<新連載>菊池省三 教育の「王道」を突き進む ~「コミュニケーション科」の創造に向けて|#1

「みんなの教育技術」と菊池道場は、次期学習指導要領の目玉「調整授業時数制度」を活用して、先生方のご勤務校に「コミュニケーション科」を創設することを提案します。この連載では、その具体化に向けた詳細な構想や、学校全体での取り組み方、具体的な実践例等を示していきます。
提案/菊池省三(教育実践研究家)
<この連載に協力した8名の実践者たち>




目次
はじめに
現学習指導要領の実施に伴い、教育雑誌「総合教育技術」で2020年4月号から、「コミュニケーション科」の創造に向けて提案を続けてきました。
まずは、当時の連載第1回目の抜粋から見てみましょう。
全ての教科をつなぎ、核となる教科として
人が共に生きていく中で、最も大切なコミュニケーション力。この力を学校で育むことの大切さは、誰もが実感していることです。にもかかわらず、授業では技術的な手法に留まり、一つひとつの教科・領域の中に埋もれてしまっているのが現状ではないでしょうか。
2015年3月に北九州市の小学校を退職してから、全国各地の学校に招いていただく機会が増えました。授業を参観したり授業を行う中で気付いたことは、「固くて遅い」学級が多いことでした。そのような学級では、担任も子供たちと同様、「固くて遅い」のです。特に、荒れかけている学級では、担任の表情や声の調子、立ち位置、そして体の動きも全てが硬直しています。これでは子供たちに何も伝わるはずがありません。あたたかい人間関係が築けていない学級では、一人ひとりの子供が自分らしさを発揮し、他者を理解し、お互いを高め合う真の学びは決して生まれません。学ぶための根幹ができていなければ、活発な学びは成立しないのです。
2020年4月から実施された学習指導要領に盛り込まれている「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)は、一人ひとりの子供が自ら考え学ぶ授業の実現を目指したもので、従来の教師主導一辺倒による授業の転換を迫るものでした。
それなのに今なお、授業の進め方や板書方法、子供の受け答えの仕方など細部に至るまで決められた「○○(県や市町村名、学校名)版ベーシック」「△△版スタンダード」が幅を利かせています。マニュアル化することで、教師が自分らしさを発揮した授業、一人ひとりの子供が輝く授業が隅に追いやられています。
このような現状の中、最も大切な核となる授業は、もはや従来の教科では対応しきれないのではないかと考え、新しい教科「コミュニケーション科」を立ち上げる必要性を強く感じたのです。
なぜ、今「コミュニケーション科」なのか
教師時代、子供に身につけさせたい力として、私が最も重点を置いてきたのはコミュニケーション力です。その実践と経験、さらには教育実践家として全国の学校を回る中で、次のような理由から「コミュニケーション科」の必要性を強く感じました。
1 コミュニケーション指導の経験から
かつて荒れていた学級を受け持ったとき、高学年でさえ、自己紹介ができない子が多くいた。コミュニケーション力は人間形成のために必要不可欠であること。
2 現行のカリキュラムでは不十分であるという指導経験から
一つの教科に限らず、総合的に取り組む必要性を感じたこと。
3 全国の学校、学級を訪れての実感から
様々な学校を回る中で、コミュニケーションの弱さを実感。“正解” にこだわり、人と “違う” ことを恐れる。学び合う経験がなく技術も身についていない。教師も同様で、学校現場全体が自分らしさを発揮できない状況になっていること。
4 コミュニケーション力不足が引き起こす現在の学校での問題点から
現行のカリキュラムの中では、いじめや不登校、学級崩壊の根本原因に踏み込めないこと。
5 子供から大人までが必要としている事実から
幼稚園・保育園から、小学校、中学校、高校、大学、企業、一般社会に至るまで、全てに必要な学びであること。
通常、授業では、個別化、共同化、プロジェクト化しながら様々な活動を行います。それらの活動の連結の要はコミュニケーションが担っています。この要が抜け落ちると、個々がバラバラの単なる活動に終始してしまいます。各教科で断片的に指導するのではなく、独立した一つの教科として指導することが大切なのです。
私が考える「コミュニケーション科」とは、「あたたかい人間関係を築きあげる力を育てること」です。
「コミュニケーション科」は、全ての教科の核となる教科なのです。
「コミュニケーション科」で育てたい力
⚫︎あたたかい人間関係をつくる力
⚫︎自分らしさを発揮しながら、他者と協力して「学び」ができる力
⚫︎相手を理解し好きになって、一緒に成長できる力
⚫︎意味や感情を、言語・非言語等を活用して伝え合う力
「コミュニケーション科」は、教育の王道
全国の学校で、対面の授業が行えなくなったコロナ禍。教師も保護者も「いろいろな友達と学び合うことができるのが学校である」と学校の存在意義を改めて実感したはずです。にもかかわらず、喉元過ぎればテストの点数アップに目が行き、知識重視の “正解主義” 一辺倒の授業に戻ってしまいました。
学校は、学び「合う」ところです。いろいろな人がいて、いろいろな考えがあって、それらを安心して出し合い、お互いを高め合って成長していくところです。みんなが成長するために必要な力を育てるのが学校教育なのです。目新しい言葉で様々なコンテンツを用意しても、根幹をとらえていなければ、大風呂敷を広げただけに過ぎないのではないでしょうか。
つながり合い、学び合うことの根幹はコミュニケーションです。その力を付けるためには、既存の教科の範疇で済ませるのではなく、「コミュニケーション科」という、1つの確立した教科で考えることが必要であり、これこそが教育の王道であると断言できます。
自分の頭で考え、子供同士がつながり合う学びを
連載から6年、その間も様々な学校で授業を行ってきました。
次期学習指導要領では、「『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実し、『主体的・対話的で深い学び』に向けた授業改善」に重点を置いています。
こうした学びは、言葉を変えながらも、生活科や総合的な学習の時間が導入された頃からずっと提唱されてきました。にもかかわらず、今なお言われ続けているのは、その実現がまだまだほど遠いからではないでしょうか。
生成AI等、発達した様々な技術を駆使した学びが「個別最適な学び」「協働的な学び」を強く後押ししていくと期待されてきました。
しかし、現状はどうでしょう。
様々な学校を回ると、どの教室でもタブレットやノートパソコンが子供一人ひとりに配られ、それらを活用した学習が進められています。しかしながら実際の授業場面で多く目にしたのは「ICTありき」で、授業で端末を使うこと自体が目的になってしまい、本来の学びの深まりが感じられないものでした。
授業中、落ち着かない子に端末で動画配信を見せて騒がないようにする、という対処療法にすらなっていない場面も見かけました。
わからないことがあれば、すぐに端末で調べて “正解” を見つける。ネットに掲載された記事を疑いもせず正しいと思う。自分の頭で考えることをしなくなった子供たちは、お互いに意見を交わすこともしなくなる。友だちとのつながりが分断され、教室の人間関係がどんどん希薄になっていく──。
こうした「デジタル崩壊」を引き起こしているのです。
「コミュニケーション科」の構想
それでは、「コミュニケーション科」の具体化に向けてお話ししたいと思います。
「コミュニケーション科」は、図1のように、全教科・領域の幹になる力を育てます。
授業時数は、各学年年間35時間を想定。総合的な学習の時間を活用することで、現行のカリキュラムでも十分実施が可能です。次期学習指導要領の調整授業時数制度や探究学習と関連付けてもいいでしょう。
<図1>
①人との関わり
自分らしさを発揮し、相手を理解することで、人間関係を向上させる力。具体的な活動例:ほめ言葉のシャワー、質問タイム、成長を祝う会
②言葉への興味関心
言葉を豊かにし、相手とより良い関係を作る、「社会的語彙力」を身につける。具体的な活動例:価値語の指導、言葉遊び、白い黒板
③即興力
その場に応じて、自分のことを自分の言葉で語れる力。具体的な活動例:コミュニケーションゲーム、演劇
④自分らしさ力
周りに流されず、自分の考えをもって行動できる力。具体的な活動例:スピーチ時の声や態度・表情を育てる(パフォーマンス力)、スピーチの内容を伝える(プレゼンテーション力)
⑤対話・話し合い力
自分の考えをはっきり言えると同時に、他者への思いやり、尊重を意識した話し合いができる力。具体的な活動例:子供熟議、ディベート的な話合い
⑥議論力
様々な立場で意見を述べ、対立した意見をしっかりと聞き合える力。具体的な活動例:学級ディベート
⑦社会形成力
一人ひとりが自分らしさを発揮しながら(自分らしさの発揮)、みんなのことをみんなで話し合い、みんなが幸せになるために必要なことを決めたり変えたりすることで(自治の力)、よりより集団や社会を作っていく(話し合いのゴール点)力。具体的な活動例:係活動、委員会活動、学級活動
この7つのカテゴリーは、図2のように関連付けるとイメージしやすいでしょう。
<図2>

