子供の心理的安全性を高める視点「窓割れ理論」とは?【先行研究から学ぶ 学級経営の極意Ⅳ⑤】

子供が多様な他者と関わりながら、必要な資質・能力を身に付けるために、教師はどのような学級経営をしていけばよいのでしょうか。学級経営を長年、研究・実践してきた稲垣孝章先生が、先行研究を例に挙げながら、子供のよりよい成長を促す学級経営の方法について解説します。第5回は、「割れ窓理論」について解説します。
執筆/埼玉県東松山市教育委員会教育長職務代理者
城西国際大学兼任講師
日本女子体育大学非常勤講師・稲垣孝章
「割れ窓理論」という考え方があります。アメリカの犯罪心理学者ジョージ・ケリング(George L. Kelling)が考案しました。建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなくすべて壊されるという考え方から、ブロークン・ウインドウセオリー(Broken Windows Theory)とも言われます。
この考え方は、学級経営においても大切な視点です。そこで、環境整備について「割れ窓理論」を効果的に取り入れるに当たって、次の3つのキーワード「割れ窓理論に関する先行研究」「学校生活における学習環境」「効果的な学習環境をつくる学級経営」の視点でチェックしてみましょう。
目次
CHECK① 「割れ窓理論」に関する先行研究
1969年、フィリップ・ジンバルドー(Philip Zimbardo)は、人が匿名状態にある時の行動特性を実験によって検証しました。その結果は、「人は、匿名が保障されている、責任が分散されているといった状態に置かれると、自己規制意識が低下し、また、情緒的・衝動的・非合理的な行動が表れ、その行動は周囲の人に感染しやすい」というものでした。
【実験例】
〔郵便受けの実験〕
ある郵便受けの近くの壁に落書きがあったり、付近にゴミが捨ててあったりした場合、被験者がその郵便受けから5ユーロ札入りの封筒を盗む割合は25%で、郵便受けの周りがきれいだった場合の13%を2倍近く上回ったという実験結果でした。
【適用事例】
ニューヨーク市は、1980年代からアメリカ有数の犯罪多発都市でした。1994年に就任した新たな市長は、警察職員を5,000人増員して街頭パトロールを強化したほか、落書きや万引き、違法駐車などの軽犯罪について徹底的な取り締まりを行いました。その結果、5年間で犯罪の認知件数は、殺人が67.5%、強盗が54.2%、婦女暴行が27.4%減少して治安が回復したとしています。
環境が人間に与える影響についての研究を確認します
「割れ窓理論」は、人間の行動が環境によって大きく影響されることを示しています。ゴミが散乱する公園では、他の人もゴミを捨てる傾向があります。これは、人々が周囲の状況を見て「自分も同じことをしてもよい」と考えてしまうからです。
これまでの実験結果を踏まえて考えると、人は、落書きや割れ窓そのものというよりも、「小さな乱れがいつまでも放置」されている状況にさらされる不安を抱きます。人は「短く強いストレス」以上に、「弱くとも長く続くストレス」(この場合は社会的放置〈ネグレクト〉)に対してとても過敏にできているということです。このようなことから、環境は、まさに人間に様々な影響を与えていることが分かります。
教室の学習環境がどのように子供に影響するのかを検討して、学級経営の参考にしていきましょう。
CHECK② 学校生活における学習環境
学校生活において、学習環境は子供たちのよりよい成長に大きな影響を及ぼします。「割れ窓理論」は、小さな問題を早期に発見し、対処することで、学級全体の秩序と安全を維持することをねらいとしています。
学校においては、教師が子供たちの軽微な規律違反や清掃状況に対して適切に指導することが、子供のよりよい成長に大きく寄与します。現実的には、教室に落書きがあればすぐに消し、規律の大切さを指導するといったことが、子供たちのモラルや学業成績の向上に直結するということです。

学級担任を中心に、多くの職員が積極的に学習環境の整備に取り組むことで、子供たちの学習意欲が向上し、学級全体の雰囲気もよくなっていきます。子供たちにとって、よりよい学習環境となるような環境整備について、配慮していきましょう。
リーダーシップ、メンバーシップを効果的に指導します
よりよい学習環境を整備するための第一義は教師の役割です。教師が小さな問題を見逃さずに早期に対処する文化を学級内に根付かせることが求められます。そして、教師としてのモデルを示すとともに、リーダーシップを発揮する役割を担うように子供たちを指導します。
教師の一方的な指導ではなく、子供たちの中でリーダーシップを発揮するような活動ができると、他の子供も協働して活動できるようになり、学級全体の秩序が保たれます。その際、どの子供もリーダーシップを発揮する場を設定できるようにするため、役割を固定化せず、「輪番制」で交替して行うことが肝要です。
リーダーシップとメンバーシップの体験により、子供のコミュニケーション能力をよりよく向上させることができます。まずは、学級全員で役割を分担し、子供たちが自分たちの力でよりよい学習環境を構築できるようにしていきましょう。
