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「通知表廃止」を決めた管理職のリアル|初めて迎えた“通知表のない終業式”#2

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

任意であるはずの通知表作成。しかし現場では、実質的に義務のように扱われ、教員の大きな業務負担となっています。

やめたいと思いながらも踏み出せない学校が多い中、ある学校では管理職の判断により、今年度ついに通知表の廃止に踏み切りました。なぜこの学校は、その一歩を踏み出せたのか。

連載2回目の本記事では、「通知表廃止に向けた取組、その先について」をお届けします。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

通知表をやめることは、評価をやめることではない

学期末の一律評価ではなく、学びの過程で子どもに示す評価へ

第1回では、本校が「あゆみ(以下、通知表)」、学期ごとに子どもの学習状況を保護者に知らせる通知表を見直すことになった出発点が、個別最適な学びのある授業を進める中で生まれた評価への違和感にあったことを書きました。

個別最適な学びのある授業では、子どもたちは同じ時間に、同じ場所で、同じ方法で学んでいるわけではありません。自分で課題を選び、自分のペースで進め、必要に応じて友だちの考えを参照し、教師の支援を受けながら学んでいきます。

もちろん、めざす資質・能力や単元のねらいがなくなるわけではありません。しかし、そこへ向かう道筋は一人ひとり違います。学びのスタートも、必要な支援も、つまずき方も違います。

そうであるなら、評価もまた、一律に並べるものではなく、一人ひとりの学びの過程を見取るものに変えていく必要があります。

ここで大切になるのは、評価を子どもへの判定だけで終わらせないことです。

ある子どもが到達できていないとき、それは「その子ができなかった」という結果だけを示しているのではありません。教師の手立ては適切だったのか。教材の準備は十分だったのか。授業の中で、どのタイミングで支援すればよかったのか。評価は、教師自身が授業を見直すための指針でもあるのです。

だからこそ、私は、授業後、学期末にまとめる評価よりも、授業中の評価を重視したいと考えるようになりました。

学期末に「通知表」としてまとめて知らせる評価は、どうしても過去の結果を伝えるものになりがちです。しかし、子どもの学びを前に進めるためには、つまずいた瞬間に気づくこと、分かりかけている瞬間に支えること、次に何をすればよいのかをその場で示すことが大切です。

評価は、学び終えた後にまとめて知らせるものだけではありません。学びの途中で子どもに示すものでもあるはずです。

丁寧に説明した結果、保護者からの反対意見はゼロ

「通知表をもらっても、○の数を数えるだけ」
「先生たちには悪いけれど、ほとんど見ない」
「○の数できょうだいげんかになる」
「そもそも、懇談会で説明は聞いているけれど、所見の文章の意味が分からない」

事前に保護者へ通知表の聞き取りをし、あがってきたこれらの声をふまえて職員会議で討議し、最終的に学校運営協議会で廃止を決定しました。そして、令和7年度の2月に行った最後の授業参観後、全教室へ配信するオンライン形式で、保護者へ「通知表廃止」について、次のような説明を丁寧に行いました。

・個別最適な学びのある授業をさらに進めていくこと
・評価をやめるわけではないこと
・単元テストや個別懇談などを通して、学習状況を具体的に伝えていくこと

そして今年度、1年生の保護者も新しく加わったので、最初の授業参観で「通知表」をやめる理由を再度伝えました。ご意見があれば、いつでも話しましょうとも伝えました。

結果は、少し拍子抜けするほど静かなものでした。

保護者からの問い合わせは一件もありませんでした。それどころか「賛成しているよ」とありがたい応援メッセージまでいただきました。

通知表がなくなったら、先生はラクになる?

通知表廃止を決めたことを話すと、他校の先生からは

「通知表を作らなくてよくなったら、先生たちはラクになりますよね」
「えっ、通知表やめたの? 働き方改革?」

などと、聞かれることもありました。確かに、通知表を印刷する時間はなくなりました。しかし、評価そのものがなくなったわけではありません。指導要録は残りますし、子どもの学習状況を見取ることも、保護者に伝える責任も変わりません。

本校では単元テストを行う際、以下を行いました。

テスト(GIGA端末)を行った日の放課後、「○○のテストを行いました。結果の確認と振り返り問題に取り組むようお声掛けください」と保護者連絡アプリにて配信
↓
4~6年生は学習支援ソフト「ミライシード」のカルテを活用しているので、保護者の方にカルテのページを確認してもらう
↓
子どものページに表示される振り返り問題を解くよう、保護者から伝えてもらう

このような流れで、カルテを通して普段から子どもの学習状況を保護者へ具体的に伝えています。そして個別懇談会では、学習状況のページを保護者と確認しながら、力がついているところ、これからつけたい力などを共有します。

もちろん、指導要録に記載するための評価も必要です。本校の教職員がこうしたことを説明すると、他校の先生からは、「それは、いいなあ」と言われることが多いようです。

本校が「通知表廃止」の方向へ進んだのは、評価を軽く扱いたかったからではありません。むしろ、評価を子どもの学びに近い場所へ戻したかったからです。決して業務を軽減させる働き方改革のためではなく、評価の意味を問い直すための取組でした。

