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【木村泰子の「学びは楽しい」#53】教員の仕事の上位目標について、みなで合意していますか?

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第53回目。今回は、「担任1人でどうやって学級全員の学力を保障すればよいのか」という読者のご質問から、今本当に必要な「学力」とは何かを考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

 

教員の仕事の上位目標について、みなで合意していますか?
イラスト/石川えりこ


教員の仕事は子どもに力をつける仕事?子どもの力を伸ばす仕事?

まず、読者の方の声を紹介します。

まさに、困っている全国の先生方の声を代弁していただいたのではないでしょうか。「担任1人の力でクラスのすべての子どもの学力を保障すること自体が不可能だ」という当たり前のことをみなで合意できていないことが大きな問題だと思います。

「学力」は結果です。決してすべての子どもの学力を保障することを軽んじているのではありませんが、そもそも「学力」とはどんな力のことを言うのでしょう。2年生では全員に九九を覚えさせる、3年生では新出漢字を全部書けるようにする、6年生では学力調査の平均正答率を上げるなどの学力は現行の指導要領では学力の上位に挙げられていません。では、すべての子どもに必要不可欠な学力はどのような力でしょう。

現行の指導要領では、すべての子どもに必要な学力として「主体的・対話的で深い学び」を学力の上位に定めています。

主体的・・・・・・自分で考え判断し行動する
対話的・・・・・「自分の言葉」で語り合う
深い学び・・・・社会で生きて働く力

これまでの授業のように、知識を一方的に教えて評価する授業では、上記の学力は身につきません。では、「主体的・対話的で深い学び」を上位に置いた授業はどのように展開すればいいか、ということについて問い直す必要がありますね。

「分ける」「分けない」の議論の前に、「主体的・対話的で深い学び」を上位に置いた授業はどのようにつくればいいかについて職員室で対話することが必要です。

「自主性」と「主体性」は大きく違う

みなさんの職員室で「自主性」と「主体性」の違いを語り合っていますか? 全国で研修をする中で、2030年からの次期学習指導要領の論点整理が行われているにもかかわらず、「自主性」と「主体性」について自分の言葉で語れる教員が少ないのはどうしてでしょうか。

これまでの教育では「自主性」を養うことが課せられていました。「自主性」とは、自ら進んで行動することを言います。一見聞こえはよいですが、自ら進んでどこに向かって行動するのかというと、教員の指示通り自ら学ぶ子どもが求められてきました。その結果が、現在の子どもの残念な事実につながっていることを、自分事として真摯に問い直すことが私たちに求められているのです。

担任の指示がアタリだったら「先生のおかげで……」ハズレだったら「先生のせいで……」など、自分をアップデートする学びの場であるはずの学校が、担任のアタリハズレに影響される場になっているのであれば本末転倒です。これらの子どもの事実から現行の指導要領は「自主性」から「主体性」へと大きく転換されたのです。小学校ではもう7年目に入っています。

「主体性」は自分で考え判断して行動することです。自分の判断で行動してうまくいかなくても、やり直せば失敗が成功体験に変わります。学校は、そうやって失敗を学びに変える場です。そして、この力こそが「社会で生きて働く力」につながります。

すべての子どもに必要不可欠な「学力」として「自立」から「自律」へ

「自立」は、特別支援教育の学力の上位目標で、自分のことは自分でできるようになることを示しますが、すべての子どもに必要不可欠な学力は「自律する力」です。この力は、まさに「主体的・対話的で深い学び」です。

「自律」とは、「互いが適切に依存し合う」ことです。目的は、誰一人置き去りにしない社会をつくる大人になるためです。

ここで、確認し合い、合意しなければならないのは、すべての子どもが「自律する力」を本来持っているということです。「重度の知的障害」と診断されている子も「発達障害」がある子も、すべての子どもがこの力を備え持っていることを忘れないことです。

この「自律する力」を高め合うには、多様な子どもが子ども同士で学び合う環境づくりを保障しなければなりません。

みなさん、いかがですか。現状の「授業の目的」を変えない限り、読者の方のように戸惑いを感じることが増えていくばかりではないでしょうか。

まず、すべての子どもの「学力」を保障することなど、一人の担任にできるわけがありません。できないことをやらねばというノルマのようなものに縛られて、疲弊していく先生方が後を絶ちません。頑張っても頑張っても、結果がついてこなくて、どの方向に進めばいいのかわからなくなってしまう。そのうちにだんだん「文句」ばかりが出てきて、人のせいにしてしまうのではないでしょうか。

全国の学校現場で、不可能なことをしなければならないと悩み、困り、学校現場を去っていく先生たちが後を絶ちません。この先生方の事実に比例するかのように、子どもの事実はいまだに「自殺」「不登校」「いじめ」過去最多を更新し続けています。

ここで、いったん立ち止まって、教員の仕事の上位目標は何か、何を大切にしなければならないのか、どこをどう変えなければならないのかなどについて、みなさんとじっくり考える機会を持っていきましょう。

これまでの学校文化の当たり前や、できるかできないかの評価などは一旦横に置いて、自分の頭の中をクリアーにして「子どもにとって一番いいことは何か」という視点に立って一緒に問い直したいと思います。

今回は、「教員の仕事の上位目標を明確にして合意する」ということについて述べました。次回は、この続きとして「特別支援教育の目的は何か?」について問い直したいと思います。

〇担任1人で学級すべての子どもの学力を保障することは不可能だということについて、まずはみなで合意しよう。
〇すべての子どもに必要な「学力」を伸ばす「主体的・対話的で深い学び」を上位に置いた授業をどのようにつくるか、職員室で対話を重ねよう。
〇指示通り自ら学ぶ「自主性」ではなく、自分で考え判断して行動する「主体性」が、「社会で生きて働く力」につながる。
〇互いが適切に依存し合う「自律する力」はすべての子どもに不可欠な学力。多様な子どもが子ども同士で学び合う環境をつくることで、この学力を伸ばしていこう。

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木村泰子先生

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、すべての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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