47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #10 美しい仕事

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、北海道旭川市の宇野弘恵先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/宇野弘恵(北海道旭川市立小学校教諭)
目次
1 はじめに
私が住む旭川から南東へ車で約3時間。北海道の背骨のような山脈を越え、帯広に行く峠道は二つ。どちらの峠道も厳しく、冬は容赦なく風雪に閉ざされる。この道を通る度、その偉業に感嘆の念が湧いてきます。
広く大きな北海道の険しい山中に道路をつくったり、いくつも連なる長い長いトンネルを掘ったりした人たちはどんなにか大変だったでしょう。雪深く、寒さ厳しい大地を切り開き、街と街をつなげた人々は本当に偉大であると思います。北海道に本格的な入植がはじまった約150年前、開拓という夢と苦労を背負いながらこの峠道を切り開いた人々。こうした先人たちの功績があって現在の北海道があることを改めて思います。
しかし、建物を立てたり道をつくったりすることだけが「功績」ではありません。人々の幸せを願い、人々の心を豊かにするために尽くした人もまた「功績を積んだ人」です。道徳の授業では、教科書に載るような偉人よりも、地域を愛し地域のために尽くした「市井の精神」の持ち主にスポットを当てたい。それが私の道徳授業づくりのポリシーの一つです。
2 教材の背景
本授業は、北海道帯広市の代表的な菓子店・六花亭創業者の小田豊四郎さんと、六花亭の包装紙を描いた画家・坂本直行さんを主人公とします。
教材化のきっかけは、六花亭の「マルセイバターサンド」でした。なぜ六花亭はこれほど地域に愛され、人々を魅了する商品を生み出し続けられるのか。その疑問は、単なる製法ではなく創業者の小田さんにあると考え調べ始めました。
調べを進める中で、六花亭が無料配付している児童詩誌『サイロ』に行きつきました。『サイロ』については子どものころから知っていましたが、まさか六花亭が出していたものだとは思いもよりませんでした。驚きでした。なぜお菓子屋さんが、利益に直結しない児童詩の冊子を半世紀以上にわたり出し続けているのか。
この疑問は、『サイロ』の表紙と挿絵を描いた画家・坂本直行さんが、この児童詩誌の仕事を評した「美しい仕事」という言葉に集約されていました。
峠道を切り開いた物理的な開拓者とは別に、人々の心を耕し、地域の文化的な土壌を築いた「市井の精神」の功績。この「美しい仕事」がもつ地域愛と奉仕の精神を深く探求することを、本授業の主題としました。
3 授業の実際~「美しい仕事」
対象:小学校4年生以上
主題名:地域貢献、地域愛、奉仕
内容項目:C/主として集団や社会との関わりに関すること【国や郷土を愛する態度】
【勤労、公共の精神】
①チョコレートを想起する
冒頭で「チョコレートを思い浮かべてください」と投げかけた後、どんなチョコレートを思い浮かべたかを交流する。多くの人は茶色のチョコレートを思い浮かべたであろうが、中には白いチョコレート(ホワイトチョコレート)もあることを確認する。そして、今から約60年前まで日本にホワイトチョコレートは無かったことを伝える。
②小田豊四郎さんについて知る
「白いチョコレートがあってもいいのじゃないかと考え、日本で最初にホワイトチョコレートをつくった人は、この人です」と言い、小田豊四郎氏の画像を提示する。
小田さんについて簡単に紹介する。
- お菓子屋さんを経営している。
- 北海道の雪をイメージしてホワイトチョコレートづくりを着想する。
- 試行錯誤を重ね、大変な苦労の末、日本で最初のホワイトチョコレートを商品化する。
- 当初あまり売れなかったものの、認知が広まるにつれ売れ始め、大ヒットとなった。
- 売り上げが大幅に伸び、その収益で店舗と工場を増設する。

