47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#13 夢をつなぐ この町で~原田英也先生の挑戦~

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、青森県新郷村の工藤尚史先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/工藤尚史(青森県新郷村立新郷小学校教諭)
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。青森県の新郷村立新郷小学校で教員をしております、工藤尚史と申します。
地域教材には、その地域で生きてきた人々の営みや、受け継がれてきた大切な価値が宿っており、大きな力をもっています。身近な地域教材を活用することで、道徳のテーマが子どもたちにとって「自分ごと」となり、思考や議論の本気度が高くなります。
私が道徳教育にかける思いの1つとして、子どもたちが「地域を知り、人と関わり、自分を知ることで、故郷を誇りに思い生きていける心」を育てることがあります。
地域にあって当たり前の「人・もの・こと」。いつのころからかそこにある。背景も隠された物語も顧みられることなく、ただそこにある「風景」となっています。オリジナル地域教材での授業は、子どもたちがより自分ごととして考え、地域の様々なことに興味をもつきっかけになっています。そして、風景化している地域の価値を発掘することは、未来をつくる力になります。
今回は、私が10年間勤務した愛着のある南部町で、地域の一風景として当たり前に存在している「はらだクリニック」と、子どもたちも「なんかすごい」と感じているであろう原田英也先生の生き方を題材にした授業をご提案します。
私が原田先生の物語を「教材にしたい」と強く思ったきっかけはいくつかあります。はらだクリニックの口コミが非常に良いこと(Googleの評価が星4.6)、朝早くからお年寄りが多く並んでいる様子、そして先生が親身に話を聞いてくれるという評判を聞いていたためです。原田先生は、外科・内科・内視鏡内科といった診察に加え、胃や大腸の検診など「早期発見・予防」にも力を入れています。
さらに、リハビリやスポーツドクター、訪問看護、オンライン診療まで幅広い対応を行っており、患者の待ち時間を減らすための電話受付を導入するなど、常に地域の人々に寄り添う工夫を続けています。 そのため、朝早くから多くのお年寄りが病院が始まるのを玄関で待っています。その様子を見て、原田先生がどのような想いで地域医療に取り組んでいるのかに興味をもつようになりました。
私個人としては、南部町の小学校に10年間勤務した経験から南部町への愛着が深く、原田先生の地域住民への深い愛情や想いに強く共感しました。また私自身もかかりつけの病院として通わせていただいており、大変お世話になっています。今回はお忙しい中、インタビューの時間を割いてくださいました。終始謙遜した態度で丁寧にお話しいただき、原田先生のこれまでの生い立ち、医師になるまでの想像以上の努力、「住み慣れた地域で支え合い、いつまでも元気に」「ここで見つけ、ここで治し、ここで予防する」原田英也先生が掲げる地域医療の理念、今後の事業に対する壮大なプランなどに驚きとともに感銘を受けました。
本教材「夢をつなぐ、この町で」では、インタビューの中で語っていただいた、原田先生が人生の節目で直面した「困難」と、それに対する「努力」と「挑戦(チャレンジ)」の行動を取り上げました。
- 高校受験:「医師の父を喜ばせたい」という思いから、成績が足りない困難に対し、テレビの誘惑を絶ち、夜中12時から朝6時まで勉強する生活を半年間継続。
- 開業の決意:「父がまだ働けるようにしたい」と、父が車椅子に座ったままでも診療を続けられるよう、自ら病院を開業する決意。
- 雇用の創出:「たくさんの人を雇いたい」と、開業時、5名の募集に対して126名の応募があった際、自身の給料を後回しにしてでも一人でも多くの人を採用。
先生の想像を絶する努力と、自己犠牲を厭わず地域のために挑戦し続ける「人間としての熱さ」を通して、子どもたちに希望と勇気をもつことの価値を伝えることに挑戦しました。
2 授業の実際
対 象: 小学4年
主題名: 夢をつなぐ、この町で
ねらい:原田先生の生い立ちや地域医療への思いに触れ、困難を乗り越えてやり抜くことのすばらしさに気付き、自分で決めた目標に向かって根気強く努力しようとする実践意欲と態度を育てる。
内容項目: A-5 希望と勇気、努力と強い意志
導入「努力とチャレンジのちがいは何だろうか?」
子どもたちに「今まで、努力やチャレンジをしようと思ってできなかったことはありますか?」「今、努力やチャレンジを始めたこと、しようとしていることはありますか?」と問いかけ、本時のテーマへの関心を高めます。
「努力とチャレンジのちがいは何だろうか?」と発問すると、子どもたちからは次のような声が挙がりました。
「努力は辛い、大変そう」
「努力のほうがチャレンジよりも頑張っている感じがする」
「チャレンジは前向きな感じ」
「チャレンジは最初にやってみようという感じ、努力はずっと続ける感じ」
それぞれの言葉のイメージを共有した上で、「先生、努力とチャレンジの達人を知っているんだけど、みんなに紹介するね」と子どもたちに話し、原田先生の人生を描いた自作資料「夢をつなぐ、この町で」を読みます。
| 希望・願い | 困難 | 努力・チャレンジの行動 |
|---|---|---|
| お父さんのような医者になりたい/高校に合格したい | 成績が足りない | テレビを我慢し、夜中12時に起きて朝6時まで勉強する生活を半年間続けた |
| お父さんがまだ働けるようにしたい | 父親が脳梗塞で倒れ、介護が必要となった | 父親が車椅子で座っていても診療を続けられるように、自分の病院を開業する決意をした |
