教員業務支援員を活用して教員の日常的な負担を軽減【連続企画「学校の働き方改革」その現在地と未来 #03】

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平成30年度から文部科学省が各自治体を通じて小中学校に配置してきた「教員業務支援員」。現在、都道府県で8割以上、指定都市ではすべての小中学校にこの教員業務支援員が配置されている。その先例として、大きな効果を得ることができたという千葉市立加曽利中学校(生徒数426人/2023年7月現在)。教員業務支援員として5年目を迎える林みどり氏、萩原忠校長、佐宗徹也教頭に、教員業務支援員の業務内容やその効果、活用のポイントについて語ってもらった。

千葉県千葉市立加曽利中学校

写真左より、千葉市立加曽利中学校の萩原忠校長、教員業務支援員の林みどり氏、佐宗徹也教頭。

この記事は、連続企画「『学校の働き方改革』その現在地と未来」の3回目です。記事一覧はこちら

印刷やテストの採点などで教員をサポート

教職員が児童生徒への指導や教材研究等に注力できるよう、専門的な知識や技能以外での事務的な業務を担うのが「教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)」だ。千葉市立加曽利中学校では、文部科学省が支援を始めた平成30年度より、千葉市教育委員会から教員業務支援員の派遣を受け、教員の負担を軽減する働き方改革に取り組んでいる。

教員業務支援員がサポートするのは、どのような業務か。千葉市教育委員会が作成した手引きでは、教員業務支援員が担う業務として以下のようなものを示している。

■印刷業務・仕分け作業
印刷文書仕分け/郵便物仕分け/県・市からの案内等/仕事等のチラシ/入試・進路情報/アンケート調査 等

■入力・事務業務
学校評価データ入力等/スポーツテスト結果入力/各種アンケート集約/授業準備補助(物品調達)/教室・廊下掲示物管理補助/文書・雑誌類の回覧/テストの採点

■感染症対策・保健衛生業務
教室内の換気や消毒、消毒液の補充等の感染症対策/児童生徒の健康観察の取りまとめ/登下校時、休み時間等の見守り/衛生環境整備、物品等の準備 等

教員業務支援員の林みどり氏は、初めて採用された平成30年度から加曽利中学校に勤務し、今年で5年目となる。

「特に多いのは印刷物です。修学旅行のしおりや進路説明会の資料などは、一人あたりの印刷枚数が多く、綴じ込みもあるので、その時期は忙しいです」(林氏)

林氏は1時間の休憩時間を含め、朝9時30分から14時30分まで、月・火・水・金の週4日勤務。千葉市では教員業務支援員の勤務時間を週18時間までとしており、その枠内で勤務日数や勤務時間を学校ごとに相談して決めている。

「テストの印刷も決まった時期に集中するので、多少帰りが遅くなったりもしますが、そういうときは別日の勤務時間を減らすなど、調整してもらっています」(林氏)

退勤時間が早くなったことも成果の一つ

林氏の1日の流れは、朝学校に来たら、机の上に置いてある教職員からの「依頼書」を確認。

「『何時間目までにお願いします』や『何日までにお願いします』と記入してあるので、順番を整理して先にすべきものから手をつけます。その合間に郵便物の仕分けや教材の準備、来客の際のお茶出し、電話の対応をします。また、名札や教材のカードをラミネートすることもあり、保護者が来校する行事の際は受付もするなど、仕事は多岐にわたります」(林氏)

ちなみに依頼書は、教員業務支援員が導入された当時の教頭先生の発案によるもので、現在もそのまま継続して使っている。

「口頭だと行き違いがあったりもしますから。ただ依頼書でもわからないことがあった場合は、先生がいらしたときに直接確認するようにしています」(林氏)

依頼書では、印刷に関しての内容やその他業務の内容を記入。

現在は教員業務支援員の仕事について上記のような手引きがあるが、5年前は教職員から「どこまで頼んでいいのかわからない」と言われ、林氏もどこまでやればいいのかわからず悩んだという。

「『これは私がやりましょう』などと、少しずつ現場でのやりとりを積み上げていくという感じでしたね」と林氏は振り返る。

この教員業務支援員が配置された成果の一つとして「教員の退勤時間が早くなったことが挙げられます」と佐宗徹也教頭は話す。教員業務支援員が始まった当時、佐宗教頭は市教委に在籍していた。

「教員の人数で在校時間を割るので10分、20分という程度の数字ですが、教員の在校時間が減ったという明らかなデータがあります」(佐宗教頭)

日中の時間を有効に使えるのが大きい

「印刷などの業務は本当に助かっており、これまでより早く帰れるようになりました。しかし、それよりも大きいのは、日中、業務にすべて縛られてしまう多忙さがなくなっていることです」と佐宗教頭は語る。例えば、同校には電話が2回線あるが、人手が足りなくて1本は誰もとれずに鳴りっぱなしで「なぜ電話をとらない」という保護者からの苦情を受けることがあった。あるいは、授業に向かう教員が、授業をひとまず置いて、電話をとらなければならないという状況がよくあったという。

印刷業務はすべて任されているという林氏。

また来客があれば、事務室の職員が手一杯で、教員にお願いすることも。すると、教員は空き時間にやろうとしていたことを中断して、お茶出しをするという状況だった。

「そこに教員業務支援員の方が一人いるだけで全然ちがいます。我々の仕事の負担は大きく減って、とても助かっています」(佐宗教頭)

実際に教員からは「教員業務支援員がいなかったら、日中にできなかった仕事を、放課後の夜遅くまで作業していたと思う」、「負担が減ったおかげで、子どもと関わる時間がかなり増えた」などの声が上がっている。

林氏は「仕事が大変なこともありますが、教員から頼られているのをひしひしと感じるので、むしろやりがいがあります」と笑顔を見せる。

学校として林氏に頼る一方、「もし今、教員業務支援員の方がいなくなったとしたら、あれもこれも全部、職員室や事務室の誰かがやらなきゃいけない。そう考えると恐ろしいです」と佐宗教頭は、教員の専門外の業務の多さにため息をつく。

各クラスへの配布物はClass Boxに入れる。

課題は勤務時間の延長で「予算の問題」

千葉市では平成30年度、初の教員業務支援員として保護者の林氏、元教員、元学校事務職員の3人をモデル校3校に配属。検証を重ねて、令和2年度は162校に179名、令和3年度は167校に228名を配属と年を追うごとに拡充し、令和4年度には、特別支援学校なども含む千葉市立の全校に配属。ただし、予算上の兼ね合いから1校に1名の配置となった(千葉市教育委員会「教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)の手引き」より)。

同じく予算上の都合から「私も最初は勤務時間が長く、朝8時半から16時半までやっていたのですが、勤務時間が減ってしまいました」と林氏。教員から「林さん、14時半までなんですよね」と言われると、「私も気持ちとしては、もっといたい」と後ろ髪を引かれる思いで学校を後にしたこともあるという。

また、木曜以外の4日間はすっかり頼りきっているため、林氏に業務を頼めない木曜日は、それだけ教員への影響が大きい。その教員の気持ちも林氏には、よく伝わっているという。

学校に届いたチラシを手際よく分けていく林氏。

気持ちを通じ合わせるのが成功のポイント

では、教員業務支援員を効果的に活用するポイントは何だろうか。佐宗教頭は、「私の個人的な意見」と前置きして、「やはり教員業務支援員と教員との関係性づくりだと思います」と話す。どのような仕事のルールがあったとしても、頼みづらいとか、頼んだけど断られてしまったり、頼んだけど、ここまでしかやってくれなかったり……などのことがあれば、当然ながら良い関係性をつくれなくなってしまう。

「教員も感謝の気持ちを持ち、教員業務支援員の方も『学校の先生って大変なんだね』と理解いただき、『私が少しでも助けになれば』という気持ちを持っていただければ、それが一番です。それがないと、おそらくうまくいかないのではないかなと思います」(佐宗教頭)

林氏も教員業務支援員になって、保護者のときとは異なり、教員の大変さがよくわかるようになったという。

「先生方は部活動もあります。夏場だと下校時間が延びて、帰りも遅くなります。土日には大会の引率なども。本当に大変なので、お休みしているのか心配になります」(林氏)

また、普段から、教員とは積極的にコミュニケーションをとろうと心がけているという。教員のお子さんの話など、プライベートなことを聞くほか、『髪切りました?』など何気ない会話をすることで、お互い仕事しやすく、教員から頼まれやすいようにいつも意識しているそう。

働き方の根本的な改革は「教員の増員」

加曽利中学校では教員業務支援員以外にも、働き方改革の取組をしているのだろうか。今年同校に赴任した萩原忠校長に、前任校も含めた取組を聞いた。

「教員は定時に帰ることがなかなかできない仕事なので、出張や研修に出た場合には学校に戻らず、そのまま帰るように伝えています」(萩原校長)

また、週に1回は部活動休養日をつくっており、その月に4回ある部活動休養日のうち1回は「自分自身のノー残業デーにしてみたらどうですか?」と提言したという。しかし、「部活動がない日にこそ仕事ができるから」という教員もいるため、「なかなか思うようには進んでいない」と萩原校長は顔を曇らせる。

「教員業務支援員の方にはとても助けられています。ただ、これは教員なら誰もがよくわかってらっしゃいますが、働き方をさらに改革し、根本的な学校の問題を解決するためには正規の教員の数を増やさないといけないことも事実です」(萩原校長)

「現在、特別な支援が必要な子が増えていて、『不登校や教室に入れない子への手厚い対応』というのが世の中で叫ばれています。それは素晴らしいことですが、実際には教員が足りない」(佐宗教頭)

同校でも夕方登校する子がいるので、18時半から20時ぐらいまで教室でその生徒に付き合う教員もいれば、不登校の生徒の家をはしごして訪問し、そのあと帰宅している教員もいるという。

「千葉市では別室登校用の別室を“ステップルーム”と言うのですが、そこで学習支援などにあたる“ステップルーム・ティーチャー”というのを今、市内の何校かで試験的に配置しており、これが教員業務支援員と同じように広まっていけばいいなと思っています」(萩原校長)

「教員業務支援員お一人で、日中のわずかな時間にもかかわらず、これだけ多くの教員から感謝の声が上がっているというのは、根本的に現場に人そのものが足りないということです。そういう実情を世の中にも、議員の方にも、行政の方にも、どうかわかってほしいというのが学校側の願いです」(佐宗教頭)

取材・文/永須徹也

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