【保育×教育対談 #2】子どもの「楽しい!」を引き出す遊びの導入法|小学校の教室が変わる「保育の知恵」の活かし方
「保幼小の接続」や「学級経営」が見直される今、幼児教育の現場で行われている「子どもが楽しみながら主体的に動ける仕掛け」は、小学校の教室を豊かにする宝の山。そんな「保育の知恵」の小学校での生かし方についての特別対談です。
前回は、幼保の現場で実践されている「遊びの引き出し」と、その前提・背景にある「大人のまなざし」の大切さについて熱く語り合っていただきました。続く第2回、岩田先生が1000人の児童を一瞬で引き込んだ「コール&レスポンス」の具体例から始まる、子どもたちの目が輝く瞬間を生み出す対話の続きを、ぜひお読みください。
対談:岩田純一(東京都公立小学校指導教諭)×堀内亮輔(東京女子体育大学 こどもスポーツ教育学科 准教授、保育士)

岩田純一(いわた・よしかず)東京都公立小学校指導教諭。平成30年度体育授業優秀教員(日本学校体育研究連合会)。東京都小学校体育研究会で正副部長を歴任。小学館「みんなの教育技術」で学級レクや体育の指導法を多数発信し、全国の教員から支持を得ている。

堀内亮輔(ほりうち・りょうすけ)東京女子体育大学 こどもスポーツ教育学科 准教授。10年の保育士経験を経て乳幼児の運動遊びを研究。NHK『おかあさんといっしょ』等の番組監修や保育者研修講師を務め、子どもと共につくる運動遊びの普及に尽力している。
前回の記事はこちら:
【保育×教育対談】小学校の教室が変わる「保育の知恵」の活かし方〈第1回〉子どもが自然と動き出す「遊び」起点のアプローチ
目次
ギャップがもたらす心の揺れを作りだそう
堀内:岩田先生は、最近のご自身の実践の中で、そうした保育の知見や遊びの引き出しが具体的に役に立ったと感じられた場面はありましたか?
岩田:はい、まさに最近、その効果を深く実感する出来事がありました。
私の勤務校は全校児童が1000人ほどいる大規模校なんですが、あるとき私が全校の前で主として話をする機会があったんです。1000人も子どもたちが集まっていますから、体育館の中はなかなかにぎやかで、静かに話を聞けるような状態ではありませんでした。
そのとき、私は「静かにしなさい!」という指示ではなく、「クーイズ、クイズ!」という言葉を、お馴染みの節をつけてポンと発してみたんです。
堀内:「クーイズ、クイズ!」ですか(笑)。
岩田:そうしたら、それまで思い思いにしゃべっていた1000人の子どもたちが、一斉に「なーんのクイズ!?」って、声をそろえて反応してきました。一瞬で、体育館の中の空気が変わり、子どもたちの間に「これから何か楽しそうなことが始まるぞ」という、話を聞くモードがその場に出来上がったんです。
その様子を周囲で見ていた先生方が、終わった後に私のところに駆け寄ってきて、「岩田先生、子どもたちと事前に打ち合わせか何かをしていたんですか!?」と、驚きながら聞いてこられたんですよね。だけど、それは事前に子どもたちと練習していたわけではなくて、以前に堀内先生や幼児教育の関係者の方々との研修の中で教えていただいた知恵を、そのままその場で試してみただけだったんです。
「クーイズ、クイズ!」と言われたら「なーんのクイズ?」と返すという、ただそれだけのシンプルなコール・アンド・レスポンスですが、それが小学生になっても、1000人という大きな集団になっても、同じように反応するんだということを身をもって実感しました。にぎやかだった子どもたちが、一言の合い言葉を投げかけただけで、一瞬にして注目が集まり、話を聞くモードが出来上がった。こういった関わりの価値や心地よさというのは、もし私が堀内先生をはじめとする、保育を知る方々に出会っていなければ、知ることもなかったですし、現場で実践することもできませんでした。
こうしたちょっとした日常の場面で、遊びをスッと入れられるような引き出しをもっていることの価値は本当に大きいなと感じています。

堀内:それはすばらしい事例ですね! 児童の前で「クーイズ、クイズ」を試して、そこまで見事な一体感を生み出されたというのは、岩田先生だからこその専門性と、子どもたちとの関係性があってのことだと思います。
