身体性とAIとの関係を先生が上手に取りもちながら、AIを使う【次期学習指導要領「改訂への道」#50】

前回から、生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ(以下、WG)の主査である関西大学の黒上晴夫教授に、探究における改訂のポイントを伺っています。今回は、同WGの最後の7月の審議では、全体を整理した資料の中で、「身体性」が大きな柱として示されています。そこで、今回は探究における身体性の重要性を中心に話を伺っていきます。
目次
小さいうちに身体性を伴う多くの経験を通して、土台をつくることが必要
今回の改訂の議論の中では、今井むつみ先生(慶應義塾大学名誉教授、今井むつみ教育研究所代表理事)が教育課程企画特別部会で提言されていた記号接地の問題は、とても重要です(資料1参照)。
資料1

例えば、前回お話ししたように生成AI(以下、AI)が出してきた「すごい正解」のように見えるものの中に、自分にとって記号接地していない(本質的に理解できていない)ことがあるとしたらどうするかです。それは、子供に限らず、私たち大人にも起こることで、わからない言葉や文章などがあると調べていくでしょう。調べたときに、納得いくところまで調べると思いますが、納得いくところというのはどういうものかと言えば、自分がそれは何かをよく知っている(=記号接地している)ものであり、それにつなげて初めてわかるということです。
その記号接地しているものが少ししかないと、いつまで経っても本当にわかった気にならないし、そのよくわからないものを、そのまま使っていくことになってしまいます。だからこそ、小さいうちに身体性を伴う多くの経験を通して、土台をつくることが必要なのです。それは、実際に生活、総合的な学習・探究の時間WGの審議の中でも同様の意見が出され、生活科の「本質的意義」の一つとしているところです(資料2参照)。特に小さな子供の頃には抽象思考も育っていませんから、なるべく身体を通して具体的なイメージを伴った経験をして、それを抽象化していくことを学校教育の中でやっていくことが大事なのです。そのような経験が伴わないまま、暗記で済ませようとすることが一番怖いことです。
直接の体験をし、体験をいろいろなものとつなげて構成し直し、概念を拡張していくことはいつまで経っても大事なことです。そうして拡張されたものの中に知らないことがあれば、さらに自分から記号接地させにいくというのが優秀な学習者なのだと思います。
資料2

現時点では3年生くらいからAIに触れ始めていくというイメージ
そのように幼年期には特に身体性を伴う学びが重要なのですが、前回お話をしたように、社会がAI活用を前提とした方向に急速に進んでいるのに、学校はそれを使わないというのでは、どんどん社会とのギャップが大きくなるばかりです。もちろん拙速に早期教育を行えばよいというわけではありませんが、ではどのくらいの学齢からAIを使い始めるのかと考えると、現時点では3年生くらいからAIに触れ始めていくというイメージだと思います。その最初のときには、子供たちにもわかるように、それこそ身体性とAIとの関係を先生が上手に取りもちながら使うようにしていって、その先生の仲介を離しても大丈夫なように、AIと付き合う上での子供の側のマインドセットを大事にしつつ、使い方を教えていくということでしょう。
そのときの使い方は「AIは間違うから確認しましょう」とか「AIバイアスがあるから気を付けましょう」という話だけではなく、それを知った上で、さらに物事をよりよく、より深く理解できるように、自分をどうドライブしていくかという自己調整面が大事です。それができれば、AIを学習に使っていっても大丈夫だろうと思います。例えば、SNSのようなものもそうなのですが、自分が道具を使うときの使い方についての意識を高めることが大事です。そのような自分自身のメディア行動についての自覚は早くから付けていくことが必要でしょう。
ただ、あまり早期だとAIとは何かもわからず、「質問に答えてくれるコンピューター」という程度に思っているだろうと思います。AIの仕組みについて、「関係の深いものが出てくる」と説明しても、関係の意味も理解できていないかもしれません。そういうことがわかる段階になったら少しずつ教えていって、その上で、AIを利用する自分自身に自覚的になるということを目標に掲げて取り組んでいくことが大事です。もちろんそれは難しいことだとは思いますが、その意識をもつことが大切なのです。