発問1 日本初のホワイトチョコレートづくりに成功し、商売も拡大した小田さんが、次にしたいと考えたことはどんなことでしょう。
個々で予想し簡単に交流する。多くが新商品開発などを含めた事業拡大を予想する。通常の経営者ならそれが当たり前の発想であることを押さえた上で、事業拡大が「したいこと」ではないことを告げる。スライドには、
商売を通じて、( )がしたい。
と提示し、再び個々で予想させる。( )の中が「地域貢献」であることを伝える。
発問2 お菓子屋さんである小田さんに、どんな地域貢献ができそうですか?
小田さんがお菓子屋さんであることをベースに考えるので、「お菓子を無償で配る」「地域食材を使ったお菓子を開発する」など、お菓子づくりと直結したことが予想として出る。それらも素敵な地域貢献であることを押さえつつ
- 無償でお菓子を配ったら商売は成り立つのか。
- 無償でお菓子を配れば宣伝効果が高くなり、売り上げにつながるかもしれない。
- 地域食材を活かすこともより売り上げが伸びる要素になる。
ことを話題として取り上げておく。
答えはそのままにしておき、次のように説明する。
「地域貢献をしたいと考えながらも、何をしたら地域に貢献できるかを考えあぐねていた小田さんは、福島のお菓子屋さんで、あるものに出合います。それを見た瞬間、小田さんは『これだ!』と思ったそうです」


福島県郡山市の柏屋で発行されている「青い窓」の画像を提示する。
「青い窓」とは、柏屋で発行されている児童詩誌であることを、作品と一緒にごくごく簡単に紹介する。そして、小田さんが「子どもの詩集をつくろう!」と決意したことを伝える。
発問3 お菓子屋さん✕子どもの詩集??小田さんにとって、どんな得なことがありますか?
「お菓子のパッケージに詩をつけて、詩を書いた子の関係者がたくさん買ってくれる」という類の考えも出るが、さほど大きな利益には繋がらない。お菓子屋さんの経営者である小田さんというフィルターで見ると、商売的な「得」はほとんどないのではないかというところに着地する。

上記のスライドを一文ずつ提示しながら
- 地域貢献とは、見返りを求めて行うものではない。得をするために行うものではない。
- 地域の人たちが心豊かに暮らすことに心を尽くしたい。
- 地元にもこんな詩集があったなら、子どもたちの心はどんなに豊かになるだろう。
- 地域の子どもたちの心を豊かにするもの、それが詩集をつくることだ。
- 自分の大切な人や名前を知っている人だけではなく、名前も知らない「地域の誰か」の幸せを喜べることが、地域を愛するということなのではないか。
という小田さんの考えを伝える。特に最後の考え方については感想を交流するなどして取り上げたい。
この際、福島県郡山市の柏屋でつくられていた『青い窓』についても、簡単に説明を加える。小田さんが感化されたのはなぜかについて考えるのもよい。
- 嘉永5(1852)年創業の老舗のお菓子屋さんである。
- 昭和33(1958)年『青い窓』創刊。
- 子どもたちが自由な発想と言葉で夢を表現できる場を創りたい、子どもたちの夢や希望が大空に広がるようにと願いを込めてつくられた。
- 地元の子どもたちが寄せた詩を詩集にし、店舗に無料で置かれている。
③詩集づくりについて考える
小田さんの詩集づくりについて、以下のように説明する。
「地元に帰った小田さんは、詩集づくりに取りかかります。詩集ですから、子どもたちの詩を集めなければなりません。小田さんは、信頼できる教師たちに相談しました。教師たちは小田さんの想いに心を動かされ、協力してくれることになりました。子どもたちの詩づくりの指導や、編集作業も行ってくれることになったのです。
また、地元の企業も印刷や製本を引き受けてくれました。残るは、表紙と挿絵を誰にお願いするかだけとなりました。色々考えた結果、坂本直行さんに依頼することに決めました」
こう言って、坂本さんの画像を提示する。
「小田さんは、坂本さんにお会いしたことがなかったそうです。しかし、地元への愛であふれる絵の数々、また、坂本さんが書いた書物から伝わってくる素朴で人間味のある人柄に、小田さんは、『この人しかいない』と思ったのだそうです」

小田さんが直接坂本さんに会いに行き、詩集を創ろうと思った経緯や地元の教師たちが詩集づくりに協力してくれること、坂本さんに挿絵と表紙をかいてもらおうと思った理由を熱心に伝えたことを説明する。
「坂本さんは、協力すると言ってくれたでしょうか」 と、含みをもたせながら以下のスライドを提示する。

