47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#20 川は生きている

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業をつくる。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、岩手県の千葉貴大先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/千葉貴大(岩手県公立小学校教諭)
目次
はじめに
みなさん、はじめまして。
岩手県盛岡市で小学校の教員をしております。千葉貴大と申します。
今回、様々なご縁があり、「日本全国〈本気!〉のオリジナル地域教材道徳」の第20回を担当させていただくことになりました。
私と「地域道徳」との出会いは、2025年2月に行われた「青函対抗地域教材道徳 第9弾 秋田冬の陣」です。そこでの学びは非常に有意義なものでした。北海道、青森、秋田などそれぞれの地域で、その土地に住む子どもたちと共に教育活動を行っている先生方の思いに触れ、「自分もやってみたいな。」という憧れを抱きました。同時に、それぞれの地域には、これまで築き上げられてきた文化や産業、その土地に住まう人々の営みや抱き続けた思いがあるということを知りました。自分自身が住む岩手にも、「魅力的な材はきっとあるはずだ。」と思い、挑戦してみようと決意しました。
みなさんは、盛岡と聞いて何が思い浮かぶでしょうか。期間中にのべ100万人を超える観客が訪れる「盛岡さんさ踊り」、盛岡三大麺の1つであり全日本大会まで行われる「わんこそば」など、いくつか思い浮かぶものがあるかもしれません。
「どんな教材がいいかな。」と考えながら日々を過ごす中で盛岡市内を散策していると、盛岡の中心部を流れる中津川の近くで看板とモニュメントを見つけました。看板には、このように記されています。「鮭ののぼる川」です。
鮭は生まれた場所に戻ってくる習性をもつ「回帰魚」と呼ばれる魚です。
盛岡の中心部を流れる川で鮭が獲れる――。その驚きを胸にさらに調べてみると、中津川を遡上してくる鮭のことだけでなく、中津川の環境を守ろうとする人々の存在も明らかになってきました。「綱取ダムの環境と清流を守る会」です。この会の会長を務める菊池 健さんにお話を伺い、中津川に対する地域住民の思いを知ることができました。
このようなきっかけがあり今回は、授業者自身が感じた「驚き」と調べていく中で見えてきた人々の「想い」を織り交ぜて教材化してみました。
1.教材について
(1)中津川の概要について
中津川は、盛岡市の中心部を流れる川です。川沿いには市役所や文化施設、歴史的な建物、遊歩道などがあり、子どもたちにとっても「通ったことがある」「見たことがある」身近な場所です。散歩をすると、季節ごとの草花や鳥の姿が見え、川が街の暮らしとつながっていることを実感できます。


写真①は中津川に架かる橋に取り付けられているモニュメントです。盛岡市青年会議所が寄贈したものです。また、このモニュメントの近くには、写真②のような看板が設置されています。
(2)鮭の遡上の実際
私自身、「盛岡の街中の川で、鮭が見られるの?」という驚きが、教材づくりの出発点でした。調べてみると、9月頃から鮭の遡上が見られ、橋の上から鮭の遡上を見守っている人々がいること、鮭は北上川河口から約200kmを泳いで生まれ育った川へ戻ってくること、鮭の遡上数が年々減ってきており遡上が確認できない年もあること、鮭の稚魚を放流するなど中津川のために活動している団体(綱取ダムの環境と清流を守る会)があることなどがわかりました。
(3)稚魚の放流活動
中津川では、鮭の稚魚の放流活動が続けられていました。そこには、川の環境を守り、鮭の命を未来へ繋ごうという人々の願いがありました。
私は、稚魚の放流や環境保全に関わっている団体「綱取ダムの環境と清流を守る会」の会長、菊池 健さんにお話を伺いました。
菊池さんは、自身が子どもの頃の中津川は「とてもきれいな川だった。」と語ります。川に行けばうなぎやカジカが見られ、川の周りに石を組んで水遊びをした記憶もあるそうです。地域の人にとって、中津川は思い出深い、誇りの川でした。
