性的マイノリティって、どのくらいいるの?【教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業】#13
小学校や中学校で性教育の指導に長年携わったスペシャリストである、帝京平成大学教授・郡吉範先生による連載「教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業」の第13回です。この連載では、安心して実践できる基礎的・基本的なことがらやすぐに使えるヒント、ちょっと背中を押す言葉などをお届けします。今回のテーマは「性的マイノリティって、どのくらいいるの?」。今回は、「LGBTQ+」の人の人数についての話です。正確な人数の把握が難しいことを前提にしたうえで、信頼性の高いデータを扱うことが大切で、そして、その子の「性の悩み」が「LGBTだから」と決めつけず、子供に寄り添いましょう。具体例は、郡先生の経験や現場での実践に基づくものですので、現場でのヒントにしてください。
執筆/帝京平成大学人文社会学部教授・郡 吉範

目次
「LGBTQ+」の人の人数は?
「LGBTQ+の人って、どのくらいいるの?」
この質問、授業でも研修でも、本当によく聞かれます。正直に言うと、もう何十回聞かれたか分かりません。一時期は、
「1クラスに3〜4人はいる」
「左利きの人と同じくらいの割合」
という言い方が、ずいぶん広まりました。それを聞いて、「え、そんなに多いの?」と驚いた先生もいれば、当事者の人の中には、「それ、ちょっと盛りすぎじゃない?」と違和感を覚えた人もいたかもしれません。
実は私自身も、こうした数字を耳にするたび、心の中で小さくブレーキを踏んでいました。
「……これ、授業でそのまま使って大丈夫かな?」
「根拠、どこだっけ?」
そんな“もやっ”とした感覚、きっと多くの先生が一度は経験しているはずです。まず大前提として、性的マイノリティの実態を「正確な人数」で把握すること自体が、そもそもかなり難しい、という現実があります。
理由はいくつもあります。本人が、まだ自分の性のあり方に気付いていないこともあります。安心してカミングアウトできる場がない場合もあります。自分の状態を、言葉にしきれない人もいます。思春期の子供であれば、なおさらです。大人だって自分のことを説明するのは難しいのに、10代の子に「あなたは何者ですか?」と聞いたら、「分からないです」と返ってくるのは、むしろ自然な反応でしょう。
だからこそ、「〇人に1人」という数字だけが独り歩きすると、かえって誤解を生んでしまうことがあります。私は、そこがいちばん注意すべき点だと感じています。とはいえ、「数字はあいまいだから、使わない」というわけにもいきません。教育現場で扱う以上、できるだけ根拠のあるデータを用いることは、教員としての大切な姿勢です。

「家族と性と多様性に関する全国アンケート」によると
そこで参考になるのが、国の研究機関などが実施している公的な調査です。例えば、国立社会保障・人口問題研究所が行った「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」。この調査は、調査方法が明確で、サンプル数も多く、専門家の間でも評価の高いものです。政策立案や学術研究にも用いられており、教育現場でも安心して扱える、信頼性の高いデータと言えるでしょう。
私たち教員がLGBTQ+について話すとき、
「ネットで見たから」
「よく聞く数字だから」
といった理由だけで済ませてしまっていないでしょうか。一度立ち止まって、こんな問いを投げかけてみるのも有効です。
この数字は、どこから出たものだろう。
誰を対象に、どんな方法で集められたのだろう。
この数字が示している背景には、何があるのだろう。
こうしたやり取りは、LGBTQ+の学習であると同時に、情報の読み取り方を考える、メディアリテラシー教育にもつながります。
数字を「覚える」ことよりも、数字を「考える」こと。私は、その姿勢こそが教育的だと思っています。では、実際のデータを見てみましょう。
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に実施した『家族と性と多様性にかんする全国アンケート』(18~69歳の18000人を対象に、性的指向や性自認について尋ねた調査)で、5339人の回答を集計したものです。
性的指向については、
「異性愛者(ヘテロセクシュアル)」が約8割。
「ゲイ・レズビアン」が0.4%、
「バイセクシュアル・両性愛者」が1.8%、
「アセクシュアル(他者に対して恋愛的・性的な惹かれを感じにくい人)」が0.9%。
「決めたくない・決めていない」が5.6%、
「質問の意味が分からない」が11.3%でした。
性自認については、
出生時の性と一致している(シスジェンダー)が98.7%、
トランスジェンダーと答えた人は0.6%でした。
