よりよい意思決定を促すための選択肢の設定法【先行研究から学ぶ 学級経営の極意Ⅳ③】

子供が多様な他者と関わりながら、必要な資質・能力を身に付けるために、教師はどのような学級経営をしていけばよいのでしょうか。学級経営を長年、研究・実践してきた稲垣孝章先生が、先行研究を例に挙げながら、子供のよりよい成長を促す学級経営の方法について解説します。第3回は、「選択肢の設定」について解説します。
執筆/埼玉県東松山市教育委員会教育長職務代理者
城西国際大学兼任講師
日本女子体育大学非常勤講師・稲垣孝章
「選択肢」をもとに自ら意思決定することは、子供のキャリア形成にとって大切な視点です。ここでの意思決定とは、問題解決や目標の達成に向けて、自分なりに何かを選択して決定することです。
子供たちは日常の学校生活において、学習や生活の場面で様々な選択肢から、自分なりに意思決定をしています。選択肢が多いことは、本人の選択にとって自由度が高く、好ましいように感じます。しかし、一方で多くの選択肢の中から選定して意思決定することには難しい面もあります。
そこで、「選択肢」を効果的に取り入れるに当たって、次の3つのキーワード「選択肢に関する先行研究」「学校生活における選択場面の特質」「効果的な選択肢を設定する学級経営の視点」でチェックしてみましょう。
目次
CHECK① 「選択肢」に関する先行研究
今回は、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー(Sheena S.Iyengar)教授の「選択の科学」の中にある「ジャムの法則」の研究を取り上げます。この研究では、スーパーマーケットでの「ジャムの試食コーナー」において、2つのパターンをつくり、どちらが買い物客に購入されるかを実験しています。
【実験例】
〔パターン①〕6種類のジャムを並べて売る試食コーナー
〔パターン②〕24種類のジャムを並べて売る試食コーナー
実験の結果、買い物客が立ち寄った割合が高かったのは、パターン②の24種類のほうでした。しかし、実際に買い物客がジャムを購入した割合は、パターン①の6種類のほうが圧倒的に多いという結果でした。
実験で導かれた選択肢を確認します
〔パターン①:6種類のジャム〕
・買い物客が立ち寄った割合…40%
・立ち寄った後、購買にいたる割合…30%
・最終的に購買にいたった割合…12%
〔パターン②:24種類のジャム〕
・買い物客が立ち寄った割合…60%
・立ち寄った後、購買にいたる割合…3%
・最終的に購買にいたった割合…1.8%
この実験で明らかになったのは、ジャムの購買に関する「選択肢」は、多すぎるとかえって「間違った選択をして損をしたくない」という心理が働き、購入することを控えてしまうということです。
この実験によって、人は比較的少ない数の選択肢を与えられた場合には、多くの選択肢を与えられた場合よりも実際に選び取る可能性が高くなり、自分の判断に確信をもって、選んだものへの満足度が高いことが実証されています。
また、他の実験として「生後4か月の乳児を対象」としたものがあります。
①乳児の手に紐を結わえ、それを引っ張ると心地よい音楽が流れるようにします。
②同じ音楽を乳児の手の紐を外して脈絡なく流れるようにします。
②にした場合、乳児の顔が悲しげになり、怒りをあらわにしたという結果でした。
このことから、人間は、自ら「選択したい」という欲求を、生まれながらにしてもっているということが分かります。脳の神経細胞は、受動的に与えられた情報よりも、能動的に選んだ情報に、より大きな反応を示すとされています。
CHECK② 学校生活における選択場面の特質
学校生活において、子供たちが自ら選択し、意思決定する場面は多岐にわたります。
生活面においては、登校時の挨拶から始まり、朝の会や休み時間、給食や掃除の時間から帰りの会にいたるまで、その子供なりの「選択の連続」と言っても過言ではありません。学習面においても、教室で学ぶ教科の学習だけでなく、音楽や図工、体育や総合的な学習の時間など、様々な学習場面でその子なりに多くの選択をしながら学んでいます。
子供たち一人一人のよりよい選択をサポートできるような学級経営を展開していきましょう。
学級活動における選択場面で確認します

学級活動(1)の学級会では、集団討議を通して合意形成を図り、出された意見から選択して、集団決定します。
例えば、話し合うこと1の「何をするか」について、事前に出されている意見が多すぎる場合、合意形成を図って選択することが困難な授業を観ることがあります。
また、学級活動(2)(3)の題材の内容を学習し、最終的な意思決定をする場面でも、例示が多すぎると子供たちは選択に戸惑ってしまうことがあります。
意思決定場面の状況にもよりますが、子供たちのよりよい意思決定を促すために、教師として適切な選択肢を情報提供できるように努めていきましょう。
