「日々の関わり」を重視する 新しい「生徒指導」の形 #2 課題予防的生徒指導―「兆し」に気づく関わり―

令和4年に改訂された「生徒指導提要」を踏まえ、「問題対応」を軸としていた従来の生徒指導を「日常の関わり」として捉え直し、授業・学級経営の中でどう実践するかについて、具体的に提案していく3回連載です。 小・中・高、校種を問わず全ての先生方に読んだいただきたい内容です。
執筆/京都府立洛水高等学校・𠮷田拓海
目次
はじめに
第1回では、「日常の関わり」が学級の安定に影響しているのではないかという視点から、発達支持的生徒指導について考えてきました。その中で、小学校の実践に見られる関わりの工夫が、中学・高校の現場においても、形を変えながら活かせるのではないかと書きました。
実際に高校の現場で取り入れてみると、生徒の表情や反応に変化が見られることもあり、校種を越えて共通する要素の存在を感じています。
では、そのような日常の関わりの中で、私たちはどのような変化に目を向ければよいのでしょうか。例えば、発言が減る、表情が硬くなる、周囲との関わりを避けるようになるといった小さな変化は、見過ごされやすい一方で、重要なサインである可能性もあります。
山口県の小学校教諭・中村健一先生は、「問題は起きたときに対応するものではなく、その前にすでに始まっている」という趣旨のことを言っておられます。
本稿では、「問題は突然起きるのではなく、その前に兆しとして現れているのではないか」という考え方を基に、課題予防的生徒指導について考えていきます。
1.問題は突然起きるのか
生徒の問題行動や不適応は、ある日突然現れるように見えることがあります。教室の中で急に様子が変わったように感じる場面に出会うと、私たちはその「出来事」に目を向けがちになります。
しかし、少し時間をかけて振り返ってみると、その前に小さな変化が見られていたと感じることも少なくありません。
例えば、
- 授業中の反応が少なくなる
- 提出物が遅れがちになる
- 周囲との関わりが減る
- 視線が合いにくくなる、表情が硬くなる
- これまでできていたことに時間がかかるようになる
といった変化です。こうした変化は、一つひとつを見ると大きな問題には見えにくいものです。しかし、それらは、生徒の中の不安感や負担感が少しずつ蓄積し、それが表れている姿なのです。そして、その状態が続くと、やがて目に見える形の課題として表れてくる可能性もあります。
現場では、「あのときにもう少し早く気づけていたら…」と感じる場面に出会うことがあります。日々の忙しさの中では、こうした小さな変化を見過ごしてしまうこともあるかもしれません。しかし、その小さなサインに目を向けることが、その後の大きな変化を防ぐきっかけになります。
問題が表面化してから対応するのではなく、その前段階である兆しに気づき、関わっていくこと。その視点を持つことが、課題予防的生徒指導の出発点です。

2.「兆し」に気づくということ
課題予防的生徒指導では、「問題が起きてから対応する」のではなく、「起きる前に気づく」ことが一つの重要な視点になります。目に見える問題が生じたときには、すでにその背景となる変化が進んでいる場合もあるため、その前段階での関わりが求められています。
ただし、その「兆し」は分かりやすいものばかりではありません。むしろ、はっきりとした言動として現れる前に、微細な変化として表れることが多いようです。例えば前述したように、
- なんとなく元気がない
- いつもと反応が違う
- 関わりを避けているように見える
- 発言のタイミングが遅くなる
- 視線を合わせることが少なくなる
といった、言葉にしにくい違和感として表れることが多くあります。
では、そのような「兆し」に気づくためには、どのような視点が必要になるのでしょうか。
その一つとして、日常の関わりの中で「普段の様子」を知っておくことが挙げられます。普段どのような表情で過ごしているのか、どのような場面で発言するのか、周囲がどのような関わり方をしているのかといったことを把握しているからこそ、小さな変化に気づくことができます。
第1回のテーマ「日常の質」は、ここにもつながっているように感じています。日常的に関わりを持ち、やり取りを重ねているからこそ、「いつもと違う」という感覚が生まれます。関わりが少ない状態では、変化に気づくこと自体が難しくなるはずです。
こうした視点は、小学校・中学校・高等学校と、校種が異なっても共通する部分があるはずです。発達段階や表れ方は異なっていても、「普段を知ること」と「違いに気づくこと」は、どの現場においても重要な意味を持ちます。
「兆し」に気づくためには特別な観察力が必要なのではなく、日常の関わりを丁寧に積み重ねることが必要なのだと考えています。

3.日常の中でできる予防的な関わり
(1)変化に気づく視点をもつ
普段から生徒の様子に目を向ける中で、少しの違いに気づくことができる場面があります。例えば、
- 表情が固い日が続いている
- ノートの記述量が減っている
- 発言の仕方が変わっている
- 授業中の視線が合いにくくなっている
- これまで参加していた活動に消極的になっている
といった変化です。こうした変化は、一つだけを切り取ると大きな問題には見えないかもしれません。しかし、同じ傾向が続いたり、いくつかの変化が重なったりしている場合には、生徒の中で何らかの変化が起きているサインと捉えることができます。

