【木村泰子の「学びは楽しい」#48】「減らす」のではなく、「ゼロ」が当たり前
すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第48回。今回は、木村先生に寄せられたお二人の先生の声をもとに、今、学校現場が抱えている問題について考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

目次
自分の学びを問い直す
あと1か月で今年度が終わりますね。それぞれの学校現場で問い直しは進んでいますか。問い直しは、他者を批判したり、他者に任せたりするものではなく、主語は自分です。
このコーナーは若い先生たちやベテランの先生たち・職員の方・管理職・地域の方々・保護者の方など様々な立場の方が読んでくださっています。多様でかけがえのない学びの場だと感謝しています。
私自身、幼・小・中・高・大と全国のいろんな場で授業をさせていただいていることが何よりもの学びです。目の前の子どもたちや学生の皆さんと対等に学ぶ自分であったのかと毎回問い直し、アップデートしています。自分の思う授業ができない、と子どものせいにしている自分がいないかと、常に自分の学びを問い直しています。うまくいかないことを人のせいにしないで自分を問い直す習慣がつけば、「学びは楽しい」のです。
教育は子どもを変えることですが、学びは自分を変えることです。大人の自分がほんの少し変われば、子どもたちは自ら変わっていきます。
ある校長先生の声から
一人の校長先生がこのコーナーに貴重なメッセージを届けてくださいました。
次期学習指導要領の論点整理には、「多様な子供たち」を「みんなで育む」とあり、「みんな」とは「教職員・子供・保護者や地域住民・地方公共団体の職員・民間の担い手」と言語化されています。
まさに、このコーナーでともに学ばせていただいている皆様方です。そこで、校長先生からいただいたメッセージを共有し、自分を問い直したいと思います。
現場で学校を守り切れなくて苦しむ中、県のリーダーにぜひ考えてほしいのです。
① 「多様な人々を受け入れる社会…」について、外国籍児童・生徒の増加を踏まえ、今後の共生社会では、これらのマイノリティを「受け入れる」という言葉で表現されているように受け止めました。 「受け入れる」という言葉には、メジャーがマイノリティの存在を「受け入れてあげる」という意識があります。つまり、メジャーが受け入れてあげないと、マイノリティは存在できないのです。教師が子供の前で「受け入れる」という言葉を平気に使うことで、外国籍の児童は自分たちが日本人の下に存在する者という価値観を教えていることになります。
インクルージョン教育についてもおなじです。共生社会は字の通り、「共に生きる」(対等)でなくてはならないと考えます。 あらゆる他者を価値ある存在として認める豊かな人間性を育むために、県教育行政のトップには「受け入れる」という言葉の響きに心を配っていただきたいと思います。
② 教員の欠員について 定数を満たさない実態は違法状態と考えます。「減少」ではなく「0」でなければなりません。なぜならば、たった「1」という数字が、一人の教員の社会生活を破壊している実態があるからです。
本校は昨年度定数配置をしていただけませんでした。マイナス1です。定数を満たせない代わりに、非常勤講師複数で24時間を埋めるという手段をとっていただきました。1名分を授業のコマ数で埋める対応が、現場でどういう結果を生んでいるのかに思いをはせていただきたいのです。
休職から復職した教員がおり、その教員には担任を外すことで1年間の現場でのリハビリをさせる予定でした。授業は上手で子供たちとも仲良くできるのですが、担任を受け持つことによる責任の増加、保護者とのコミュニケーションに弱みがあります。そんな個性をもつ本校の大切な教員の一人でした。しかし、定数配置がないことから、本人の意思も確認の上で担任を受け持たさざるを得ない状況となりました。結果、再度療養休暇を取り,休職となりました。人の不足が、ドミノ倒し的に次の不足を生んでいます。本校のこの教員の残念な結果は定数配置があれば防げました。
定数配置は要望することではありません。絶対要件なのです。欠員数は減らすのではなく、「0」でなければなりません。 行政が働き方改革の旗を振れば振るほど、現場のトップは追い込まれます。欠員によって生まれる負担、その負担に耐え切れずさらに一人が欠け、欠員の業務量×2となった負担を残った職員に担わせたうえで「意識を変えて、短時間で」と言える校長は余程の鉄面皮と言えるでしょう。
子供の自殺が過去最多を毎年更新しています。減らすではなく0にしなければなりません。命は数字ではないのです。また教職員の人生も数字で測るものではありません。 学校は苦しみながらも、前を向いて進もうとしています。 必要なのは指導ではなく、失敗を恐れず変化に挑戦できる環境づくりなのです。
みなさんはこの校長先生の声をどのように受け止められましたか。私は学校現場にいるときはまったく同様の声を挙げていました。この校長先生が言われるとおりですよね。校長にはどうすることもできないことです。県のリーダーたちに同じ思いをもっていただき、結果ではなく、ともに何とかしようと行動していただくことで、現場は踏ん張れるものです。子どもの残念な事実も減らしたらいいのではなく、「0」が当たり前だということを改めてみなさんと共有したく思います。
学校のリーダーがこんな声を寄せていただくのを全国の皆さんはとても心強く受け止められるのではないでしょうか。
若い先生の声から
一方で、こんな声もいただきました。
最上位の目標に向けて【合意形成】と【対話】をしていく。これがどうしても、しっくりきません。
なぜかというと、<最上位の目標>を対話を通して合意形成していく。このプロセスが志の高い、強いリーダーシップをもったリーダーがいてこそ成り立つものだと思っているからです。でも、そうでないリーダーの元で、【合意形成】と【対話】をした場合、<最上位の目標>に合意できない。というパターンが存在します。これが苦しくなる場合です。
全国1718市町村ありますが、この数だけ、教育委員会があり、教育長がいます。そして、その下に膨大な数の校長がいます。これだけの数の人間が強いリーダーシップをもてないだろう……というのが現実です。海外であれば、学校を選択することができたり、国のレベルで最上位目標が合意形成されていたりする場合もあります。ですが、どうしても全国(18500超の公立小学校)を見ると、志の高い、強いリーダーシップをもったリーダーは未だに少数派に見えています。現実的に見て、これだけの不登校、自殺者・休職者がいて、今現在、苦しむ保護者、子どもたちを見ていて、「それ!学校おかしいだろ!」と思うことが、めちゃくちゃあります。
リーダーの掲げる<最上位目標>がずれている場合【合意形成】や【対話】が苦しくなる。
若者は、どう振る舞えばいい?
お二人が届けてくださった声はまさに、今の日本の学校現場が抱えている課題です。どうすればいいかの正解など出ないですよね。でも、目の前に子どもがいます。「不登校」ゼロ、「自殺」ゼロが公教育の当たり前です。
自分はどう考え、どう行動しますか。
子どもに求める前に、私たち大人の主体性が求められている気がします。
〇うまくいかないことを人のせいにせず、学びを通して自分を問い直し、アップデートしていこう。
〇教員の欠員、不登校や自殺などの子どもの残念な事実は、「減らす」のではなく「ゼロ」が当たり前であるという認識をもとう。
〇目の前の子どもの事実を前に、自分はどう考え、どう行動するか? 私たち大人が主体性をもって考え、行動していこう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、すべての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。
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