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「日々の関わり」を重視する 新しい「生徒指導」の形 #1 発達支持的生徒指導―すべては「日常の質」で決まる―

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3回連載「新しい生徒指導の形」バナー

令和4年に改訂された「生徒指導提要」を踏まえ、「問題対応」を軸としていた従来の生徒指導を「日常の関わり」として捉え直し、学校現場でどう実践していくかについて、具体的に提案する3回連載です。 中学校の先生方のみならず、小学校の先生方にとっても必読の内容です。

執筆/京都府立洛水高等学校・𠮷田拓海

はじめに

授業の中で、同じ問いかけをしているにもかかわらず、すぐに手が挙がるクラスと、ほとんど反応が返ってこないクラスがあります。こうした違いに直面したとき、「なぜだろう」と考えさせられることは少なくありません。問いの難易度や説明の仕方を工夫しても、その差が大きく変わらない場面もあり、単に指導方法の問題だけでは捉えきれないものを感じることもあります。

その背景には、生徒の能力差だけでは説明できない、「教室の空気」や「関係性」の違いがあるのではないかと考えています。日々の何気ない声かけや関わりの積み重ねが、生徒の安心感や参加のしやすさに影響しているように思われます。例えば、「間違えても大丈夫だ」と感じられる雰囲気があるかどうかによって、生徒の反応は大きく変わっていくのではないでしょうか。

私自身、小学校の先生方の実践に触れる中で、こうした「日常の関わり」を丁寧に積み重ねていく視点の重要性を改めて感じるようになりました。小学校の教室で大切にされている関わりの在り方は、中学校や高等学校においても、そのままではなくとも、形を変えながら活かすことができると感じています。校種は異なっても、子どもが安心して学べる環境をつくるという点には共通するものがあるように思います。

本連載では、「日常の関わり」に着目しながら、生徒指導を捉え直していきます。問題が起きたときの対応にとどまらず、日々の授業や関わりの中でどのように子どもを支えていくことができるのかを考えていきます。
第1回では、そのすべての土台となる「発達支持的生徒指導」について考えていきます。

1.なぜクラスの安定に差が出るのか

ある授業でのことです。簡単な問いかけをした際、すぐに手が挙がるクラスと、ほとんど手が挙がらないクラスがありました。問いの難易度は同じであるにもかかわらず、反応に大きな差が見られたのです。教師としては同じように問いかけているつもりでも、その場に流れる空気や生徒の反応には明らかな違いがあり、「なぜこの差が生まれるのだろうか」と考えさせられました。

手が挙がらないクラスの生徒に後で話を聞くと、「間違えるのが怖い」「正解かどうか自信がない」といった声が多く聞かれました。さらに話を聞いていくと、「前に発言したときに反応がなくて不安だった」「間違えたときに空気が止まった気がした」といった経験を語る生徒もいました。発言しないという行動の背景には、その場だけではない過去の経験や積み重ねがあることが見えてきます。

一方で、手が挙がるクラスでは、「とりあえず言ってみる」「違っても大丈夫」という雰囲気が共有されていました。実際の授業場面を振り返ってみると、誤答が出た際に教師がすぐに正誤を判断するのではなく、「いいところに目を向けているね」「そこからどう考えたの?」とつなげている場面が多く見られました。その結果、一つの発言が次の発言につながり、教室全体に安心して関われる空気が生まれているようでした。

同じ問いに対する反応の違いは、能力の差ではなく、「日常の関わりの積み重ね」によって生まれているのではないかと考えています。授業の中でのやり取りや、教師のちょっとした声かけ、発言に対する受け止め方といった一つひとつの関わりが積み重なり、それが教室の雰囲気として表れてくるのではないでしょうか。

画像1「クラスの反応の違いはどこから生まれるか」

生徒指導というと、いじめ対応や問題行動への指導など、「問題が起きたときの対応」を思い浮かべがちです。しかし、実際には問題が起きてからの対応だけでクラスを安定させることには限界があるのではないでしょうか。目の前で起きた出来事に対して適切に対応することはもちろん重要ですが、それだけで根本的な解決につながるとは限りません。

