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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #11 自分を信じる

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、青森県五所川原市の倉内貞行先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/倉内貞行(青森県五所川原市立栄小学校教諭)

はじめに

みなさん、こんにちは。

青森県五所川原市で小学校の教員をしております、倉内貞行と申します。

藤原友和先生と共に青森と函館で地域の道徳教材を作り、その授業化について学び合う会を行ってまいりました。今回連載に参加させていただくことになり、大変恐縮しておりますが、自分なりに地域を教材化した実践について、お話しさせていただきたいと思います。拙い実践ではありますが、どうぞお読みいただければと思います。

青森県は既に少子高齢化の影響が色濃く感じられます。地域の未来を考える際には、どうしても暗澹たる気持ちにならざるを得ないという側面があります。しかしながら、こうした地域にありながら、子どもたちと地域に生きる人々の姿を感じられ、そこに未来を生きるヒントが感じられるような、そういった教材はないかという思いで、実践を行ってきました。

今回教材として扱った「津軽びいどろ」に出会った時、私自身の心が震えました。自分自身が「津軽びいどろ」のストーリーを知り、「自分も、ここで歩みを止めてはいけない!」と勇気をいただきました。そして、子どもたちが、この教材に紹介した人々のように、逆境に負けず活路を見出してきた、あるいは見出そうとしている人の営みが地域、いや、社会にはたくさんあるのではないか、と感じられる「目」が育ってほしいと願いました。単に成果だけではなく、過程や葛藤、そこに人の想いがある―――。
そして、自分も何らかの目的のために工夫をし、努力をし、豊かな生き方を模索できるようになってほしい、そう願って地域の素材を活用した道徳の教材化を行いました。

この記事を読んでいただいた後に、自分の地域にも人々の思いや願いによって道を切り拓いているものがあるのではないか、それを授業として扱ってみたいと思っていただけたら幸いです。

1 教材について

「津軽びいどろ」は青森県内のお土産コーナーなどで、よく見かけるガラス製品です。鮮やかな色のついた美しさや可愛らしさがあります。でも、その「津軽びいどろ」とは何なのか、どんな製品なのだろうか、ということを私は恥ずかしながら、あまり知りませんでした。

少し調べると、「津軽びいどろ」の歴史は、地域の未来を考える上で、そして、子どもたちがこれから生きていく上で様々な示唆を与えてくれるものに見えました。

「津軽びいどろ」の公式オンラインショップのホームページ(津軽びいどろ公式オンラインショップ)には、「津軽びいどろ」の歴史について次のように紹介されています。

このように北洋硝子の「津軽びいどろ」成立には次のような要素がありました。

かつて漁具である浮玉をガラスで作り全国シェア1位にあったこと。

その製造には「宙吹き」という技法が用いられたこと。

その浮玉には独特の緑色を発色させていたこと。高い技術によって精巧な球体であったこと。そのうちの幾つかが海を漂流し、太平洋を渡り、アメリカでその美しさから珍重されたこと。(北洋硝子の刻印「北」を現地のコレクターは「ダブルF」と呼んでいた。)

しかし、浮玉製造はガラス製から樹脂製への移行が進んでいき、北洋硝子は花器などの製造を始めたこと。

色ガラスの調合(県西部の七里長浜の砂を使用することで美しい色を発色できたことが発端)や成形技術、「宙吹き」の技法を用いて、花器や食器などで「津軽びいどろ」成立。青森県の伝統工芸品の指定を受ける。

「津軽びいどろ」青森の美しい四季や自然、暮らしを連想させる。それは、長年の「宙吹き」や色ガラスの使用、技術の継承と新たな技へのたゆみない努力によって支えられている。

時代の変化によって苦境に立たされた北洋硝子が、その技と努力により、新たな分野に挑戦し続ける姿がありありと感じられます。

一方、私たちの地域を見れば、どこか閉塞感すら感じる現状があり、子どもたちも、少なからずその影響を受けているようにも見えます。だからこそ、逆境に対して自分たちの技を信じ、今なお努力を続ける「津軽びいどろ」のストーリーに出会ってもらい、自分の生き方に照らし合わせてみてほしいと願いました。

