ICTを活用した中3社会科「消費生活と市場経済」指導アイデア

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ICTを活用した中学社会科の授業アイデア第4弾です。中学3年社会科の公民的分野の授業実践を例に挙げて、効果的なICTの活用方法を考えていきます。「自立した消費者」を育てるために、中学の教科担任ならではの探究的な学習、課題解決的な学習に取り組んでいきましょう。

執筆/福島県公立中学校社会科教諭・根本太一郎

ICTを活用した中3社会科「消費生活と市場経済」指導アイデア
タイトル
写真/写真AC

題材 中学校3年社会科 公民的分野1節 消費生活と市場経済 1私たちの消費生活

自立した消費者をめざすために

最近、どんな買い物をしましたか?

生徒へのこの問いかけから、本時は始まります。

私たちは、何気なく日常生活を過ごしていく中で、「消費」「契約」など経済の働きとは切っても切り離せない生活を送っています。

例えば、通勤で電車に乗る際には、ICカードを用いて電車の切符を購入しています。また、車内に流れる映像広告をもとに、商品を購入することを検討したりします。私はよく車内にあるビジネス書に関する本を手にとってしまいます。

このような具体的な事例をもとに、本時ではパフォーマンス課題の解決に取り組むことを通して、金融の働きや経済の仕組みについての概念を獲得させたいです。また、この概念を活用し、的確に課題解決に向けて判断し、その判断に基づいて主体的に行動できる「自立した消費者」をめざすことをねらいに、この授業を計画しました。

社会科と家庭科の垣根をこえて〜カリキュラムマネジメントの必要性とは〜

前提として、金融や経済の働きについて、具体的に把握するには、社会科だけでなく、家庭科、特別活動などとも関連づける必要があります。

例えば、社会科の視点では、消費生活を取り巻く経済の視点を中心に扱います。家庭科になると、支出の内訳や貯蓄の方法など、具体的な家計の管理の仕方について、特別活動の視点では、自己のキャリア形成など、よりよい生き方やあり方を見つめ直すことを念頭においた指導を行います。

特に社会の視点からは、指導の留意点としてより構成を練り上げます。中学校学習指導要領(平成29年告示)社会科編より、「対立と合意」「効率と公正」「分業と交換」「希少性」に着目した授業づくりを図り、合意形成や社会参画の視点を踏まえ、金融や経済に関する課題解決を目指し、多面的・多角的に考察・構想できるようにします。

そのためにも、家計や消費生活、契約や消費者トラブル、流通の仕組みなどの私たちを取り巻く様々な事象について具体例を交えて学ぶことを通して、自立した消費者としてどのように主体的に社会に関わっていくのかを考えます。具体的に、消費生活における家計管理や消費者トラブルの対応策、法整備への理解など、自立した生活に向けての必要な資質・能力を養っていきたいと思います。

社会×家庭科 教科の垣根をこえた横断的な学びによって、「自立した消費者」のために必要な資質・能力を育むことができる

私たちを取り巻く「金融」「経済」の働きとは?

さて、本題に移ります。生徒たちにここ最近の生活の中で購入したものを自由に発表してもらいます。干し芋、アイス、クリスマスツリー、服など…。バラエティに富んだ意見が出ました。

一通り生徒に発表してもらった後、私から、「何と交換してこれらを手に入れますか?」と問います。生徒は当たり前のように「お金」と回答します。想定した通りです。そこで、ある生徒が、「お金と等価交換している」ということに気づき、発言しました。素晴らしいです。この発言をもとに、話を広げ、展開していきます。「等価交換ってどういうこと? 説明してくれる?」と私が問いかけたところ、「商品とお金を同じ価値で交換すること」と説明してくれました。商品自体に「価値」があり、貨幣を媒介として交換することによって成り立っていることに気づいていることが分かります。

生徒から出た発言をもとに、「経済」の働きが私たちの生活のありとあらゆる部分と密接に関わっていることを生徒に説明します。その後、「私たちの生活と経済の関わりとは」と本時の課題を提示し、学びへの見通しを持たせます。「経済」という言葉を聞いても、日常生活との距離があります。このように、生徒の日常生活など、身近な事象から広げることで、経済という大きな概念を身近に感じ、自分ごととして課題に向き合うことにつながります。教師がねらう核心の部分へと段階を踏んで理解を促していくことが必要です。

さて、この後は、本時の中でも、特に力を入れた部分である、「希少性」と「家計」についての指導の手立てについてご紹介したいと思います。お楽しみください。

ICTを使う生徒
身の周りの消費生活について話し合う様子

「希少性」とは?

「希少性」と聞いて何をイメージしますか?

「めずらしいもの? なかなか手に入らないもの?」などという言葉が生徒から生まれます。本校で扱っている教科書の記述によると、「求める量に対して財やサービスの量が不足した状態」とあります。正直、おおまかな様子をイメージしても、この記述だけでは、なかなか日常の場面と結びつけることができません。「希少性」という専門的な用語だからこそ、噛み砕いて誰もが分かるような理解の仕方を目指すことが大切です。

そこで私は次のような例えを用い、具体的に概念として把握することを図りました。

ダイヤモンドとミネラルウォーターって、どちらの方が一般的に希少性が高いですか?

