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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#14 未来へつなぐ、ねぶたへの思い

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、青森県青森市の林 亜依先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/林 亜依(青森県青森市立新城小学校教諭)

はじめに

こんにちは。弘前市から青森市に赴任したばかりの、2年目の教員、林 亜依です。
地域道徳との出会いは、私の教育実習にありました。私が配属された学級は、今でもご指導を賜る、駒井康弘先生が担任をされていた5年1組でした。毎日5年1組に入らせていただく中で、日々の生活の中での道徳教育の大切さに気づかされました。そこから駒井先生には、「サークルふぶき」の活動にお誘いいただき、地域道徳について勉強をしています。 

私は昨年度から引き続き、勤めている学校のクラブ活動で「ねぶたばやしクラブ」の担当をしております。地域人材として、学区の「江渡下ねぶた囃子会」の福士 勝さんをお招きし、子どもたちにかねや太鼓、笛の演奏をご指導いただいています。

福士さんは、十数年に渡ってクラブ活動での指導をしてくださっている、いわば指導のプロです。 毎回の熱心な指導を間近で拝見するうちに、福士さんに対して、とある疑問を抱きました。
「どうして福士さんは子どもたちに対してこんなに熱心に向き合ってくださるのだろう」。
教員2年目の私は、日々、教えることの難しさに直面しています。そこで、この疑問を解消するために福士さんへインタビューを行い、その学びを基に本授業を構想しました。 

1 教材について

今回は、福士 勝さんへのインタビューをもとに、「ここはより深めたい、子どもたちと一緒に考えたい」と思ったことを授業に取り入れました。

2 授業の実際 題材名~未来へつなぐ~ 

対 象:小学5年
主題名:つながる命
内容項目:C 伝統や文化の尊重、国や郷土を愛する態度 

① 題材について考える。
導入 皆さんは、ねぶたは好きですか?」 

  • そりゃあ好き。毎年跳人(はねと)で参加してる。 
  • 青森県民だからね。 
  • 心臓に響く太鼓が少し苦手。 
ねぶたの写真

「たしかに。みんなの身近にあるものですね。好きな人もいるけれど、中には苦手な人もいるみたいだね。」と伝えてから、1枚の写真を提示します。

「これは、何をしている写真でしょう?」 

②ねぶたばやしクラブの紹介をする。

「ねぶたばやしクラブ」での活動場面の写真を提示します。掲示したら、すぐに「ねぶたクラブだ!」という声が上がりました。「ねぶたばやしクラブ」に所属している、9人中5人が私のクラスで す。得意げな顔をしていました。 

「今日は、端にいる、この方に注目してもらうよ。」 

そう言うと、子どもたちは写真の人物に注目しました。「ねぶたばやしクラブ」の子どもたちは、すぐに「福士さんだ!」と声をあげていました。 

「太鼓も笛もかねも、全部上手いんだよ。」と周りのみんなに教えてくれました。 

③福士さんについての説明を聞かせる。 

  • ねぶたばやしクラブで、十数年クラブの子どもたちにお囃子を教えてくださっている。
  • 江渡下ねぶた囃子会の副会長さん。約20年前に会を設立。
  • 今年の囃子会の会員数は約100人。

この参加人数の多さに、みんな驚きの声を上げていました。このクラスの人数の約3倍だね、と確認しました。

発問 「どうして、小学校のクラブ活動で、お囃子を教えてくれているのでしょうか?」 

  • 子どもが好きだから。 
  • ねぶたを子どもたちに広めたいからじゃない? 

