「生徒と接する時間が取れない」悩みを解決! 朝の会+1人1台端末でつながりを生み出す学級づくり【中学】

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学級担任制をとる小学校とは違って、中学校・高等学校においては、担任する学級の生徒たちと教師が触れ合う時間は十分とは言えません。そのような環境の中、「短い時間の中でどうやって学級づくりをすればよいのか!」というお悩みをもつ中高の先生も多いです。関係性が不十分な集団において、豊かな学級づくりを進めるのは相当な難易度です。小中両校種の経験をもつ瀬戸山千穂先生は、限られた時間の中での工夫として、朝の会を活用した学級づくりを行ってきました。道徳教育研究を生かした中学校学級づくりの実践を紹介いただきます。

執筆/群馬県公立中学校教諭・瀬戸山千穂

中学担任が直面する「自学級の子どもたちと接する時間がない!」

これからやってくる未来は、変化の激しい社会であると言われています。そんな変化の激しい時代を
生きていく子どもたちにとって、必要な力は何でしょうか。お金を稼ぐ力? 社会的地位や名誉を手に入れる力? それも大切かもしれませんが、これからは、自らの力でたくましく生きる力、子どもたちが自ら他者とつながる力は、それ以上に必要であると感じます。変化が激しいからこそ、経済的資本だけではなく社会的資本をつくる力が、今まで以上に重要視される時代に突入しているのです。

人とつながる力をつけるためには、子どもと教師、子ども同士が関わる時間を意図的につくり、教室が安全で安心な場となることが不可欠です。

とはいえ、中学校は忙しい。特に中学校担任は、学級の子どもたちと過ごす時間がとても短いのが現状です。朝、「おはよう!」と子どもたちに挨拶をし、朝の会が終わったら、給食まで自学級の子どもたちと会えないことも多々あります。働き方改革で給食指導がローテーションになっていたら、「朝の会」「掃除」「帰りの会」しか会えない日もあります。

「自学級の子どもたちと接する時間がない!」「短い時間でどうやって学級をつくるの?」小学校から中学校に異動したとき(前任校は地元の附属小学校でした)に最初にぶつかったのが、この問題でした。

経験を経て、確かに言えることは以下の2点です。

①「聴くこと」への意味づけと価値づけ
②「朝の会」「帰りの会」の位置づけと意味づけ

授業時数が少なくても、学級担任であれば「朝の会」「帰りの会」はありますよね。今回は①も踏まえつつ、②の「朝の会」の位置づけと意味づけについて見ていきます。

時間がない中で朝の会を活用して学級づくり!

読者の皆さんは、朝の会をどのようにデザインしていますか? 中学校でよく聞くのが「できるだけ短く」「連絡事項だけを端的に」です。

確かにそれも大切です。でも不安を抱えている子どもにとってはどうでしょう。安心・安全な場づくりの一助になっているでしょうか。SNSの発達により、自分にとって必要な情報だけを膨大に手に入れることができるようになり、子どもたちはフィルターバブル現象やエコーチェンバー現象にさらされていると言われています(下図参照)。

何らかの手立てがなければ、教室内の子どもたちの世界は分断してしまう時代とも言えそうです。

フィルターバブル現象
エコーチェンバー現象
令和5年7月「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」より引用(※1)

私は朝の会を、「1日を安心と笑顔で始める」「子ども同士が仲間の世界に触れる時間」と位置づけました。

安心と笑顔を生み出すには、互いの信頼関係の構築と相手を知ること、相手に興味をもつことが必須です。そんな仕組みと仕掛けづくりを、以下のような段階で行いました。中学1年生での実践です。

【STEP1】4月上旬~中旬
自己紹介で相手を知る(じゃんけん自己紹介、テーマに基づくペアトーク)
【STEP2】4月下旬~5月中旬
日直が決めたテーマでペアトーク
【STEP3】5月下旬~7月中旬
自分が今一番夢中になっていること、伝えたいことのスピーチ

朝の会は、通年で同じメニューで行うことが多いかもしれませんが、同じことの繰り返しは活動自体の目的化とマンネリを招きます。わたしは「1日を気持ちよく、安心と笑顔でスタートするための朝の会をみんなで創ろう」と目的を伝えた上で、一学期は上記のメニューを提案しました。

相互交流を深める3つのSTEPは、こう行う

【STEP1】自己紹介で相手を知る(4月上旬~中旬)

・話す内容をあらかじめ考えておく
・ペアを変える
・話の聴き方を指導する

本校は、4つの小学校の子どもたちが入学してきます。まずはお互いを知る時間を取れるように、ペアで話す時間を設けました。時間は1分程度、内容は自己紹介です。

しばらくはペアを替えて自己紹介の時間を継続して取りました。最初は緊張していた子どもたちも、「新しい友達と話せて嬉しかった!」と生活ノート(中学校で一般的に活用されている生活記録ノート)に書いていました。

一通り自己紹介が終わったら、教師が指定したテーマに沿ってペアトークを行いました。ここでのトークテーマは、下のようなワークシートにあらかじめまとめてもらった内容です(身体測定の裏番組として、子どもたちに書いてもらいました)。

