47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#19 馬と共に生きた記憶

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業をつくる。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、岩手県一関市の葛西もえ先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/葛西もえ(岩手県一関市立東山小学校教諭)
目次
はじめに
みなさん、こんにちは。
岩手県の小学校に勤務しております、葛西もえと申します。
私は幼い頃から岩手県で暮らし、この地のさまざまな魅力に触れてきました。しかし、教師という立場になってからは、また少し違った視点で岩手を眺めるようになりました。それは、「未来に繋げたい、先人たちの暮らしや想い」です。
子どもの頃に訪れて楽しかった観光地や博物館、資料館の中には、人々が生きた証が数多く残されています。改めてそうした場所を訪れ、当時の人々の想いに触れるたびに心を動かされ、子どもたちにも伝えたいと感じるようになったのです。
それ以来、県内各地を巡りながら魅力を探り、その背景にある暮らしや歴史を調べるようになりました。例えば、平泉町は、今では世界遺産の地として多くの人が訪れますが、かつては戦乱が続いた時代の中で「争いのない平和な世の中であってほしい」という願いを込めて築かれ、そこに込められた平和への願いや、文化・景観を未来に伝えていくために、今でも大切にされている場所です。
また、釜石市の「橋野鉄鉱山」には、日本最古の洋式高炉で、炉が壊れないようにするために火を絶やさぬよう、働き続けた職人たちの姿がありました。
先人たちは、どのような想いを胸に生きていたのでしょうか。そして、その想いを受け継いできた人々は、何を大切にしてきたのでしょうか。道徳の授業を通して、その想いをリレーのバトンのように目の前の子どもたちへと繋ぎ、自分の住むこの地域に興味を持ち、魅力を感じてくれたらと願っています。
今回は、楽しみながら学べるように授業を組み立てました。単に事実として知るのではなく、クイズや動画を取り入れ、主体的に参加できるよう工夫することで、より自分事として捉えやすくなり、考えも深まるのではないかと考えたからです。
今回の題材とした「南部曲り家」は、主に盛岡市や雫石町、遠野市で見られる家の造りで、「チャグチャグ馬コ」は盛岡市と滝沢市で行われている行事です。私の学級の子どもたちにとっては、あまり馴染みのなかった事もあり、現地で撮影した映像も活用しながら授業を進めました。
1 教材について
今回は「馬と人のつながり」をテーマに学習を進めました。
岩手県は、古くから馬産地として知られ、馬の飼育が盛んな地域でした。はじめは軍馬として、その後は農耕馬や荷馬として、人々の暮らしを支えてきました。そうした馬たちを厳しい冬の寒さから守るために造られたのが、主屋と馬屋がL字型につながっている「南部曲り家」です。
L字型の間取りは、寒風を避け、馬と人が一緒に安全に暮らせるように工夫された設計です。馬屋の床は石や土で作られ、冬でも凍りにくく、干し草を敷いて馬が快適に過ごせるようになっていました。
また、馬屋と居住部分が隣り合わせになっていることで、いつでもすぐに馬の様子を確認でき、家族の生活と馬の世話が自然に一体化していたのです。こうした工夫からは、馬を家族のように大切にしてきた人々の想いが伝わってきます。
さらに、岩手県には馬にまつわる伝統行事もあります。毎年6月に行われている「チャグチャグ馬コ」です。色鮮やかな衣装や馬具で飾られた馬たちが列をつくり、ゆっくりと神社まで歩いていく姿は、地域の人々にとって大切に守り続けてきた景色です。
馬の衣装は、色や模様が馬ごとに異なり、衣装に使われる布や飾りは、地域の人々が丁寧に手作りしたもので、一つ一つに馬たちへの深い感謝の気持ちが込められています。
岩手県の人々が馬とどのように関わり、どんな想いで共に生きてきたのかを知ることは、ただ歴史を学ぶだけでなく、人々の暮らしや日常の工夫、そして命を大切にする考え方に触れることでもあります。こうした歴史や文化に触れる中で「感謝の心」について、自分自身の生活と重ねながら見つめ直してほしいと考え、この授業をつくりました。また、馬と人とのつながりを通して、日常であたり前に受けている支えや助けについても、自分なりに感じ取るきっかけになればと思っています。
2 授業の実際〜馬と共に生きた記憶〜
対 象: 小学4年生
主題名:「ありがとう」を伝える
内容項目:B-7 感謝
学習の導入では、まず南部曲り家の写真を掲示しました。

