学級の安心感をつくる-見通し・構造化の基本-|特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術 #3

一人一人の子供の困難さを丁寧に見取ることに定評のある山田洋一先生の連載です。特別支援教育の視点を取り入れて、どの子にとっても学びやすい学級づくりをしていきましょう。
執筆/北海道公立小学校教諭・山田洋一
目次
はじめに
「先生、次は何をするんですか?」
1時間目が終わった直後、Aさんは少し不安そうにそう尋ねてきました。時間割は黒板に書いてあり、学習の流れも説明したつもりでした。それでもAさんは、休み時間が近づくたびに落ち着かなくなり、教室を歩き回ることが増えていました。
一方で、同じ学級の別の子は、特に気にする様子もなく次の活動に移っていきます。
この違いは何なのでしょうか。
それは「理解力」や「やる気」の差ではなく、見通しをもてるかどうかの差であることが少なくありません。
今回のテーマは、子供が安心して過ごせる学級をつくるためのポイントである「見通し」と「構造化」についてです。
教育活動の目的とゴールを明確にする
子供が不安を感じやすいのは、「何をすればよいのか分からない」ときです。教師にとっては当たり前の流れであっても、子供にとっては、活動の目的や手順、終わりが見えないことがあります。
例えば、「ノートにまとめましょう」「このあと発表します」といった指示は、実は多くの解釈の余地を含んでいます。
・どこまで書けばいいのか
・何を書けば「できた」ことになるのか
・いつ終わるのか
こうした点が不明確だと、子供は迷い、不安になり、集中が続きません。
そこで重要なのが、教育活動の目的とゴールを明確にすることです。
①今日の学習で「できるようになること」は何か
②それは何のために(WHY)必要か
③最後に「何ができていればよいのか(ゴール)」
④成果物はノート(書くこと)なのか、発言なのか、行動なのか、それともそれらどれでもよいのか
これを短い言葉で示すだけで、子供は安心して活動に取り組めるようになります。
ゴールが見えるとは、「何に向かって」「今、何をすればよいか」が分かるということなのです。
1日の流れ・活動手順・空間・時間を構造化する
安心感を生むもう1つの重要な要素が、構造化です。構造化とは、「予測できる形に環境を整えること」と言えます。
1日の構造化
朝から帰りまでのおおまかな流れが分かっていると、子供は先を見通して気持ちを整えやすくなります。
学級掲示や黒板に、
朝の会→1時間目 〇〇、2時間目 □□…… →休み時間→給食…→下校〇〇:〇〇
と示すだけでも効果は大きいものです。
特に、行事や時間割変更がある日は、できるだけ早い段階で事前に伝えることが大切です。「いつもと違う」は、刺激に敏感な子供にとって大きなストレスになるからです。
例えば、自分に置き換えて考えてみましょう。今日は食器を持って食事をするよう周囲から促されたとしましょう。ところが、次の日は「持ってはいけません」と言われます。また、あるときは麺をすする音に関して、別段とがめられなかったのに、次の日には強く注意されます。しかもこうしたルールやマナーがランダムに繰り返される。こうなると、あなたは不安で食事をすることが嫌になってしまうことでしょう。
刺激に敏感な子はこうした不安に耐えながら、「ふつうの日」を送っています。
活動の手順の構造化
活動の手順も、「一度説明したから分かるだろう」ではなく、
・何を準備する
・どの順番で何をする(①……、②……、③……)
・終わったらどうする
といった流れを整理して、口頭と視覚によって伝えます。
また、記憶の苦手な子供にとっては、いつでも参照できることが大切です。これは特定の子への配慮ではなく、学級全体の混乱を減らす工夫です。
空間の構造化
教室という空間も、構造化の対象です。
・話を聞く場所
・作業をする場所
・静かに過ごす場所
これらが視覚的に分かることで、子供は「今、この場でどう行動すればよいか」を理解しやすくなります。
例えば、「先生から説明を聞く場所」「友達と相談をしながら課題に取り組む場所」「1人で静かに課題に取り組む場所」などが、パーテーションや机の配置などによって明確に伝わるようにしておくとよいでしょう。
こうした配慮が、注意や叱責に頼らずに済む学級づくりにつながります。
時間の構造化
見落とされがちですが、時間の構造化は子供の安心感に大きく影響します。
「あと5分で終わります」
「もうすぐ切り替えます」
「〇時〇分から△時△分まで、□□をします」
こうした言葉だけの予告は、時間の感覚がつかみにくい子にとっては十分とは言えません。
・残り時間が目で見て分かるタイマー
・活動の「始まり」と「終わり」を示す合図
・「今は全体のどのあたりか」を示す進行表示
これらがあることで、子供は心の準備をしやすくなります。突然の切り替えがなくなると、立ち歩きや不満が減ることも多くあります。
また、授業の流れについても、ある程度同じ流れで進めることが大切です。
「課題提示→ノートに書く→例題を読む→例題を解く→解き方を説明する→……」のような同様の流れで進むとよいでしょう。このことは、授業への見通しをもてるということにおいて重要です。
しかし、大切なことは時間を構造化することは、子供を急かすためのものではないということです。それは、見通しをもって行動できるようになるための段階的な支援なのです。つまり、子供がいずれは自分で主体的に行動できることを目的としたある段階での支援だということです。
視覚的支援は全員に効く

構造化を支える重要な手段が、視覚的支援です。
視覚的支援という言葉から、「特別な支援が必要な子のためのもの」という印象をもつ方もいるかもしれません。しかし、実際には、すべての子にとって分かりやすい環境づくりなのです。
・今日の予定を掲示する
・活動手順を短い文や図で示す
・終了や切り替えをタイマーやカードで知らせる
これらは、聞き逃しをカバーし、言葉だけの指示よりも理解しやすく、気持ちが不安定なときでも情報を受け取りやすくします。
前出Aさんの学級でも、簡単な1日の予定表と活動手順カードを掲示したところ、「次、何ですか?」と聞かれる回数は大きく減りました。結果として、教師の声かけも少なくなり、学級全体が落ち着いたのです。
学級の安心感の有無は、個々の子供たちの特性だけで決まるものではありません。同じ子供でも、見通しがなく、先が読めない環境では不安やストレスを感じやすくなり、見通しがあり、構造化された環境では本来の力を発揮できることが多くあります。
つまり、子供の行動や学習の姿は「その子の問題」だけではなく、広い意味での教室環境のあり方を映し出していると言えるのです。
子供が落ち着いて学び、関わり、挑戦できるかどうかは、日々の教育活動の「内容」と同じくらい、その活動が行われる環境に左右されています。
次回は、この安心できる学級を基盤に、子供と一緒につくる学級ルールについて考えていきます。

山田洋一(やまだ・よういち)●北海道公立小学校教諭。1969年北海道札幌市生まれ。教育サークル「人間」共同代表。日本学級経営学会理事。著書は『マンガでわかる 10代のための人間関係の「ピンチ!」自分で解決マニュアル』(小学館)、『マンガでわかる教育技術 ほめ上手・叱り上手になるための対話術』『クラスを支える愛のある言葉かけ』『「むずかしい学級」対応マップ』(明治図書出版)ほか多数。
参考文献/
・髙原隼希『学びのGOAL UDLで学びを舵取りできる子どもを育てる』(明治図書出版)
・山田洋一『「むずかしい学級」対応マップ』(明治図書出版)
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イラスト/高橋正輝
