テーマに取り入れてきました。
選択理論心理学では「他人と過去は変えられない」と言っていますが、本当にその通り。「理解してもらうには、変えられる『自分と未来』を何とかしなきゃ」と強く思っています。
菊池 「こういう取組を学校や学級でやりましょう」と指定するのではなく、「あなたが考えて実践して」と、実践者本人の意思に委ねる。これは同じトップダウンでも、全く異なります。自分で考え、実際に授業をしてみて、振り返りを重ねながら、対話・話し合いの授業に取り組んでいく前向きな教師がいる一方で、学ばずに批判を繰り返し、いつまで経って変わらない・変われない教師もいる。相当なジレンマですね。
佐藤 結局、一人ひとりに受容やプラス思考といった感覚がなければ、いくら研修しても身についていきません。どんなに研修をしても、否定的に捉え、「意味がなかった」と一言で断ち切ってしまうんです。
菊池 本当は、自分に自信がないんでしょう。やらなければ拙い実践を誰かに見られることもないし、そもそも失敗しないから。
いろいろな子供たちがいて、学級メンバーも毎年変わる。毎年100点満点の学級経営ができるものではありません。そのしんどさはよくわかります。だからこそ、守りに入ってほしくないと思いますね。
佐藤 選択理論心理学の先生が、よく「子供は変えやすい」と言われます。「変わらないのは大人だ」と。本当に、それを実感しています(笑)。
菊池 知り合いの校長先生が勤務校で、50年以上前の学校日誌を見つけました。そこには、「子供は家庭を背負って登校してきている。だから普通に画一的な教育をしても効果は少ない。活動を通して、子供の可能性を信ずること。行動させ、そこから知らないことを知り、できないことを具体的に知り、磨き合う学級をつくる必要がある」と書いてあったそうです。
山の中にある小学校で、当時も児童数はそう多くなかったと思います。そういう牧歌的な環境の中でさえ、いや、そういう環境だからこそ、子供同士が学び合い、磨き合う学級づくりを目指したのでしょう。衝撃を受けましたね。
教師が変われないのは、「話し合いの授業は、教師自身、経験がない」という面が大きいのは確かです。
一方で、教育の本質から外れてしまった、あるいは本質への認識が弱くなった教師が増えてきたのかな、とも思うのです。今の若手教師は、全体的にとても真面目です。だから知識の質が下がったわけではないのだろうけれど、教育の根本を踏まえ、自分でしっかり根を張ろうとする“覚悟”みたいなものが弱くなったと感じています。
佐藤 私たちと若い世代では、教育に向き合う思いが少し変わってきているんじゃないかと最近感じています。
子供が成長する喜びのためなら、どんなに徹夜してもかまわないという気概が、若い世代には感じられない。もちろん、徹夜を無理強いするわけではありませんけれど(笑)。
菊池 いい意味で受け取るなら、真面目ですよね。教材研究で一生懸命資料を集めたり、指導案をきっちり作ったり……。真剣に取り組むことは素晴らしいんだけど、こなすことに意識が向いているのかな。自分も楽しみながら取り組む“遊び”の部分がもっとあってもいいと思うんですよ。“遊び”は、心の余裕ですから。
ベテランから、そういったことを働きかけていきたいですね。
すぐには変えられないだろうけれど、何年かやっていくうちに、自分自身が楽しみながら、子供の成長を喜べる教師という仕事に生きがいを感じられるようになるではないかと思います。
ベテランは、次の世代に伝える「恩送り」を
──年度末までに「これだけは絶対やりたい」という、校長としての意気込みや具体的な方策を教えてください。

佐藤 対話を通して子供たちが心地よさを感じられる雰囲気、環境をつくるために教師は何をすべきか。
子供たちをよく観察して、「ここで何をスパイスとして入れるか」を見極められる教師を育てなければいけないと強く感じます。そのためには教師の観察力が重要になると思っています。
菊池 「教育の不易は何か」と問われたとき、「見る力」を筆頭に挙げる人が多い。私も「見る力」「眺める力」が大切だと思っていいます。
佐藤 本当に、「見ているけれど見えていない」教師が多いですよね。
対話・話し合いのとき、子供がどんなことを言って、どんなかかわり方をしているか。話し合いを通して「友達と話せてよかったな」「ああいう意見もあったんだ」と、心地よさを感じる。お互いが理解し合いどんどん和やかになり、教室に温かい空気が満たされていく。話し合いの輪に入れず気後れしている子がいたら、フォローする。その効果を実感したら、どうすれば通常の授業の中でもそういう空気がつくれるのかを考えるようになると思うんです。
話し合いの輪に入れず気後れしている子や、積極的に発表できなくても友達の意見を真剣に聞いている子を巻き込むためにはどうアプローチすればいいのか。教師には、そういうファシリテートの力が必要だと気づいていくのではないでしょうか。
菊池 そこで重要になるのが、教師の立ち位置なんですね。話の最初に戻りますが、教室の前から見ているだけでは、子供たちをマス(大勢)でとらえるようになり、「型」に当てはめるようになります。
佐藤 そうですね。若い教師ほど、動かない。まあ、経験が少ないので仕方がないと思いますが。なので、最近は若手に「時間が空いたときには、ベテランの先生の授業や学級経営を見なさい」とアドバイスしています。
同時に、ベテランの先生たちには、「自分が先輩から教えてもらい学んできたことを、次の世代に伝える『恩送り』をしてほしい」と強く訴えています。
菊池 職員室や学年チーム、教師同士の人間関係についても、その成長をタックマンモデルで考えていく必要がありますね。
佐藤 わが校はチームとして恵まれていると自負しています。だからこそ、もっと高みが望めると期待しているんです。
菊池 教職員の「ゴールイメージ」を見据えているからこそ、校長としての悩みが尽きない。そうやって、校長自身も成長していくのではないでしょうか。
菊池省三先生から佐藤校長へのメッセージ
話し合いが成立する授業を目指して、帯単元に「輪話和タイム」を導入するなど、道後小ではハード面を整備しました。
とはいえ、せっかく帯単元をつくったのに、肝心の授業で活かし切れていないことを、佐藤先生は課題として挙げられていました。
「輪話和タイム」での和やかな話し合いはできるけれど、授業の中で活かせない。二項対立でお互いに反論し合う話し合いをしたことがないから、かなり怖い、というのが実情ではないでしょうか。それは教職員の素直な心理だと思うので、私はそこを責めるつもりはありません。
「それができるように、ディベートをしよう」と言っても、ディベートをしたことがない教師は、そのおもしろさを知らないし、そもそもどんな価値があるのかがわからない。
その結果、とりあえず「やらなければならないからやる」「わけがわからないからやらない」と分かれてしまうのではないでしょうか。
佐藤先生は、こうした受け身の姿勢をひっくり返すためにも、“自分自身の意思で選ぶ” 方策を考えました。仮に遠回りになったとしても、自己責任の選択だから、やる気がある教師が増えてきたようです。
「他者をお互い尊重し合い、自分の成長を実感し、より他者と一緒に成長したいという気持ちを持つ子供を育てていく」という目標に向けて、対話・話し合いの実践と自分自身が選ぶ選択理論心理学の2つの軸からぶれずに、悪戦苦闘している佐藤校長の “覚悟” は、少しずつでも確実に教職員に伝わっていると思います。
子供たちに示す成長曲線と同じように、今年度のゴールに向けてどれだけ加速していけるか楽しみです。
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取材・文/関原美和子

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


