<連載>菊池省三 教育の「王道」を突き進む ~「コミュニケーション科」の創造に向けて|#2 菊池省三×江﨑高英×久後龍馬/座談会|学校経営の視点から考える「コミュニケーション科」の可能性と課題

「みんなの教育技術」と菊池道場は、次期学習指導要領の目玉「調整授業時数制度」を活用して、先生方のご勤務校に「コミュニケーション科」を創設することを提案します。この連載では、その具体化に向けた詳細な構想や、学校全体での取り組み方、具体的な実践例等を示していきます。
提案/菊池省三(教育実践研究家)
<この連載に協力してくれる8名の実践者たち>




目次
コミュニケーションをどう育てるかに、教師の目が向いていない

── 「コミュニケーション科」の実施に向けて、学校経営の視点から必要なことや課題、またこれまでの実践の中で見えてきた共通点などについて、経験を踏まえてお話しください。
菊池 「コミュニケーション科」を取り入れる、あるいは取り入れることを意識しながら学校経営を進めていくという観点で、具体的に職員との共通理解をどのように図っていくのか、人事や教職員体制も含めて深掘りしていきたいですね。
まずは江﨑校長先生から、新年度スタートにあたっての学校の様子はいかがですか。
江﨑 私は今年、前任の1000人を超える大規模校から、全校児童281人の若草小学校に着任しました。各学年40人程度で2学級、1学級あたり20人強という環境です。教室を回ると子供との距離が近く、子供たちもゆったり過ごしていますし、先生方も声をかけやすい。非常に良い環境だと感じています。
ただ、4月にある学年の校外学習に同行した際に、少し気になることがありました。
施設の見学のため、バス1台に40人ほどを乗せて出かけ、子供たちは大きくばらけることもなく、トラブルを起こすわけでもなく、穏やかに見学していたんです。私から見れば「すごく良い感じだな」と思ったのですが、引率の教員は「もっとちゃんと整列させなきゃ」と何度も声をかけて指導していました。
帰校後に話を聞いていると、「列になって美しく歩けないと気になる」という感覚が強いんだなあと感じました。さらに印象的だったのは、昼食の時間です。「班で好きな場所で食べなさい」と指示したのに、結果として学年全員が一つの大きなかたまりになって弁当を食べていたのです。
菊池 グループに分かれるのではなく、一つの大きなかたまりに?
江﨑 そうなんです。決められた班はあっても、仲の良い子同士でくっついて合体していき、気がつくとクラス全体が一つの大きなグループになっていました。一見すると「みんな仲が良くて微笑ましい」ように見えるかもしれません。しかし、私にはそれが「不安の表れ」であり、「関係性の弱さ」に見えたのです。
子供らしい素朴さがある反面、関わり方や言葉遣いが雑だったり、他者への意識が薄かったりする。飛び抜けて大きな問題を起こす子はいないけれど、トラブルが起きていないのは「たまたま」であって、何か一つきっかけがあれば大きな事案になってしまうという危うさを感じました。
しかし、現場の先生方には「子供同士の関係性やコミュニケーションにこそ力を入れなければいけない」という危機感がまだ十分に共有されていないのが現状です。
菊池 今の話は非常に重要ですね。担任の先生方は「真っ直ぐ並んで静かに座っていれば満足」しがちです。グループにならず大きなかたまりになっている事実を、「みんなで集まって仲が良い」とポジティブに捉え違和感を抱かない。
これは授業改善にも直結する問題です。そういう先生は授業においても、「ちゃんと座りなさい」「真っ直ぐ並びなさい」という形式的な統制に終始してしまう。
江﨑先生が見て、「これは危ない」「コミュニケーションの面で課題がある」と感じられた子供たちの具体的な様子はどんなところでしたか?
江﨑 関わろうとするときの「距離感」ですね。距離が近すぎる子がいる一方で、集団から外れている子がいても、まったく関心を持たない周囲の子がいる。それを「ごく普通の日常」として平然と受け止め、誰も声をかけないし、頓着もしない。
人間関係づくりや関わり方、そこでのコミュニケーションをどう育てるかという部分に、教師の目が向いていないんです。教師の目が向かないから、子供自身も頓着しない。これが本校に限らず私の知る限りあらゆる学校で日常化してしまっている点に、強い課題意識を持ちました。
菊池 なるほど。例えばグループ学習をやらせても、「形としてグループになればOK」で終わってしまう。そこから対話の質を高めたり、コミュニケーションのレベルを上げたりしていこうという発想が、教師の側に最初から存在しないわけですね。
江﨑 そうですね。グループにすること自体が「型」であり、言葉を交わして決められた時間を過ごせば「型」が完成したと思ってしまう。その状態を悪いとも思っていないし、対話がうまくいかなければ「子供がまだまだだから」と子供のせいにしてしまうので、前に進まないんです。
だからこそ、学校経営として「すべての土台は温かい関係性と豊かなコミュニケーション力である」ということを明確に打ち出す必要があります。これがないと学力も、地域に根ざした教育も実現できません。4月の職員会議でも、このメッセージを様々な形で発信し続けてきました。
4月の職員会議で、全教職員で熟議を実施