| たくさんの人を雇いたい | お金が必要 | 募集人員5名のところ、126人から応募があったため、自身の給料を後回しにしてでも一人でも多くの人を採用した |
展開:原田先生の「希望・願い」と「困難」、そして「行動」を比較する
原田先生の3つのライフステージ(高校受験、開業、雇用創出)における「希望・願い」「困難」「努力・チャレンジ」をスライドと板書で整理していきます。
発問1:「原田先生のこれらの行動は『努力』でしょうか、それとも『チャレンジ』でしょうか?」
- 夜中に勉強し、テレビを見ない生活を半年続けたこと。
- お金を準備し、病院を建てる準備をしたこと。
- 自分の給料を後回しにしてでも、多くの人を雇い資格を取らせたこと。
この問いに対し、教室では「努力だ」という意見が多数を占めました。 理由を聞くと、「大変な思いをしてやっているから」「自分ではちょっとできなそう」と、原田先生の行動の過酷さや凄まじさを実感している様子でした。
ここから、ただ自分のためだけの努力を超え、人のため、地域のために大変な思いをしてやり遂げる先生の姿を通して、利他的なチャレンジ精神に気付かせていきます。
発問2:「次々とより高い目標を立て、新たなチャレンジを続ける原田先生の、次の目標は何だろうか?」
子どもたちに予想させた後、原田先生の現在の目標を伝えます。
- この地域の病院や施設が協力し、患者さんが「たらい回し」にされない仕組みをつくること。
- お年寄りが安心して住み続けられる町にすること。
- そのために、さらに働く人をふやすこと。
原田先生の実体験として、救急の患者が数件の病院に断られ、はらだクリニックで受け入れたことがあったそうです。そのことを通して、地域の病院や施設が協力し、患者がたらい回しにされない仕組みを作りたいと思いました。そうすることで、お年寄りが安心して住み続けられる町になると考えています。南部町には仕事を求めている方が多くいることを原田先生は知り、地域の雇用を生み出すとともに、町外へ出ていく若者のUターン、Iターンの受け皿にしたいとも考えています。
説明(メッセージ)
最後に、原田先生から子どもたちへのメッセージを伝えます。

「人は、なろうと思った人間になれる。周りをうらやましがらず、自分を大好きになってほしい(I Love Me)。そして、いつか君たちがこの町に帰ってきたときのために、働ける場所をつくっておくのが、今の僕の仕事なんだ」
静まり返った教室の中で、子どもたちは真剣な眼差しでこの言葉を受け止めていました。
このメッセージは、子どもたちが自らの生き方を考える上で、大きな希望と指針を与えてくれるものだと確信しています。授業の最後に書かれた子どもたちの振り返りには、原田先生の生き方から「希望と勇気」を受け取り、それを「自分ごと」として捉えようとする姿が表れていました。その一部を紹介します。
- あきらめないで、原田先生のように努力したいです。
- あきらめないで努力すれば、自分がなりたい夢をかなえられるかもしれない。
- 目標を立てないとチャレンジの達人になれないことがよくわかりました。努力をおこたらないことが大事だと思います。
- テレビとかユーチューブをがまんして、勉強やお手伝いをがんばりたいです。
- チャレンジの達人になるには、人と人をくらべない。
子どもたちが一番強く惹きつけられていたのは、困難を乗り越えようとする原田先生の「あきらめない努力」でした。先生の想像を絶する努力に触れ、子どもたち自身も希望をもって困難に立ち向かおうとする強い意志を感じました。感心したのは、先生の学生時代のエピソードを単なるすごい話として終わらせず、「テレビやYouTubeを我慢する」といった自分の日常のリアルな課題にまで引き寄せて、これからの生き方を考えていたことです。原田先生の学生時代のエピソードを自身の生活課題と重ね合わせ、具体的な行動変容へと結びつけています。身近な地域の方の生き方だからこそ、より自分ごととして考えることができたのではないかと思いました。そして何より、「周りをうらやましがらず、自分を大好きになってほしい」という願いは、確実に子どもたちの心に届いていました。「人と比べない」という短い言葉の裏側に、他人の物差しではなく、自分の足で力強く歩んでいこうとする頼もしさを感じ取ることができました。
3 どこにどのようにつなげるか
本教材は、「社会科」「国語科」「総合的な学習の時間」へ教科横断的に広げていくことができそうです。道徳で触れた原田先生の「個人の生き方や思い」を、他教科等において「社会の仕組み」や「自分自身の行動」として捉え直させます。
道徳の授業で学んだ、原田先生の利他的なチャレンジ精神や「I Love Me」のメッセージで子どもたちの心に火をつけ、その熱量を各教科の具体的な探究活動へとつないでいきます。
社会科の「わたしたちの県」では、原田先生が「多くの人を雇い、働く場所をつくった」という事実を起点とし、地域の雇用創出や医療体制の充実など、町の発展の他の事例を調べ、社会的な仕組みとして捉え直す学習を行います。
国語科の「伝記を読もう / 調べて話そう」では、偉人の「困難と挑戦」について調べ、文章にまとめる活動へつなぎます。
総合的な学習の時間では、地域の高齢者福祉やバリアフリーの現状を調査し、自分たちにできることを探究する課題解決学習へ繋げていきます。
おわりに
地域の「人」に焦点を当てた教材が、子どもたちの心に響き、自らの生き方を深く考えさせる力をもっていることを、私自身が強く実感する機会となりました。今後も、地域に根差した「生きた教材」を通じて、子どもたちの未来の希望を育む授業をつくり続けていきたいと考えます。
参考資料
●医療法人はらだクリニック公式ホームページ
https://harada-clinic-nanbu.com/
編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。



