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不登校に寄り添う プロの対応術 Episode3 片道交換ノートと関係再構築の3ステップ

連載
令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ
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元北海道公立中学校教諭

千葉孝司


学校に行けなくなった子どもたちや、その保護者たちへの温かい発信に定評のある千葉孝司先生。千葉先生の名著『マンガで解説 いじめと戦う!プロの対応術』の世界観と登場人物をそのままに、読めば不登校対応のポイントが分かる小説の連載をお届けします。挿絵は、その名著で千葉先生とタッグを組んだ漫画家、黒川清作さんの作品です。

執筆/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭、ピンクシャツデーとかち代表)
挿絵/黒川清作(漫画家)

片道交換ノートをどう書くか

職員室の自分の席で、小さなノートをそっと開いた。書かれているのは最初の数ページ。後は真っ白なのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。

「まどか、そのノート……例のやつ?」

慶子がコーヒーを片手にのぞき込んだ。

「うん。片道交換ノート」

慶子は嬉しそうに目を細めた。

「いいね。まどからしいよ。頑張ってね」

ノートの最初のページには、私が書いた説明文が貼ってある。

ユウタくんへ 

先生があなたと共有したい楽しいこと、必要だなと思うことをノートで伝えるね。

交換日記ではないので、何か書かなければならないということはないよ。もちろん、何か伝えたいことがあれば書いてもOK。

この「片道と割り切る」というスタンスは、私自身の心も軽くしてくれた。返事を期待しない。でも、もし何か書いてくれたら、それは「おまけの宝物」みたいなものだ。

茨木先生が言っていた。

返事を書かなければならないと思った瞬間、ノートは負担になります。子どもがため息をつくようなノートにしてはいけませんよ」

私はその言葉を胸に刻んでいる。今週のページには、軽くて楽しい内容を書くことにした。子どもが元気になれるメッセージを届けるのがこのノートの役割だ。私はペンを持ち、ゆっくり書き始めた。

自分の小さな失敗談を書き、最後にクイズを出す。

「先生が今週食べたアイスは何味でしょう?」

①チョコ

②いちご

③ドラゴンフルーツ

答えは来週書くね。

まどかより

「広瀬先生、それが例のノートかい? 週1回とはいえ、そんなに手間をかけて……効果あるの?」

河村先生がのぞきこむ。彼の声はいつも通り自信に満ちている。私はノートを閉じ、静かに答えた。

「はい。返事を求めない片道のノートです。負担をかけずに、安心だけを届けたいんです

河村先生は眉をひそめた。

「安心ねぇ……。俺ならもっと直接的に働きかけるけどな。会えない子にノートなんて、遠回りじゃないのかな。戻すときはどうしてるの?」

その言葉に胸が少し痛んだ。でも、私はゆっくり首を振った。

「保護者の方に学校のポストに入れてもらっています。負担がかかるので、本当にポストに入れるだけです。遠回りに見えても、会っても大丈夫と思える土台をつくることが大切なんです」

河村先生は「ふーん…」と言いながら去っていった。
私は深呼吸をして、ノートをカバンにしまった。

職員室の河村先生とまどか
P

心の波紋

それから10日後。

「広瀬先生。昨夜、お母さんが来て置いていきましたよ」

教頭先生がそう言ってノートを手渡してくれる。

「ありがとうございます」

ようやくノートが戻ってきた。表紙の角が少し丸くなっている。ページを開くと、前回のクイズの下に、小さな丸が1つ。

そして、その横に鉛筆で書かれた小さな文字。

「② いちご」

鼓動が速くなった。返事はいらないと言ったのに…。でも、書いてくれた。胸が熱くなる。

その日の放課後、私はユウタの家にノートを届けに行った。ポストに入れようとしたとき、玄関のドアが少しだけ開いた。

「……先生」

ユウタだった。

顔を半分だけ出している。

「クイズの答え……合ってた?」

私は笑顔でうなずいた。

「うん。正解だよ。よく読んでくれたね」

ユウタは小さくうなずき、ほんの一瞬だけ口元がゆるんだ。

「また、書いてくれる?」

「もちろん。ユウタくんが読んでくれるなら、先生は何回でも書くよ」

「じゃあ。また」

その言葉は小さかったけれど、胸の中に大きく広がった。

「うん。また来週ね」

私は深くうなずいた。

ドアが静かに閉まる。その動きは、前よりもずっと柔らかかった。

家庭訪問をするまどかと顔を出すユウタ

茨木耕司先生によるエピソード解説

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