菊池 江﨑先生は春休み中から、新しい教職員チームと熟議を重ねてこられましたよね。関係性や心理的安全性、コミュニケーションの大切さについては、先生方も「大事だ」と首を縦に振るけれど、問題はその先です。ただのスローガンやキャッチコピーで終わってしまい、具体的な指導や実践に落ちてこない。これは全国の学校が陥っている共通の課題です。
江﨑 まさに同じ轍を踏まないように、この3年間でしっかりと学校の仕組みをつくっていきたいと考えています。
そのために子供たちの事実に目を向け、先生方と丁寧に対話を重ね、神戸市が掲げる教育施策とも合致させながら戦略的に進めていきたいと考えています。
菊池 春休みに行った熟議で首を縦に振らせることはできても、校外学習での子供の様子を見て危機感を持てるレベルまで教員の感度を上げるのは簡単ではありません。
何か問題が起きたとき、これまでの教育現場は「一斉指導による強固な管理統制」という対処療法に逃げがちでした。この負の循環をどうやってプラスの循環に変えていくか、そこが経営の核になりますね。
江﨑 それこそが校長の仕事であり、最大の悩みどころです。
ちなみに、4月の頭に行った熟議について具体的にお話しすると、初日と2日目の職員会議の中で、教員側から「子供同士のつながりや関わりに課題がある」という提案が自然と出てきました。それならば、「新しいチームで一度しっかり話し合おう」と考え、教頭先生に時間を調整してもらって1時間半ほどの熟議を行いました。
テーマは「若草小学校の子供たちのコミュニケーション力はどうなのか」「何がバリアになっているのか」「どうすればそれが伸びるのか」という3点です。
── 熟議を行ってみて、先生方の反応や手応えはいかがでしたか?

江﨑 課題や解決策について、先生方からは、「温かい反応をする」「しっかり対話する」「伝えるスキルを大事にする」など、私たちが目指す方向性と合致する言葉がたくさん出てきました。先生方の関わりの雰囲気も良く、「このチームなら変わっていける」という手応えは得られました。
ただ、「コミュニケーション力」という言葉の捉え方が、まだ表面的なんです。普通に話したり聞いたり、関わったりするレベルで「わかったつもり」になっている。コミュニケーションを通して新しいものを生み出したり、自分たちで決定したり、誰かのために行動したりといった、より深い質の領域にまでイメージが届いていない。
だからこそ、この1年をかけて「コミュニケーションとは何か」を共に学んでいく必要があると感じています。
菊池 放っておくと、現場の先生方はコミュニケーション教育を「用意してきた原稿を上手に発表するスピーチ指導」や、ひどい時には「挨拶や言葉遣いの指導」にすり替えてしまいがちです。
私が重視したいのは、その場でのやり取りの中で生まれる「即興力」や「対話の深まり」です。しかし、焦ってその点を言葉だけで伝えても、先生方は具体的なイメージが描けないので、結局「じゃあ国語の教科書教材を使って、作文を書いて発表させよう」という従来のこぢんまりとした指導に逆戻りしてしまう危険性があります。
── スタート段階として、校長が「コミュニケーション力とはこういうものだ」という明確なゴールイメージを示すべきなのでしょうか? それともステップを踏むべきなのでしょうか?
菊池 方向性を示すことは当然、大事です。しかし、階段を綺麗に一歩ずつ登らせようとすると、現場は安全な教科書指導に引きこもってしまいます。
私が提案したいのは、「まずやってみること」です。熟議でもディベートでも、まずはやってみる。やってみて、足りないところやうまくいかないところをみんなで考えていくというスタンスが大事です。
特別活動や総合的な学習の時間はもちろん、日常のあらゆる場面で対話の場をつくる。体験を通さなければ、コミュニケーション力なんて絶対に身につきませんから。
多様な子が日常の授業のでコミュニケーションを学ぶことに意味がある
江﨑 体験でしか身につかないからこそ、難しいんですよね。
実は、先ほどの校外学習から帰ってきた後、その学年で一番 “気になる子” の「自校通級指導教室」に関する保護者面談がありました。
神戸市では今、拠点のセンターに通うのではなく、自分の通う学校内でコミュニケーションや関わり方を学ぶ「自校通級」を増やそうとしています。通常学級に在籍しながら、週に1時間ほど特別な指導を受ける仕組みです。
面談で教室での困り感を共有したのですが、私は通級の担当者や担任にこう話しました。
「別室で1対1で教えることも大事かもしれないが、通常の授業や特別活動の時間の中で、関わり方やコミュニケーションを学ぶ機会をもっとつくれるのではないか。通級の部屋でやっているような配慮や指導を、全学級に広げていってほしい」と。
菊池 それは非常によい投げかけですね!
江﨑 困っている子が1人いるなら、その子を別室で練習させるのではなく、クラス全員が日常の授業の中でコミュニケーションを学べるようにすればいい。学校の教育課程の中に、関わり方やものの見方を学ぶ時間を組み込んでいく。それがまさに「コミュニケーション科」の構想に直結すると考えています。
菊池 特別な支援や通級に頼らなくても、通常学級の中で誰もが安心して一緒に学べる状態をつくることが理想です。今の支援制度は一見手厚いように見えますが、裏を返せば「通常学級でうまく適応できない子を教室から抽出して練習させる」という対症療法であり、悪く言えば「分断・排除の構造」を生み出している面もあります。
江﨑 その通りです。「君はコミュニケーションが苦手だから、別室で1時間練習してきてね」という発想になってしまう。
菊池 そうなんです。現場の教師が自分たちの「整列しなさい」「黙って座りなさい」という硬直化した一斉指導を棚に上げて、そこに馴染めない子を制度を使って排除している側面はないか。通級でいくらコミュニケーションの練習をしても、戻ってくる通常学級の側にそれを受け止め、生かす対話的な土台がなければ、練習したスキルはまったく機能しません。
江﨑 だからこそ、通常学級の授業そのものを変えなければいけないんです。通常学級の先生方が「教員としての見方・考え方」を変えていく。私が若草小学校で取り組もうとしているのは、まさにそのための「学校改革」だと思っています。
菊池 確かに、それこそがコミュニケーションを軸とした「学校改革」ですね。
スキル以前に必要な、お互いを認め合う空気や人間関係
── 久後先生は担任時代から、菊池先生の実践を導入し、学校風土を変えてこられた経験があります。

