47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#34 「町家」に込められた思い

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業をつくる。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、新潟県上越市の木村 葵先生です。
編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/木村 葵(新潟県上越市立大町小学校教諭)
目次
1 はじめに
はじめまして。新潟県で小学校教員をしている木村葵と申します。今回、地域道徳の実践を残す機会をいただきとても嬉しく思っています。
正直にお話しすると、これまで地域道徳という枠で実践を積んできたことはありませんでした。しかし、「自分たちが生きる町やくらしのことを学校の教室で学ぶことで、地域に対する見方が更新されたり深まったりするのではないか」と思い実践をしてきました。その思いは、藤原先生が提唱される地域道徳の一要素になりうるのではないかと思っています。
令和7年2月に上越市が出した「上越市まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、上越市の総人口は20年前に比べ約3万人が減り、「65歳以上の高齢者が総人口に占める割合」が、令和7年には34.9%に達する一方で、「15歳未満の年少者が総人口に占める割合」は10.4%にまで低下しました。私が勤務する上越市も、他の地域と同様に少子高齢化、人口減少が進んでいることが分かります。
また、上越市が行った高校生へのアンケート結果によると、自分の町に愛着を感じている人ほど、暮らしやすいと感じている割合や将来市内に居住したいと考える割合が高くなっていることが分かりました。
以上のことから、学校教育の中で上越の町への愛着を育んでいくことは、上越地域の未来を守ることにもつながっていくのではないかと考えています。
2 教材について
私が勤務している自治体は、北陸でも有数の豪雪地帯と呼ばれる場所です。社会科の教科書等にも載っています。夏のジメッとした暑さ、冬の大雪による生活への影響もありますが、四季の変化が大きく海も山も近い自然が豊かな土地です。そして、そこに生き続けてきた人々の知恵に溢れた町並みが広がっています。
今回は、「町家(まちや)」を素材とした道徳授業を提案させていただきます。
上越市高田地区には古くから町家という構造の家が並んでいます。町家とは、間口が狭く奥行きが長い建物のことです。また、店と居住空間が同じ建物の中にある構造となっています。採光のための大きな吹き抜けがあることも大きな特徴の1つです。そして、出入り口の前には「雁木」が作られています。
雁木とは、雪よけの屋根です。それぞれの住民が、雪が深くても人々が通れるようにと、自身の私有地の一部に屋根を架けたのが始まりとされています。そのため、地面や屋根の高さはそれぞれの家によって違うのが特徴です。この雁木を含む町家の町並みは江戸時代から残っているものです。雁木は最長約16kmあったとされていますが、空き家・空き地問題、火災、老朽化などの問題で現在は約13kmまで短くなっています。
また、隣同士がくっついている町家の構造は、現在の建築法では認められていません。とは言え一度壊してしまったり、建て替えてしまったりすると今の高田の景観は減っていってしまいます。そのためリフォームやリノベーションなどを行う補助金支援を行い、高田ならではの景観を守ろうとしています。その効果からか、近年では町家をリノベーションした店舗や会社が増えてきています。
リノベーションした店舗を訪れると感じるのは、「町家を守ろうとする思い」です。江戸時代から続いてきた町家の景観に魅力を感じ、そこで以前から暮らしてきた人々と共存し、さらには高田地域を盛り上げようとしています。そして、「家がこれまでつながってきたことへの尊敬の念」も強く感じます。すべてをきれいに新しくするのではなく、あえて床の凸凹や壁の汚れなどを残しています。その中の一つに古い看板や貼られたステッカーなどがあります。外したりはがしたりするのは簡単だけれど、あえて残しているもの。そこにはきっと先人たちの思いが込められていると感じました。先人たちの思いを想起することで地域を愛する心を育むことができるのではないかと思い、教材化することとしました。
3 授業の実際
対象:小学5年生
主題:残す
内容項目:C(17)伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
※子どもたちはこの授業を受けるまでに、総合的な学習の時間に「町家」をテーマに活動、学習してきていました。
導入「みなさんが、ずっと大事に残しているものはありますか」
・心
・おもちゃ
・賞状
・お金
・飼っていた犬の首輪
・友だちからもらったお土産
ぱっと思いついたものや思い入れのあるもの、忘れたくないものなどを挙げていました。
説明「これまで総合的な学習の時間で活動してきた町家がありましたが、この町家はどこか覚えていますか?」
以下の写真を提示する。
①町家複合施設「兎に角 -Tonikaku-」

②たてよこ書店

「じつは、この2つの建物の中にはこのようなものが残されていました」
③「兎に角」の壁に飾られた看板

④「たてよこ書店」の柱に残された火の用心を呼びかけるステッカー

2枚の写真を見せると「ああ、見たそれ!」「覚えている!」という声が上がりました。そこで以下のように問いかけます。
発問「リノベーションってことは、古いものを新しく生まれ変わらせることができるってこと、綺麗にできるって言うことだよね。綺麗にできるのに、こうした看板やシールを残したのはどうしてだろう。」
・少し昔の要素を入れることで昔からあったことを伝えたいと思っているから
・町家が昔からあったことを伝えたい
・思い出とか歴史とかが詰まっているから
・昔の面影を残したいと思っているから・お守りのように残しているから
・運気が上がるかもしれないから
これまで町家を拠点に活動してきた子どもたちだからこそ、町家の独自の魅力や価値があるという実感を基点に、考えている子が多く見られました。
また、今回示した2つの町家は、両方ともリノベーションをして会社や店舗になっています。商売に関わる要素から考える子もいました。いずれにせよ、子どもたちは「残したことには意味がある、思いがあるのではないか」ということに気付き始めていました。
発問「もし自分がこの家の住民だったら、残しますか? それとも新しくしますか?」
・残す。今まで残してきて大切にしていた人がいるから。
・看板とか、ステッカーとかを残していくことで、「昔からあったんだな」と思える。
・残す。理由は、昔からずっと貼ったり飾ったりしてきているから、それを新しくしちゃうと、今までのことが無くなって、繋いできたことが途切れちゃうから。
・昔の歴史をつなげたいので残す。
・残す。理由は、自分の前の人が大切にしてきていて、物に思いが詰まっているから。
・残すかなと思う。町家の魅力みたいなものが詰まっていると思ったから。
・私は、不便なところは新しくする。
・大事なものは残して要らないものは捨てる。これまで残してきたものだなと考えるかもしれない。
・これからの災害に耐えて町家を守るために新しくする。
「もし、自分だったら」と問うことで、自分自身の町家に対する捉えと価値観とを対話させるようにしました。全体共有では、「便利さ、住みやすさ」と「思い、伝統」を天秤にかけて考えていきました。どちらの意見にも子どもたちは共感し、頷く姿が見られました。
最後に、子どもたちが自身を振り返ることができるよう、次の問いかけをしました。
終末「自分の町や家の中に、残していきたい思いはありますか?」
※授業で実際に出てきた具体的な意見は、個人情報保護の観点より割愛させていただきます。
道徳科の学習指導要領には「郷土や我が国の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、郷土や国を愛する 心をもつ」ことと記載されています。残された看板とステッカーについて考えることで先人の努力だけではなく、思いを想起しました。
また、「伝統=残すべきもの」という一方的な結論に誘導するのではなく、「変えなければ守れないものもある」という現実にも向き合いました。こうした葛藤の中で、それでも残されてきた看板やステッカーには、どれほどの思いが詰まっているのかを考えることで、自分たちの町を愛する心を育むことに繋がりました。
4 どこにつなげるか
今回の「町家に残されたもの」の道徳授業と関連しやすいのは、総合的な学習の時間です。報告した実践の中に出てくる子どもたちも、前述した通り年間を通じて町家を知り、楽しみ、調べ、体験し、発信してきた子どもたちです。こうした豊富な体験活動があるからこそ、町家に対して思いを馳せることができます。また、互いの考えに対しても共感する事ができます。
国語科には、自分の考えについて書いたり話したりする単元があります。教科書の題材で授業をしてもよいのですが、身近な生活や地域のことをテーマに取り上げることで、自分たちの学びが社会と繋がり、当事者意識を高めながら活動に参加することができます。また、考えをもつことに時間がかかる子にとっても、自身の生活を思い返しながら活動に参加することができ、考えやすいかもしれません。
歴史に関わる要素もあるため、社会科と関連付けることもできます。町家が建てられ始めた江戸時代の様子、戦争の空襲で焼失した長岡と戦火を免れた高田の町並みの違いに触れることで昭和時代の戦争の様子などを知ることができるでしょう。
そして、学校の伝統と併せて考えていくこともできます。児童会活動や学校独自の活動が古くから伝わってきている背景に迫ることで、最高学年に向けた気持ちを高めることにもつながります。
5 おわりに
どの地域にも魅力ある材が隠れています。普段見ている景色は、子どもたちにとっても教員にとっても当たり前の景色です。それを道徳的なメガネで見ていくことで、大きな価値のあるものに変わっていくのではないでしょうか。
目の前にいる子どもたちが、将来生まれた土地を離れたとき、「田舎だから…」と自分の地域を卑下するのではなく、「〇〇なところも△△なところもあるよ」と言えるようになると良いと考えています。
そのために教師である私自身が「この景色の中にこそ、大切な学びが隠れているはずだ」とアンテナを高く張り、様々なことを面白がって過ごしていきたいと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回の更新もお楽しみに!
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