今のお話も、まさに私たちが先ほどから議論している「遊びのおもしろさ」と深くつながっているエピソードだと思います。そのおもしろさを捉える一つの視点として、子どもたちの心の中に生まれる「ギャップ(揺れ)」があると思うんですよね。
岩田:心の中の、ギャップ、ですか。
堀内:例えば、子どもたちからすれば、「これから朝会が始まるぞ。校長先生や担当の先生が前に出てくるぞ。いつものように『それでは皆さん、おはようございます』って始まるぞ」というふうに見通しているわけです。そこに先生が前に出てきて、「それでは皆さん、おはようございます」と、いつも通りの予定調和で始めたとしたら、子どもたちの心には大きな揺れは生まれにくいですよね。「ほらね、やっぱりいつもの通りの時間が始まった。これから10分間、話を聞く時間ということね」というふうになっていきます。
しかし、そこに岩田先生が立たれて、最初の第一声として「クーイズ、クイズ!」と、全く予想外の言葉を投げかけた。これが子どもたちにとっての大きな「ギャップ」になるわけです。子どもたちは「えっ!? おはようございます、じゃなくて、いきなりクイズから来たぞ! これは一体何なんだろう?」と心が揺さぶられる。そして、その揺れに対して、自分の身体や声が「なーんのクイズ!?」と自然に応じてしまうんですよね。
つまりこの「クーイズ、クイズ」という手法自体は、子どもの心が揺れる「手段」の一つと見ることができます。大切なことは、子どもたちが見通している予定調和に対して、いかにして心地よい「ギャップ」を作り出し、子どもたちの心を揺らすことができるか、という点にあるのだと思います。
先ほど岩田先生がおっしゃっていた、「手遊びを授業の始めに一個入れたら、子どもたちがぐっと集中した」という実践も、全く同じ構図のように思います。手遊びそのものが魔法の道具なのではなくて、「これから気をつけ、礼、お願いします」といういつもの流れが来ると思っていたところに、先生がいきなり「じゃあ、みんなちょっと先生の真似っこをしてみてね、パン、パン、パン」と、違う入り方をしてギャップを作ったからこそ、子どもたちが「えっ、何これ? なになに?」と興味をもって、ぐっと引き込まれていったわけです。この「入り方のギャップが生み出す揺れ」が、遊びのおもしろさを生み出す一つの要素なのだと思います。目に見える具体的な手遊びやクイズという遊びの引き出しとセットで、大人の側がこういった遊びの引き出しの目に見えない構造を理解しておくことが、大切なのだと思います。
岩田:なるほど、予定調和を崩す「ギャップ」が、子どもたちの心を動かす鍵なのですね。私自身、子どもたちと関わるときに、幼児教育でよく使われるような言葉掛けやリズムも、たくさん応用して使っています。意外性のある遊びの要素を入れると、一気に子どもたちの意識が集まりますし、何よりも先生も、子どもたちも、お互いに気持ちよく、楽しくスタートを切ることができるんですよね。
言葉だけで「こっち向いて!」「注目して!」「体を先生の方にちゃんと向けて!」と、何回も言い続けるのって、けっこう辛いことだと思うんです。だけど、それを遊びの要素を入れてちょっと工夫するだけで、お互い心地よく、楽しい雰囲気の中で活動が始められる。こういった具体的なアプローチの価値を先生たちに伝えていくことは、大きなメリットがあるんじゃないかと思います。
堀内:ええ、本当におっしゃる通りですね。
岩田:そして、そこでも重要になってくるのが、先ほど堀内先生が言われた「見取り」の視点なんですよね。私は遊びの引き出しそのものを知ることももちろん大好きなのですが、それ以上に「保育士さんたちが、一体子どもたちのどこを見て、どんな言葉を掛けているのか」という、内面的なスタンスやまなざしに、何よりも強い関心があります。そこは小学校の先生も知って損はないし、知った方がよいとも思っています。それを知ることによって、「子どもの良い面をたくさん見つけよう、些細な変化にも気づこう」という、新しい見取りの「メガネ」をかけられるようになるような気がしているんです。子どもの見方に新しい選択肢が増え、視野がパッと広がる感覚ですね。
遊びの難易度のコントロール:「できる・できない」の絶妙な調整
