自ら主体的に考え、追究するという教員を期待しつつの組織改革【都心の小学校校長にインタビュー! 「宿題、テスト、通知表廃止」の背景と経緯 #04】

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長井満敏校長は、2023年度、与える宿題やテスト、通知表を廃止しただけでなく、多様な改革も進め、さらに2024年度に向けて新たなプランももっていると話します。そこで、この連載の最終回となる今回は、前回も一部紹介した2023年度の学校改革の具体例とともに、2024年度、さらにどのような改革を進める予定なのかについて、話を聞きました。

西新宿小学校の長井満敏校長。

午後は地域の人と運動会、音楽会、学芸会

「(前回の)避難訓練の実践もそうですが、学校の取組には前年度の踏襲で硬直化してしまっているところがあるような気がします。それで、どんどん新しいことに取り組もうと思って、今年度は他にも多様なことに取り組み始めました。

例えば運動会は、コロナ禍が始まってから時間が短縮されるようになりましたが、今年度も午前中で終わらせたのです。しかし、それだけで終わったのでは少々もったいないので、『午後は地域の運動会をやろう』と私から提案をして実行委員会を立ち上げ、PTA会長や地区の中学校校長、出張所の所長などの方々に入っていただき、何ができるか話し合って実施をしました。もちろん午後の地域運動会にも子供たちや保護者、教員も参加し、例えば、地域のこども園の子供、低学年、中学年、高学年、地域の中学生、地域の大人、教員がくじを引いて1名ずつが1つのチームになって、リレーを行うような競技をしましたが、すごく盛り上がりました(画像参照)。

今年度、第1回西新宿スポーツフェスティバル(第2部)として運動会の午後に行われた、地域、保護者、子供、教職員参加の地域運動会のポスター。

実は、舞台版でも同様の取組を行ったのです。本校では今年度から音楽会と学芸会を一緒に行うことになり、1、3、5年生が合唱で、2、4、6年生が劇をしましたが、それも午前中で終わることになっていました。そこで舞台はそのままにしておいて、午後からは地域や保護者が一緒になって舞台発表を行ったのです。最初に、中学生がブラスバンドの演奏をして、こども園の子供たちは歌と楽器演奏を行い、小学生はのど自慢大会を行っていましたし、大人も…という感じで、これも盛り上がりました」

学校規模の小さな学校では、子供たちだけでは運動会や学芸会の運営が寂しいものになるため、保護者・地域も一緒に行うことが珍しくはありません。しかし西新宿小学校の児童数は330名。決して、単独で実施できないわけではないのですが、なぜ長井校長は保護者・地域も巻き込んで行うのでしょうか。

「もちろん、子供たちも地域の一員として一緒に楽しむということがあります。また、保護者に対しては教育公務員と受益者というように向かい合い、どこか対立的な関係になってしまうのではなく、一緒に行事をつくり上げ、共に子供たちの教育に携わる仲間という関係が築ければ、と思って取り組むことにしたのです」

来年度の一番大きい改革は教員の組織改革で、校務分掌を変えたい

長井校長は、2023年度、宿題やテスト、通知表の廃止はもちろん、先のような改革・改善策も進めてきていますが、さらに2024年度に向けても、いくつかの改革を進めようと考えているそうです。

「今年度、年4回のプロジェクト学習を行ってきたとお話ししましたが、来年度は、さらに子供たちが主体的に学べるよう、総合的な学習の時間(以下、総合学習)を使って、大学のゼミ形式の講座を実施しようと考えています。ちなみにプロジェクト学習の場合は、学校が企業や研究機関に依頼して講座を開設してもらい、子供たちが個々の興味・関心に応じてその中から選択し、参加していたわけです。

来年度のゼミ形式講座ではそれを、子供が学びたいテーマを出し、先生の得意分野をそれにマッチングさせて、先生が講座を担当する形にしたいと考えています。例えば、亀の研究をしたいという子供とか鳥が好きだから研究したいという子供がいれば、生物の講座をつくって、そこで子供たちが研究するような形です。科学分野だけでなく、スポーツ関係とか文学や音楽や芸術関係など、多様な講座が考えられるでしょう。どれだけうまくマッチングできるかは、現時点では分かりませんが、子供たちも自分の好きなことを追究し、教員も自分の得意分野や興味ある分野を生かして講座をもつことができるわけで、それぞれにとって楽しい学びになると考えています。ちなみに、総合学習を何曜日の午後2時間と決めて揃えておけば、月1回くらいの頻度で、こうしたゼミ講座が開けるだろうと考えています。

それから、学校の規則・校則の見直しを図るようなことも議論していきたいなと思っています。例えば、シャープペンシルの使用は、以前は認められていなかったのですが、今年度、子供たちから認めてほしいという意見が出て、一部、認めることに変えています。来年度は、このように規則や校則を子供たちが主体になって見直していくこともしていきたいと考えています。本校では校帽が決まっていますが、これについても議論していきたいと思っているところです。

私自身が来年度進めたいと考えている、一番大きい改革は教員の組織改革で、校務分掌を変えたいと思っています。これまでトップダウン型の組織であったものを改め、人数が必要な内容に関しては3、4人程度の少人数チームを組んで行い、それ以外は基本1人1役のような形で進めていくということにしようと考えています。それは教員も主体性をもって取り組むことにつながると思いますし、個人の負担軽減にもつながっていくと考えています」

このような改革を進めていく狙いについて、改めて長井校長に尋ねると、次のように話してくれました。

「子供も教員も主体的に考え、対話し、深く考えていけるよう改革をさらに進めていく」と話す長井校長。

「最初に、『学びを子供の手に返す』とお話ししましたが、それは子供が『与えられて学ぶ』のではなく、自ら追究していくような『本来の学びの姿に戻していく』ということです。例えば、校則の見直しのようなことも、子供たちを信頼し、任せることで主体性を発揮し、対話し、深く考えていってくれるのだと思います。もちろんそのような子供の学びをつくる教員も、自ら主体的に考え、追究することが必要で、組織改革もそのような変化を期待し、進めたいと考えているところです」

さて、このような長井校長の改革は、今年度を終えたとき、保護者・地域にどのように評価されるのでしょうか。さらに来年度に向けて進められる改善策を通して、子供たちや先生方はどのように変わっていくのでしょうか。その成果が待たれるところです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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