ところが昭和57年、洪水などの災害対策のために綱取ダムが完成すると、川の流れや水量などの環境が変化し、生態系にも影響が出始めました。「綱取ダムの環境と清流を守る会」は、「これまでの環境を維持したい。」という思いの高まりから、地域住民の手で立ち上がった会だといいます。会は、稚魚の放流のほか、ダム周辺の花壇整備、年2回の清掃活動、安全点検などを継続してきました。
こうして続けられてきた稚魚の放流活動ですが、近年は簡単な活動ではなくなっています。北上川水系全体で遡上が少ない年があり、稚魚の確保自体が難しい状況が続いています。「やっても無駄ではないか。」という声が上がることもある中で、他地域の漁協とも連絡を取り合うなど、少しでも継続できる可能性を高めようと試行錯誤が続けられているそうです。
お話をうかがう中で、菊池さんは印象的な言葉を残してくださいました。
「川は生きている。だから、守る人が必要なんです。」という言葉です
学習指導要領には、内容項目「自然愛護」について、低学年では「身近な自然に親しみ、動植物に優しい心で接すること。」と記されています。200kmもの距離を泳ぎ、命を繋ごうとする鮭の存在を知り考えること、生まれ育った地域の川を大切にする地域住民の思いを知り考えることは、この資質能力を育むためにピッタリだと考えました。
2.授業の実際
対 象: 小学1年生
主題名:川は生きている
内容項目:自然愛護「身近な自然に親しみ、動植物に優しい心で接すること」
①「川」についてのイメージを共有する。
発問1「川は怖いものである。◯か✖️か。」
「勝手に行っちゃダメって言われているから◯だと思う。」や「川でお魚釣りしたことがあって楽しかったから別に怖くない。」など、これまでの経験をもとに自分の考えを話す子どもたちの姿がありました。
発問2「川は生きている。◯か✖️か。」
「生き物が住んでいるから◯だと思う。」や「人みたいに、喋ったり動いたりしないから✖️だよ。」などと、発問1とは違い、経験ではなく自分自身が捉えている「川」のイメージで話す子どもたちの姿が見られました。
②中津川について共有する。
まず、中津川の写真を提示しました。提示しただけでは「中津川だ。」と気付く子どもは少なかったため、「盛岡のどこかを流れる川だよ。」と補足しました。さらに、中津川周辺の施設の写真を示し、「盛岡の中心部を流れている川」であることを共有しました。
そのうえで、次の写真を提示し、問いを投げかけました。

発問3「『鮭がのぼる川』とはどういうことでしょうか。」
子どもたちからは、
- 鮭が泳いでくる。
- 鮭が海から帰ってくる。
といった予想が出ました。一方で、「見たことないよ。」「そんなことってあるの?」「鮭って海にいるんじゃないの?」という反応もありました。
そこで、事実として次のことを伝えました。
- 鮭には、生まれた川へ戻ってくる習性があること。
- 生まれたあと、しばらく海で大きくなること。
- そして、遠いところから川をのぼって戻ってくること。
- 帰ってきた鮭は、卵を産み、命を終えること。
「帰ってくる」という言葉を聞いて、子どもたちの表情が少し変わりました。そこで、この内容をふまえ、鮭の遡上を題材にしたオリジナル教材文を読み聞かせました。
③中津川を遡上する鮭の動画を視聴する。
視聴の途中、傷つきながらも泳ぎ続ける鮭の姿に、子どもたちは「大変そう。」「かわいそう。」などとつぶやきました。そこで、次の問いを投げかけました。
発問4「どうして鮭は、中津川まで帰りたいのだろう。」
- 中津川が好きだから。
- 自分が生まれた場所だから。
- なつかしいって思うから帰りたいんだと思う。
子どもたちは、自分の生活と重ねるようにして「帰る場所」の意味を捉えていました。
途中で、「わざわざ遠くから帰ってこなくてもいいんじゃない?」と揺さぶる場面も入れましたが、考えは大きくは変わりませんでした。中津川は、ここで生まれた鮭にとって“どうしても帰りたい場所”なのだと受け止めていることが伝わってきました。
教材文の後半では、鮭の稚魚を放流する活動の様子が描かれています。そこで、次の事実を紹介しました。
- 中津川を守ろうと取り組んでいる人たちがいること。
