子供が安心できる教室環境における「色彩」とは?【先行研究から学ぶ 学級経営の極意Ⅳ④】

子供が多様な他者と関わりながら、必要な資質・能力を身に付けるために、教師はどのような学級経営をしていけばよいのでしょうか。学級経営を長年、研究・実践してきた稲垣孝章先生が、先行研究を例に挙げながら、子供のよりよい成長を促す学級経営の方法について解説します。第4回は、教室環境ににおける「色彩」について解説します。
執筆/埼玉県東松山市教育委員会教育長職務代理者
城西国際大学兼任講師
日本女子体育大学非常勤講師・稲垣孝章
「色彩心理学」という分野があります。これは、色彩が人の心や行動に与える影響について研究する分野の学問です。教室内を見回してみると、掲示物の台紙となる色画用紙の色合いやカーテンの色合い等、学校には様々な色彩があります。しかし、掲示物等について、「色彩への配慮」は、あまりなされていない現状があるように感じます。
そこで、掲示物等について「色彩への配慮」を効果的に取り入れるに当たって、次の3つのキーワード「色彩に関する先行研究」「学校生活における色彩の特質」「効果的な色彩を選ぶ学級経営の視点」でチェックしてみましょう。
目次
CHECK① 色彩に関する先行研究
今回は、色彩心理学の研究者であるルイス・チェスキン(Louis Cheskin)が提唱した「感覚転移」の研究を取り上げます。人々が製品のパッケージやデザインから受ける無意識の印象や感覚が、製品そのものに対する評価に転移するというものです。
【実験例】
同じコーヒーを異なる色の缶に入れて被験者に試飲してもらいます。
〔濃い青色の缶〕…「濃くて味がしっかりしている」と感じたとしています。 〔赤色の缶〕…「味が濃すぎる」と感じたとしています。
実際には、コーヒーは同じものですが、缶の色が被験者の味覚に影響を与えたという結果が出ました。
また、洗剤のパッケージの色を明るく、清潔感のある色に変更した実験において、被験者は洗剤の洗浄力が向上したと感じたということが報告されています。
色彩が人間に与える影響についての研究結果を確認します
色彩心理学では、色彩が人間に様々な影響を与えるとしています。
〔生理的な影響〕… 赤色は、交感神経を刺激して気分を高揚させたり、血圧を挙げたりする効果があるとされる。色彩が自律神経系に働きかけることで、体温や血圧、脈拍などに影響を与えるということが分かる。
〔心理的な影響〕…青色は、心を落ち着かせる効果があり、赤色は情熱や興奮を喚起する効果があるとされる。色が人間の気分や感情を左右する影響があるということが分かる。
〔行動的な影響〕…企業のロゴや商品のパッケージデザインなどが、消費者の購買意欲を喚起する効果があるとされる。色が人の行動や意思決定に影響を与えるということから、色彩は、人間に様々な影響を与えているということが分かる。
様々な色がどのように人に影響するのかを検討して学級経営の参考にしていきましょう。
CHECK② 学校生活における色彩の特質
学校生活において、子供たちは様々な色彩を目にしています。学校生活で長時間、生活や学習を行う教室の色彩は、学級経営おいて特に大切な視点です。
学級生活を送る中で、子供たちは楽しい気持ちになったり、安心感をもったりすることがあります。色彩と感情は互いに結び付きやすい関係にあり、リラックスしたい時や元気になりたいなどと感じる時には、それぞれそのような感情を導きやすい色彩があります。
ロンドンのテムズ川にある「ブラックフライヤーズ橋」は、長年自殺の名所でした。どのように注意喚起しても自殺者は減りませんでした。しかし、黒く塗られていた橋を明るい緑色に塗装したところ、自殺者が大きく減少したということです。明るい緑色が、自殺という行為に思い悩む人の心に影響を与えたとされています(※現在は、白と赤に塗り替えられています)。
また、カリフォルニア州のある刑務所では、受刑者の喧嘩や暴動などのトラブルが絶えなかったところ、凶悪犯収容部屋の壁の色を優しいピンクに変えたところ、喧嘩や暴動の発生率が低下したということです。ピンクには、人の心を優しく穏やかにする効果があるとされます。
子供たちにとって、よりよい教室環境となるような色彩についても、配慮できるような学級経営を展開していきましょう。
人に与える色彩の傾向性を確認します
色が人に与える影響を踏まえて、学級経営を構想していきましょう。
- 暖色と言われる「赤・橙・黄色」などに対し、人は太陽や火といったイメージをもちやすく、暖かい感じをもつ。また、暖色は、「行動的な感情」をもちやすくなる。
- 寒色と言われる「青緑・青・青紫」は、水を連想し、冷たいイメージをもつ。寒色は、感情的には、「落ち着いた気分」になりやすい。
- 同じ色でも、「鮮やかな色」は、固有の色が強く出やすく、「薄い色や淡い色」は、固有の色に関係なく、優しい感情を引き出しやすい傾向にある。
気分が落ち込んでいる時に、暖色の鮮やかな色はよいのですが、赤や橙の鮮やかな色は印象が強すぎる面があります。寒色の青であっても、鮮やかな青は気持ちを前向きにするとされています。教室環境では、場に即した色合いになるように、教師として適切な配慮に努めていきましょう。