T:こんな家を見たことがありますか。
これは、岩手県で見られる伝統的な家で、名前を「南部曲り家」と言います。L字型になっているのが大きな特徴です。
間取り図や部屋の写真を見せながら、家の造りの説明をします。
主屋の中心には土間があり、調理や作業、物の出し入れを行う場所として使われていました。土間の奥は、居間や寝床など人々が生活する場所になっています。




T:さて、一つ隠されている部屋がありますね。
間取りの一角の「?」部分には、ある動物が住んでいます。それは何でしょう。
犬や猫、ウサギ…など身近な動物が挙げられる中で、馬の写真を見せます。家の中に馬がいることに、子どもたちはとても驚きました。
C:家の中に馬がいるの!? ペット?
C:もしかして…食べる用?
C:人が寝る所と同じくらいの広さじゃない?
C:匂いとか気になりそう…
C:馬と同じ家に住むなんてあり得ない! 人間よりも大きいんだよ!
T: 岩手県の人たちは、なぜ馬と一緒に住んでいたのでしょう。
ここで、馬と人間が一緒に働いている写真を見せます。機械がなかった時代、農作業を支える大切な労働力として馬が活躍していたこと、さらに、木材や鉄器を作るための材料を運ぶ仕事も担っていた歴史を伝えます。
続いて、岩手県の厳しい冬の写真をスライドショーで紹介します。美しい雪景色だけでなく、ホワイトアウトで前が見えなくなる様子も映し出され、子どもたちは「この冬を越えるのは大変だ」と実感している様子でした。
そして、再び間取り図を見せながら、厳しい寒さから馬を守るため、馬屋は南向きに造られることが多かったことを説明します。
T:今の話を聞いてみて、思ったことはありますか?
- 寒さで馬が死んでしまわないように、見守っていた。
- 大切だから、人と同じようにして暮らしていたのかも。
- 自分たちも寒いのは同じなのに、南側という暖かいところを馬に譲っていた。
- それほど大事な存在だったってことだと思った。
岩手で暮らす人々にとって、馬はただの働き手ではなく、家族のように大切に育てられていた存在であることに気づいたようでした。
T:岩手県には、馬にまつわる行事もあるんですよ。
次に紹介するのは「チャグチャグ馬コ」です。馬が行列になって歩く写真を見せながら説明します。
江戸時代から続く伝統行事で、華やかに着飾った馬たちが滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡八幡宮までの約14kmを歩いてお参りします。毎年6月に行われており、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
馬の背中には、菅笠とかすりの着物を着た小さな子どもが乗ることを伝えると、子どもたちは「どんな乗り心地だろう」「自分も乗ってみたい」と興味津々です。
さらに、馬の衣装の写真を見せながらクイズを出します。

T:馬たちの衣装には、あるものが約700〜1000個ついています。それは何でしょう。
写真をよく見てもなかなか見つからず苦戦していましたが、次第に衣装に金色の飾りがついていることに気づきます。
ここで、チャグチャグ馬コの動画を見せ、答え合わせをします。
正解は「鈴」です。「チャグチャグ」という名前は、この鈴の音からきていると言われています。
T:なぜ、こんなにもたくさんの鈴がついているのでしょう。
それは、この鈴一つ一つに、馬たちに対する想いが込められているからです。
T:このたくさんの鈴には、馬と一緒に暮らしてきた人々の想いが込められています。それは、どんなメッセージだと思いますか。
子どもたちが自分の考えを書きやすいように、枠も線もない以下のようなワークシートに記入してもらいます。

