単元テストや通知表をやめるのは、教員の仕事の見直しの一環【都心の小学校校長にインタビュー! 「宿題、テスト、通知表廃止」の背景と経緯 #02】

特集
通知表関連記事まとめ:所見の書き方から「出さない」選択まで
関連タグ

長井満敏校長は、西新宿小学校に異動して4年目なのですが、このタイミングで通知表の廃止、単元テストの廃止、与える宿題の廃止といった多数の改革を開始した理由はどこにあったのでしょうか。また改革を進めるには、当然、保護者や地域、教職員の理解が必要ですが、どのように理解を図ったのでしょうか。2回目はこうした話を中心に聞いていきます。

西新宿小学校の長井満敏校長。

教員が働きやすい環境をつくり、「学びを子供の手に返す」

「2022年度から改革の準備を始めることになったのは、一つにはコロナ禍の影響があります。私が本校に赴任した令和2年度から、一斉休校などの影響を受けてきました。それが、2022年度からいかに通常に戻していくかという時期に差しかかってきたため、周知を図って新たなことに取り組み始めるにはちょうどタイミングが良かったのです。

もう一つ大きかったのは、教員人事の問題です。東京都には教員の公募制度があるため、教員自身が希望すれば、学校指定で他地区から教員を集めてくることができます。本校でも、広く良い教員を集めることができればと考え、電話をかけるなどのアプローチをしていたのですが、そのとき、ふと『良い教員を集めれば学校が良くなるのは分かるけれども、そうでないと経営できない学校って何だろう?』と思ったのです。よそから人を集めるのではなく、『一定程度の力量をもっていさえすれば、誰でも教員として務まるような学校にしていかなければいけないのではないか』ということです。

現在、教員のやるべきことが増え、ハードルが高くなっています。そのため教職を目指す人が減り、東京都の小学校教員の採用試験倍率は1.1倍にまで下がってしまいました(資料参照)。その高くなった仕事のハードルを下げるため、学校内の仕事のいろんなことを見回して、やめられるものはやめ、子供の学びという大事なことに注力できるようにしようと考えたわけです。決して簡単なことではないけれども、単元テストをやめるのも、通知表をやめるのもそうした見直しの一環です」

結局、一部の優秀な教員を奪い合うだけでは公教育全体の質が上がることにつながらないため、現在、学校に在籍している教員が働きやすい環境をつくり、「学びを子供の手に返す」ことを目指すのだ、と長井校長は話します。

【資料】東京都教育委員会資料より抜粋

まず器を変え、余裕をつくることで教育の中身を変えていきたい

そのような目的を実現するため長井校長は、保護者や地域、教職員にどのように周知し、理解を求めていったのでしょうか。

「新宿区は全校が地域協働学校(コミュニティ・スクール)なのですが、2022年度の夏休み前の地域協働学校運営協議会の場において、多様な課題について意見交換をする中で、まず夏休みの宿題を話題にしました。『来年(2023年度)から夏休みの宿題をやめたい』という話をし、意図を説明したのです。多少の不安の声はありました。むしろ夏休みの宿題に関しては、教員の間から『せっかくの学習習慣が失われるのではないか』『知識が剥落するのではないか』という不安の声が上がりました。しかし特に強い反対意見はなく、比較的すんなりと受け入れられたと記憶しています。その後、テストや通知表をなくそうと考えていることも話題にしていきました。

保護者に対しては、年度末が近付いてから2回、保護者説明会を開いて、単元テストや通知表、宿題などについて説明をしました。そのとき、宿題などについては大きな反対意見はありませんでしたが、通知表については『学校での学習の状況をどうやって知るのか』という反対の声も結構出ました。

今、ふり返ってみると、必ずしも保護者が求めているものにフィットしているかは疑問もあるのですが、単元テストや通知表をやめることについて、私は『点数化、序列化することの弊害』について説明させていただきました。学校の評価は絶対評価と言いながらも、結局は点数評価することで比べてしまっているわけです。そのような目で子供を見るのではなく、一人一人のがんばりや良い点をもっと見るようにしたいのだとお話をしました。

「点数化、序列化するのではなく、子供たち一人一人の良い点をもっと見るようにしていきたい」と話す長井校長。

当然、『学習をやりっぱなしにしてよいのか?』という問いが出てきますから、確かめプリントをやることで、どの程度、力が付いたかを確認することや、市販のCDTという実力テストがあるので、それを活用すると説明しました。国語、算数、理科、社会の4教科で、年間通した学習内容を1枚のプリントで評価するテストなのですが、それは年間1回だけなので少々、評価としては心もとないところがあります。そこで販売店を通じて相談したら、算数は年間4回、国語は2回、実施できるように開発をしてくれました。そのテストは業者が採点して、結果がレーダーチャートになって、『知識・技能』『思考・判断・表現』を見ることができるということも説明しています。

さらに、これまで年1回だった個人面談を年2回に変えるということで、より細やかに子供の学びの様子を伝えることもお話ししました」

ちなみに、教育委員会に対しては保護者会よりも前に指導主事を通して伝えたと言いますが、特に指導などは入らなかったということです。

「教員に対して、事前の説明が十分だったとは思っていません。本来ならば教員に私の意図を説明し、共に考えてボトムアップに近い形で改革を進められればよかったのですが、私はトップダウンでやっているので、教員の中には十分に腑に落ちていない部分があるのも知っています。授業改善を目指すと言いながらも十分には進んでいないところがあることも事実です。しかし、まず制度面の既成事実をつくるというか、まず器を変え、余裕をつくることで教育の中身を変えていきたいと考えたのです」と長井校長は話しました。

今回は、なぜ着任4年目に改革を始めたのかという理由と、どのように保護者、地域や先生方に理解を図りながら実践を開始していったかを紹介しました。次回は、実践を開始した2023年度の状況について紹介していきます。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
通知表関連記事まとめ:所見の書き方から「出さない」選択まで
関連タグ

学校経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました