ICTを活用した中2社会科「近代文化の形成」指導アイデア

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中学校社会科における美術史分野の授業に苦手意識をもっている先生は多いのではないでしょうか。それは、生徒の意欲・関心を高める導入部の指導アイデアがうまくイメージできていないことにもあると思われます。ICTを使った一工夫で、その苦手意識をがらっと変えることも可能です。ICTを活用した中学社会科「美術史」の探究的な学習、課題解決的な学習のアイデアを紹介します。

執筆/福島県公立中学校社会科教諭・根本太一郎

題材 中学2年社会科 歴史的分野 第5章 開国と近代日本の歩み 4節 日清・日露戦争と近代産業 6近代文化の形成

ICTを活用したカリキュラム・マネジメントで授業も生徒も変わった

社会科の授業において、絵画や彫刻、建築物など「美術」に関する文化史を指導する機会はしばしばあります。

今まで私は、文化史の指導に苦手感を強く感じていました。絵画や彫刻を見るときに、どこに着目させればよいのか……。文化史を通して何を学ばせたいのか……。正直に言うと、苦しみながら授業づくりを行っていました。

しかし、今は文化史の指導がとても楽しみになりました。待ち遠しく、わくわくする気持ちになります。また、授業をした際の生徒の反応や記述も、少しずつ変わり始めました。

このような状況に変わったのは、ICTを活用したカリキュラム・マネジメントの工夫に出合ったからです。私の授業づくりや生徒の反応が、この手法を用いることによってどのように変わったのかを紹介したいと思います。

そもそもカリキュラム・マネジメントとは?

中学校学習指導要領(平成29年告示)総則編によると、「児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握し、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと」とあります。つまり、各教科によって求められる資質・能力を効果的に身に付けさせるための「方法」の1つであると言えます。また、その効果を最大限に発揮させるためには、「教科の垣根を越えた、横断的な視点での教育活動を実施することが必要」とも書かれています。

このように、カリキュラム・マネジメントとはどのようなものであるかを理解した上で授業づくりを行うことで、授業の「質」が効果的に高まります。

私の場合は、専門である社会科に加え、美術科の視点、そして総合学習や道徳科の視点を加えた授業づくりを行うことで、より効果的・効率的な授業づくりを目指しています。

生徒の実態に合わせたICTの活用計画を立てよう

本稿で取りあげる授業は、中学校第2学年で実施したものです。女子8名、男子7名、計15名のクラスです。このクラスは、社会科への学習意欲が高く、教師の発問に対して活発な議論を交わしたり、協働しながら丁寧に考えをまとめ上げたりすることができます。素敵な特徴として、前向きな態度で学習に向かうことができる点が挙げられます。

例えば、授業の導入の場面で資料を提示すると、思ったことや感じたことを素直に言葉で表現することができます。また、分からないことがあったら、すぐに「先生、これって~なの? 〜いうこと?」のように教師に質問し、解決しようとする態度が見られます。

さて、今回は「近代文化の形成」について授業を行います。本時の学習は、明治時代中期から後期にかけて、諸外国の影響を受けながら生まれた文化について学びます。

今回の授業では、以下のポイントからICTを取り入れました。この記事では、導入から展開の場面を紹介します。

ICTを取り入れるポイント
(1)AirDrop*による課題把握の即時性・問題意識の喚起
(2)教科横断的な学びをするためJamboardの活用
(3)Jamboardの活用による生徒の思考過程の可視化

*AirDrop・・・iPhone、MacなどのApple社の端末同士でWiFiとBluetoothを使用してデータを共有する機能。
※Google Jamboardは2024年12月31日にサービス終了します。

AirDropを使用することで、ケーブルやインターネット接続を必要とせず、近くにいる別のAppleデバイスと直接通信することができます。

導入の資料提示で「え? 今日って社会だよね?」の驚きを演出

「ここぞ!」のときのAirDropで問題意識を喚起

まず、導入の場面について紹介します。授業を始める挨拶と共に、私は生徒に対して、
「iPadを出します。資料を送ります」
とだけ指示しました。その際に、AirDropという機能を活用します。生徒の端末に瞬時に、画像や動画を一斉に送ることができます。以前のようにプリントを印刷して配付したりする手間を省くことができます。

私は、普段の授業ではAirDropでの配付は行いません。「ここぞ」という場面でのみ、この機能を使用します。それは、「特別感」を演出したいからです。そのため、生徒は普段と違う空気感を味わいながら資料に出合います。配付する場面では、私はあえて何も言いません。ただ、送信するだけです。生徒がどんな反応をするか、いつもわくわくします。

「何が来た?」
「絵なの? 何の絵?」

生徒は自然と話を始めます。端末を介し、微妙にタイムラグが生まれながら受け取ることを通して、交流し始めます。ある生徒は、困惑した表情を見せ、こう言いました。

出典:国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/KU-a117?locale=ja

え? 今日って社会だよね? 美術の授業なの?

想像通りの反応です。この言葉を聞いて、周りの生徒もざわつき始めました。私はあえて微笑みかけて生徒の様子を見渡し、何も言いません。

私の様子を見て、生徒はますます話し始めます。ある程度盛り上がってきた様子を見て、

この絵は、『黒田清輝』さんの『湖畔』という絵です。何が描かれていますか?

