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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #9 もう一つの結晶を目指して〜市と市民がつくり上げていくことを誇りに

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、北海道札幌市の大野睦仁先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/大野睦仁(北海道札幌市立平岡中央小学校教諭)

1.はじめに

札幌の公立小学校で勤務している大野睦仁と申します。札幌市は、2024年時点で人口約195万人を擁する、日本有数の大都市です。一方で、大都市ゆえに人口の流動性が高く、地域との関わりが希薄になりやすいという特徴もあります。そのため、地域に根ざした伝統や文化を継承していくことが課題となる側面があると考えられます。

また、明治時代に道外からの開拓者が入植して形成された都市であり、都市としての歴史は比較的浅いといえます。そのため、長い歴史をもつ他の都市と比べると、「札幌ならではの伝統的な祭りや文化は何か」と問われると、答えることが難しいと感じられる側面があるのかもしれません。しかし、こうした地域においてこそ、子どもたちが地域の教材を通して、自分と社会(地域)と向き合う授業をつくる価値があると考えました。

地域教材といえば、偉人的な人物や守っていくべき伝統文化などを取り上げ、自分たちの地域に対する誇りや敬意をもてるような授業が多いのではないかと思います。ただ、私は、道徳では子どもたちが葛藤することを大事にしています。今回の地域教材でも、単線的に誇りや敬意に向かう授業ではなく、子どもたちが迷いながらも地域の良さに目を向け、そして、市民としてのあり方を考えていける授業を目指しました。

2.教材について

今回の授業は、札幌の除排雪を教材にして授業を構想しました。

札幌市民にとっての雪は、親しみのあるものです。幼少期から家の周りや公園で雪遊びした経験は、多くの人がもっていることでしょう。学校の授業においても、生活科での雪遊びや体育科でのスキー学習などが行われています。また、市民生活の中では、雪まつりをはじめ、雪を楽しむ機会が数多くあります。

一方で、積雪による被害や災害などに悩まされている現実もあり、これは子どもたちにとっても身近な生活実感であると考えられます。実際、市に寄せられる苦情の中で、除排雪に関するものが他の苦情に比べて圧倒的に多い状況にあります。
また、市に対して「力を入れてほしいこと」を問う市民調査においても、「安全・安心なまちづくり」や「公共交通の便利さ」などを上回り、除排雪に関する要望が最も多く挙げられています。

近年では、除排雪に関する予算の増大による財政への影響や、担い手となる労働力不足の問題が深刻化するなど、さまざまな問題が表面化しています。これからを生きる子どもたちにとって、雪のもつマイナスの側面である除排雪の問題は、向き合っていく必要のある重要な課題であるといえます。

しかし、札幌の除排雪は、世界的に見ても稀有な都市経営のモデルです。年間積雪量が5mを超える環境の中で、200万人弱の人々が生活する都市は、世界的にも類を見ない規模です。そこには、除排雪に関する制度や仕組み、そして人々の思いがあります。そうした点に誇りをもちつつ、除排雪をめぐる現実的な課題と向き合う中で生まれる葛藤を通して、歩み寄ろうとする気持ちや、相手を思いやる想像力の大切さに子どもたちが気付いてほしいと考えました。

このような理由から、除排雪は、札幌に暮らす私たち一人一人の立場や思いの違いが交錯する教材であり、道徳科において葛藤を生み出す題材として適していると考えました。

3.授業の実際

対象:小学5年生(小学6年生でも可能)
主題名:もう一つの結晶
内容項目:D よりよく生きる喜び (22)よりよい社会を実現しようとする態度をもつこと

①札幌市の除排雪の状況を知る。

「あなたが今、札幌市に力を入れてほしいことはどんなことですか?」

市に要望するのだから「みんな(社会全体)のためにあること・もの・仕組み」についてのことだと確認した後、少し対話する時間をとります。すると、次のような意見が出てきます。