久後 はい。私はかつて研究主任として勤務していた学校で、菊池実践に全校で取り組みました。
最初は「ほめ言葉のシャワー」などをスキルや手法として真似しようとしたのですが、方法だけを追試しても絶対にマンネリ化するんです。うまくいかないと「自分たちには合わなかった」と他人のせいにして終わってしまう。
しかし当時、菊池先生をお招きしてご指導いただく中で気付いたのは、「スキル以前に、お互いを認め合う空気や人間関係という土台(風土)が必要だ」ということでした。
そのズレに気付いてから、活動が本物として機能し始めました。学校全体に認め合う学校風土が醸成され、子どもも教職員も自分らしさを発揮できる学校になっていきました。
その学校で一緒に菊池実践を推進してくれていた教頭が、その後私が新任教頭として着任した学校の校長になっておられました。「明るく楽しくのびのびと~ほめ言葉があふれる学校に~」を学校教育目標に掲げ、子どもも教職員もプラスの言葉でつながり合う学校運営を推進されていました。職員室全体が温かい空気で、職員室での何気ない会話がそのまま職員会議での決定に反映されるようなところがあって、教頭として一緒に働きながら、全員がつながり合っているという実感を持つことができました。
教頭2年目の今年、次の新しい校長が赴任したのですが、その際、「一番驚いたのは、先生方が初日から子供たちをこれでもかとほめまくっていることだ」と話していました。校長が替わっても、根付いた理念や風土は「当たり前」として残り続けるんだと実感しましたね。
菊池 理念が「当たり前」になる。すばらしいですね。ほめて認めるプラスのストロークと、温かい言葉を職員室・教室に「植林」していくこと。この土台があってこそ、コミュニケーションの質が高まり、各教科の学びの土台も豊かになる。まさに王道です。
久後 他校の事例を聞くと、子供たちも先生方も「悪しき一斉指導の観念」に強く縛られている場合が多々あります。「立ち歩いてはダメ」「静かにしなさい」と、教師も子供も互いを監視し、縛り合ってしまう。
私の勤務校には複式学級がありますが、授業中、困っている子がいたら周りの子がスッと立ち上がって助けに行きます。私はそれを見て「素敵だな、困っていたらすぐ助けに行けるんだ」と感じました。形式的なルールに縛られない柔らかい風土があるからこそ、次のステップへと進めるのだと思います。
一方で、そこからさらに「本音でぶつかり合い、考えを磨き合う」という高いステージへ引き上げるには、普通の授業をやっているだけでは越えられない壁を感じることもあります。
菊池 そうですね。少人数での交流や、意見を言い合う「量」の確保まではいけても、お互いの本質に迫る「質」の転換は、自然発生的には起きません。
では、どうやって質を引き上げるのか。「コミュニケーション科」で提案している「熟議」と「ディベート」がまさにその鍵になります。
<ディベート>
端的に短く喋る。構造化して話すからこそ、質問や反論が生まれ、議論が噛み合い、真剣味と迫力が増す。
<熟議>
相手の話をじっくり聞き、相手の背景やエピソードに思いを馳せながら、先回りして考えを深める。
この2つを体験させることで、「言葉のおもしろさ」や「即興でやり取りする楽しさ」を実感させる。日常の「ほめて認める」という土台の上で、熟議とディベートという探究的な対話を行き来させることで、コミュニケーションの質が一気に跳ね上がるわけです。
久後 先日、校内の研究推進委員会でベテランの先生が、「主体的・対話的と言われるけれど、自分が今、対話的になれているのかどうかすらわからない」と素直に自己開示していました。「『対話』という言葉が目的化してはいけない」という議論になったのですが、現場の先生方が模索している今だからこそ、「コミュニケーション科」という明確な軸や視点が必要なのだと痛感しています。