と問いかけます。

ある生徒が「女性が描かれている」と発言しました。ナイスなつぶやきです。「いい発言だね」と、この発言を価値付け、さらに広げていきます。

今までの学習で女性が描かれている絵って、何があった?

と畳み掛けます。

何名かの生徒はパラパラと教科書をめくり始め、既習事項を確認します。お! 何人かは気付いたようです。元禄文化の授業で学習した「見返り美人図」が描かれているページを開いたのを見て、

「見返り美人図」と「湖畔」を並べます。何か気付くことはありましたか?

と問いかけました。ここで、一部の生徒が「描き方の変化」について、2枚の絵を比較して気付いたことをつぶやきました。このつぶやきを基に、

江戸時代と明治時代の文化を比べ、変化した点について説明しよう。

と課題提示しました。

このように、1枚の絵を、ICTを使って生徒に配付し、発問を工夫することで、生徒の知的好奇心を刺激し、主体的に学びに向かう態度を喚起することにつなげることができました。

資料を見る「視点」で美術と社会をコラボレーション

教科横断的な学びをするためのJamboardの活用

資料を比較する際には、資料を見つめるための「視点」が必要です。その際に、私が普段、美術の鑑賞の授業をするときの視点を利用します。

まずは用意していたJamboardのファイルを開きます。その後、絵を見つめる際の留意点について指示をします。

黒田清輝さんの湖畔を見つめた際の『色彩』『構図』『その他』の工夫について、付箋に入力します。美術の授業と同じように入力してください。

指示を受け、生徒は絵を見つめながら気付いた点を付箋に入力し始めました。また、意見を交わしながら付け足す生徒も現れました。このように、視点をあらかじめ示すことで、異なる見方や考え方から資料を見つめ、多様な考え方に触れることができました。

気付いた点を付箋に入力
気付いた点を付箋に入力
生徒のJamboardの例

また、美術での鑑賞の学び方を応用することで、社会科とは異なる視点から、効果的に絵画を見つめることもできます。

例えば、「色彩」と視点を絞ることで、絵画に使われている色合いに着目し、江戸時代の美人画と比較しながら描き方の変化に注目することが可能です。

また、美術、社会と同じ手法を活用して絵画を繰り返し鑑賞することで、学び方が習慣化して定着し、より高い精度で様々な情報を読み取ることが可能になります。

このように、ICTを活用することで、教科の垣根を越えた、教科横断的な学びを手軽に行うことが可能になります。

※Google Jamboardは2024年12月31日にサービス終了します。

生徒の「思考」をICTで視覚化し、即時に共有しよう

Jamboardの活用による生徒の思考過程の可視化

絵画の鑑賞を通して、生徒たちが様々な気付きを得ることができたことが、付箋の記述や意見交流の様子から確認できました。そこで、本時の課題に立ち返り、次のように生徒に指示をしました。

なぜ、絵の描き方が大きく変化したのか、その理由について予想を付箋に書いてみよう。

生徒は教師の指示を受けて、上のように付箋に記述しました。さらにこの記述を基に、授業を展開します。

絵の描き方を学んだ? お手本? その言葉に関係する資料は教科書のどこにある?

生徒は、教科書に載っている、就学率の向上に関するグラフを指さすことができました。

このように、本時の場合は、問いを視覚化することで生徒の考えを即時に共有し、共通点を見いだすことを通して、次の展開へとスムーズにつなげることが可能になりました。ICT活用による最大のメリットは「即時性」です。速やかな授業展開を促すためにも、最適であると言えるでしょう。

カリキュラム・マネジメントで一気に深まるICT活用授業

ICTの活用は、社会科のみではなかなか促進しませんし、深まりのある活用の仕方の実現は難しいです。カリキュラム・マネジメントを通して教科の垣根を越え、継続的に使用することで、より効果的な活用の推進へとつながります。

また、学びの連続性という点でも、ねらいを意識しながら使用し続けることで、教科の垣根を越えた資質・能力の向上へとつなげることができます。教科横断的な視点から、ICTの活用を推進していきましょう。


根本太一郎(ねもと・たいちろう)
福島県公立中学校社会科教諭 社会科と道徳科を中心に、授業を通した『感動』を生徒にもたせるため、日々実践研究を行っている。特に効果的なICTの活用方法の研究や、地域の歴史の研究、社会教育施設や企業訪問などを通した地域資源の教材化を中心に行っている。社会科についての若手教員の勉強会である、Social studies for Fukushima を共同運営。


<参考資料>
佐藤正寿『スペシャリスト直伝!社会科授業成功の極意』明治図書出版(2011)
宗實直樹 椎井慎太郎『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の社会授業づくり』明治図書出版(2022)
有田和正『有田和正の授業力アップ入門―授業がうまくなる十二章―』明治図書出版(2005)
川端裕介『川端裕介の中学校社会科授業 見方・考え方を働かせる発問スキル50』明治図書出版(2021)
樋口綾香『「自ら学ぶ力」を育てる GIGAスクール時代の学びのデザイン』東洋館出版社(2023)
宗實直樹『宗實直樹の社会科授業デザイン』東洋館出版社(2021)
宗實直樹『深い学びに導く社会科新発問パターン集』明治図書出版(2021)
横田富信『小学校社会 問題解決的な学習の支え方』明治図書出版(2022)
末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』ダイヤモンド社(2020)

イラスト/横井智美

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