<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」第2部・学校づくり編 #7 山形県小国町立小国小学校6年1組③

菊池実践を追試している3校の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。第2部では学級にとどまらず、学年、学校、地域を変えていくことを視野に入れた話し合いの授業を展開、レポートします。今回は小国小学校の曽根原 隼先生の学級で2026年2月に行われた授業をレポート。

目次
担任・曽根原 隼先生より、学級の現状報告
前回(2025年10月)の授業から、子供たちは自分のエピソードを語ったり、お互いに聞き合ったりすることの大切さを強く意識するようになってきました。
ディベートや熟議の話し合いを中心に行ってきたこともあり、根拠を大切にしつつ話し合うことはできるようになっていました。しかし、自分の内側にある思いや体験を語り合うまでにはなかなかいきませんでした。菊池先生の授業を通して、子供たちはエピソードやきっかけとなる体験を話すことを意識し、お互いに問いかけ合うようになってきました。
ほめ言葉のシャワーでも、これまで見つけたことがないような細かい友達のよさを見つけようとする子供たちが増えてきました。
しばらくすると、ほめ言葉のシャワーでほめられたことや自分が成長したいことを続け、さらに伸びようとする子が出てきました。全員が本気になり、ほめ言葉のシャワーの主役を応援する目も大きく変わってきたように感じています。
菊池先生による授業の前時:曽根原先生の授業(3時間目)の概略
2学期から取り組んできた「価値語事典」を完成させた子供たちは、地域に向けて「価値語事典」づくりを通した自分たちの学びを伝えることにした。
3時間目は、5人ずつ4つのグループに分かれ、グループごとに、地域の保育園長や小国小の教師たちに向けて学びの発表会を行った。自分が担当した価値語について1~2分間発表し、参観者から質問や感想を受け、対話を楽しんだ。
4時間目・菊池先生の授業レポート
3・18
「これは何の数字でしょうか?」
菊池先生が尋ねると、子供たちは近くの人と3秒間相談し合い、発表した。
「卒業式の日です」
みんなが大きな拍手を送った。
菊池先生がさらに黒板に曲線を描き、
「これはなんの曲線でしょう?」と尋ねた。
「成長曲線です!」
指名された男子が元気よく答えた。
菊池先生が曲線を指しながら、
「1回目の6月はこの辺り、2回目の10月はこの辺りかな」と曲線の一部を指した。
そして曲線の最後の部分を指しながら、
「3時間目のみなさんの発表を聞きながら、卒業式に向かって成長曲線がグーッと上がっていっているな、と感じました。すてきな宝物をもらいました」と話した。
今日行った発表会は後日、保護者に向けても行う予定だ。
「そこで、もっともっと発表の質を上げる授業を今からしたいと思います」
子供たちは期待の表情でいっぱいになった。
対話力=
✕ 話す
菊池先生が黒板に書き、
「今日の授業のような発表は、どちらかというと、一方的に話すスピーチでした。でも、対話力は、『話す』と、これ(
)がセットになるんですね。
に何が入るか、もうわかりますね?」と問いかけると、何人かが手を挙げた。
「早いね。もう手を挙げたんだね。じゃあ、2秒だけ、近くの人と相談しましょう」
短い相談タイムが終わると、菊池先生が、
「改めての自己紹介を忘れておりました。“きく” ち、でございます」と笑いながら言うと、何人かが笑った。
「いいねえ。前回も言いましたが、リアクションの3つのポイントは、『うなずく』『軽く驚く』『上手に笑う』だったね。じゃあもう一度やってみるね」と、菊池先生が再度、
「先生の名前は、“きく” ち、と言います」
子供たちから「おおーっ」という声が挙がった。
「いいね。リアクションが良くなりましたね。では、
に何という言葉が入りますか?」
全員がピシッとした指先で手を挙げた。
正解は、「聞く」。
「今日は、こっちの『聞く力、聞き合う力』について考えてみたいと思います。さっきみんながやった『うなずき』や『軽く驚く』のように、聞く力をつけるために大切だと思うことをたくさん書いてもらいます。1分間成長ノートに書きましょう」
子供たちがサッと鉛筆を持った。