菊池 教員が「失敗=悪」ととらえていると、絶対に指導は変わりません。しかし、コミュニケーションにおいて「失敗」なんてものは存在しないんです。相手やテーマ、場所や時間が変われば、うまくいったりいかなかったりするのが当たり前。大切なのは、それを次に活かしていくことです。
失敗を恐れて原稿通りのスピーチ指導に逃げるのではなく、「うまくいかなかったね、じゃあ次はどう工夫しようか」と子供も教師も一緒に楽しめる教室の空気、学校風土をつくれるかどうか。経営のキモはここにあります。
調和の取れた不協和音
菊池 江﨑先生は、若草小学校での今後の展開に関して、具体的な施策はありますか?
江﨑 今年度の重点目標は「自ら学び探究する子」です。自ら学び探究するためには、土台として子供同士の温かい関係性と豊かなコミュニケーション力が不可欠です。この文脈をしっかりと教育課程に結びつけていきます。
具体的には、次の【3つの柱】で構造的に進めています。
【若草小学校:学校経営の3つの柱】
1.外部地域やPTAなど「教育を支える主体」との連携や協力体制の構築
・子供の健全な育ちには「関係性」と「対話」が不可欠であることを地域・保護者に発信。
・総合的な学習の時間等と連携し、地域社会を巻き込んだコミュニティを再生する。
2.学校評価の改定(評価軸の変更)
・従来の評価項目を見直し、「温かい関係性」や「コミュニケーション」に関する指標を明記。
・教員・児童・保護者が日常的に対話の質や関係性を振り返る仕組みをつくる。
3.校長自らによる「コミュニケーション科」の授業実践
・管理職が自ら教室に入り、コミュニケーション科を意識したモデル授業を公開。
・先生方に「具体的な指導のイメージ」と「子供の変容」を直接見せる。
菊池 いいですね! 特に「校長自らが授業を見せる」というのは説得力がありますね。
言葉で指示するだけでなく、具体の姿を見せる。そして、コミュニケーションを豊かにする学習活動を教育課程の中に位置付ける。そのために、いっぱいいっぱいになっている既存の教育課程を、先生方の働き方改革を含めて適切に精査・削減していく。この明確なビジョンがあるからこそ、先生方も安心してついていけるのだと思います。
江﨑 はい。ただし、トップダウンで押し付けるのではなく、先生方一人ひとりが「なぜそれが必要なのか」という理由を自分のものにできる1年にしたいと考えています。
昨今のデジタルツールやAIは効率化の上では非常に便利ですが、それだけに頼ると人間関係が殺伐とし、序列化や効率主義に傾いてしまいます。教育の原点は「人と人とのリアルな対面」です。子供たちの対話を豊かにしたいなら、まず職員室が対面での温かい対話を大切にしなければなりません。
久後 私の好きな「調和の取れた不協和音」という言葉があります。職員室には若手もいればベテランもいて、得意・不得意も考え方も様々です。多様な意見や個性がぶつかり合う「不協和音」でありながら、全体として見事なハーモニーを奏でている。教頭として、そんな職員室の調和をつくっていきたいですね。
菊池 まさにそれこそが「ウェルビーイング」であり、「多様性の包摂」ですね。
全員が同じ意見である必要はない。失敗や違いを認め合いながら、同じ方向を目指して対話をし続ける。そんな職員室の姿こそが、そのまま教室の子供たちの姿へと鏡のように映し出されていくのだと思います。
※この連載は、原則として2週間に1度更新します。
取材・構成/関原美和子
8月31日開催、菊池省三先生渾身のオンライン講座第2回、参加者募集中です。

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