今回取り上げている「クラスの反応の違い」そのものとは少し異なりますが、生徒指導の場面において、山口県の中村健一先生は、トラブルはその瞬間に発生するものではなく、日常の中で少しずつ形づくられていくという趣旨のことを述べられています。
この考え方に触れたとき、目の前の出来事だけを切り取って捉えるのではなく、その背景にある日常の関わりに目を向ける必要性を強く感じました。

どれだけ丁寧に対応しても、日常の関係性や雰囲気が整っていなければ、同じような問題が繰り返されてしまうことがあります。例えば、注意や指導によってその場は落ち着いたとしても、生徒同士や教師との間に安心感や信頼関係が十分に育っていなければ、別の場面で同様の状況が見られます。

一方で、日常の中で安心して過ごせる環境が整っているクラスでは、生徒は発言や挑戦への不安が少なくなり、自然と反応も生まれやすくなっていきます。クラスの雰囲気や生徒の反応も、特別な一場面で決まるのではなく、日々の関わりの積み重ねの中で少しずつ形づくられていくように感じています。

このように考えると、日常の関わりの中でどのような経験を積み重ねているかが、生徒の目に見える行動の背景にあることが見えてきます。
生徒指導の場面において、中村健一先生は、トラブルについて「万能薬はない」という趣旨のことを述べられています。この視点は、日常の授業場面にも通じる部分があるはずです。すべてのクラスに当てはまる特別な方法があるわけではなく、だからこそ、日常の関わりの積み重ねによって土台を整えていくことが重要になると考えています。
特定の場面だけに焦点を当てるのではなく、日々の関わりそのものを見直していくことが、安心して反応できる教室づくりにつながっていくのです。

一方で、「分からない」と言っても大丈夫だと感じられる教室では、生徒は安心して発言し、小さなつまずきをその場で解消することができます。こうした経験が積み重なることで、「関わっても大丈夫」「参加してもよい」という感覚が育っていくのではないでしょうか。

こうした状況は、中学校に限らず、小学校や高等学校においても、形を変えながら見られるはずです。発達段階や教科の特性は異なっていても、「安心して関われるかどうか」という点は共通しているからです。

つまり、クラスの安定は特別な指導によって生まれるのではなく、日常の関わりの質によって支えられているのです。そして、その日常の関わりをどのように積み重ねていくかが、教室づくりの出発点になるのではないかと考えています。

2.発達支持的生徒指導とは何か

こうした日常の関わりを土台とする考え方が「発達支持的生徒指導」です。
これは、特定の課題を抱えた生徒だけを対象とするものではなく、すべての生徒に対して日常の中で成長を支えていく関わりを行うという考え方です。目立った問題が見られない生徒に対しても、安心して過ごせる環境を整え、挑戦できる機会を保障することが含まれます。言い換えれば、「問題が起きていない状態をどう支えるか」という視点が重要になるのです。

特徴的なのは、この指導が「見えにくい」という点です。叱る場面や指導する場面は周囲からも分かりやすく、意識されやすいものです。しかし、安心できる雰囲気をつくることや、何気ない声かけ、日々の小さな関わりは目に見えにくく、評価されにくい部分でもあります。そのため、意識しなければ見過ごされてしまうこともあるのではないでしょうか。

しかし、この「見えにくい支援」こそが、その後のすべての土台になるのではないかと考えています。日常の中で、安心して発言できるか、間違いを受け入れてもらえるか、自分の存在が認められているかといった感覚は、一つひとつの関わりの積み重ねによって少しずつ育っていきます。そして、その感覚が学習への参加や人間関係の築き方に影響していくように思われます。

例えば、授業中に発言をためらう生徒がいたとしても、それは単に知識や理解の問題だけではなく、「発言しても大丈夫だと感じられているかどうか」が関係しているはずです。このように考えると、日常の関わりの中でどのような経験を積み重ねているかが、目に見える行動の背景にあることが見えてきます。