堀内:そうですね、今のお話を受けて、私たちがその「ギャップ」や「揺れ」を意図的に作り出すときに、もう一つ非常に大切にしている専門的な視点があります。それは、子どもたちの中に「できる・できない」という難易度の幅や、その間の揺れを大人が調整することです。
岩田:難易度の幅を調整する、ですか。
堀内:例えば、先ほどご紹介した『おはながわらった』という童謡を使った手遊びを例に挙げてみましょう。片手をグーにして、もう片方の手をパーにします。そして、「おはながわらった」の「た」のタイミングでグーとパーの手を入れ替えます。それを「た」のタイミングごとに繰り返し行っていきます。グーとパーを入れ替えるのであれば、子どもたちは簡単に「できる」わけです。このように、まずは多くの子どもが「できそう」「やってみよう」と思える難易度から活動を始めます。
そして、子どもたちの「できる」という自信を確認した後に、私が「じゃあ、次は手を『パー』と『チョキ』にしてやってみようか!」というふうに、少しだけ新しい条件を提案するんです。そうすると、子どもたちにとっては、さっきまで簡単にできていたはずの動きが、片方の手をチョキに変えただけで「あれ? なんだかちょっと難しくなったぞ」「指がうまく動かないや」というふうに、難易度が少し上がります。この「さっきまで簡単にできたのに、できなくなるかも」という絶妙な幅が生まれることで、子どもたちの間に心地よいドキドキ感や挑戦意欲が生まれてくるんですよね。
ただ、この難易度の調整において重要なポイントは、目の前の子どもたちの発達過程や状態に応じて調整しなければならない、ということです。もし、小学校に入ったばかりの1年生の教室で、お互いの関係も十分にできていないまま、いきなり最初から「はい、じゃあみんな片手をパー、もう片方の手をチョキにして、やってみて!」と子どもの実態とかけ離れた高すぎるハードルを提示してしまうと、子どもたちは「できない」という状態に落とされてしまいます。そうなると、子どもたちは「どうせ自分にはできないから、もうやりたくない」「できないから、この遊びは嫌いだ」というふうに、心を閉ざして活動から離れてしまう可能性があるんですね。
岩田:なるほど。最初から難しすぎると、子どもは心を閉ざしてしまうのですね。
堀内:一方で、これがもし高学年の子どもが対象であったならば、あえて最初からこのパーとチョキのような、高い難易度を提示するという関わりも、手法としては十分に成り立ちます。なぜなら、より大人に近い高学年の場合は「頭ではわかっているのに、身体が全然ついてこなくて全くできない!」というギャップに直面したときに、その「できない姿」をお互いに見せ合うことで、そこに大きな「笑い」やユーモアが生まれ、場が和むということがあるからです。
このように、いつも完璧に「できている」状態ばかりではおもしろくないし、かといって全く「できない」状態が続いても子どもは嫌になってしまう。だからこそ、発達過程をしっかりと見極めながら、「できるか・できないか、ちょっとわからないぞ、頑張ればできるかもしれないぞ」という、その絶妙なところを、大人の側がその場で子どもの反応を見ながら「調整」していく。そういう丁寧な視点が、保育者にとっても、そしておそらく小学校の先生方にとっても、重要な専門性になってくるんだろうなと思っています。
岩田:なるほど、その絶妙なバランスの調整が、子どもの「夢中」を生み出すのですね。
堀内:ええ。これは手遊び歌だけでなく、遊びの中での「勝った・負けた」という勝敗のコントロールについても、全く同じことが言えると思います。
例えば、子どもたちと「じゃあ、今から先生とゲームをしようか!」となったときに、いつも先生が負けて子どもたちが「必ず勝てる」とわかっている状態が続くと、遊びのおもしろさが薄れてしまうことがありますし、逆に先生が本気を出して、子どもたちがどうしても「勝てない」状態が続いても、やはりおもしろくありません。次に勝負をしたときに、自分が「勝つか・負けるか、やってみるまでわからないぞ」という不確実性や偶然性があるからこそ、子どもたちは一喜一憂し、その揺れを心から楽しむことができるんですよね。
そういった、遊びの要素を使って子どもたちの心を心地よく揺らす、という視点が現場での実践には不可欠だと思います。