学習支援ソフトで学習状況を保護者と共有

学習状況を見取るひとつに活用しているのが、学習支援ソフト「ミライシード」のカルテです。私の自治体では一部の機能しか使えていないのですが、例えば機能のひとつ「テストパーク」を開き、「国語の“帰り道”という単元のテストでは、このような結果でした。クラスの平均点は87点です」と伝えながら、実際のテスト結果、得点のグラフを見ながら、ついている力や課題、みんなの頑張り具合をクラス全体で共有することができます。

また、日常の学習で使っている「ドリルパーク」の画面を開いて、解いている状況やつまずきなどを確認しています。これにより、「算数を頑張っています」から、「算数の○○の学習の中で、△△の中のここにつまずきが見えます」とより具体的なアドバイスに変えていくことができます。

個別懇談会で保護者からは、

「グラフ化されているので分かりやすい」
「より具体化されて、頑張らせるポイントが分かった」
「テスト後の振り返り問題にしっかり取り組ませたい」

という声をいただきました。一方、教員からは操作の不慣れがあったり、アプリの行き来をしながらの説明が大変、取り扱うデータを加工するスキルがもっとあると、よりたくさんの情報が伝えられそうだとの声があり、今後、改善の余地がありそうです。

初めて迎える通知表のない終業式

そして7月。初めて「通知表」のない1学期の終業式を迎えました。子どもたちの反応も、保護者と同じように静かでした。

1年生にとっては、そもそも小学校で初めて迎える終業式ですから、通知表が「ある」「ない」という比較そのものがありません。

他学年はどうかなと、各教室をのぞくと、通知表がないことについて、ほとんど話題になっていないようでした。私が話しかけても……です。

むしろ、そわそわしていたのは教員たちでした。1週間ほど前から、「いつも、通知表を渡していたあの時間、何をしようか……」と。

昨年度まで担任が一人ひとりに「通知表」を渡していた時間、今年は多くの学級で、子どもたちが提案したお楽しみ会が行われていました。担任もその輪に入り、一緒に楽しんでいました。お楽しみ会をしなかった学級では、いつも通り授業をしていました。

子どもたちや教員から、ゆとり感のようなものが伝わってきました。子どもたちの笑顔が増え、学期末のそわそわ感もなく、教職員に余白ができました。校長である私自身も、終業式で代表児童に「通知表」を渡す場面がなくなった程度のことでした。

平たく言えば、周囲が考えるほど、大きなことは何も起きなかったのです。

「通知表」の先にあった、もっと難しい問い

しかし、だからといって評価について考えることが減ったわけではありません。むしろ今、私たちが話しているのは、その先です。

個別最適な学びを進め、一人ひとりが学ぶ方向や方法、ペースを選ぶようになればなるほど、教師には別の戸惑いが生まれます。

「今、この子はどこまで学んでいるのか」
「この進み方でよいのか」
「今、どんな支援を返せばよいのか」

個別に学習を進めている子どもの姿をみて、瞬時に、今、どこまで学んでいるのか、学びの方法やペースは合っているのか、一律で同じ活動をしていた授業以上に見取りが求められるからです。

先進的な取組を進める学校でも、自己決定型の学習では、成績としての評価と、授業中に子どもの学び方や方向性、ペースを見る評価とを分けて考えていると聞きました。

本校でも、これから同じ問いに向き合うことになることでしょう。そして評価と共に、個別最適な学びのある単元内自己決定型学習をさらにスムーズに進めるためには、学習時間の見直しや学習内容のあり方などの工夫をした方がよいのではないかという話合いが生まれてきています。例えば、

・学年によっては、あとから学習する学び方であっても、先行して学習した方がスムーズに取り組むことができるのではないか。そのための教育課程を編成し、各教科の時数を調整できないか

・単学級の本校では異学年と同時に、単元内自己決定型学習に取り組むと、単純に、教師の数が増えて効率がいいのではないか

・次期学習指導要領で実施が可能となる「調整授業時数制度」を活かした教育課程を生み出せないか

ということが自然と湧き上がってきています。

通知表をやめることは、評価をやめることではありません。学期末にまとめて示す評価から、一人ひとりの学びの途中で、次の一歩につながる評価へ

「通知表」をなくしたことで、評価の仕事が終わったのではなく、評価を学びに近い場所へ戻していく仕事が、今これからスタートしたのです。


通知表廃止に踏み切っても、子どもや保護者はその決断に理解を示し、教師には余白が生まれました。通知表をやめることは評価をやめることではありません。業務軽減のための働き方改革ではなく、学びをその時々で評価していくこのかじ取り、今後どうなっていくのでしょうか。次回へ続きます。

関田聖和
兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー。教師の専門性を活かし、笑顔で育てる教育を目指して取り組む「専手必笑」を掲げて、日々奮闘中。学習における書く活動・ICT機器を使った授業&学級づくり・通常の学級における特別支援教育の知見の3本柱の実践を積み上げ中。主な単著に『新学期から取り組もう!専手必笑 気になる子への60の手立て』(喜楽研)、『専手必笑!インクルーシブ教育の基礎・基本と学級づくり・授業づくり』(黎明書房)、『学級経営ヒヤリ・ハット 「専手必笑」で崩壊を防ぐ教師の観察眼と対応力 』(明治図書)、など。

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