2 授業の実際

教材名「ダブルF」
小学校6年生
A 主として自分自身に関すること(2) 希望と勇気、努力と強い意志)

 ①自分について振り返る。

発問 「どうせ無理、と諦めたり、言い訳を探したりしたことはありませんか?」

子どもたちは様々な経験を話してくれました。本当は諦めたくなかったけど、現状に甘んじてがんばりきれなかった……、そんな経験が小学生にもあるものです。

地域の現状をデータとして見せる。

続いて、地域の「現在」と「これから」のデータを幾つか見せます。今回は「人口推移の予測」と「県内9割の市町村が消滅可能性が高い」というグラフや地図を提示しました。そして、「『青森だから』という言葉を大人が、ついつい使ってしまっていないだろうか」と問います。多くの子どもが、「聞いたことある!」という反応をしました。生まれ育った故郷は好きだけれど、ネガティブな声も子どもたちは知っていたのです。

「津軽びいどろ」成立のストーリーを聞かせる。

自作のスライド資料を提示します。「津軽びいどろ」成立とその美しさ、そして職人さんの姿が感じられる構成にするため、以下のような構成にしました。

  • 北洋硝子は全国シェア1位を誇る浮玉製造の会社であった。
  • その製造過程では「宙吹き」という熟練の技が使われていた。
  • しかし、時代の流れとともにガラス製の浮玉から樹脂製への移行が進み、北洋硝子は岐路に立つ。
「津軽びいどろ」の職人の写真

発問 「自慢の色ガラスの浮き玉が需要を失っていく中、北洋硝子のみなさんは、どんな気持ちだったのでしょう?」

子どもたちはう〜ん、と悩みました。

「もうガラスは諦めるかもしれないなあ。」

「すごく残念な気持ちだったと思います。」

「北洋硝子ってもう無いのかな。だとしたら、悲しい。」

  • 培った技術を活用し、花器製造から「津軽びいどろ」へ舞台を変えて、北洋硝子が再び歩み出した様子を示す。

子どもたちは、「津軽びいどろ」の写真を見て、歓声をあげるとともに、「おうちにある!!」「見たことある!」と口々に話し始めました。

  • 「津軽びいどろ」の製品の写真を示し、青森の四季、自然、文化から着想を得て、独自の色ガラスと技法で表現していることに気づかせる。
桜をイメージした津軽びいどろのグラス
ねぷたをイメージした津軽びいどろの製品
紫陽花をイメージした津軽びいどろの写真

「津軽びいどろ」の写真と県内で撮影してきた写真を重ね示すと、子どもたちはワクワクしながら見ていました。「きれい!」「色がイメージ通りだ!」すっかり「津軽びいどろ」の魅力に夢中になってしまいました。

  • 「津軽びいどろ」のプロモーション動画から、職人さんのメッセージを見せる。
「できる できないは(単に)技術の問題。きっとどんなものも作ることができる。」

「世界を目指したい。今はまだ通過点だけどー」

教室がしんと静まりました。職人さんの技術や思いに触れ、そこに人の思いがあるのだということを感じたように見えました。

  • ストーリーをまとめ、「青森だから」という大きな文字を書いたスライドを再び提示。
    青森の美しい四季や自然、文化を基に、技術を生かして「津軽びいどろ」が生まれた。
    「青森だからこそできることがあるのではないか。」と示して、スライドを終える。

自分についてもう一度考えさせる。

  • もう一度問い直します。

発問「どうせ無理、と諦めたり、言い訳を探したりしたことはありませんか?」
「あなたは、『津軽びいどろ』の北洋硝子の物語を知り、どんなことを考えましたか?」

子どもたちは考えを書いて、交流しました。次のような感想が出されました。

「津軽びいどろにこんな物語があるとは知りませんでした。職人さんの技術と青森の美しさが掛け合わされてできていて、うれしい気持ちになりました。」

「青森だから…、って正直に言えば思うことがありました。でも、青森だからできることもあるんだと今日思いました。ぼくは、自分だからできないと言うんじゃなくて、自分だからできることがあると思えるようにしたいと思いました。」

