NIEを日常化! 新聞で授業がどんどん面白くなる

特集
中学校の記事 まとめました

各教科の学習指導要領解説には、国語科や社会科で新聞活用に関わる内容について明記されていて、教科書にも単元のはじめから新聞記事を活用することが示されています。新聞を活用することで、学習に深まりが生まれます。学習が深まることとは、子どもたちの意欲・関心を高める授業づくりをすることにもつながっています。

今回は、学習指導要領に明記されている社会科でのNIE(Newspaper in Education。新聞を教材として活用する取組)の実践例を2例取りあげ、子どもたちが意欲的に課題意識をもてる工夫を紹介します。

執筆/北海道教育大学附属釧路義務教育学校教諭・澤田康介

イラストAC

新聞、気軽に使ってみよう!

現在、各家庭では新聞を購読していない家庭も多くなり、新聞が遠い存在になっているかと思います。私が担任をしている子どもたちに聞いても、3分の1程度の家庭でしか購読していないことが分かりました。

しかし、あまりきちんと目を通したことがないからこそ、授業の中で新聞を扱うと、その新鮮さから目を輝かせて活動に取り組む姿が見られます。また、話題になったニュース、世の中を騒がせたニュースであることも、子どもたちに切実性をもたせ、関心を高めることにつながっていると感じます。

子どもたちが日々の授業を学びがいのあるものにしていくために、どのように新聞の記事を活用できるのかについて、本稿で提起していきます。さらに、新聞を通して、学習内容を日常的な活動とどのように関連づけていくことができるのかについても提案します。

新聞を使ってさらに授業が面白くなる!

①小学校第5学年社会科「わが国の国土の様子」

使用記事
北海道新聞「ロシアはとても大きな国なのに、何で北方領土を奪ったんですか?」(2020年7月5日付)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/437376

板書
板書

本時のねらいは「北方領土の地理的な特徴や自然環境、暮らしなどについて調べまとめることを通して、平和の重要性を踏まえ、北方領土問題の解決策を説明できる。」ことです。

導入段階では、日本の領土問題となっている場所、北方領土の面積を確認することで、北方領土の空間的な広がりのイメージをもたせました。展開では、北方領土の自然環境や暮らしを調べることで、北方領土の地域的な特色を見いだしました。また、領土問題となった経緯について調べることで、歴史的な見方を働かせる場面を位置付けました。まとめでは、本時の問いに立ち戻り、ロシアとの関わりを踏まえ、北方領土が領土問題となっている理由について説明する場面を設けました。

本時での新聞記事活用のポイントは、「本時の問いを生むきっかけ」「調べ学習」「子どもの考えを深める手立て」として新聞記事を活用したことです。

以下のような場面で新聞記事を活用することで、子どもたちは、より根拠をもって発言する姿が見られました。

・導入
新聞の見出しにもなっている「ロシアはとても大きな国なのに、何で北方領土を奪ったのですか?」という小学生の疑問を子どもたちに投げかけ、本時の問いへつなげた。
・展開
本時の問いを解決するために、その理由を調べる手段として新聞記事を活用した。
・終末、振り返り
記事の中で触れられていた「平和的に解決するための方策」の内容を踏まえた上で、領土問題を解決するための方法を、振り返りの中で子どもたちに記述させる時間を設けた。

新聞記事は教科書よりも情報量が多いため、指導者が使用する意図を明確にする必要があります。本時のように、教科書の内容+αで歴史的背景などを読み取らせたい場合には、紙面を限定して提示することで子どもの思考を深める一手になると考えます。

本時の振り返りの記述(抜粋)
本時の振り返りの記述(抜粋)

②中学校第1学年社会科「さまざまな宗教と人々の暮らし」

使用記事
朝日新聞「豚の戒律『広がる波紋』(時時刻刻)」(2001年1月)

