小5体育「器械運動 跳び箱」集団演技を高める指導アイデア
執筆/広島県公立小学校教諭・大屋裕幸
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・高田彬成、広島県公立小学校校長・平岡弘資
目次
授業づくりのポイント
冬休みが明け、学年のまとめとなる学期のスタートです。さらに人間関係を深め、効果的なグループ活動になるよう、子供の相互観察を通して、運動の質を高め、楽しく跳び箱の学習を進めましょう。
跳び箱運動は、基本的な技やその発展技ができる楽しさや喜びだけでなく、ペアやグループで動きをそろえて演技を行うこと等で楽しさを広げることができる運動です。そこで、授業づくりのポイントは3 つです。
1 つ目は、運動が苦手な子への配慮として、跳び箱の運動とつながりのある易しい動きを体験できるようにすることです。感覚つくりの運動を毎時間行い、易しい動きを体験することで、運動の基礎となる感覚を身に付けることができるようにしましょう。
2 つ目は、課題解決的な学習展開を仕組むことです。練習の場や練習方法を選択するなど、主体的な学習活動を取り入れるため、解決のスモールステップを示したり場の工夫を行ったりしましょう。
3 つ目は、協働的な学習を行うことです。学習のまとめで、集団演技(「跳びリンピック」)に取り組むことで、グループ活動を充実させ、動きの質を高めたり運動する楽しさや喜びを味わえるようにしていきましょう。
単元計画の例(全9時間)

感覚つくりの運動
基礎的な能力や感覚を養い、主運動につながる易しい運動を、毎時間のはじめ5分程度で行いましょう。グループごとにローテーションして、すべての運動を行えるようにしましょう。
1 つの運動を約45 秒として、6 つの運動を5 分間で行うようにします。音楽を合図に、各運動に取り組めるようにしましょう。

やってみる(第2 ~ 6 時)
中学年までに学習した基本的な技を安定してできるようにしたり、できる技をさらに上手にしたり、自分の能力に合わせてできそうな技や発展技に取り組んだりするようにしましょう。
子供が自分の課題に適した練習ができるように多様な場を設定したり、つまづきに合わせてスモールステップで課題解決できるように段階的な指導を行ったりすることで、子供が主体的に学習に取り組めるようにしましょう。
スキルアップタイム
めあて 基本的な技をできるようにしたり、安定してできるようにしたりしよう。
大きな開脚跳び

安定した台上前転

首はね跳び

課題解決のステップ

調整板を入れるなど、踏切位置を遠くにして、踏切から着手までを大きくしよう

段の低い跳び箱から前転して下りよう。ゆっくり回って安定した腕支持ができるようにしよう。

マットの上で、肩倒立からブリッジ、足の振り出しのタイミングと体を反らす感覚を身に付けよう。
苦手な子への配慮
恐怖心から運動ができない子には、補助について運動の支援をしてあげましょう。
●台上前転

●首はね跳び

チャレンジタイム
めあて できる技をさらに上手にしたり、できそうな技や発展した技に挑戦したりしよう。
切り返し系
かかえ込み跳び

腕の突き放しと素早い膝の抱え込みのタイミングがポイント。
苦手な子への配慮
数枚重ねたマットや低く設置した跳び箱を使って、踏切時に腰を上げ易くしたり跳び越し易くしたりする。

課題解決のステップ
〈低い台へ跳び上がり〉

〈ステージへ跳び上がり〉

〈着手から着地〉

回転系
伸膝台上前転

いつから膝を伸ばしているかな。
踏み切ってすぐ伸ばしています。
頭はね跳び

課題解決のステップ
〈跳び箱の上から〉

〈1段低い跳び箱から〉

〈舞台から〉

〈2 連結跳び箱〉

苦手な子への配慮

ふかめる(第7 ~ 9 時)
レベルアップタイム
できた技を組み合わせてグループで集団演技を創作します。グループみんなの得意技が生かせる演技構成を考えるようにしましょう。
集団演技のパターン
・ 1 グループ6 名程度(用具の数量等は配慮する)
・ 跳び箱の置き方(縦・横・縦横利用)
・ 跳ぶ方向(同じ・逆・縦横)
・ リズムやタイミング(そろえて同時・そろえて連続・ずらして)
・ 技の構成(同じ技連続・違う技連続・同じ技同時・違う技同時)
・ 技の種類(グループの得意技)
集団演技の例

集団演技のポイント
ICT を活用すると、自分たちの演技を修正し高めていくことに役立ちます。
〈リズムやタイミングを合わせて〉

〈連続して〉

跳びリンピック(集団演技発表会)
グループごとに演技を発表し、できるようになった技やより美しくなった技をお互いに評価し合いましょう。
演技の始めと終わりには、「決めポーズ」をすることで、演技全体にメリハリを付け、集団性を意識付けることができます。

授業のアイディア
効果的な場の設定
スキルアップタイムでは、下の図 のように、体育館中央に向かって助走をとるようにします。子供の運動方向が同じになり、教師が把握しやすくなります。

チャレンジタイム→レベルアップタイムと学習が進むにつれ、自分の課題に合った場で課題解決に向かうことができるよう、多様な練習の場を設定するようにします。

練習の仕方の工夫
安全やできばえの確認のために、グループで見合い教え合えるようにします。観察者は、「踏切・姿勢・着地」の場面ごとに、分担して見るとよいでしょう。

安全に行うために
滑り止めマットを跳び箱とマットの両方に重なるように置くことで、マットがずれにくくなります。

教科調査官からアドバイス「安全を最優先に! 子供の意欲の喚起を」
国立教育政策研究所 教育課程調査官 高田彬成
跳び箱運動では、切り返し系(開脚跳び、かかえ込み跳び)や回転系(台上前転など)の技に取り組み、自己の能力に適した技が安定してできるようにすることを目指します。また、本稿で紹介されているように、集団演技に取り組むことも、子供の課題解決への意欲の喚起に効果的です。
五年生でも、助走から両足での踏切がうまくできなかったり、体が浮き上がることに恐怖心をもったりする子供がいることも考えられます。まずは子供一人ひとりの技能の習得の状況を把握し、個々の課題に応じた練習の場や用具等を整えるようにしましょう。
子供が課題を解決するための場を選び、活動を工夫して取り組む際、教師による助言のほか、友達同士の見合いや教え合い、ICT 機器の活用などが効果的です。
安全を最優先とし、子供の課題と活動が合っているかを見極めながら、それぞれの場に応じた指導を心がけましょう。
イラスト/たなかあさこ、横井智美
『小五教育技術』2019年1月号より