高校の現場でも、「指示を出しても動かない」「反応が薄い」といった状況に直面することがありますが、その背景に、生徒がこれまでの学校生活の中で積み重ねてきた経験がある場合も少なくありません。こうした視点は、中学校や小学校においても、形を変えながら当てはまるのではないでしょうか。

発達支持的生徒指導は、特別な時間に行うものではなく、日常の中で行われている関わりそのものです。その一つひとつをどのように積み重ねていくかが、子どもたちの成長を支える基盤になっていくのではないかと考えています。

画像2「日常の質がすべての土台になる」

3.日常の関わりを見直す

では、日常の関わりをどのように見直せばよいのでしょうか。特に意識しているのが「授業冒頭」と「失敗を許容する環境づくりです。

(1)授業冒頭の空気づくり

授業の最初の数分間は、その授業の時間全体の雰囲気を大きく左右すると感じています。
例えば、教室に入ってすぐに指示を出すのではなく、

  • 目を合わせてうなずく
  • 名前を呼んで短く声をかける
  • 落ち着いたトーンで話し始める

といった関わりを意識するだけでも、生徒の受け取り方は少しずつ変わっていくように思います。

具体的には、授業開始時に「今日はどう?」と一言添えることがあります。大きな反応が返ってくるわけではありませんが、続けていく中で、「先生が関わろうとしてくれている」という感覚が少しずつ蓄積されていくのではないかと考えています。

画像3「授業冒頭の関わりの工夫」

(2)失敗できる環境の設計

多くの生徒は、間違えることに対して不安を持っています。特に思春期以降は、「恥ずかしい」という感情が強く働きます。

そこで大切にしたいのが、間違いの扱い方です。
実践として、生徒が誤答した際に、
「惜しいね。どこまで考えた?」
と返すことで、思考の過程に焦点を当てるようにしています。

また、
「今の考え、他の人はどう思う?」
とつなぐことで、一つの誤答を全体の学びに変えていくこともできます。

このような関わりを通して、「間違えても大丈夫」という感覚が少しずつ育っていくのだろうと考えています。

画像4「

4.具体的な実践例:授業と声かけ

(1)全員参加を保障する工夫

発言できる生徒だけが参加する授業では、一部の生徒が取り残されてしまうこともあります。
そこで、まず全員に短く書かせ、その後ペアで共有し、最後に全体で発言するという流れをつくることで、「いきなり全体で発言する」ハードルを下げることができます。

例えば、「この問いについて一言でいいから書いてみよう」と声をかけ、30秒ほど考える時間を取るだけでも、生徒は自分なりの考えを持つことができます。その後、「隣の人にだけ伝えてみて」とつなぐことで、全体発言への心理的負担が軽減される場面も見られます。こうした段階を踏むことで、「話してもよい」という感覚が少しずつ育っていくはずです。

(2)「分からない」を守る

「分からない」が言えない教室では、学びは止まってしまいます。そこで、「どこが難しかった?」と問い返すことで、“分からないことを言語化する場”をつくることを意識しています。

例えば、生徒が手を止めているときに、「どこで止まった?」と声をかけると、「ここまでは分かるけど、その先が分からない」といった反応が返ってくることがあります。その言葉を受けて、「同じところで悩んでいる人、多いよ」と伝えることで、不安がやわらぐ場面もあります。また、「分からないって言えたのがいいね」と認めることで、次の行動につながることもあります。

画像5「参加のハードルを下げる工夫」

(3)承認の質を高める

承認は「量」よりも「質」が大切になるのではないかと感じています。単に「いいね」「すごい」と伝えるだけでなく、「どこがよかったのか」を具体的に示すことが重要です。

例えば、
「いいね」→「この考え方がいいね」
「すごい」→「前より整理できているね」
「できているね」→「最後まで自分で考え切れたところがいいね」
「なるほど」→「その視点は今まで出ていなかったね」
「いい発表だったね」→「相手に伝わるようにゆっくり話していたのがよかったね」