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3時間目の授業では、子供たちは「話す」ほうに力が入っていました。発表においては、「話す」ことと同じくらい、「聞く」ことも大切だと意識させるため、この授業では、「聞く」ことに目を向けさせました。
聞く力・聞き合う力の公式から、一番力を入れたいことを考える
個々がノートに書いた後、3時間目と同じ発表グループに分かれて意見交換。その後、とっておきの1個を発表した。
最初のグループが「笑顔」を挙げると、菊池先生が黒板を指さしながら、
「『笑顔』は、ここに書いた『うなずく』の隣に書くと思いますか、それとも離して書くと思いますか?」と尋ねた。多くの子が「離して書く」に挙手した。
その後、他のグループが発表した「つぶやく」「集中して聞く」「相違点を考える」「自分にも問いかける」「リアクション」についても、みんなに書く位置を尋ねながら、菊池先生が板書していった。
「友達に聞いたことを、『自分はどうか』と自分自身に問いかけることも対話だと、前回(10月)の授業で話しましたね」と菊池先生が話しかけると、みんながうなずいた。
なぜ聞き合うのか。
・相手を好きになる
・一緒に成長する
菊池先生が板書しながら、「聞くことは、自分自身との対話なんだね」と話した。
全てのグループが発表を終えると、菊池先生が、
「自分を開放しないと、明るい声を出すことができません」と言いながら、発表に出てこなかった「ちょうどいい大きさの声」「明るい声」を足して板書した。
子供たちの発表をまとめながら、菊池先生が、黒板上に1つの公式を完成させた。
聞く力・聞き合う力=(言葉<あいづち、つぶやく、問いかけ合う>+声<ちょうどいい、明るい>+思考<自分も、相違点>+非言語<笑顔、うなずく>)×相手軸<相手、一緒>、♡
菊池先生が、「対話・話し合いの公式と似ているけれど、聞き合う公式では、『思考』の部分がより出てくるんですね」と話すと、3時間目の発表を思い出したのか、多くの子が大きくうなずいた。
「この学級では、『どれを一番大事にしていくか』ということをランキングしていきたいと思います。まず自分が『次の発表会で頑張りたいなあ』『今後のほめ言葉のシャワーで力を入れたいな』と思ったことを3つ考えます。その後、グループで話し合い、3位までランク付けします」
菊池先生がルールを説明すると、子供たちが近くの友達と、
「3位はあいづちかなあ」「やっぱり1位は笑顔だよね」とニコニコしながら “予想” をつぶやいた。
グループで決めたランキングを、黒板に書き出した後、グループのランキングを、1位=3点、2位=2点、3位=1点で合算すると、6年1組のランキングが決まった。
1位=笑顔
2位=明るい声
3位=あいづち
菊池先生が、
「次回のお家の方たちへの発表会や、ほめ言葉のシャワー、質問タイム、もちろん授業中の学習の基本は『聞き合う』ことです。3月18日の卒業に向けて、一人ひとり決めた項目を頑張ってほしいと思います」と話し、
「そのとき、大切なのがこれですね」と、聞く力の公式の♡を指した。
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話すスピードに対して、聞くスピードは2~3倍、さらに考えるスピードは、聞くスピードの何倍にもなると聞いたことがあります。
相手の話がつまらない場合、聞き手は飽きてしまったり、他のことを考えてしまう。双方にずれが生じるわけです。そうならないよう、話し手はいかに関心を持って聞いてもらうかを工夫します。エピソードを入れたり、大きな間を取ったり、聞き手に問いかけたりする中で、コミュニケーションが活発になっていきます。
充実した発表を成立させるためには、「頑張るぞ!」という意識付けと、発表するためのルールや進行などの技術的な指導、「相手はどんなことを考えて話しているのかな」「自分はどうだろう」と思いながら話したり聞いたりする思いやりの気持ち、の3つの要素が必要になります。
意識付けや技術は “表層面” であり、思いやりや思考は “深層面” です。教師は、前者の2つには力を入れますが、3つめの思考については、あまり意識して指導していないように感じています。そのため、「ただ意見を出し合うだけ」のやらされ感があって、「対話・話し合いはおもしろくない」と苦手意識を持つ子供も少なくないのではないでしょうか。
3つの要素がある対話・話し合いの経験を積むことで、相手への信頼が強まり、「お互いに成長しよう」と、対話の質が高まっていくはずです。
「心」はどこにある?