  • 学校を新しくしてほしい。  
  • 公園にもっと遊具を増やしてほしい。

このような意見が出てくるのは、子ども視点だからです。除排雪の視点につなげるためにも、大人の視点に立っても考えてみるようにします。

「大人だったらどんなことに力を入れてほしいと考えるでしょうか?」

しかし、なかなか思いつきません。それでもいいのです。この「わからなさ」こそが、自分たちの生活を支えている大人の視点、そして数年後の自分たちが向き合う社会の現実に触れるための、大切な入り口となるからです。

  • うーん。なんだろう。
  • 税金のこととかかなあ。

「大人の人たちが出した札幌市に力を入れてほしいことの集計結果があるので伝えます。2位と3位は同じくらいですが、2位が犯罪のない安心安全なまちづくりに関することで、3位は、公共交通の便利さを進めることについてでした。みんなの予想と比べてどうだったでしょうか。」

*「大雪と共生する200万都市さっぽろ」(令和7年発行 札幌市建設局土木部雪対策室)より
  • 全然違った。思い付かなかった。
  • 犯罪のない街づくりというのはなんだかわかる気がする。

「では、1位はなんだと思いますか?」

  • えー。これ以外でなんて思い付かない。
  • やっぱり学校のことかな。

「このことに関することが1位でした。」

次の写真を提示します。

雪道を走る除雪車
  • 除雪の写真??

「そうです。除雪です。」

子どもたちはかなり驚きます。

  • えええ!除雪のことが1位なの?? 
  • 思いもしなかった!
  • たしかにお母さんが除雪してくれなくて困るって言ってたな。                       

除雪に関することに力を入れてほしいのは、困っていることがあるからだと確認します。

「どんなことで困っていると思いますか?」

  • 除雪されていなくて、道路が歩けないことかな。
  • なんか家の前に雪が積まれて困っている話を聞いたことがある。

「次のようなことで困っているそうです。」

除雪が遅い。除雪がされていない。→歩きづらい。バスが遅れている。車が通りづらい。
自宅前に除雪の雪の壁ができている(排雪の問題)。→家から出るのが大変。車を出せない。


*「札幌市冬のみちづくりプラン2015」(2018年 札幌市)より

想像してみます。このようなことがあると、どんな時に、どんな人たちがとても困りますか?」

  • 仕事や学校に行く人が困るよね。
  • あ、受験生とかも大変になる。
  • 配達が困るよね。
  • 救急車とか通りづらいということだよね?
  • 家の前に置かれた雪が硬かったよ。
  • 高齢者の方が大変になる。

除排雪に関することは誰もが困っていることですが、場面や立場(人)を絞り込む問いかけをすることで、困り具合の深刻さがより実感をもって捉えられるようになります。そうすることで、除排雪が自分とは違う誰かの生活にも深く関わる重要な問題であることを、子どもたちが理解していきます。

「こうした除排雪に関する苦情は、2024年にどれくらいあったと思いますか? ちなみに除排雪以外では、2024年は苦情が98件。問い合わせや要望も含めると560件です。」

  • どれくらいだろう。
  • 2倍の1000件ぐらい?

「21,712件です。桁が違います。そして、2021年は75,000件でした。大雪の年です。」

  • えーーー!

子どもたちは、それ以外の苦情とあまりにも違うことや、数の多さに驚きます。しかも、除排雪の時期は一年のうちの数か月で、その短い間にこれだけの苦情が寄せられていることに気付きます。自分たちの住んでいる街に対して、自信をもてなくなっている空気が生まれます。

札幌市の除排雪に対するあなたの信頼度は、どれくらいですか?」 

熊本市教育センターで公開している「心の数直線」を使用し、より対話が進むような場にする。100が全幅の信頼という設定にし、なぜその数値にしたのかという理由に重きを置いた対話をします。

https://www.kumamoto-kmm.ed.jp/kyouzai/web/Heart-meter4/index.html?setup

ほとんどの子が50よりも低い数値を出しています。中には数人、50よりも上の数値の子がいますが、その子の思いは後で取り上げるようにし、次に進みます。

②札幌市の除雪のすごさを知り、子どもたちの思考を揺さぶる。

次の2つのデータを提示します。

 <世界の年間降雪量記録トップ3(人口10万人以上の都市)>

1位青森市792cm(人口26万人)
2位札幌市485cm(人口197万人)
3位富山市363cm(人口41万人)

