【木村泰子の「学びは楽しい」#54】特別支援教育の目的は何ですか?~すべての子どもの学習権を保障する学校をつくるために~
すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第54回。今回は、この夏に行われた研修会で、参加者の方々から寄せられた声を紹介しながら、特別支援教育の意味について考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

目次
夏の研修会の学びから
夏季休暇中、少しはリフレッシュされましたか? 私は連日、全国の先生方との学びを深めました。「未来をつくるのが学校」だからこそ、現状をどう変えていけばよいのかについて真摯に学び合いました。次期学習指導要領の論点整理でも多様な子どもたちを包摂する学校づくりの方向性が示され、「みんなの学校」をつくろうという機運が高まりつつある中で、「これまでの学校文化や組織をどう変えていけばいいのか」「まずは何から始めたらいいのか」と、これまでとは違った困り感※1や悩みを共有させていただくことができました。自分が行動しようとして、初めて困り感にぶつかるものです。
ただ、「多様性の包摂」については、戦後81年、まだまだ多くが過去を踏襲している中で、「みんなの学校」はつくりたいが「特別支援学級」をなくすことはできないと、困り感をもっておられるのが現状です。
この夏に日本学校心理士会※2の方々と学びました。今の学校現場の困り感につながる言葉をたくさんいただいたのでご紹介します。
・集団生活からはみ出す行動をする子どもを、何とかみんなと同じにさせようと教師が必死にしてきましたが、子ども同士の関係をつくることの大切さを改めて感じました。
・ 障がいはその子ではなく、社会のほうにあると思いながら、今まで自分が変わろうとしていなかったことに気づかされました。子どもが変わるのではなく、学校が変わる、周囲が変わる、まず自分が変わることを意識していきたいと思います。
・学校現場はやはり管理や指導ということが先行してしまっているなあと反省しました。人権を視点に、子どもに接していかなければと改めて思います。
・支援学校の小学校部に勤務していますが、途中で地域の学校から転入してくる子が多いです。理由は、元の学校に居場所がなくなったからです。地域の学校がみな大空小のようになればいいのにと思います。
・幼稚園では、みんなが同じ場で過ごし、遊び、そして学び合っています。しかし、小学校に入学すると、そういった幼稚園での経験が活かされていないと感じることが多々あります。幼保小連携も行われていますが、園と学校との違いが子どもたちの不登校につながっているのかと、とても考えさせられます。配慮を必要とする子どもも共に過ごしているのは当たり前のことです。担任一人では対応しにくいことも多いので、加配や他の教師にも協力してもらえる時もあります。しかし、近年は人手不足で、一人ひとりの話をよく聞いたり寄り添ったりといった丁寧な対応ができないのが現状です。うまくいかずに病んでいく先生も少なくありません。人と人、子ども同士、先生と保護者がみんなつながれるような環境になればいいと思います。
・特別支援教育は、周囲の子どもを育てることだと、すべての子どもに全力で関わり育てることだと、日頃考えていることを語っていただき、とても心強く思いました。就学支援判定会議で子どもや親を分断していることを、本当に毎年心苦しく思うお話をお母さん方から聞きます。何とかならないものでしょうか。
・特別支援学校の教員をしています。61歳になりましたが、やり直しをして、また子どもに向き合おうと思いました。
・学校はけんかするところ、失敗するところという話に共感しました。みんなでつくり上げる学校というのがイメージできなかったのですが、みんなが安心していられる場所があるということを、ドキュメンタリーを通しても知ることができてよかったです。
・教師もやり直し、子どももやり直しができるチャンスがあるのはよいことです。私自身もやり直しが必要な部分があるので、自覚してやっていきたいと思います。
・先生の実体験から話される様々な子どもたちとのエピソードを聴いていて、とても心が動かされるのを感じました。こんな風にできたらいいなと思いながら、いろいろな理由や言い訳を盾にして逃げている自分に気づかされました。特別ではなく、もっともっと当たり前のこと、子どもを知ること、そこからやっていきたいと思いました。
・周りの子どもを育てることの大切さを日々感じています。お互いに〇〇すると〇〇できるよ、落ち着くよ、など相手をよく知り、分かり合える関係をつくれるよう「つなぐ」を頑張りたいと思います。「すべての子どもの学習権を保障する」、これは教師人生で絶対に忘れてはならない、私たち教師の宿命だと感じました。
