漢字の学習が好きになる!低学年向け「漢字指導」のコツと工夫
学習する漢字の数が増え、漢字嫌いの子も増え始める二学期。低学年の子供たちが漢字の面白さに気付き、漢字の学習が大好きになる指導法をレクチャーします!
執筆/神奈川県公立小学校教諭・土居正博
目次
漢字学習が好きな子を増やすにには
基本的には低学年(とりわけ一年生)は、学習することが好きです。日々新しいことを学び、自分の世界が広がるのを感じられるからです。それでも、低学年のうちから漢字が嫌いという子はいます。
こういう子がなぜ漢字が嫌いかというと、それは「なかなか読めたり、書けたりするようにならない」からです。先生から言われた通りに漢字ノートに練習をがんばってしているのになかなか読めるようにならない、書けるようにならない…そういう経験を重ねてしまうと、本来学習が好きな子でも漢字嫌いになってしまいます。
そもそも国語は、算数や体育などの他教科に比べると、「できるようになった!」という達成感をもたせにくい教科です。
例えば「読むこと」では、授業を受ける前から、文学や説明文を全く読めない、という子はほとんどいないはずです。そこから、文学であれば登場人物の心情の読み方などを、説明文であれば段落相互の関係などを学びますが、子供の変化は「読める→よりよく読める」というものです。子供は自分がどれくらいできるようになったのかを自覚しにくいのです。
一方、算数であれば、子供は計算方法などを「できない→できる」という変化をするので、成長を自覚しやすく達成感を得やすいのです。
そんな、達成感を得にくい国語において、漢字指導は、子供自身が、自分がどれくらいできるようになったかが自覚しやすく、達成感を得やすい領域です。漢字を読めるようになったり、書けるようになったりすれば、「できた!」と達成感を得られるからです。
ですから、漢字学習が好きな子を増やし、漢字嫌いな子を減らしていくには、まずはなんといっても、子供たちの漢字の読み書きの力を高めることです。そうすれば、自然と漢字学習を好きな子が増えます。そこで本稿では、子供たちにしっかり漢字の力が付く指導法をご紹介します。
何から手を付ければよいか
漢字が好きな子を増やすには、子供が漢字を読めたり、書けたりするようにすることが重要だと述べました。簡単に言えば、子供たちの漢字力を高めてしまえばよいのです。といっても、いきなり全員の漢字の「書く」力を高めることはできません。それでは、最初に何から手を打っていけばよいでしょうか。
それは、「読み」です。
とにかく、全員が漢字をしっかり読めるようにしていきましょう。それが、子供たちの漢字力を高める近道です。漢字が苦手な子を思い浮かべてみてください。おそらく、その子は、漢字を書くことはおろか、読むことがほとんどできていないはずです。私のクラスではそうでした。
子供たちの漢字テストの点数をとにかく上げたいと思って、さまざまな手を打っていたのですが、なかなか成果は表れませんでした。そこで漢字が苦手な子をよく見てみると、そもそも読めていないのでした。
それから、漢字を読めるようになる指導を取り入れました。そのことは後で紹介します。そうすると、苦手な子たちが大きく変わりました。漢字を読めるようになり、自信を付けました。そうすると、徐々にではありますが、漢字を書けるようになっていきました。
漢字を読む力を付ける学習の紹介の前に、簡単に「漢字力」に対する私なりの考えを紹介しておきたいと思います。というのも、教師が漠然と「漢字力」として捉えていると、子供たちに効果的な指導をしていくことはできないからです。
私は、漢字力を次のように捉えています。
〈漢字習得のステップ〉
①見慣れる
②読める
③大体の形が分かり、書ける
④とめ、はね、はらいなど正確な形が分かり、書ける
⑤さまざまな使い方が分かる
⑥自分が作文を書くときなどに自在に使いこなせる
簡単に言うと、漢字力とは「読字力(読む力)」「書字力(書く力)」「運用力(使う力)」の三つの要素があります。
私の考える「漢字習得のステップ」では、それらをさらに細分化して捉えています。漢字が苦手な子にとっては、新出漢字は読めもしなければ見慣れてもいない字です。それをすぐに書けるようになれ、というのは無理な話です。学習指導要領にも、当該学年の漢字は読めるように、「書きの指導は2学年間をかけて」という旨の記載があります。それだけ、書きの習得のほうが難しいということです。
ですから、まずは子供たち全員が読みを完璧にできるようにしていきましょう。
漢字の読みの力を付ける「漢字ドリル音読」
子供たちの漢字を読む力を付けるための学習活動としておすすめなのは、「漢字ドリル音読」です。
「漢字ドリル音読」のやり方は非常に単純で、漢字ドリルの新出漢字の読みの箇所を1冊丸ごと音読するだけです。小テストのページなどは飛ばします。ポイントは、「なるべく素早く、はっきり声を出して読む」ことです。ドリル1冊を読み終えたら、タイム表にタイムを記録するようにします。
漢字ドリルを配付してから、これをしばらく(1か月ほど)行うことです。私の経験上、1か月ほど続けると、ほとんどの子供が漢字ドリル1冊分の新出漢字の読みを習得できます。
活動を繰り返していくと、どんどんタイムが上がっていき、子供は達成感を味わうことができます。また、はっきり声を出させ、読んでいる自分の声を聞くことで、読みをより覚えられるようになっていきます。
