47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#17 守りたい――透ける津軽塗

全国各地の「ひと・もの・こと」をオリジナル教材化。子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業をつくり、それらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、青森県弘前市の駒井康弘先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/駒井康弘(青森県弘前市立堀越小学校教諭)
目次
はじめに
こんにちは、弘前市で小学校教員をしております、駒井康弘です。
このたび、この連載の編集委員である藤原友和先生のお声がけを頂戴し、私の拙い実践の報告をさせていただきます。よろしくお付き合いください。
1 教材について
青森津軽にはさまざまな伝統文化があります。
ところが、日本全国、地方はどこでも同じような事情を抱えています。少子高齢化による後継者不足です。それが原因で廃業を余儀なくされた産業は少なくありません。青森県のりんご産業も大変な現状です。りんご畑が放置され、雑木林になっている箇所がたくさんあります。または、りんごの木を伐採して山肌が露わになっている所もたくさんあります。
それなのに、目の前にいる児童は、実際のところ、所詮「そんなこと」という認識です。
例えば、種々の産業が廃業の危機にさらされていることは知らないのに、ディズニーランドのアトラクションのことはよく知っている。有名な十和田八幡平国立公園を訪れ、奥入瀬渓流を歩いたことはなくても、ディズニーランドは歩いたことがある……といったように残念な現実があります。
児童にとって地域産業の衰退は、所詮他人事です。本当は自分たちの未来に直接関係するにもかかわらず、です。それが私の勤務する小学校の児童だけではないであろうことは想像に難くありません。全ては「知らない」ことによります。
そして、地域住民たちは地域産業の衰退が「地方消滅」へ直結することから目を背け、無関心で、全て他人事のように捉え、自分の生活だけを優先する生き方をしてしまっているのが現状です。
…前置きが長くなりました。
このような実状は看過できません。児童には地域の課題を見つめるよう促し、それらを意識下に置かせたいと考えています。地方衰退、地方消滅を、指をくわえて見ているわけにはいきません。
そんなある時、地元新聞の「東奥日報」に「透ける津軽塗」という記事を見つけました。津軽塗が透けるとは? 津軽塗を教材化したいとの考えを持っていた私は、すぐに製作・販売している「たなか銘産」について検索しました。すると、息を呑むような美しい、透ける津軽塗の写真が目に飛び込んできたのです。開発にまつわる物語は、郷土愛と家族愛に満ちた感動的なものでした。
社長の田中寿紀(としき)さんや職人さんたちの物語を児童にも教えなければ、と考え、教材化することを決意、実践に踏み切りました。
2 授業の実際 守りたい――透ける津軽塗
対 象: 小学6年
主題名: 伝統の継承 不屈の精神
内容項目:D17 郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度
導入 「あなたには守りたいものがありますか? それはなんですか?」
- 家族
- 友達
- 家(建物)
「そうですよね。家族がいなかったら生きていけない、と思うよね。」
続いて津軽塗の写真(唐塗、七々子塗、紋紗塗、錦塗)を提示しました。
「津軽塗だね。」
「うちにもあります。」
箸やお盆、菓子盆、座卓など、半数以上の児童が自宅にも津軽塗製品があると述べていました。津軽塗の箸を日常的に使っている児童も5人以上いました。
「先生の家にもいくつかあります。玄関には結婚祝いにもらった津軽塗の花瓶と台がかざってあります。他にも、みんなと同じくお盆とか箸とかありますね。」
発問1 「津軽塗に対してどんなイメージを持っていますか?」
「高級」「高価」「伝統的な物」などの反応がありました。
説明
「津軽塗には約350年の歴史があります。とても古くからこの津軽で作り続けられてきました。確かに安くはないですが、丈夫で長持ちするという評判もあります。
ところで、津軽塗は映画にもなったように「バカ塗り」と言われますが、なぜだか知っていますか。諸説ありますが、その一つに「バカみたいに丁寧」だから、というのがあります。なにしろ、作業が48工程もあり、お箸などはさほど時間もかかりませんが、普通のお盆や少し大きい座卓などは、完成までに3~4か月かかるのが普通なのだそうです。」
ここで児童はため息交じりに、「よくそんなことができるよな…」とつぶやいていました
そして、ついに透ける津軽塗の写真(下)を提示したのです。