- 鮭の遡上が安定せず、確認が難しい年もあること。
- 川を守るために、放流活動や清掃活動を続けていること。
この話に子どもたちは、「頑張っている人がたくさんいるんだ。」「ぼくも放流してみたい。」という反応がありました。そこで、問いを重ねました。
発問5「活動を続けているのは、どうしてだろう。」
- 中津川が好きだから。
- 鮭が来なくなるのは悲しいから。
- ずっときれいなままでいてほしいから。
子どもたちの言葉からは、「鮭のため」だけでなく、「川そのものを大事にしたい」という気持ちも見えてきました。
④今日の学習を振り返る。
最後に、「綱取ダムの環境と清流を守る会」の会長・菊池 健さんのお話を紹介して学習を振り返りました。子どもたちに伝えた内容は、次のようなことです。
- 昔の中津川は、とてもきれいで、うなぎやカジカなどの生き物が見られたこと。
- 川岸で周りに石を組んで、プールのようにして遊んだ思い出があること。
- いつまでも、きれいな中津川であってほしいと願っていること。
「川は生きている。だから、守る人が必要なんです。」
菊池さんの言葉を紹介すると、子どもたちは静かに聞き入っていました。学習のまとめとして、振り返りを書きました。以下の内容は、子どもたちが書いた振り返りの抜粋です。
- 汚い川だとお魚さんもすぐに死んでしまってかわいそうだから、少しでも掃除をして、きれいな川にして、ここちよい川にしたいと思いました。
- 川をきれいにして、昔みたいに魚がいっぱいいる川になって欲しいです。
- ゴミのポイ捨ては絶対にしないし、ゴミが落ちているのを見つけたらひろいたいです。
子どもたちの振り返りは、たくさんの生き物が住んでいる川を大切にしたいという思いで溢れていました。自分たちが住む街の川だからこそ、その事実をより深く受け止め、自然を大切にしようという気持ちにつながったのだと思います。
3.どこにどのようにつなげるか
中津川の鮭の遡上を題材にした道徳授業は、様々な視点から他教科・領域の学びへと発展させていくことができると考えます。
例えば生活科です。生活科の内容構成の中には、「地域への愛着」や「身近な自然との触れ合い」、「時間と季節」などがあります。中津川を題材にした道徳授業は、これらの内容構成と深く関連付けることができます。
今回の道徳授業をきっかけに、中津川という1つの場所を手掛かりに1年間を追っていくことで、春夏秋冬それぞれの中津川に触れ、季節の違いをより深く理解することができると思います。
また、「綱取ダムの環境と清流を守る会」が取り組んでいる活動を知ることで、より自分たちが住む地域に愛着の気持ちを抱くことができるのではないでしょうか。会の活動や実際に取り組んでいる人たちの思いを知ることにより、「自分たちも何かしてみたい。」という思いを抱く子どもがいるとすれば、特別活動の時間を使い、「学校の周りを綺麗にしよう作戦」や「ゴミ0(ゼロ)週間」のように、自然環境保全を意識した学習を行うこともできるはずです。
おわりに
盛岡の街中を流れる中津川は、ただの「景色」ではなく、命が帰り、命が生まれ、そしてそれを願って支える人々の思いが流れ込む場所でした。
1年生の子どもたちにとって、自然愛護についての学びは「大きな自然」「遠い自然」から始めなくてもよいのだと思います。“いつもの川”の中に、驚きや願いがある。そのことに気付いたとき、子どもたちの自然に対しての捉え方が広がったように感じました。
この教材が、先生方それぞれの地域で「身近な自然」を見つめ直すきっかけになれば幸いです。
参考資料・文献・サイト
・国土交通省 東北地方整備局 岩手河川国道事務所 盛岡出張所「(平成29年度 第111号)中津川のサケ遡上・稚魚放流会等」
・綱取ダムの環境と清流を守る会 会長 菊池健氏 インタビュー(実施日:2025年12月14日)
・「岩手もりおか中津川の旅」遠藤雄三 澤口たまみ 中村 茂・編著(盛岡出版コミュニティー)
もりおか中津川サケ物語
URL: https://www.thr.mlit.go.jp/iwate/kawa/kasen-sakemonogatari/index.html
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