47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #12 ふつうにあるもの

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、青森県五所川原市の木村麻美先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/木村麻美(青森県五所川原市立市浦小学校教諭)
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。
青森県五所川原市で小学校の教員をしています、木村麻美と申します。
地域教材で授業して思うことは、授業での子どもたちの反応がよいことです。それは子どもたちの生活に近いものや人を扱うためであるから当然です。しかし、子どもたちにとってあまりにも身近に存在しているものなので、その歴史や意味などについて考えたり調べたりしようという気持ちはあまりなく、このような授業で聞いて初めて知る場合があることも事実です。そして、調べていくうちに、子どもたち以前に私自身がその教材の魅力に魅せられてしまうこともまた事実です。
今回もまた、私自身が教材化した地域の「祭り」に夢中になってしまいました。拙文ではありますが、お読みいただければと思います。
私は今年の4月に五所川原市の飛び地である市浦地区に転勤しました。津軽半島の北西部に位置している、全校児童42名の僻地複式校です。少子高齢化の影響を感じずにはいられない地域ですが、ここには400年を超えて受け継がれてきた大切な伝統がありました。
1 教材について
「虫送り」という祭りは、ここの地域だけでなく、日本全国の農村にあるようです。「稲の害虫を追い払い、豊作を祈願する行事」で、例えば、夜に松明(たいまつ)を持って田んぼのあぜ道を練り歩き、鉦や太鼓を鳴らして害虫を村境の外へ送り出します。日の中へ消えさせる、という地域もあるようです。実際に今でも、五所川原の他の地域やつがる市では行われています。
「相内(あいうち)の虫送り」は市浦小学校の学区の中でも中心的な地域である相内地区で行われている祭りです。市浦小学校学区には、このほかにも地域ごとに様々な伝統的な祭りが存在しています。
その中でも唯一、「相内の虫送り」については、小中学校合同の練習日があり、祭りは6月の第2土曜日ですが出校日になって全校児童が参加します。

この祭りの特徴は、
➀わらで作った大きな虫を先頭にして練り歩く。
➁お囃子に合わせて、太刀という棒を持って踊る(太刀振り)。
➂4種類の掛け声がある。
➃道化役がいる(荒馬。しとぎ餅を顔に塗って歩く人)。
➄2011年に青森県無形民俗文化財に指定された。
私は「太刀振り」という踊りは、以前他の地域で見たことはありましたが、地域によって違いがあるようで、「相内の虫送り」の「太刀振り」は最近初めて見ました。祭り当日、子どもたちと一緒に学校の前の通りを30分程度歩いただけでしたが、「あの白い小さいお餅を子どもたちや見物人の顔に塗っている人は何?」「隊列の歩みはこんなにゆっくりでいいの?」など、疑問に思うことがたくさん出てきました。
また、この地域でこのような祭りが続いているということは、この祭りを運営している方々がそのために努力されているのではないかとも思えました。この伝統を絶やさないように毎年運営されている方々の思いを子どもたちに伝えたいと思い、教材化することにしました。