この「漢字ドリル音読」のよさは、活動が単純で、誰でもできることです。私は、この活動を一年生から六年生まで、全ての学年で実践したことがありますが、全学年で取り組むことができました。どの学年も、子供たちは熱中していました。
しかもこの活動に継続して取り組めば、子供たちは、書く学習に入る前から漢字を見慣れたり、読めるようになったりします。先に挙げた「漢字習得のステップ」で言えば、「①見慣れる」「②読める」をクリアした状態で書く学習に入っていけるのです。これは、漢字が苦手な子からすれば非常に大きな利点です。つまり、書きの習得にもつながっていくということです。
また、「漢字ドリル音読」をしばらく続けた後は、「読みテスト」を行うとよいでしょう。おそらく多くの子が、ほとんどの漢字の読みを習得できていることを自覚でき、苦手な子も漢字への苦手意識を払拭できます。
漢字ドリルの進め方をしっかり指導する
全国ほぼ全ての教室で使われているのが「漢字ドリル(スキル)」です。言うまでもなく、漢字ドリル指導は、漢字指導の中核です。漢字ドリルにやる気をもってしっかり取り組ませれば、漢字ノートにたくさん練習しなくても、多くの子は書けるようになるのです。
しかし、漢字ドリル指導は、教師によって千差万別で、効果が出ていないにもかかわらず、なかなか指導改善されていない実情もあります。今年度こそ、漢字ドリル指導を改善し、漢字指導を変革していきませんか。
はじめは、漢字ドリルを配付するとともに、次の内容を書き込ませるかコピーして貼らせ、きっちり指導します。
〈漢字ドリルの進め方〉(新出漢字)
①音読3回(読み、文例、熟語)。
②書き順の声を出しながら、「大きな漢字」を指なぞり3回(指なぞり)。
③書き順の声を出しながら、「1、1・2、1・2・3、…」と1画目に戻りながら「大きな漢字」を指なぞり3回(書き順練習指なぞり)。
④書き順の声を出しながら、空書き3回(空書き)。
⑤1ミリもはみ出さずに鉛筆でなぞる(鉛筆なぞり)。
⑥ていねいに鉛筆で全てのマスを埋める(鉛筆書き)。
⑦1ページできたら、教師に見せ、チェックを受ける。
この「進め方」を繰り返し指導し、子供が自分一人で学習を進められるようにします。そして、この「進め方」システムのポイントは次の4点です。
・ 教師が1ページ1ページ「厳しく」字と書き順をチェックすること。
・子供たちは「自分のペース」で進めてよいこと。
・「期限」を設けること。早く終わった子には、次なる課題を用意すること。
・教師から合格をもらったら、次のページに進めること。
子供が「自分のペース」でやる気をもって取り組むというところがカギです。この漢字指導システムについて、さらに詳しく知りたい方は、本稿末の参考文献をご覧ください。
漢字小テストに他用例を書き込ませる
これまで漢字ドリル音読、漢字ドリルの進め方について紹介してきました。これらは、それぞれ「読字力(読む力)」「書字力(書く力)」を高める取り組みです。いずれも、ほとんどの学校で用いられているであろう漢字ドリルを使用した方法を取り上げました。
最後に、同じくどの学校でも行っているであろう漢字小テストを活用して、子供たちの「運用力(使う力)」を高める取組をご紹介したいと思います。
小テストで満点を連発しているのに、抜き打ち50問テストではかなり点数が落ちる子や、作文などを書かせると全然漢字を使えていない子っていますよね。
そのような子たちは、漢字の「運用力」が足りないのです。漢字のさまざまな使い方を知らないから、抜き打ちで出される問題では漢字を書けなかったり、作文などで実際に使うことができなかったりするのです。漢字学習の最終的な目標は、子供たちが漢字を使いこなせるようになることです。テストで満点が取れるようにすることなどではありません。
ですから、教師が「漢字習得のステップ」を頭に入れ、「運用力」まで伸ばす取組を行っていくべきなのです。そこで、漢字小テストに一工夫加えましょう。次のようなシステムです。
〈他用例書き込み漢字小テストの進め方〉
①漢字小テストの問題を普段通りに解く。
②解き終わった子から、出題されている漢字の他用例を空いているスペースに書き込む。
※例えば、「字をかく」と出題されていれば、解答欄には「書く」と書き、その後空いているスペースに「書るい、書しゃ、教科書…」などと書き込む。
③ 自分が書ける他用例を書き尽くした子からテストを提出する。
④教師は解答欄を丸付けし、書き込まれた他用例を数える。
※100点だった場合は書き込まれた他用例の数だけボーナスポイントを「+〇点」と書き込んで子供に返す。
このようなシステムで漢字小テストを行っていくと、子供は小テストに空欄を埋めて満足するのではなく、さまざまな使い方に目を向け、たくさん言葉を覚えようとしていきます。
すると、家庭学習で行う、漢字小テストのための練習も下の写真のように変わっていきます。最初は、漢字を単純に何度も書くだけだったものが、大人に使い方を聞いたり、自分で辞書を引いたりして、使い方をたくさん書き、覚えるようになっていくのです。
わずか1か月後…
参考文献/
土居正博著『クラス全員が熱心に取り組む!漢字指導法』(明治図書出版)
土居正博著『イラストでよくわかる!漢字指導の新常識』(学陽書房)
イラスト/高橋正輝
『教育技術 小一小二』2021年12/1月号より