児童たちはみんな、「わあ、きれいだあ…」と静かにつぶやきます。続けて下の写真も見せます。
「なんだかわかりますよね。ランプです。」

「このランプに先生は一番驚きました。スイッチを入れるとまるで別物になるのです。最初は青いですよね。ところがスイッチを入れると……こうなります。」

どよめきが起こりました。
「わあ、すごい!」
「きれいだなあ!」
みんなが口々に言います(他にも数枚、美しいランプシェードの写真を提示しましたが、割愛します)。
説明
「これを『透ける津軽塗』と言います。『たなか銘産』という会社が作りました。
津軽塗も他の伝統文化(お祭り、芸能など)と変わりなく、右肩下がりに衰退し続けている産業です。理由は、少子高齢化、後継者不足、安くて便利な製品の存在、等々あります。ですが、『たなか銘産』社長の田中寿紀さんはこう言います。」
たなか銘産伝統の技法と創造性で、津軽塗を次代につなぐ。
「先ほど話したような実情を黙ってみているわけにはいかなくなったのです。この田中さん、実は東京のIT関連の会社でエンジニアをされていたのです。ですが、ある事件がきっかけで、故郷弘前に帰ってきました。きっかけの事件とは何か分かりますか?――2011年の東日本大震災です。」
「東京であの地震の様子を知って、自分はこのまま東京で今の仕事をしていていいのか、と自問したそうです。そして、思い切って自分の実家の会社を継いだわけです。」
「田中さんは、伝統的な津軽塗の技法を活かしながらも、新たな挑戦をしなければ津軽塗は立ち行かない、と考えました。そこで、自分が幼小の頃から好きだった『弘前ねぷた』をヒントに『透ける津軽塗』を考案したのです。」
発問2 「さて、透ける津軽塗ですが、製品化するまでにどれくらいの年月がかかったと思いますか?」
- 1年? それくらいでできるのかな?
- 3年? 石の上にも3年っていうよ。
- 5年?3年で無理なら、5年くらいは頑張るんじゃない? 実際に製品化されているわけだから。
説明
「答えは、10年以上です。」
「ええっ!すごい。よく諦めなかったね」
「職人かっこいい」
「『透ける漆』というものは昔からあったのだそうです。ですが、元々津軽塗は厚塗りです。透けさせるためには研ぎ出しをしなければなりません。厚ければ透けません。研ぎすぎると模様がなくなってしまいます。もしくは、きれいに模様が出ません。どれくらいの厚さで塗り、どれくらい研ぐのか……この試行錯誤を10年以上もかけて職人さんたちと一緒に繰り返したのだそうです。」
「アクリルの上に津軽塗を施し、ランプはLEDを使用。これまでの津軽塗の概念を覆すような革新的創造です。単に伝統を守るだけではなく、稼げる、そして、未来へ向けて持続可能な産業へとアップデートする責任は並ではありませんよね。つまり、『変えないこと』と『変えること』の両立を成しているのです。」
発問3 「あなたが田中さんに言葉をかけるとしたら?」
- よく諦めずに10年以上も続けて研究しましたね。
- 尊敬します。とても私には無理です。
- こんなすごい物をつくってくださってありがとう。
- 努力がすごいと思います。
- 私も見習って、伝統を、産業を守っていく人になります。
児童は、自分の生活に身近な津軽塗を支えている田中さんや職人さんたちの飽くなき挑戦に対して、尊敬の念と自分たちも見習わねば、という気概をもったようでした。
ここで子どもらしい質問が出ました。
「先生、透ける津軽塗の照明っていくらぐらいするんですか?」
実に子どもらしい質問です。もちろん私は、お店を訪問した際に値札も見ました。
「15~16万円はします。高いですよね。一つ一つの材料が特注品なので、どうしてもそんな値段になるのだそうです。それでも、買う人がいるんですね。『どんな人が買うんですか?』と尋ねると、『新築祝いや結婚祝い、退職祝い』として買う人が多いそうです。それから、外国からの観光客ですね。そして、今はネット通販の時代ですから、大都市のお金持ちが買うでしょ?」
「ぼくも欲しくなりました!」
「本物が見たくなりました」
実に子どもらしいやりとりが続きました。
その後、再び問いました。
「あなたの守りたいものは何ですか?」
児童たちは、最初に問うた時とは明らかに違う神妙な表情をしていました。
授業の初めとは違い、「守る」の意味の深さ、広さが増しています。全てはその表情が物語っていました。
3 他教科との関連
児童たちは津軽塗が話題になった瞬間、すぐに5学年社会科の「伝統産業」で津軽塗も話題になったことを想起していました。
また、この授業では最後にこうも問いました。
「伝統的な郷土の文化や産業を守ろうと頑張っている人たちは、地元にたくさんいます。実は、みんなもその一人なのですよ。なんのことかわかりますか?」
あえて答えを明かしません。時間をおけば誰かが気付くと思ったのです。そして、待っているうちに、ついに答えが出ました。
「清水森ナンバ!」
「その通り!」
私の勤務する弘前市立堀越小学校では、地域の伝統野菜である「清水森ナンバ」の栽培を行っています。総合的な学習の時間の一環です。学校の敷地内に専用の畑があります。苗の定植から収穫までを行い、市内の朝市で販売活動も行っています。さらにはナンバを材料に「ナンバピザ」を作る調理実習も行っているのです。
この活動も、勤務校の伝統となりつつあり、既に10年以上続いています。
児童たちは単に大人の「郷土の伝統を守る」活動を知るだけでなく、実は自分たちも微力ながら「持続可能な産業」について体験しているのだと気付いたとき、まんざらでもない、誇らしげな表情を浮かべていました。
おわりに
この教材には、伝統的な文化・産業を守り続けることの原理が潜んでいます。「不易と流行の融合」です。
津軽塗は、江戸時代から350年以上も続く伝統的な漆器の技法です。「透ける津軽塗」は、そもそも「厚塗り」で有名な津軽塗に逆行する考えなのです。本来は、
「透ける」=「薄い」
はずです。ですから「透ける津軽塗」というのは、これまでの考え方を覆す発想です。
長い歴史ある伝統を革新的な技術によって変える。言葉を換えれば、「伝統を打ち破る」。いくらアイデアが浮かんでも、それを実際に商品化するまでの道のりは並大抵の厳しさではありません。
言葉にならない職人さんたちの苦労があったはずです。諦めかけたこともあったはずです。古い考えを変えられず、反対する人もあったはずです。それでも、何かを変えていかなければ、産業は成立、持続していきません。長く続いてきた伝統も、少なからず「流行」に合わせた人の営為が必須です。これまでもそうでしたし、これからもそうであるはずです。
未来を生き、切り拓いていく子どもたちに、郷土を愛する心と伝統を守るという勇気を少しでももたらすことができたかな、という授業でした。
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