<札幌市の人口に近い都市の年間降雪量記録>

札幌市(日本)485cm(197万人)
シカゴ(アメリカ)97cm(270万人)
オタワ(カナダ)235cm(100万人)

「このデータからどんなことがわかりますか?」

  • 札幌の雪ってすごい量なんだな…。

札幌の特異性については、多くの子がなかなか気付けません。データを引用しながら教師が説明していきます。

「このデータから分かることは、札幌市ほど雪が降り、そして、人もたくさん住んでいる都市は他にはない、ということです。なぜ雪と人口を関連させて考えているのか、わかりますか?」

  • あー。雪が降ると生活しづらいからかな。

「その通りです。雪が多いところは住みづらいから人が集まらない。それなのに、積雪量が2位の札幌市に人口が200万人近くいて、苦情は確かに多いけれど、冬の間でもみんなは学校に来られて、給食が食べられる。お家の人もほとんどは出勤して、働いて、退勤して来られます。」

「だから札幌の除排雪は世界一とも言われているのです。

  • そうなんだ…。

子どもたちからはため息のような呟きが聞こえてきます。

その主な理由を3つ紹介します。」

一晩で5,200kmくらいの道を除雪。札幌から沖縄までの距離。一晩で1億2千万円の費用。これを夜中から午前6時までの短時間で終わらせる。

市と市民が協力し合っている。幹線道路(市)と生活道路(町内会)と分担して除排雪。

道路の雪を脇に寄せる「かき分け除雪」によって、限られた時間の中でも、効率よく道路の幅を確保できる。排雪場が郊外にしかなく、朝の時間に間に合わせるためには、除雪中心のこの方法を取らざるを得ない面がある。

かき分け除雪された道の写真

札幌市の除排雪に対するあなたの信頼度は、どれくらいですか?」

ここでもう一度この発問をし、「心の数直線」を使って対話をします。数値が上がる子が増えてきます。そして、迷う子が出てきて、次のような発言が聞こえてきます。

  • じゃ、どうしてあんなに苦情が出ているのかな?

「確かに」という声が続きます。

例えば、かき分け除雪をすると、なるべくそうならないようにしていますが、どうしても玄関や車庫前に雪が積まれてしまったり、道幅が狭くなったりするので、それが苦情につながります。

  • どうしたらいいんだろう…。

ここで先の場面での子の思いを取り上げます。

1回目の心の数直線で、ほとんどの人が50よりも低かったんだけれど、〇〇さんは50よりも上だったんだよね。どうしてかな? 教えてくれるかな?」

  • 夜中に大雪の時、除雪をしてくれる人たちは絶対一生懸命やってくれているはずだから…。

子どもたちは、排雪の難しさを知っているからこそ、この発言を聞いて、そして、どこを優先するか、ここでさらに葛藤します。

③市と市民がつくり上げていくことを自分たちの街の誇りにしていく。

「札幌市も、もっと除排雪に関わる人が増えたら良いと考えていますが、社会で様々な職業で労働力不足が課題になっていたけれど、除排雪も同じ状況だそうです。そして、高齢者や障がいのある方の家の前の除雪をするために、ボランティアを市として集めてもいます。」

「たしかに除排雪の課題はあるかもしれません。その課題を解決するため制度や仕組みなどで対応することが必要かもしれません。でも、自分たちが住む札幌市が自慢できるような街になるために、他に必要なことは何でしょうか?」

  • もっとお互いが助け合ったり、相手のことを考えたりすることが大切なのかな。
  • なんかもっとよく知るといいと思った。今日の学習のことを知ったらそう思った。
  • 先生がよく言っている想像力が大切な気がした。

