トラブルを減らす環境づくり:動線・座席・役割の工夫~UDLを始めよう|特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術 #6

一人一人の子供の困難さを丁寧に見取ることに定評のある山田洋一先生の連載です。UDL(学びのユニバーサルデザイン)の視点を取り入れて、どの子にとっても学びやすい学級づくりをしていきましょう。
執筆/北海道公立小学校教諭・山田洋一
目次
はじめに
午前8時15分。チャイムが鳴る少し前の教室は、準備のためにランドセルに手をかけたまま少しぼんやりしている子、ゲームの話に興じる子、誘い合ってトイレに行く子、また早くも1時間目の準備に取りかかる子などがいます。ランドセルを放り投げるようにして机上に置く音、友達と交わす短い挨拶、机の引き出しにものをしまう気配……。そんな音にあふれています。
教師が「おはよう」と声をかけながら教室に入ると、数名の子が立って、提出物を持って教室の奥の方へ向かっています。そこには提出箱があり、3人ほどが同じ場所に集まっています。
ちょっと押さないでよ。
順番だってば!
そんな声が響きます。教師が近づくと、子供たちは「先生、このプリント出してもいいんですよね」と確認して、またすぐに同じ動線上でぶつかるようにしながら行き交い始めます。
こうした光景は、どの学校でも見られる「日常」です。しかし、特別支援教育の視点で見ると、ここにはすでに複数の「生活しにくさ」が存在しているように感じます。
うろうろと立ち歩く、ぶつかる、何をすべきかを見失う――これらは子供の性格ではなく、環境が生み出している可能性が高いのです。教師が「静かにしなさい」「準備は済んだの?」と注意する前に、環境そのものを見直すことで、行動が自然に変わり、教室が落ち着くことがあります。
動線の工夫:アクセスのしやすさが行動を変える
提出箱が教室の奥にあると、子供たちは必ず「奥へ向かう動線」を通ることになります。そこに複数の子が集まれば、トラブルや喧嘩が起こるのは当然です。そこで、提出物を混乱なく、また忘れることなく提出できるような環境改善を考えてみます。
ある学級では、提出箱を黒板横に移動しました。朝の提出物は、子供たちが教室に入る流れの中で自然に出せるようになり、動線が交差しなくなりました。また、教室に入ってすぐに提出箱や他の人が提出した物が目に入るので、出し忘れも減ったと言います。朝、教師が教室に入る際、多くの子供たちが黒板横に軽く立ち寄ってからスムーズに席へ向かい、いったん自席に座った後も、すぐに提出物を出せるようになりました。
「なんか、前より静かだね」と、ある子供がぽつりと言ったそうです。教師自身も、朝の「ざわつき」が明らかに減ったことを感じていました。提出箱の位置を変えただけで、子供たちの動きが変わり、教室の空気が変わる。これは、環境が行動を誘発していることを示す典型的な例です。
もちろん、こうしたことは単に朝の「ざわつき」を抑えるためだけに行うのではありません。朝イチの活動に子供たちがスムーズに取り組めるようになり、「お、もう提出物、出してあるんだね」という教師のプラスのフィードバックを提供するためでもあります。このことが、朝の会、1時間目の授業へとスムーズな流れをつくることになるのです。
前回の連載第5回で取り上げたUDL(学びのユニバーサルデザイン)の考え方では、子供が混乱せずに学習にアクセスできる環境を整えることが重要だということを書きました。この考え方は生活指導上の課題に対しても有効です。
動線の工夫は、個人の行動の安定だけでなく、学級全体の落ち着きを生み出します。教師が「静かにしなさい」「提出物を出しなさい」と繰り返すよりも、環境を一度整える方が、子供にとっても教師にとっても負担が少ないのです。
教師にとっては子供たちを精神的に追い詰める「行き過ぎた」指導を避けることになりますし、子供たちにとっては無用な教師からの「圧」を受けずに済みます。そのため教師と子供との関係悪化を避けることにもつながります。
