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行動の課題にどう向き合うか:叱る前にできる支援のステップ|特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術 #7

連載
特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術
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北海道公立小学校教諭

山田洋一
特別支援教育の視点を取り入れた学級経営術 バナー

一人一人の子供の困難さを丁寧に見取ることに定評のある山田洋一先生の連載です。UDL(学びのユニバーサルデザイン)の考え方に基づき、どの子にとっても学びやすい学級づくりについてアドバイスします。

執筆/北海道公立小学校教諭・山田洋一

はじめに

子どもを叱っている場面のイメージイラスト

学校現場では、子供の行動に対して「叱る」ことが日常的に行われています。叱ることは、危険な行動を止めたり、集団の秩序を守ったりするために必要な場面もあります。しかし、叱責が子供の成長や学級の安定にどのような影響を与えるのかについては、これまで実践的に検討されてきたとは言えません。

近年の研究では、叱ることの効果は限定的であり、むしろ誤った叱責は教師と子供の関係を悪化させる可能性が高いことが示されています。

この記事では、叱ることの効果を整理したうえで、叱る前に教師ができる支援のステップを解説します。

よくある教室場面から考える

プリントの分からないところを隣の子に聞く子供

授業中、教師が「ほら、後ろの二人、関係ない話をしない!」と注意しています。ところが、その二人の子供は、プリントの問題の意味が分からず、互いに確認し合っていただけでした。つまり、彼らの会話は「関係のない話」ではなく、学習に必要なやり取りだったのです。しかし、教師はその意図を理解できず、さらに強い口調で「そんなに大事な話なら、前に来てみんなの前で話してみろ!」と叱責を続けます。

このような誤解は、教師と子供の関係が日頃から十分に築かれていない場合に起こりやすくなります。二人の子供は少しふざけた様子で「はーい、すみませーん」と返答しますが、その背景には、教師との関係が良好ではないことがうかがえます。教師は「指導」のつもりで叱っているかもしれませんが、子供にとっては「理解されていない」「責められている」という感覚が残り、さらなる関係悪化につながります。

「ほめること」と「叱ること」はどちらも教育において重要です。しかし、誤ったほめ方が子供との関係に大きな悪影響を与えることは少ない一方で、誤った叱り方は教師と子供の関係を損なう大きな「破壊力」をもっています。だからこそ、叱ることの効果を正しく理解し、叱る前にできる支援を丁寧に積み重ねることが重要です。

叱ることに効果はあるのか

「叱ること」の児童への影響について、1年間にわたって小学校149学級、要支援傾向の児童311人を縦断観察したアメリカでの研究があります。

①叱責はその場の行動を止めることがある

特に、命に関わる危険な行動や、集団生活を安定させるための基本的なルール違反では、叱責が制止として機能します。これは、叱ることの「短期的な効果」と言えます。

②長期的には問題行動を減らさない

叱られたことで一時的に行動が止まっても、行動の背景にある困りごとや理解不足が解消されないため、同じ行動が繰り返される可能性が高くなります。叱責は「行動の理由」に働きかけるものではないため、長期的な改善にはつながりにくいのです。

③授業参加を増やさない

叱られた経験は、子供に「授業は安心して参加できる場ではない」という印象を与えます。その結果、授業への参加行動が低下することがあります。叱責は、学習への意欲や主体性を高める働きはもちません。

これらの結果から分かるのは、叱ることには「不適切な行動を止める」という短期的な役割しかないということです。教育現場で伝統的に行われてきたように、命に関わる危険や集団の秩序を守るための最低限のルール違反など、明確な目的をもって叱ることは必要です。しかし、それ以外の場面での叱責は、子供や学級の状態を改善するどころか、関係を悪化させる可能性があります。

別の研究では、「ほめることが多い教師の学級では、児童の学習参加が高まる」「叱責が多い教師の学級では、問題行動が増える傾向がある」という結果も示されています。つまり、叱ることは「行動を止めるための最終手段」であり、子供の成長や学級づくりの中心的な方法ではないのです。