「雪の結晶って知っていますよね。努力の結晶なんて言葉もありますが、もし世界一と言われる札幌の除排雪の結晶をつくるとしたら、どんなことでできているのでしょうか?」

ここでは、まず他者ではなく、自分と対話をします。その中で、この学習を総括的に振り返って、最後に言葉にして書いて授業を終えます。

  • その結晶はどんな形をしているんだろうと考えた。
  • 結晶は、札幌市のがんばりと私たちのがんばりでできていると思うけれど、学校でも大事にしなきゃいけないこととつながっているがんばりだと思った。
  • 雪の結晶はきれいだけれど、この結晶も世界に自慢できるきれいな形になっていくといいな。

4.どこにどのようにつなげるか

本実践は、札幌の除排雪という地域の課題を通して、市民一人一人の立場や思いの違いに気付き、相手を思いやる想像力を育てることをねらいとしています。ここで生まれた葛藤や問いは、他教科や他領域へとつなげていくことで、より深まりをもつと考えられます。
社会科では、市の仕事や税金の使われ方、行政と市民の関わりについて学習します。本実践で感じた「なぜ苦情が多いのか」「どこに難しさがあるのか」といった疑問をもとに、除排雪の制度や仕組みを調べていくことで、道徳で芽生えた思いを事実に基づいて確かめる学習へとつなげることができます。

また、総合的な学習の時間では、地域の方や除排雪に関わる人々へのインタビュー活動へ発展させることや、福祉除雪に取り組んでいくことなども考えられます。自分の地域を知り、そこで何ができるかという意識は、「市民として社会にどう関わるか」を考える市民性(シティズンシップ)教育の入り口として捉えることができます。

さらに、相手の立場を想像し、見えない努力に気付こうとする姿勢は、学級生活や学校生活全体にもつながっていきます。本実践を通して育まれた価値意識が、子どもたちの日常の行動や関わり方に生かされていくことを願っています。

5.おわりに

本実践を通して、札幌の除排雪は、行政だけが担うものではなく、市民一人一人の理解や協力によって支えられている営みであることを、子どもたちと共に考えることができました。
除排雪をめぐる課題に向き合う中で、子どもたちは簡単には割り切れない思いを抱き、迷いながらも相手の立場を想像しようとする姿を見せていました。
その一つ一つの思考や対話は、すぐに形になるものではありませんが、確かに心の中に積もっていくものがあります。そうした積み重ねが、やがて市と市民が共に作り上げていく「もう一つの結晶」となり、子どもたち自身の生き方や地域との関わり方を支えていくのではないかと感じています。

※降雪量を比較した表組みの出典
【上段のデータ】 AccuWeather「Top 10 snowiest major cities around the world」2016 https://www.accuweather.com/en/weather-news/top-10-snowiest-major-cities-around-the-world/375130 *インチはcmに換算。
【下段のデータ】 NOAA (National Oceanic and Atmospheric Administration)2020 https://www.ncei.noaa.gov/access/us-climate-normals/#dataset=normals-monthly&timeframe=15 カナダ統計局 (Statista / Statistics Canada): 1971年から2000年までの30年間の長期平均値(平年値) https://www.statista.com/statistics/553393/average-annual-snowfall-canada-by-city/?srsltid=AfmBOortcZdJNip8wUuS3Fpr__tWDsWM2rOwBsPaVDqxzMig9Qu6U_PN#:~:text=Table_title:%20Average%20annual%20snowfall%20in%20Canada%20from1971,Ottawa%20%7C%20Snowfall%20(in%20centimeters):%20235.7%20%7C *「人口100万人以上かつ豪雪」というランキングを発表している公的機関はないため、各国の気象のデータを比較した

※資料に明記されている引用先以外の参考資料
札幌市の除排雪の苦情件数 ①「札幌市の除排雪苦情1万件減 24年度、少雪や動画啓発奏功 実情発信で理解進む」北海道新聞(デジタル) https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1184434/
②「令和3年度 除雪事業の概況」札幌市 chrome-extension://oemmndcbldboiebfnladdacbdfmadadm/https://www.city.sapporo.jp/kensetsu/yuki/documents/dai2kai_3_r3gaikyou.pdf

編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。

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