・私は現在、特別支援学校(知的)の小学部で教員をしています。 担任している学級は児童6名、 教員3名、介助員1名です。 先日、児童の1人とその保護者と一緒に児童の居住地校へ「交流 及び共同学習」に行ってきました。 小学校の通常学級の 36 名とイキイキと「鬼ごっこ」や「猛獣狩りに行こうよ」をしている児童の様子を見ていて、いろいろと考えさせられました。 今日の木村先生 のお話を伺って、教員にできることは本当にわずかで、「子ども同士の学び合い」ができることがいかに大切か、痛感いたしました。子どもが主体的に学ぶ力を信じて進んでいけるよう努力しようと思います。
・特別支援教育の捉え方を改めて考え直すきっかけになりました。どこかで大人側(学校)のやりやすいように制度化されている部分も多いと感じました。「すべての子に学習の機会」をという理念・ 軸がとても伝わりました。木村先生の子どもに対する関わり方、職員間のコミュニケーションの仕方がとても参考になりました。自分の教育観、自分の学級経営に生かしていきます。
・子どもの事実から人権を問う、子どもたちの行動や表情からその子の思いを知り、受け止め、認めていくことによって信頼関係を築いていくことが必要だと思った。 そして、自分自身の人権感覚を磨いていくことが大事だと分かった。
・私も「あの子がいないほうがいいな」「せっかくいい学校になってきたのに」という思いがありました。 そこのところを木村先生に学んで、やり直しをしていけるといいなと思います。やり直しで頑張ります。
・やり直し、っていうのは、いつでもできることから、少しずつやっていけたらと思いました。
・子どもは子ども同士の関係の中で育つことを改めて考え直しました。 その子の思いに、私自身がもっと寄り添わなくてはいけないと強く思いました。 個が育つ学校づくりに取り組んでいきたいです。
・「やり直しを何回もするけど、一瞬一瞬は本物」という言葉が響きました。日々の学校生活に困っている子どもたちを、周りの子どもたちとつないでいくこと、子どもたちの中で育てていくことの大切さを改めて感じました。「すべての子どもたちの学習権を保障する」ことを 大事にしていきたい。
・わかっているつもりでも、困っている子を困った子として問題視して枠に当てはめようとしている自分を改めて反省しました。声かけや周りのことの関係を考えていきたいと思います。
・今、私は障がいのある子どもたちの施設をしています。学校との会議で疑問に思うことも多いですが、障がいのある子もいずれは社会に出ます。その子の良いところが伸ばせていけるような関わりを続けたいと思いました。
・「肩書を横に置いたら……子どもとも人と人としての対面……」など、たくさんの心に残る言葉をいただくことができました。私もこれからも「子どもは子ども同士で育つ! 子どもと子どもの対等な関係をつなげるように……」 と、子どもたちと関わっていこうと思います。
・集団を育てるから個を育てること、周りの子が育つと障がいは長所に変わるということを、実践から具体的に学ぶことができました。 エピソードの数々が、人と人とのふれあいの中で生まれたものばかりでした。
・子どもの人権について具体的に考える機会になりました。また、みんなの学校の意味を正しく理解することができました。 私は私の場所でチャレンジしていきたいと改めて考えています。今の時代に欠けていること、必要なことをしっかり見極めたいと思います。
・「合理的配慮とは何か?」をあらためて再考するよい機会であった。
まだまだ紹介しきれないのですが、このように学校の外の方々からもエールを送ってくださっていると心強く感じています。
子どもと子どもをつなぐ
特別支援教育の目的は、自校のすべての子どもが育つことです。合理的配慮は、支援が必要な子が周りの子どもたちとともに学び合えるための手段です。そのためにもみんなの中で学び合う環境が不可欠です。
特別支援学級をつくらないことは特別支援教育をなくすことではありません。
目の前の一人の子どもの事実から学ぶことを忘れないで「子どもと子どもをつなぐ」。これが教員の仕事の最上位です。
学びの目的は「その子がその子らしく育つ」
これ以外にありません。
※1 困り感:「困り感」は登録商標です。本記事では一般的な意味で使用しています。
※2 日本学校心理士会:学校での子どもの心理的支援や教育相談に関わる専門家(学校心理士)の養成・研修・支援を行う団体。
〇特別支援教育の目的は、すべての子どもが育つこと。
〇すべての子が育つためには、合理的配慮によって、支援が必要な子も、みんなの中で学び合える環境をつくることが不可欠。
〇特別支援教育は、特別支援学級をつくることではない。分けない教育の中で、「子どもと子どもをつなぐ」ことが教師の最上位の仕事である。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、すべての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。