「♡は心です。そもそも心はどこにあるんだろう? 自分の体を指さしてみてください」と菊池先生が問いかけると、みんなが「せーの」で指した。
4人が「心臓」、15人が「頭」だった。
●心臓
・どきどきする
●頭
・頭から体に指令が行くから
子供たちの意見を聞いた菊池先生が、「実はもう一つ、説があるんです」と話しながら、歌人の俵万智さんの写真を見せた。
「俵さんが、こんな短歌を詠んでいるんですね」
抱きしめて 確かめている子のかたち
心は
にあるという説
次に抱っこされている赤ちゃんの写真を見せながら、菊池先生が、
「俵万智さんは、心はどこにあると考えたのでしょう」と問いかけた。
近くの人と5秒間話し合った後、菊池先生が、
「『皮膚』です」と正解を明かした。
「抱っこされると安心する。頭は考えたり思ったりする。心臓は感情や感動が起こる。
みなさんは、価値語事典を作り、6年間の感謝とともに成長した事実を、小国の町の人たちや学校の先生、お家の方たち、たくさんお世話になった人たちに心を込めて、伝えました。俵万智さんは『心を伝えるために人間は言葉を発明した』と言います。でも心を伝えるのは言葉だけじゃないですね。
温かい心を、自分なりの方法で伝えてすてきな卒業式を迎えてください」
子供たちが大きな拍手を送った。
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対話・話し合いは、頭も心も体もフル回転させて行う活動です。
「授業でやらされるから」ではなく、「おもしろいな」と意思を持って対話・話し合いに臨むことで、子供たちがもっと軽やかになっていくはずです。
「なんのために話し合い・対話を行うのか」を、卒業というゴールまで、さらにはその先まで考え続ける子供たちを育てる覚悟が、教師には必要なのです。
菊池省三先生から曽根原先生へのメッセージ
教師として経験を積み、中堅の立場になると、自分自身の授業力の向上はもちろん、校内外で実践を伝えたりアドバイスをしたりしていく機会が増えます。
これまで曽根原先生が取り組んできた価値語指導やほめ言葉のシャワー、質問タイム、成長ノートの取組を、同じ学年の先生と協力し合い、隣の若手の担任も私の授業を参観に来ていました。リードしていく立場で授業を行い、参観してもらうことは、曽根原先生自身の貴重な振り返りにもなったのではないでしょうか。
年度途中で、描いていたゴールイメージと実際の子供たちの姿の差に、ご自身の力不足を省みておられたことがありました。ベテランだからといって、学級づくりがスムーズにいくわけではありません。あらためて教育の難しさに直面しながらも、しんどさから逃げずに、最後まで誠実に取り組もうとした姿勢に、「教師も学び続ける」ことの大切さをあらためて感じました。
価値語や熟議、学級会などについて、技術の指導については、十分されてきたことと思います。今年度の取組を俯瞰して省みることで、その先の、「子供たちがお互いに聞き合い、自ら深く考える能動的な学び」を一層高め、ダイナミックなものにしていくことができるはずです。
菊池省三先生による授業解説
3時間目、子供たちはグループに分かれ、みんなでまとめた価値語事典をもとに、校内の先生や保育園の園長先生に向けて発表を行いました。今日の授業の後、保護者に向けて再び発表すると聞きました。
発表を参観すると、友達の発表を熱心に聞く様子が見られましたが、もっと「聞き合う」ことができれば、より成長できると考え、「聞き合う」授業を行いました。
「聞く」とは、「思考する」ことです。
他の人の意見を一生懸命聞くことで、自分の中にある思考を深めることができるのです。
そのためには、単に聞くではなく、“一生懸命” 聞くことが大切です。
一生懸命聞くことで、質問が出てくるし、相手と被らないように表現を変える。問いかける中で、自分の意見が変わることもある。
否定的に聞かない、自分から話せなくても相手の意見をしっかり聞く、うなずきやあいづちを入れるなど、発表時のグランドルールは、表層的なものだけではなく、深い思考を促すベースでもあるのです。
聞く力に必要なことを尋ねたとき、子供たちから「相違点」という意見が出てきました。相手の意見を聞きながら、「私ならどう思うか」「私はちょっと違うな」と、自分と対話することを重要視した意見です。このような意見が出たら、「自分事として聞いていたから、そういう考え方が出てきたんだね」と教師が取り上げて「思考する」こととつなげて価値付けることが大切です。うなずきもあいづちも「自分の意見」と比べて出たものだととらえれば、「思考」とつなげることができます。
聞くことは、受動的ではなく、能動的な活動です。教師が、そこをしっかりと捉えることで、子供たちの「聞き合う」力が一層伸びていくのです。

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Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