2 授業の実際
対象:小学6年
主題名:郷土を愛する思い
内容項目:伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
まず、子どもたちにとって「虫送り」とはどのようなものなのかを知りたいと思いました。
導入「相内の虫送りはどんな祭りですか。」
- 棒を持って踊る。
- わらで作ったドラゴンのようなもの(虫)がある。
- 馬の役をする人がいる。
踊りについて、そして写真を見てわかること2つが挙げられました。ここで、この祭りをすることの意味について聞いてみました。
「どうしてこのようなお祭りをしていると思いますか?」
- 無病息災……病気にならないように、災いに遭わないように。
- 五穀豊穣……お米や作物がいっぱいとれるように。
この言葉を知っている子が2~3人、答えてくれました。
説明
以下、祭りの動画を流して見せ、途中で止めながら解説していく。
運営者である青年団団長さんの思い
「自分たちのところにはこれしかない。相内の祭り、文化を繋げていきたい。農家さんが多いので五穀豊穣をお願いしつつ、自分たちも継承して楽しみたい。皆さんの力を借りてこれからもがんばっていきたい。」
太刀振りの動きの意味
➀稲を刈る仕草を行い、刈り取った稲を右横に置いていく仕草を2回繰り返す。
➁その刈った稲を束ねる仕草
➂右横に置く仕草
(➀~➂を繰り返す)※これらの動作には、稲を刈っても刈ってもなくならないほどの豊作になりますようにとの願いが込められている。また、太刀振りの最初の動作は作物から害虫を追い払う、追い出すという意味があるとも言われている。
「太刀振りは踊るけど、動きにこういう意味があるのは知らなかった…。」とつぶやいた子がいました。
また、1つずつの動きの意味を伝えると、「ああ!」とうなずく子たちもいました。
掛け声4種類
①はねろじゃ はねろ(跳ねろ 跳ねろ)
②けっぱれじゃ けっぱれ(頑張れ 頑張れ)
③むったどこんだばどうすべな(《楽しすぎて》いつも こうだったらどうしよう)
④バーダラ バーダラ バーダラヨット(はしゃげ はしゃげ はしゃごうよ)
「意味は分からなかったけど、みんな言うから一緒に言ってた。」というつぶやきがありました。
- 神社でお札の用意……当日は村の5か所にお札とのぼり旗を立てる(外から悪いものが入ってこないように)。
- しとぎ餅……祭りの参加者は、うるち米をすり鉢で摺ってつくったお供え餅を顔に塗られる(縁起物)。
「しとぎ餅を無理やり塗られるのが嫌だったけど、それがいいものだとは知らなかった…。」とつぶやく子がいました。
- 故郷に舞い戻ってきた人の声……(コロナ禍は開催できなかったので)久しぶりに行われると聞いて見に来た。ただ見ていようと思っていたが、誘われて笛に参加してしまった。
- 老人ホームの方たちの声……嬉しい、懐かしい、若い時の思い出。
- 荒馬を映した場面……疲れたら寝転んで周囲を困らせる様子、ごねる様子。
馬は農家の宝であり、昔から唯一の農作業の原動力であり、特に田畑の作業には欠くことのできないものでした。農作業がひと段落し、さなぶり時期(田植えが終わった時期、休日)にはゆっくり休ませます。反面、農耕作業を嫌い、気が荒い馬は昔から人間の食料となる運命を持ち合わせていました(屠畜され馬肉になる)。太刀振りの踊りと共に相内橋を渡る際には、荒馬はこの橋を渡ってしまうと自身が屠畜されてしまうのを悟っているかのように暴れ、渡ってなるものかと愚図ります。しかし最後は人間に導かれ、橋を渡ってしまうのです。相内橋の上では、そういう荒馬と人との葛藤場面を表現していると言われています。
現在は農業機械が普及し、馬を使って農作業をする農家はなくなりましたが、昔は馬をとても大事にし、虫送りの日には真新しい背掛け、腹掛け(特別な日のための装飾具)を掛けて、一日ゆっくりと休養させたのです。
「途中で寝転んだりするのが、なぜやっているのか分からなかった。」というつぶやきがありました。
- 祭りの最後、虫は村の鎮守様の大木の上に奉納する。その大木が1年間村を見守ってくれる(害虫が入ってこないように、また、害虫が発生したらひと呑みにして退治してくれるように、悪い病気が流行したら吹っ飛ばすようにとの願いが込められている)。
- 津軽の他の地域(つがる市、五所川原市)でも、村境の橋の欄干などに虫が安置されている。
- 400年以上の歴史がある。
ここで昭和の祭りの様子の映像に戻り、人数の違いに気付かせました。
- 昔の映像→参加者の人数が多い。今はかなり減った。
発問 市浦の人口は減ってきています。これからどうなるでしょうか。祭りは続けられるでしょうか。
「今日、虫送りについて勉強して分かったことや思ったことなどを書いてください」
(↓子どもたちの振り返り)
「今日の虫送りの話を聞いて、また参加したいと思いました。あと、もっともっと受け継いでいければいいと思います。次の時は、しとぎ餅をつけられたいです。鉦などもうまくできるようにがんばります」
「虫送りはたくさんの人の思いがこもった祭りなんだなと思いました。太刀振りの振り付けの意味を初めて知ったので、来年参加する時には意識したいと思いました。今まで参加していても知らなかったことがあったので、すごく勉強になりました。これからも参加していきたいと思いました」
「相内の虫送りには、いろいろな願いが込められているんだと思いました。例えば五穀豊穣、無病息災などの願いがこめられていることが分かりました。これからもずっと続いてほしいし、市浦にもどんどん人が入ってきてほしいなと思いました。今日の授業で、太刀の振り付けや掛け声の意味が分かりました」
「虫送りは、作物がたくさんとれるように願う祭りだということが分かりました。あと、荒馬がなぜ倒れるのかも、今日の道徳で分かりました。虫送りはできる限り続いてほしいと思いました。太刀の動きの意味も知れてよかったです」
「今日の道徳で太刀振りに意味があることを初めて知ることができてよかったです。掛け声に意味があることも初めて知りました。これからも虫送りが続いていけばいいと思いました」
「今日の道徳で五穀豊穣という言葉を知ることができてよかったです。団長の思いや掛け声の意味も知ることができてよかったです。これからも虫送りが続けばいいと思いました」
「荒馬とか、しとぎ餅というのを初めて知りました」
「虫送りが400年も続いてきたのに驚きました。これからもずっと続いてほしいです」
「虫送りの掛け声の意味を知ることができたし、顔に塗るしとぎ餅には意味があるんだと初めて知ったし、このまま続けばいいと思った」
「僕は今まで、虫送りについて何も考えていなかったけど、今日の道徳で意味などを知ることができてよかったです。来年の虫送りもがんばりたいです」
おわりに
子どもたちの感想には、「振り付けや掛け声など、この祭りにこめられた意味を初めて知った」「これからも続けばいい」というものが多数見られました。
この「これからも続けばいい」という書きぶりは、「自分は将来この地域にいるかどうか分からないけれど、この地域にいる人で頑張ってほしい」というような無責任な気持ちではなく、「自分たちがいるうちは、ちゃんと参加して祭りを続けていきたい。その後に、もし地域を離れてもできる限り協力していきたい」という、この祭りを大切に思う気持ちが表現されている言葉だと読み取れます。
私はこの授業を通して、子どもたちが「虫送り」という祭りの意味や関わる人たちの思いを知ったことで、今までなんとなく参加していた祭りに対して当事者意識が芽生えたのではないかと思いました。
これまでは、「時期が来たら『太刀振りの踊り方』と『掛け声の言葉』(6年生はお囃子の演奏の仕方)を教えてもらい、当日は衣装を着て時間になったら祭りに参加し、学校の前を練り歩いて帰る」という、楽しくはあってもどこか他人事のような感覚だった子どもたちが、祭りへの理解を深め、参加する当事者として考えるようになったと言えます。
この子たちは、来年の「虫送り」への参加意欲、態度が今までと違うのではないかと勝手に期待しています。
そして、「自分たちの地域の祭りである」という当事者意識は、「虫送り」だけではなくこれからの子どもたちの生活の様々な場面での当事者意識につながっていくと考えています。
資料提供者
・五所川原市市浦総合支所 主幹・地域振興係長 榊原滋高氏
・青森県史編さん執筆協力員 小山隆秀氏
引用
・そこにあるもの(http://www.youtube.com/@sokoniarumono2024)
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