というように、具体的な行動や思考のどの部分がよかったのかを言葉にすることで、生徒は自分の何が評価されたのかを理解しやすくなります。

また、「前よりこうなっているね」「さっきより自信を持って話せているね」といった変化に目を向けた声かけは、生徒自身が成長を実感するきっかけになるのではないでしょうか。こうした関わりの積み重ねが、「関わっても大丈夫」「参加してもよい」と感じられる教室の空気を少しずつつくっていくのだと考えています。

5.高校現場から見える課題

高校の現場では、これまでの関わりの積み重ねによる差が、生徒の姿としてよりはっきりと表れる場面があります。例えば、

  • 自分から課題に取り組める生徒
  • 発言を避け、様子を見る生徒
  • 他者と関わることに不安を感じる生徒

といった姿が見られます。これらはその場だけの問題ではなく、これまでの学校生活の中で積み重ねてきた経験の影響として捉えることもできるのではないでしょうか。

だからこそ、高校段階であっても日常の関わりを見直すことには意味があると感じています。

例えば、発言しない生徒に対して、いきなり全体での発言を求めるのではなく、ペア→小グループ→全体と段階を踏むことで、参加のハードルを下げることができます。こうした関わりは、中学校や小学校においても、形を変えながら活かすことができるのではないでしょうか。

■コラム:校種を越えて学ぶという視点

ここまでの内容は、高校現場での実践をもとに書いていますが、振り返ってみると、小学校の先生方の実践から学ぶことも多いと感じています。

特に中村健一先生をはじめとする小学校の実践には、「日常の関わり」を丁寧に積み重ねていく視点が多く見られます。

ただし、それらをそのまま中学校や高等学校に当てはめることは難しい場面もあります。発達段階や教科の特性、時間割の構造などが異なるため、少し形を変えていく必要があるように感じています。

一方で、小学校の実践を中学校や高等学校の文脈に合わせて少し調整することで、新たな気づきや実践が生まれることもあります。

また逆に、中学校や高等学校での実践が、小学校の現場に還元されていくこともあるのではないでしょうか。

校種が異なるからこそ、その違いを前提としながら互いに学び合うことが、結果として子どもたちが安心して過ごせる学校づくりにつながっていくのではないかと感じています。

まとめ

発達支持的生徒指導は、特別な場面で行う指導ではなく、日常の関わりの積み重ねによって成り立つものです。問題が起きてから対応するのではなく、問題が起きにくい環境を整えていくこと。そのためには、授業や日常の中での関わりの質を見直すことが大切になります。

例えば、声かけの一言や発言への受け止め方、関わりのタイミングといった小さな実践も、積み重ねることで教室の雰囲気に影響を与えていきます。一つひとつは目立たない取り組みであっても、それが続くことで、生徒の安心感や参加のしやすさが少しずつ育っていく、と言えるのではないでしょうか。

生徒指導は特別な時間に切り分けて行うものではなく、日常の中で自然と行われている営みであるという視点を持つこと。そのことが、これからの教室づくりの出発点になるのではないかと考えています。

次回予告

第2回では、「課題予防的生徒指導」をテーマに、問題が表面化する前の小さな変化にどのように気づき、どのように関わっていくことができるのかを考えていきます。
授業の中に潜むリスクや、生徒のサインの見取り方に着目しながら、日常の関わりの中でできる予防的な工夫を具体的に紹介します。問題が起きてから対応するのではなく、「起きにくくする関わり」とはどのようなものか考えていきたいと思います。

著者プロフィール
よしだ・たくみ。京都府立高校にて芸術(書道)を指導。大学時代に著名な先生の影響を受け、イベントに参加、企画・運営し、学び続けている。単行本『Withコロナ時代のクラスを「つなげる」ネタ73』『普通の授業だけじゃ、つまらない! たまには、こんなスペシャルな授業を!!』(黎明書房)に執筆協力。

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