C:たくさん働いてくれてありがとう。
C:寒いけど、元気で過ごせてよかったね。
C:これからもよろしく。
C:また来年もかわいい衣装を着せてあげるからね。
子どもたちの発言からは、馬を「これからも共に生きていく大切な存在」として捉えていることがうかがえました。それに加え、感謝の気持ちを伝える言葉も多く見られました。ただ「ありがとう」と言うだけでなく、“何をしてくれているのか”や“どんな想いで支えてくれているのか”まで考えながら言葉にしている様子から、子どもたちの考えがさらに深まっていることを感じました。
T:馬を着飾る衣装に、こんなにたくさんの想いが込められているなんて、とても素敵ですね。馬と共に暮らす人々は、このようにして馬に感謝の気持ちを伝えてきたのです。
馬への感謝を鈴に込めた人々の姿を知り、「感謝とは、思うだけでなく伝えることも大切である」という点にも目を向けさせました。そこで、次のように問いかけます。
T:もし、みんなが同じように気持ちを伝えるとしたら、誰に「ありがとう」を伝えたいですか。
この発問と共に、班に一つずつ鈴を配りました。鈴を手に取り、そこに想いを込めて、自分の言葉で語っていきます。
C:お母さんに、いつも起こしてくれてありがとうと伝えたい。
C:〇〇ちゃんに、休み時間にいっぱい楽しませてくれてありがとうって言いたい。
C:〇〇さん(班の仲間)に、勉強を教えてくれてありがとう。
C:音楽発表会で伴奏を弾いてくれた〇〇さんにお礼を伝えたい。
それぞれの想いを班ごとに語り合っていくと、「これ、ここで言っても意味なくない?」「直接伝えたいじゃん」と発言する子どもたちが出てきました。
この言葉をきっかけに、最後の活動として「ありがとうの手紙」を書くことにしました。思い浮かべた相手を心に描きながら、一人一人が言葉を綴っていきます。
手紙を書く子どもたちは、少しでも気持ちが伝わるようにと色を付けたり絵を添えたりしながら、一生懸命に言葉を選んでいました。手紙を書く中で、自分と人との関わり方を振り返り、身近な人に支えられている自分の姿にも目を向け始めたようでした。
おわりに
今回の授業は、南部曲り家で人と馬が共に暮らしてきた歴史や、チャグチャグ馬コに込められた人々の想いに触れてきました。子どもたちは、「感謝は心で思うだけでなく、相手に届ける事も大切である」という点に、少しずつ気づいていきました。また、手紙という形で言葉にしたことで、身近な人への感謝や、自分がたくさんの人に支えられていることを、改めて感じ取る時間になったように思います。
今回は「感謝」を内容項目として授業を進めましたが、子どもたちの記述や発言を見ていると、次第に家族に対するあたたかな気持ちや、友だちに親切にしようとする姿勢にも考えが広がっていきました。誰かのために行われてきた文化や行事の背景には、人を思いやる心が受け継がれていることに気づいたからこそ、自然と自分たちの生活へと結びつけて考えることができたのだと思います。
今回の学習を通して、岩手には地域ごとに受け継がれてきた多様な文化があることを改めて感じました。広い岩手は、県北、中央、県南、沿岸と、それぞれに異なる風土があります。違いがあるからこそ面白く、知れば知るほどその魅力が見えてきます。
地域の歴史や文化を学ぶことは、昔の出来事を「遠い世界の話」として終わらせず、今の自分の生き方を見つめる学びへとつながります。
子どもたちには、これからも岩手各地に息づく人々の想いや工夫に触れながら「自分が住んでいる岩手県っていいな」と実感できる時間を届けていきたいと思います。
【参考文献】
・新岩手日報社編『岩手県大鑑』新岩手日報社、1940年
・もりおか歴史文化館 展示資料
・雫石町歴史民俗資料館 展示資料
【参考webサイト】
・盛岡手作り村ホームページ
https://tezukurimura.com/
・チャグチャグ馬コ保存会公式ホームページ
https://chaguuma.com/
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