「子どもたちに教えるって、とても楽しいけれど、難しいこともあるんだよね。先生も実は、その難しさを感じています。例えば算数だったら、今5年生で体積の勉強をしていたけれど4年生で習った面積の勉強の考え方を使うよ、と言って理解できる子ももちろんいるけど、思い出せない子もたくさんいたよね。そんな風に、子どもたちに何か1つ教える時は、それ以上のこともたくさん教えないといけない。」 

そう説明を付け加えると、理解しているようなうなずきを見せる子もいました。 

「福士さんのねぶた会は、100人以上いるし、すべてが順調かと思いきや、先生と同じように福士さんにも、とある悩みがあるそうです。それは、何でしょう?」 

  • ねぶた会の子どもたちが、言うことを聞かない。 
  • ねぶたを出陣させるお金が足りない。 
  • ねぶた会におじいちゃんおばあちゃんが多くなってきたことじゃない?

④福士さんの思いを知る。 

「福士さんの困っていること、それはねぶた会の少子高齢化です。」 

「ああ、確かに、自分の参加している団体もそうかもしれない。」などという言葉が出ていました。 

ここで、福士さんの思いを伝えます。 

「福士さんは、ねぶた会を作った当初は、楽しいという気持ちが一番大きかったそうです。しかし今は、若手を育てたいという気持ちの方が、大きくなったそうです。どうして、気持ちの変化があったのでしょう。」 

ここで、福士さんが「ねぶたばやし会」を設立した経緯を話します。 

「福士さんは、会を創設する前、もし会を作ったら、数年で終了してしまうだろうと思っていたそうです。」 

  • でも今まで20数年間続いてるんだよね。 

「しかし、ねぶた会創設は福士さんの長年の夢でした。やらなかったら、一生後悔すると思ったそうです。5 年くらい続けて、人が集まらなかったら、きっぱり諦めようと決めて、創設を決断しました。」 

福士さんの覚悟とその思いを感じ取った子どもたちは、感嘆の声を上げていました。 
そして、その後「ねぶたばやし会」がどのように現在まで続いてきたのかを説明しました。 

○最初は福士さん一家や福士さんの幼なじみという少人数の集まりだったが、周りに声をかけ続け、徐々に人が芋づる式に集まっていったこと。 

○宝くじに当選し、創設3年目にして合同運行へ参加できるようになったこと。(合同運行への参加は、通常数十年経ってからでないと難しいとされていたが、3年という短い期間で参加できたことも伝えました。) 

こうして最初は5年が目標だった「ねぶたばやし会」が、今もなお続けることができていることを話しました。 

「こうして、現在福士さんは、次世代の『ねぶたばやし会』を担っていく子どもたちを育てたいと思っているそうです。」 

  •  教えてくれる時、こんなことを思っていたなんて考えてもなかった。 
  • 福士さんの本音を知ることができたね。 

「福士さんは、子どもたちに教える立場として、まずは自分が日々練習することが大切だと おっしゃっていました。」 

「ねぶたばやしクラブ」の子どもたちは、今でも十分に演奏が上手な福士さんが、なお練習を続けていることに驚いていました。 
「毎朝5時に起きて、奥さんを起こさないように小さな音で笛の練習をしているそうだよ。朝は音量を気にしないとね(笑)。」 

「奥さんが6時くらいに起きてから、やっと本来の音量で、7時くらいまで演奏するそうです。」 

  • え? …ってことは、2時間くらい練習しているの? 

「そうなんだって。初心忘るべからず、ですね。」

⑤福士さんが笛を演奏している動画を見せる。 

  • まさにお手本だね。 
  • こんなに上手なのに、まだ練習するんだ、すごい。 

そして、「ねぶたばやしクラブ」の子たちにインタビューした内容も紹介しました。 

  • かっこいい。 
  • 憧れ。 
  • 一生のライバル。 
  • 今はまだ越せないけれど、絶対福士さんより上手くなりた い! 