(2)小さな声かけの積み重ね
気になる変化に気づいたとき、すぐに大きな指導や働きかけを行うのではなく、まずは短い声かけから始めることも一つの方法です。例えば、「最近どう?」「少し疲れている?」といった一言です。
こうした声かけは、その場ですぐに状況を変えるものではないかもしれません。しかし、生徒にとっては「見てもらえている」「気にかけてもらえている」という感覚につながります。この感覚があることで、生徒がいざ困ったときに声を上げやすくなる場合もあります。
こうした声かけに対してすぐに反応が返ってこない場合もあります。そのようなときでも、「反応がない=意味がない」と捉えるのではなく、関わり続けていること自体に意味があると考えることも大切です。小さな関わりの積み重ねが、後になって生きてくる場面もあります。

(3)関わりを絶やさない
どの生徒に対しても、関わりを絶やさない事が大切です。例えば、
- 挨拶を続ける
- 短い会話を重ねる
- 無理に踏み込まないが、関心は持ち続ける
- タイミングを見て軽く声をかける
- 反応が薄くても関わりをやめない
といったことを心がけます。
生徒によっては、深く関わることを負担に感じる場合もあります。そのため、無理に話を引き出そうとするのではなく、その生徒のペースに合わせた関わり方が求められます。
中村健一先生は、問題対応においては特別な方法に頼るのではなく、日常の関係性の中で支えていくことの重要性を指摘されています。この視点に立つと、「何をするか」という具体的な行動だけでなく、「関わり続けているかどうか」が意味を持つように感じられます。こうした関わりは、校種を問わず、形を変えながらも共通して重要なものです。
日常の中での小さな気づきと関わりの積み重ねが、結果として大きな課題の予防につながっていく――。そのような視点を持つことが、課題予防的生徒指導を支える土台になると考えています。

4.授業の中でできる予防
予防的な関わりは、特別な時間に限らず、日々の授業の中にも取り入れることができます。むしろ、生徒が最も多くの時間を過ごす授業の中でどのような関わりを積み重ねていくかが、課題の予防につながっていきます。
実践例:参加のハードルを下げる
授業の中で見られる課題の一つに、「発言することへの不安」があります。いきなり全体の場で発言することに抵抗を感じる生徒は少なくありません。そこで、特に重要なのは、参加のハードルを下げることです。
例えば、
・全員で書く時間をつくる
・ペアで共有する
・全体発言につなげる
といった流れをつくります。
「まずは一言でいいから書いてみよう」と促すことで、生徒は自分なりの考えを持つことができます。その後、「隣の人にだけ伝えてみて」とつなぐことで、全体発言への心理的負担が軽減される場面も見られます。こうした段階を踏むことで、「発言してもよい」という感覚が少しずつ育っていくはずです。
実践例:「分からない」を可視化する
「分からない」が言えない教室では、学びは止まってしまいます。しかし、「分からない人はいますか?」と尋ねても、手を挙げにくい生徒がいるのが実情です。
そこで、問い方を少し変えてみることが有効な場合があります。例えば、
「どこが難しかった?」
と問いかけることで、分からないことを部分的に言語化しやすくなります。
さらに、
「同じところで悩んでいる人、多いよ」
と伝えることで、「自分だけではない」という安心感が生まれる場面もあります。
また、「どこまで分かった?」と問い返すことで、生徒の理解の段階を可視化することもできます。このような関わりは、つまずきを早い段階で共有し、学びを止めないための手がかりになるはずです。
5.高校現場から見える課題
高校の現場では、これまでの学校生活における関わりの積み重ねが原因で、課題が表に出にくくなっていると感じる場面もあります。
例えば、
- 我慢することが当たり前になっている
- 助けを求めることが難しい
- 自分の状態を言語化できない
といった状況です。こうした生徒は、表面的には落ち着いて見えることもあり、周囲からは「問題がない」と捉えられてしまうこともあります。
一見安定しているように見える生徒であっても、内面では困り感や不安を抱えている場合があります。それが表に出にくいからこそ、気づきにくく、関わりのきっかけをつかみにくいという難しさがあります。
このような状態に対してもやはり、強い指導や急激な変化を求める関わりよりも、日常の中での小さな関わりの積み重ねが意味を持ちます。
前述したように段階を踏むことで授業への参加のハードルを下げていくことができますし、発言だけでなく、「書く」「共有する」「聞く」といった多様な参加の形を用意することで、全生徒が無理のない形で関われる場をつくることもできます。こうした関わりの積み重ねが、「参加してもよい」「助けを求めてもよい」と感じられる環境づくりにつながっていきます。
まとめ
課題予防的生徒指導は、特別な場面で行う対応ではなく、日常の中での「気づき」と「関わり」の積み重ねとして捉えることができます。問題が表面化してから対応するのではなく、その前に見られる小さな変化に目を向けること。そして、その変化に対して無理のない形で日常的に関わり続けていくことが重要になります。
表情や反応の違いに気づくことや、短い声かけを重ねることは、一つひとつは小さな関わりかもしれません。しかし、その積み重ねが生徒にとっての安心感につながり、困ったときに声を上げやすい環境を確実につくっていきます。
生徒指導は、問題が起きたときだけに行うものではなく、日常の中で少しずつ形づくられていくものです。その視点を持つことが、課題予防的生徒指導の出発点となり、結果として大きな課題の予防につながっていくのです。

<著者プロフィール>
よしだ・たくみ。京都府立高校にて芸術(書道)を指導。大学時代に著名な先生の影響を受け、イベントに参加、企画・運営し、学び続けている。単行本『Withコロナ時代のクラスを「つなげる」ネタ73』『普通の授業だけじゃ、つまらない! たまには、こんなスペシャルな授業を!!』(黎明書房)に執筆協力。
