「感情」と「表情」の関係を踏まえた学級経営の手立て【先行研究から学ぶ 学級経営の極意Ⅳ⑩】

子供が多様な他者と関わりながら、必要な資質・能力を身に付けるために、教師はどのような学級経営をしていけばよいのでしょうか。学級経営を長年、研究・実践してきた稲垣孝章先生が、先行研究を例に挙げながら、子供のよりよい成長を促す学級経営の方法について解説します。第10回は、感情と表情の研究から提示された「フェイシャルフィードバック効果」と学級経営について解説します。
執筆/埼玉県東松山市教育委員会教育長職務代理者
城西国際大学兼任講師
日本女子体育大学非常勤講師・稲垣孝章
人間は心の内に起こる「感情」によって、顔の「表情」が変わります。一般的に、「感情」が先にあり、それが顔の「表情」に表れると考えられます。しかし、仮につらいことがあっても、とにかく「笑顔」をつくっていれば嬉しい気持ちになっていくという人間の特性もあります。「表情」が先で「感情」が後にくることもあるということです。この「感情」と「表情」の後先の因果関係をひっくり返すという「フェイシャルフィードバック効果」という考え方があります。
そこで、教師として子供に指導する際に、次の3つのキーワード「『フェイシャルフィードバック効果』の考え方」「感情と表情に関する研究事例」「指導上の配慮点」でチェックしてみましょう。
目次
CHECK① 「フェイシャルフィードバック効果」の考え方
アメリカの心理学者ポール・エクマン(Paul Ekman)による表情実験は、感情を表す顔の表情が様々な文化に影響を受けず、普遍的に共通であることを確認した心理学研究の1つです。
この研究では、顔の筋肉の動きが脳にフィードバックされ、主観的な感情体験を生み出したり増幅させたりすると考えられています。そして「楽しいから笑う」だけでなく、「笑うから楽しくなる」という双方向のプロセスがあるとしています。
エクマンは、パプアニューギニアでの調査により、表情と感情の結び付きが文化を超えて共通していることを明らかにしています。被験者に「眉を下げる」「口角を上げる」といった具体的な指示を出して表情をつくらせると、本人が意図しなくても怒りや喜びなどの感情に沿った身体反応が観測されたとしています。
「フェイシャルフィードバック効果」の特徴を踏まえます
「笑顔」をつくることで、脳内の快楽に関するドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されることが研究で提示されています。この「フェイシャルフィードバック効果」の特徴としては、次のようなことが考えられます。
①楽しい気分を向上させる
「笑顔」をつくることによって、楽しい感情や幸せな感情が湧き出しやすくなる。
②否定的な思考を制御する
「笑顔」でいると、暗いことやネガティブで否定的なことを考えにくくなる。
③ストレスを軽減する
「笑顔」をつくることで、疲れやストレスがあっても気持ちが軽くなる効果がある。
④信頼関係を構築する
「笑顔」を意識することで、相手との信頼関係を築きやすくなる。
このような特徴を踏まえて、教師自身の「笑顔」、子供たちの「笑顔」をつくることができるような指導の手立てを講じていきましょう。
CHECK② 感情と表情に関する研究事例
「感情」と「表情」には密接な関係があります。「フェイシャルフィードバック効果」では、本来、人間として感情が表情に影響を与えるという考えを逆に捉え、表情が感情に影響を与えるということを提唱しています。具体的には、次のような研究事例をもとにその根拠となる考え方を参考にしていきましょう。
「フェイシャルフィードバック効果」に関わる研究事例を参考にします
例えば、箸を横にして歯で噛み、「笑顔」に近い表情をつくります。すると、脳内でドーパミン系の神経活動に変化が出ると言います。ドーパミンは快楽に関係します。同じように、箸を噛みながら漫画を読むと、より楽しく感じるとの実験結果もあります。
また、人は「笑顔」を向けられると、脳の眼窩前頭皮質と海馬が活性化され、ほめられたような喜びを感じて、強く記憶に残るとされます。円滑な人間関係を築く上で「笑顔」は脳科学的にも欠かせないということが分かります。
さらに、スポーツの世界でも窮地に追い込まれると「声を出せ」と言うことがあります。声を出していると自然に体が動くようになり、勢いが出てくるとされます。「落ち込んだ時、苦しい時こそ快活に行動すること」が求められます。このことが、つらい時でも明るさを取り戻す近道であると言えます。
