<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」第2部・学校づくり編 #9(最終回) 対談・菊池省三×佐藤郁子「コミュニケーション力を育てる学校経営」

菊池実践を追試している3校の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載第2部も、ついに最終回。今回はまとめとして、愛媛県松山市立道後小学校の佐藤郁子校長と菊池先生の特別対談をお届けします。

目次
佐藤郁子校長より、学校の現状報告
日々、子供たち同士のトラブルは多少ありますが、それらを指導のチャンスと捉え、その都度自分の行動を振り返り、未来を見すえて指導していくように教職員に促しています。
3学期以降、欠席数も減少しています。市教委の主幹からも、「道後小学校の欠席数の報告を毎月見ていますが、少ないですよね」とほめていただきました。全校挙げての菊池実践への取組の成果もあり、「ほめて、認めて、励まし、応援する」「言葉で人を育てる」の合言葉は、教職員にも子供たちにも浸透していると感じています。
職員室も温かい雰囲気になり、放課後の雑談が以前より盛り上がっています。
校長として3学期は、「任せて待つ」姿勢で取り組んでいます。各教員がそれぞれの得意なことを活かしながら日々の教育活動を行っています。私のゴールイメージをリーダーたちに伝えることで、いろいろなことが前進しています。階段を一つ一つ上がるようにゆっくりと目標に向かって進んでいることを実感しています。

全学級で特別授業を実施
──2026年2月末、全国各地の菊池道場の先生方が道後小学校に集い、全学級で飛び込み授業を行いました。
菊池 全学級で飛び込み授業ができるということ自体が、佐藤校長が行ってきた学校経営の成果ではないかと思います。校長1人が旗を振ったとしても成立するものではありませんから。
佐藤 もともと、松山市で菊池道場の冬祭りを開催する計画がありました。
対話・話し合いを軸としたコミュニケーション力を伸ばす指導について学ぼうと、全国から勉強熱心な先生が集まってきます。「せっかくの機会、自分たちの教室でも日々実践を蓄積している菊池道場の先生方に、うちの学校で飛び込み授業をしてもらえたら、我が校の教職員の刺激にもなるのでは」と思いついたんです。
この2年間、対話・話し合いの力を高めるため、菊池先生にわが校で何度か飛び込み授業をしてもらいました。菊池先生の授業を受けた後、子供たちは決まって「今までで一番楽しい授業だった!」と目を輝かせます。普段の “正解を教える” 絶対解の授業ではなく、自分で答えを見つけていく “納得解” の授業に、大きな刺激を受けたからでしょう。
今年度は本校でも、菊池実践をベースに様々な活動を取り入れたり、私自身も全教室で授業を行ったりしてきました。一部の教職員たちは、自ら熱心に学び合うようになりました。そこでこの機会に、菊池道場で学ぶ若い先生方の授業を参観してもらうことで、我が校の教職員も、対話・話し合いの授業がどういうものなのか、より深く理解できるのではないかと考えたのです。
菊池 「学校は楽しいところだ」という思いで学校経営を見直し、コミュニケーションを軸に取り組んできた流れがあったからこそ、3年間の集大成として、全学級で飛び込み授業を行うという、とんでもない企画が成り立ったんですね(笑)。
佐藤 私自身退職を控える最後の年度ということもあり、私が持っているものは全て、“恩送り” として、教職員に伝えていきたいと強く思い、年度最初の職員会議で、自分の思いを全開にして語りました。
こうして取り組んできた1年間でしたが、何よりうれしかったのが、学校評価です。子供たちの評価も保護者の評価も「学校が楽しい」という声が非常に多かったのです。今年度は、学校評価を全項目A判定として、教育委員会にも提出することができました。 いつでもどこでも誰とでも話ができる教室の中で、自分の存在意義が価値づけられる。そういう教室であれば、子供は絶対に学校に来たくなり、不登校は減ると考えています。

菊池 休み時間には和気あいあいと自由に話していた子供たちが、授業が始まった途端にのびのびした姿を出せなくなってしまう。いろいろな縛りが子供たちをがんじがらめにしてしまうからです。学校生活の多くを占める授業が、子供たちにとって「楽しい」「おもしろい」ものでなければ、学校生活も窮屈なものになってしまうでしょう。
だから、授業改善もまずはそこに視点を置いていかなければならない。授業改善というと、指導法ばかりに目が向きますが、言葉かけや立ち位置、板書の仕方など、教師が日常的に無意識に行っている指導1つとっても、大きな意味があると思っています。
例えば、子供たちに写真や資料を見せるとき、私は教室中を歩き回って見せるようにします。子供たちが自由に立ち歩いて意見を交流するときや、2つのグループに分かれて意見を戦わせるときは、子供たちの中に踏み込んでいきます。 教師が教室の前に立ったままだと子供同士の距離が縮まらず、教師が常に “権力者” のままで、教師中心の授業になります。
一方、教師が子供たちの中に入って行けば、子供中心の授業になり、子供たちも学びの中で余所行きの顔を出さなくてもよくなります。立ち位置1つとっても、これだけ意味が変わってくることを、先生方がもっと意識していく必要があると思います。
佐藤 私が授業をしたとき、子供たちから「校長先生は、なぜ後ろで話をするんですか?」と尋ねられたことがあります。例えばディベート的な話し合いのとき、私は後ろに立ったまま話をするんです。「後ろだと、みんなが話し合っている姿がよく見えるからだよ」と答えると、子供たちが「へえーっ」という表情になります。
菊池 教師が前にいると、子供たちには「見られている」という緊張感が走りますよね。
佐藤 そうです。今年度はそういう小さな、だけど大きな意味を持つ指導のポイントを、1年間を通して教職員に伝えてこられたかな、と振り返っています。もちろん教職員全員が賛同して取り組んだわけではありませんし、取り組み方にも温度差はありました。それでも、全校を挙げて実現できたことは、私が目指していた学校経営の完成形の1つではないかと思います。
菊池 どうしても、教職員間に温度差は出てしまいますね。
佐藤 全学級でコミュニケーションゲームやミニディベートを行う「輪話和タイム」の帯時間に全学級を回ってみると、あちこちの教室から、先生と子供たちの楽しそうな声が廊下まで聞こえてきます。一方で、他の教科のプリント学習を黙々と進めている教室もありました。
「輪話和タイム」は全校で決定し、研究の柱にしている時間帯であり、何をしてもいい “隙間” の時間ではありません。プリント学習も生徒指導も必要なときはあるだろうけど、それは他の時間でもできることです。
そこで職員会議で、「みんなでやると決めたんだからやりましょう。普段、子供たちに『ルールを守ろう』『みんなで取り組もう』と言っているのに、先生たちが決めたことをやらないのはどうなのか」と強く言いました。
すると、翌日からガラッと指導が変わりました。「本腰を入れて取り組まないといけない」と感じてくれたのでしょう。もちろん、次の職員会議では、その姿をほめました。
菊池 「“吠えて”、認めて、励ました」んですね(笑)。
佐藤 吠えたのは一度だけですから(笑)。
菊池 教職員集団も、「やる気がある」「普通」「やる気がない」という「2:6:2の法則」の集団心理が見られます。集団全体の力を上げていくときに必要なのは、中位の6を上位に持っていき、合わせた8の力をさらに上げていくことだと思っています。
佐藤 共通理解が得られない教職員に対しては、どうすればいいのかといつも考え込んでしまったのですが、菊池先生が「下位の2に目を向けるよりも、上位2と中位6を上げていけばいい」とアドバイスしてくださったことで、私も気持ちが楽になりました。