生徒は口々に、「ダイヤモンドだ!」と答えます。当然だという様子ですぐに答えます。そこで私は、このように切り返します。

今みなさんは砂漠にいて、命の危険がある状態です。この場合のミネラルウォーターの希少性は、どのように変化しますか? 話し合ってみましょう

私が与えた発問によって、生徒たちは表情を変え、考え込みました。生徒は自分がこの状況に置かれたと仮定して、話合いを始めます。発問の工夫により、物事に対する視点を変えることで、新たな気付きが生まれます。

ここで私はある生徒を指名し、電子黒板に不等号を書き入れさせ、その理由を説明してもらいました。置かれた状況によって希少性が変化することを具体的に想起することで、理解できたことがうかがえます。このように、「希少性」という抽象度が高い専門的な語句こそ、生徒の身近な事象に関連づけ、思考を深める場面を設定することが大切だと、私は思います。

電子黒板に投影
電子黒板に投影し、生徒に説明してもらい、「希少性」について概念を把握する

家計改善アイデアを募集します!

ここまで、身の周りの金融の働きや経済の仕組について、「財」や「サービス」、「希少性」をもとに大まかに把握することを目指しました。

ここで、パフォーマンス課題に挑戦します。

全ての生徒が将来、「自立した消費者」として適切に家計管理をしてほしいと私は思います。家庭科との関連を図りながら、次のように生徒へ資料を提示し、課題に向き合うように指示します。

これからみなさんに、この男性の家計改善を行ってもらいます。

画面に映ったのは27歳当時の私の写真です。生徒は思わぬ展開に笑いを堪えきれない様子です。失笑する生徒も見られます。

「誰ですか? そうです、私です。27歳当時の私です。このときの私は家計管理がうまくできず、なかなか給料をやりくりすることができませんでした。そんな私に対して、条件に沿った形で家計の改善の提案をしてください。」

生徒には、共有ドライブ内にあるGoogleスプレッドシートに、具体的にどのような改善をすべきか、項目ごとに数字を改善することを促します。初めての体験にワクワクする様子が感じられます。アプリの特性上、共同編集も可能ですし、関数を入れているので、すぐに入力した数値が反映されます。生徒たちは、示したパフォーマンス課題をGoogleドライブ内のフォルダを通して繰り返し確認しながら、取り組んでいました。

iPadを用いて編集する様子
iPadを用いてGoogleスプレッドシートを編集する様子
PF課題シート
パフォーマンス課題の詳細

生徒たちは、私に質問しながら入力を進めていきます。「住居費を抑えるにはどうしたらいいですか?」「先生、もっと節約して食費を減らせないの?」「通信費って何のお金ですか?」「交際費って…? 彼女いる設定ですか?」など、想像力を働かせながら尋ねてきます。このように、生徒が思考を働かせながら、目の前の課題に向き合うことで「生きた学び」につながると私は信じています。さらには、これから人生で経験する家計のやりくりを擬似体験しているとも言えます。

スプレッドシートによる編集画面
実際のスプレッドシートによる編集画面

実感を伴った学びを目指して

金融の働きや経済の仕組みについて、これまでの経験では指導に苦手感を持っていました。用語として覚えることが多い、語句一つ一つが難しい。こういった理由でした。

しかし、このように、切り口を生徒の身近な生活と関連づけたり、擬似体験したりする場を持たせることで、難しい概念がぐっと近く迫ってきます。これからも、「自立した消費者」として社会を生き抜くための力を育むためにも、工夫を凝らした授業を展開したいです。


根本太一郎

根本太一郎(ねもと・たいちろう)
福島県公立中学校社会科教諭 社会科と道徳科を中心に、授業を通した『感動』を生徒にもたせるため、日々実践研究を行っている。特に効果的なICTの活用方法の研究や、地域の歴史の研究、社会教育施設や企業訪問などを通した地域資源の教材化を中心に行っている。社会科についての若手教員の勉強会である、Social studies for Fukushima を共同運営。


<参考資料>
文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』東山書房(2020)
文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会科編』東洋館出版社(2020)
文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 技術・家庭編』開隆堂出版(2020)
OECD『ラーニングコンパス(学びの羅針盤)2030』
ティモシー・テイラー著 高橋璃子訳 池上彰監修『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編』かんき出版(2013)
ヤニス・バルファキス著 関美和訳『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』ダイヤモンド社(2019)
樋口綾香『「自ら学ぶ力」を育てる GIGAスクール時代の学びのデザイン』東洋館出版社(2023)
宗實直樹『深い学びに導く社会科新発問パターン集』明治図書出版(2021)
横田富信『小学校社会 問題解決的な学習の支え方』明治図書出版(2022)

イラスト/横井智美

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