叱る前にできる支援のステップ

叱責が長期的な改善につながりにくいのであれば、教師は「叱る前にできる支援」を考える必要があります。ここでは、行動の背景を理解し、子供が自力で行動を調整できるよう促すためのステップを示します。

ステップ1:行動の背景を理解する

子供の背景を理解しようとする先生。プリントのこの部分の意味がわからないのですね。もう一度説明しますので、安心してください。

子供の行動には必ず理由があります。

・学習課題の意味が分からない
・不安や緊張がある
・周囲の状況が把握できていない など

子供の行動の「理由」を理解することが最初のステップです。

誤解に基づく叱責は、関係を悪化させるだけでなく、子供の困りごとを見逃すことにもつながります。行動の背景を理解するためには、子供の視点に立ち、状況を丁寧に観察することが欠かせません。

ステップ2:安心して行動できる環境を整える

子供が安心して学習に向かえるよう、教師側の「関わり方」を調整します。

・声のかけ方
・距離の取り方
・表情や態度 など

教師の関わり方は、子供の心理的安全性に大きく影響します。

心理的安全性が高まると、子供は自分の困りごとを言語化しやすくなり、行動の改善が自然に進みます。叱る前に、子供が安心して話せる雰囲気をつくることが重要です。

一方、教師が威圧的な態度を常に取り続けている場合、子供には防衛機制が働き、自分の「非」を認められなくなったり(虚言や作話)、行動を振り返ることができなくなったりしてしまいます。

ステップ3:行動を選びやすくする手立てを示す

行動の選択肢を事前に具体的に示し、子供が「どうすればよいか」を理解できるようにします。

・課題の手順を示す
・役割を明確にする
・選択肢を提示する など

行動を支える「環境側の工夫」が重要です。

UDL(学びのユニバーサルデザイン)の観点では、子供が自分に合った方法で学習に参加できるよう、複数の手段を提示することが推奨されています。行動の改善も同様で、子供が選びやすい環境を整えることが効果的です。

ステップ4:できた行動を肯定的にフィードバックする

叱責ではなく、できた行動を肯定的に伝えることで、子供は「次もやってみよう」と思えるようになります。肯定的なフィードバックは、学級の雰囲気を安定させ、問題行動の減少にもつながります。

肯定的なフィードバックは、単に「ほめる」のではなく、子供の行動の具体的な部分を認めることが大切です。

静かに話を聞こうとしていたね。

分からないところを友達に確認できたね。

などのように、行動のプロセスを認めることで、子供は自分の成長を実感できます。

まとめ

叱ることは、危険やルール違反を止めるための「短期的な手段」にすぎません。子供の行動を長期的に改善し、学級をよりよい方向に導くためには、叱る前にできる支援のステップを丁寧に積み重ねることが不可欠です。

行動の背景を理解し、安心できる環境を整え、行動の選択肢を示し、肯定的なフィードバックを行うことで、子供は自分の力で行動を調整できるようになります。叱責に頼らない支援は、教師と子供の関係を安定させ、学級全体の学びの質を高めることにつながります。

【参考文献】
・山田 洋一『クラスを支える愛のある言葉かけ』(明治図書出版)
・山田 洋一 、小林 雅哉『マンガでわかる教育技術 ほめ上手・叱り上手になるための対話術』(明治図書出版)


山田洋一(やまだ・よういち)●北海道公立小学校教諭。1969年北海道札幌市生まれ。教育サークル「人間」共同代表。日本学級経営学会理事。著書は『10代のための人間関係の「ピンチ!」自分で解決マニュアル』(小学館)、『マンガでわかる教育技術 ほめ上手・叱り上手になるための対話術』『クラスを支える愛のある言葉かけ』『「むずかしい学級」対応マップ』(明治図書出版)ほか多数。

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イラスト/イラストAC

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