「協力しましょう」「ただし……」と、一文ずつゆっくり提示し、学習者の集中を惹きつける。
発問4 お金をもらわないのは、なぜなのでしょう。
坂本さんについての情報がほとんどないので、ここでは小田さんの詩集づくりへの想いに感化されたという予想が立つ。簡単に交流した後、坂本さんの考えを提示する。
- 「報酬を出すのなら引き受けません。そういう美しい仕事は、ぜひ無償で参加させてください。」
- 「美しい仕事」とは、どういう仕事を意味するか問いかけ、ペアで簡単に交流する。その後、坂本直行さんについて簡単に紹介する。
- 坂本さんは、坂本龍馬を生んだ坂本家の子孫である。
- 「資源豊富な未開の原野を開拓しながら北方の警備にあたる」「豊富な資源を利用した国際貿易によって世界に通用する人材を育成する」という龍馬の志を受け継いで、祖父が開拓使として北海道に入植。
- 直行さんも広尾で酪農家を営み開拓を試みるが夢破れ、趣味で続けていた絵描きとなる。
- 直行さんも直行さんの祖父も、龍馬の「北海道を開拓し、北海道を発展させたい」という想いを受け継いで北海道に来た。
直行さんには、龍馬から受け継いだ地域への想いがあったことを強調しておく。また、直行さんは北海道の人であること、小田さんの経営するお菓子屋さんも北海道のお店であることも確認しておく。
「直行さんが、表紙と挿絵を描くことを無償で引き受けることとなり、昭和35(1960)年、子どもの詩集『サイロ』ができあがりました。その詩集は今でも毎月発行されており、令和7年7月で787号になりました」 と言って、『サイロ』の画像を提示する。可能であれば『サイロ』の実物を提示するとより感動が大きい。また、掲載されている児童詩をいくつか紹介できるとよい。


「この詩集は、小田さんのお店に行けば無料でもらうことができます」 と言って、お店は北海道帯広市に本店がある六花亭であることを伝える。六花亭で使われている包装紙は、直行さんが描いたものであることも添える。

④「美しい仕事」とは何かについて考える

上記のスライドを提示しながら以下を問う。
発問5 「美しい仕事」とは、どんな仕事であると考えますか。
自分の考えを文章化させたのち、交流して授業を終える。
4 どこにどのようにつなげるか
小学校4年生の道徳の教科書『生きる力』(日文)に「お父さんのじまん」という教材があります。これは、津波から人々を救い、その出来事を「いなむらの火祭り」として守り続けている和歌山県のお話。「地域を愛する心とは何か」を考えさせる教材です。教材文の最後に、
- ―お父さんのじまんって、この町の人かもしれない……。
という一文があります。これは、地域貢献の根本にある「人々の幸せを願う心」を示唆しつつも、抽象度が高く貢献の具体的姿を捉えにくいと考えます。
そこで、この教材の最後にこの一文が具体的にどのようなことを指すのかを心に留めさせたうえで、「美しい仕事」の授業を行います。小田さんと坂本さんの具体的な考え方ややり取りから、文化を育む「心の開拓」も地域愛なのだという理解につなげます。二人の具体的な生き方や考え方を知ることで、「地域愛とは、みんなの心を豊かにするために行動することなのだ」という考えにより着地しやすくなるのではないかと思います。
5 おわりに
この授業は2017年9月の地域教材開発セミナー(北海道・ことのは主催)に合わせてつくりました。クラスで一度行った後、そのまま放置していた授業なのですが、数年ぶりに改めて見直してみると、我ながらよい授業だなと思いました(笑)。よさを自己分析してみました。
- 『サイロ』誕生秘話に終始していない
- 二人の友情物語に仕立てていない
- 「美しい仕事」をキーワードに地域愛を間接的に考えさせている
教材を見つけると、そのすべてを授業に盛り込み、結果的に「調べたことの紹介」に終始しがちです。大切なのは、何を問うかです。そのために何を捨てるかです。この「捨てる勇気」と「問う覚悟」こそが、道徳授業づくりの成否を分けると言っても過言ではありません。
※参考文献、資料
・NPO法人 小田豊四郎記念基金 https://www.oda-kikin.com/
・六花亭製菓株式会社の沿革 https://www.rokkatei.co.jp/recruitment/outline/history/
・カムイミンタラ ウェブマガジン カムイミンタラ ~北海道の風土・文化誌 :児童詩誌『サイロ』 十勝 素朴で、すなおな言葉で 自然と生活を 詩にうたいつづけて 十勝に児童文化の花を咲かせる
・柏屋 こどもの夢の青い窓|柏屋
・『小学校どうとく 生きる力4』令和6年度版 日本文教出版
編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。