技術ではなく、ほめて認め合う視点で
「コミュニケーション科」に向けた話をするとき、「菊池だからできる」「教科書をこなすだけでいっぱいいっぱいだ」と否定する声が必ずあがります。確かに、これまで教師主導型の一斉授業の指導法にどっぷり浸かってきた教師にとって、「コミュニケーション科」は、大きな負担だと感じるかもしれません。
なぜなら、教師自身が経験したことがない授業だからです。しかしながら、学校でも社会でも、コミュニケーション力の重要性は、誰もが感じていることでしょう。枝葉的に扱うのではなく、学校教育の核として「コミュニケーション科」を位置づけ、コミュニケーション力の育成を考える。授業そのものを根底から変えなければいけないのです。
そして、最も大切なのは、到達度や技法に重点を置く減点法で見ないこと。「コミュニケーション科」は、子供一人ひとりのいいところを見つけ、教師から子供、そして子供同士で、ほめて認め合う加点法の教科なのです。
* * *
「コミュニケーション科」の設立に向けて、賛同してくれた先生方とともに様々な実践に取り組んできました。
教科書や指導書はありません。ゼロからのスタートです。先生方と試行錯誤しながら、私自身も学び続けているところです。一歩一歩積み重ね、ようやくみなさまに提唱していくことができる1つの形ができたのではないかと自負しています。
次回から、協力してくれた8人の先生方とともに、「コミュニケーション科」の実施に向けた学校経営のあり方や、具体的な学級での実践例を示していきたいと思います。
取材・構成/関原美和子
8月31日開催、菊池省三先生渾身のオンライン講座第2回、参加者募集中です。