ワークシート

私はワークシートを作るとき、Canvaをよく利用します。Canvaで作るとおしゃれなワークシートがすぐにできますよ。

*Canva…おしゃれなデザインの画像データ等を作成できる無料のオンラインツール

このときのポイントの1つが「聴き方」です。「みんなの教育技術」でも連載を担当していた静岡県の鈴木惠子先生は、相手の話を聴くことの指導について「授業の中に『聴く』文化を育てる」「聴くこと、話すことの指導は、人への思いを育てること」と述べられています(※2)。

話を聴くのは、実はとても難しい。この難しさを伝えた上で「聴き方」の指導をします。「相手に体と目を向けて」「うなずきながら」「興味をもって」などです。この指導が欠けると、逆に仲が悪くなるペアが出てくるので、注意が必要です。コミュニケーションの基本も同時に伝えることが大切です。

【STEP2】日直が決めたテーマでペアトーク(4月下旬~5月中旬)

ある程度、子ども同士の関係性ができてきたら、小さなホワイトボードを教室に置いて、その日の日直にトークテーマを書いてもらい、そのテーマに沿って話す時間を設けました。トークテーマは、ライトな内容かつ日直の子どもが聞きたい内容としました。

例えば
「海派? 山派?」
「好きな給食メニューは?」

などです。

メンバーを変えながら話してもらうことで、たわいもないおしゃべりを、普段話さない子どもたちと話すことができます。相手を知ることで共通点が見えてくると、人と人との距離は急速に縮まります。

【STEP3】自分が今一番夢中になっていることのスピーチ(5月下旬~7月中旬)

ある程度関係を醸成できたら、ここでスピーチのスタートです。

目的は、人前で話す練習ではなく
「自分を知ってもらうこと」
「相手の世界を知ること」

です。

自分以外の世界観に触れることの価値を子どもたちにたっぷり語った上での仕掛けになります。

5月も中旬を過ぎると、子ども同士もだいぶお互いが分かるようになってきて、私のクラスでも「話したい!」という思いを直接伝えにきてくれる子どもたちが多くいました。語ることは自分をさらけ出すこと。勇気が必要だからこそ、安心・安全な土壌づくりが何より大切です。

スピーチの補助アイテムとして活躍するのが、子どもたちが持っているタブレットです。タブレットを活用して、写真を載せたり動画を撮ったり文を作ったり、子どもたちは自分の「夢中」を伝えるために、実に様々な方法を自ら選んでスピーチをしてくれました。クイズ形式にして、双方向性のスピーチを行う子もいます。相手の世界を覗き見て互いに笑い合う、実に豊かな時間です。

聴く力を高めることと、相互交流の時間を確保することも踏まえて、「質問タイム」を設けました。問い合う場を、授業だけではなく朝の会でも設けることで、授業に向けての準備運動もできます。

子どもたちはどう変わった?

まず、①話を聴く態度が劇的に変化しました。「どのような指導をしているのですか?」と質問してくる先生もいらっしゃいます。

次に、②休み時間に男女で遊ぶようになりました。休み時間におしゃべりをしたり腕相撲をしたりする姿も見られます(個人情報保護のため、写真をお見せできないのが残念ですが……)。4月当初は「男子が……」と言っていた女子の発言も、5月末くらいにはなくなりました。

何より③子ども同士の関わりが密になり、生活ノートに友達の名前がたくさん出てくるようになりました。例えばこのような記述です。

今週風邪をずっとひいているのですが、英語係の連絡を帰りの会で言わなくちゃと思っていて、同じ係のKくんに「声が出ないからやってくれる?」とお願いしたら、とても心配してくれました。「たまには休むことも大事だよ」と言ってくれて、とても嬉しかったです。

この子は女の子、心配してくれたのは男の子です。男の子が女の子に「たまには休むことも大事だよ」と言っているところがまた、いいなぁと思いました。

今日の帰りの会のIさんのスピーチで、前にも絵を見せてもらったことがあるのですが、今日のスピーチを聴いて、どんな想いで絵を描いているのかなど新しい一面が発見できて嬉しかったです。

その子の姿から想いや背景が見えてきたことを綴っています。

このような一対一の関係を地道に編み目のようにつくっていくことが、学級づくりの第一歩と言えます。集団を1つのまとまりとして大雑把に捉えるのではなく、個の集まりと捉えるのでもなく、独立した個が関わり合いながら結果として1つの集団となっていく。そのような学級を目指して、今日も日々子どもたちとともにわくわくを見つけていきたいと思います。

参考文献
(※1)文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」令和5年7月https://www.mext.go.jp/content/20230718-mtx_syoto02-000031167_011.pdf
(※2)糸井登・池田修共著『「明日の教室」発!子どもの力を引き出す魔法の学級経営』(学事出版 2014年)

瀬戸山千穂(せとやまちほ)
群馬県公立中学校教諭。初任で小学校、その後中学校、附属小学校を経て、現任校に着任。小学2年以外のすべての学年で担任に就く。「日本の道徳教育をもっと元気に! もっと豊かに楽しく!」を目指して、道徳科の授業づくり研究に注力し、道徳教育を通した学級づくりを目指す。道徳の授業研究や実践に関する発信にも熱心に取り組む。

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