「なんか勇気がわきました。自分を信じるって簡単に言っているけど、簡単なことではないと思う。自分を信じられるには、ちゃんと努力をしないとなあと思いました。」

「浮玉が樹脂製になった時、きっと悲しかったと思う。でも、技術を生かして新しい挑戦をすることができたのはどうしてかなと思った。知りたいです。そして、そういう物語が他にもあるのかな、と思いました。」

感想交流はいつも以上に熱を帯びていました。北洋硝子の歩みと自分の考え方を照らし合わせながら各自が思いを語ってくれました。

授業後、「津軽びいどろ」について一人一台端末で調べてみる子どもがたくさんいました。家に帰ってから、「津軽びいどろ」を探して、今日の学習をもう一度保護者に説明してくれた子もいたようです。見慣れた物に対する見方が変わり、そこに人の思いや努力があることを実感できたようです。

3 どこにつなげるか

今回扱った「津軽びいどろ」と北洋硝子の物語と道徳授業は、様々な視点から発展させていくことができると感じています。

教科横断的視点で捉えると、社会科との接続が想定されます。特に産業に関わる単元においては必ず「人」が関わっていて、時代の要請を受けながら様々な工夫や思いがあるはずです。今回は担任をしている小学6年生を対象に行いましたが、例えば小学4年生の社会科で扱う伝統工芸についての学習と接続をすることで「伝統を守ること」と「伝統を継承・発展させていくこと」の視点をもたらすことができるでしょう。
小学3年生の販売についての単元や、小学5年生の産業に関する単元においても、技術の継承と革新、人々の思いを感じることのできる目を育むため、今回の題材を事前に扱うことで、視野が広がるように思います。少し言葉を易しくした資料で本校の4年生でも、同じ題材で道徳授業を実践してみたところ、国語科や社会科の題材として示されている伝統工芸との関連づけができたと聞きました。

担任している小学6年生にとって、以前は「働くこと」について、イメージすることが難しいようでした。「より良いものを作りたい、そのために受け継いできた技術をさらに磨いたり、工夫したりしたい。」という職人さんのメッセージは「働くこと」について視野を広げてくれる可能性があると思います。
ものづくりの面白さや奥深さ、それに向き合う職人さんの姿には学ぶべきことがあります。キャリア教育との関連づけとしても効果が期待できます。

そして、何より、地域に目を向け教材化することは、一生懸命生きている人の姿を実像として知ることができるということが魅力だと感じます。漠然と知っていた地域の姿は、決して明るいものではありませんでした。しかし、そうした人々が暮らすこの地域を知ることで、地域に対する愛着や誇りが育まれることが期待できます。

例えば、総合的な学習の時間で「まちづくり」をテーマとして設定すると、地域を知る視点が単にデータを集めるだけでなく、ここに生きる人々にフォーカスすることが選択できるようになります。「他にも津軽びいどろのような物語はないか」という視点です。そこに課題を見つけ、解決策を考え、実現可能性を考察することで、机上の空論ではない学習が展開できるものと考えます。

そうした学びを積み重ねることで「自分は課題にどう向き合うか」「自分はどんなことを大切にして努力をしていくか」という問いが、これから子どもたちが生きていく上での視点として、ふと思い出されるといいなと願っています。

おわりに

地域には子どもたちに知ってほしい「ひと・もの・こと」がたくさんあります。恥ずかしながら、私は「故郷には何にもない!」と思っていましたが、そんなことはありませんでした。私自身が見る目を持っていなかっただけなのです。地域を知ろうと調べ、そこに生き方のヒントを見つけようとする視点を持つことができるようになると、地域の「ひと・もの・こと」が愛おしく見えてきます。
「津軽びいどろ」があの日、お土産屋さんで目に飛び込んできたのは、そうした教師自身の変化があったと振り返っています。

地域に足を運び、「これは何だろう?」「どうして、ここに?」という問いを持つことで授業づくりの選択肢が増え、そして楽しくなります。教師自身が問う姿勢、探究する姿勢を大事にしたいと思います。 長々と書かせていただきましたが。最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。

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単行本「オリジナル地域教材でつくる!「本気!」の道徳授業」カバー

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