宗教の学習は、多くの生徒にとって遠い存在であり、ピンとこないケースも多いです。また、ともすれば戒律や習慣のみを伝えることで偏見につながる恐れもあります。そこで、新聞記事の活用を通して、子どもたちにとって身近な話題から核心に迫っていくことで、楽しみながらやりがいのある授業を目指しました。

本時のねらいは「宗教の特徴について、その生活が営まれる場所の自然及び社会的条件などに着目して、説明することができる」です。単元後半の一単位時間で新聞の活用を行いました。導入段階で、味の素の原材料が問題となりインドネシア現地法人社長が逮捕された「味の素事件」*を解説した記事を活用し、本時の問いへとつなげていきました。

*味の素事件……「味の素」を巡って、2001年にインドネシアで騒動になった事件。「味の素」の原材料に、イスラム教では食べることを禁じられている豚肉が使用されているという噂が流れた。原材料には豚由来のものは使われてはいないが、製造の過程で豚の酵素を発酵の触媒に使用していたことで、インドネシア現地法人の社長が逮捕された。

本時の問いを見いだしていく際に、世界の宗教について簡単に確認したのちに、「イスラム教に関して、こんなことが話題になったんだけど……」と話し、生徒に新聞記事を提示しました。記事の見出しを確認すると、生徒たちからは「味の素は昨日もお母さんが使っていた」「私もついこの前スーパーで見たよ」など、多くのつぶやきが聞こえました。そうしたつぶやきに対して、「◯◯さんは何が気になったのかな?」などと問い返しながら、本時の問いである「なぜ日本では問題にならない味の素が、インドネシアでは問題になったのだろう?」へとつなげていきました。

展開では、生徒たちが主体的に問いを見いだしたことから、進んで問いを解決しようとする姿が見られました。解決していく過程で、既習事項である「乾燥地帯では穀物が育ちにくい」という学習内容と宗教を関連させることで、地理的な見方・考え方を働かせる姿が見られました。

記事を活用することで、宗教によって価値観が違うことを具体的に学び、日本では広く認知されている味の素がきっかけで大きな事件になったことから、生徒の「え!?」という反応を引き出し、意欲的に追究させることができました。一見難しい学習内容において、新聞記事にもなった身近な対象を取り上げることで、切実性のある問いを生み出すことにつなげることができました。

「無理のない範囲」で「できるところから」新聞記事を活用しよう!

最初に述べたように、新聞を購読していない家庭がクラスの半分以上あり、新聞そのものを目にする機会が著しく減少している状況があります。そのため、学校生活の中で、いつでも新聞を読むことができる環境を整えていくことが大切であると考えます。

私の学級では、子どもたちが新聞を常に見られるように、教室にも新聞コーナーを設置しました。そこには単に新聞を置いておくのではなく、授業や学級活動に関係する記事や家庭学習に関する記事などを掲示しています。これで、子どもたちの頻繁に記事を読む姿が見られるようになりました。

どんな教育活動でも、大切になるのは目的です。今回のテーマであるNIEにおいても、新聞を活用することが目的になってしまっては、子どもたちにとって「やらされている感」が生じることにもつながってしまいます。子どもたちの学びをさらに深め、日常生活をさらに彩っていくきっかけの1つとして、新聞を活用する場面を考えてみるとよいと思います。


澤田康介(さわだ・こうすけ)
北海道教育大学附属釧路義務教育学校教諭。北海道当麻町生まれ。小学校・中学校での指導経験をもとに、地域教材開発や「人」に着目した授業づくりの研究を進めている。Facebook「社会科授業づくり倶楽部」代表。

【参考文献】
・河原和之「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学地理」 大人もハマる授業ネタ」(明治図書出版)
・川端裕介「川端裕介の中学校社会科授業 見方・考え方を働かせる課題設定&評価スキル60」(明治図書出版)
・宗實直樹「深い学びに導く社会科新発問パターン集」(明治図書出版)

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