クラスメートの言葉に全員が盛り上がるとともに、 

  • なんとなく、福士さんが練習してる意味、わかった気がする。 

と言う子もいました。 
「未来へつなぐために、福士さんは様々な思いをもって、次世代を継ぐ子どもたちに教えているのですね。」 

⑥自分自身の地域とのつながりを考える。 
発問 あなたの住んでいる地域で好きなもの・ことはなんですか?また、あなたに今からできそうなことはなんですか。

  • おじいちゃんのラーメン屋。いつもお店に行ったらラーメンを食べさせてくれたり、厨房の手伝いをさせてくれる。おじいちゃんは「味が落ちないように毎日味見して、商品 として出せるか考えてる」って言ってた。将来おじいちゃんの大事なお店を継ぎたいから、もっとお店の手伝いをしたい。 
  • りんごが好き。毎年お母さんが誰かからもらって食べてるけど、もし農家さんの跡継ぎがいなくなったら……? と考えたら、青森県の自慢できるものがなくなってしまうし、悲しい。だから、農家にはならなくても、県産のりんごを食べたり、商品を買ったりするといいのかなと思った。 
  • 地元の好きなものが、あまりなかった。ねぶたは当たり前に“あるもの”として考えていた。けれど、続けていく人がいなくなったらねぶたも当然続かないし、無くなるのが怖いと思った。人前に出るのは苦手だけど、ねぶたを観に行くことはできるから、毎年観客として参加したい。  

 3 どこにつなぐか

今回取り上げた「江渡下ねぶた会の福士さん」の道徳授業は、多面的に深化させていくことができると考えています。 

教科横断的視点としては、社会科の中でつながりが想定されます。5年生で扱う、「我が国の国土の自然環境と国民生活」「地域の産業や文化の特色と人々の努力」の学習では、地域の文化には「人」とのつながりがあること、続けようとする人の思いと行動があって成り立っていることを実感的に捉えさせます。この授業は、「人々の働き・役割」の学習に接続しています。 

一番に考えたのは、キャリア教育です。最後の問いかけにある、「あなたの住んでいる地域で好きなもの・ことは何ですか」という問いかけは、キャリアパスポートの中から抜粋しました。この問いかけに対し、子どもたちは書くのに悩んでいましたが、「もの・こと」の名前は書けていました。
しかし、理由を聞かれると、難しそうでした。私自身も、地元のすきなもの・ことを聞かれても、何を答えればよいのか迷ってしまうと思います。私は弘前市から来た人間なので、青森市にはよいところがたくさんあると感じています。しかし、子どもたちはまだ青森市を客観的にみたことはありません。当たり前にあるものが、自分にとっては実はすごく大切であったり、誇りに感じていたりすることを実感してほしいと考えています。
この授業が、そのための第一歩になることを願っています。 

おわりに 

今回の授業を通して、子どもたちは、ねぶたを「当たり前にある行事」としてではなく、「誰かが思いをもって続けてきた文化」として捉え直し始めました。福士さんの言葉や姿から、文化は自然に続いていくものではなく、悩みながらも次の世代へ手渡そうとする人の存在によって支えられていることに気づいたのです。 

また、子どもたちが「自分には何ができるだろう」と考え始めたことは、本授業の大きな成果でした。継ぐことだけが関わりではなく、観ること、応援すること、関心をもつことも、未来へつなぐ一歩であると知ったことは、地域との新たな関係の始まりだと感じています。 

教員2年目の私自身も、福士さんの「初心を忘れず、学び続ける姿勢」に強く心を打たれました。福士さんは、長年の経験をもつ指導者でありながら、決して「できて当たり前」という目線で子どもたちを見ることはありません。一人一人のつまずきや不安に寄り添い、子どもたちの立場に立って声をかけながら指導を続けています。 

教える立場でありながら、なお努力を惜しまないその姿は、子どもたちだけでなく、私にとっても大きな学びでした。今後も、地域の方々の思いに耳を傾けながら、子どもたちと同じ目線で学び続ける姿勢を忘れず、「未来へつなぐ」学びを子どもたちと共に積み重ねていきたいと考えています。 

編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。

単行本「オリジナル地域教材でつくる!「本気!」の道徳授業」カバー

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