菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #41 菊池省三解説付き授業レポート⑨ ~山梨県甲斐市立敷島中学校 生徒会による出前授業 <中編>

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菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

菊池先生が参観し、アドバイスを行った授業をレポートする特別編・第2回。中学生が敷島北小学校の6年生に対して行った授業を、菊池先生が解説します。前回とほぼ同じ授業ですが、目の前の子供たちの姿に応じて変えていく、菊池先生の「授業ライブ力」が遺憾なく発揮されています。

生徒による授業の概要

敷島中の生徒会による出前授業は、前回の#40とほぼ同じ展開で行われたため、詳細は割愛する。
6年生に向け、クイズを交えながら「中学校生活」について紹介し、「自分が成長するためには、友達や仲間の存在が大きい」というメッセージを伝える、25分間の授業だ。
前回同様、残りの20分が菊池先生にバトンタッチされた。

菊池先生のワンポイント授業

教室の後ろで参観していた菊池先生が、“指の骨が折れるくらい”大きな拍手を送られながら、前に歩いていった。その途中で、一人の男子と握手。
「さっき、先生が教室に入ったときに目が合いましたね。そのとき、会釈してくれました」
菊池先生がそう言いながら、黒板の左端に<礼儀>と書き、「だから、楽しいクラスになるんだね」とみんなに話しかけた。
「じゃあ、みんな、礼儀正しい姿勢を見せてください」。


まずは悪目立ちしている子の “いいところ” を見つけてアプローチすることで、全体の空気を温めていくようにしました。

子供たちが姿勢を正すと、
「明るい、いい教室ですね。それでは、隣の人と『うちら明るいよね』と言い合いましょう」。
子供たちが爆笑しながら言い合う中、先ほど握手された男子が勢いづいて席を立ち、後方の子供たちに話しかけてしまった。
すると、菊池先生がすかさず黒板に<やる気の姿勢><切り替えスピード>と書き、
「だから明るい教室になるんだね。じゃあもう一度、隣の人と3秒間だけ、『先輩、かっこいいよね』と言い合いましょう」
と言葉をかける。さらに、
「そして、“これ” もいいね」
と、<音を消す>と書いた。
雑音が少し消えた。
その後、菊池先生は最前列の女子と握手しながら、
「さっき誰も手を挙げなかったときに、後ろで誰が手を挙げているかわからなくても、手を挙げたんだね」
とほめながら、話を続けた。
「要らないことを、要らないときに言うことを“雑音”って言うんだけど、そういう雑音に関係なく、『先輩が頑張っているんだから応えよう』と手を挙げた。かっこいいですね」。
再びその女子と握手しながら、
「ここで拍手だ!」
と言うと、みんなが大きな拍手を送った。


教室に貼り出された目標「明るい授業」のゴールイメージをつかめず、どのような行動をとればいいのかわからない子供たちに、5分の1黒板を通して、一つ一つ示していき、学び合う空気感をつくっていきました。

「あなただけに言うけれど……」
と、菊池先生が最前列の男子の席の前にしゃがんで小声で話しかけた。
「中学校の先生は、小学校の先生に比べて怖いか?」。
みんなが静まりかえって、菊池先生の言葉に耳を傾けた。
「隣の人と3秒間だけ『怖いか、怖くないか、どっちかな』と言いましょう」。
3秒の話し合いの後、どちらかに挙手させた。
「怖いと思う」に手を挙げた子が、
「お兄ちゃんからの情報です」
と答えると、菊池先生が、
「雑音を出さずに丁寧な言葉や振る舞いをするから、いい教室になるんですね。みんなもやる気の姿勢で聞きましょう」
と伝える。すると、それまでフラフラ動いていた男子が、ぴっと姿勢を正した。
「じゃあ、先輩に話してもらいましょう」。

篠田君……先生は怖いけれど、メリハリをつけて学校生活を送れば、怒られないし、優しい
長田さん……怖いときもある。どの先生も面白くて、話すととても楽しい

「さっき中学校の説明の中で、仲間との成長という話が出てきたけれど、仲間と成長するための秘訣を教えてもらいましょう」。

篠田君……自分から話しかけていくといい
長田さん……相手の気持ちを考えて接することが大切。嫌がることをすると、友達が離れていく

6年生が大きな拍手を送った。


プラスの行為を価値付け、予想されるマイナスの行為を牽制しています。
また、中学生に話してもらうことで、発表の “手本” を示しています。

自分の気持ちを色で表してみよう

「今の気持ちを色に例えてみましょう。一人一人違っていいよね? 何秒くらいあればいいと思う?」
と菊池先生が篠田君と言葉を掛け合いながら、子供たちに問いかけた。
列指名で子供たちが発表していく。

●黄色……わくわくしたから
●オレンジ……早く部活に入りたい
●赤……友達をたくさんつくりたい
●緑……友達ができるか不安がある
●青……小学校と違う勉強ができる

一人一人が違う色を挙げた。
「書いていないことを発表できるのはすごいね」「リアクションがいいね」「話す人に自分の心臓を向けて聞いているね」と菊池先生がプラスの行為を価値付けてほめた。
「先輩たちは、6年生のみんなにどんな色の気持ちでスタートしてもらいたい?」
と尋ねると、生徒二人がハキハキと答えた。

篠田君……青色。新しいことが始まるから。中学校は小学校より落ち着いているイメージの青
長田さん……オレンジ。部活や学校行事など楽しみがいっぱいあるから楽しみにしてほしい

「では、みなさんは何色の気持ちで卒業し、中学校に入学したいか、隣の人と確認し合いましょう」。
菊池先生がそう問いかけると5人が挙手し、発表した。

●水色……幻想的できれいな色
●ピンク……明るい色
●灰色……少し不安があるから
●赤……新しいことに挑戦する
●白……新しいページに進むから
●赤……ずっと元気でいたいから

「最後に二人から、エールを送ってもらいます。最高のやる気の姿勢になりましょう」。
菊池先生が話すと、子供たちがピシッとした姿勢になった。

篠田君……勉強や友達関係、部活。やることがたくさんあって、トラブルが起きることもある。でも、友達や先生と一緒に、一つ一つ壁を破ってほしい
長田さん……最初は不安に感じても、慣れてくれば楽しい。部活や新しい仲間との出会いもあるので、楽しみにしてほしい

6年生が指の骨が折れるくらいの拍手をして、授業が終了した。

授業後の中学生の感想

長田さん……緊張して固くなってしまったけれど、大きな声で話せた(自己採点/70点)
篠田君……みんなが騒がしくて、なかなか内容が伝わらなかったかもしれない。もっとメリハリをつけられるような声かけをすればよかった(自己採点/60点)

菊池省三先生による第41回解説

教室で授業が行われ、普段と同じ環境のせいか、落ち着かない空気感に覆われていました。
単学級で6年間変化のない教室環境が続くと、周りに迎合したり、牽制し合ったりと、マイナスの人間関係に傾くことが多々あります。
ざわつきの空気感の正体は不安です。
1年間のゴールイメージに進むステップを示さなければ子供は不安になり、その結果、自分を偽ったり、一部の影響力が強い子に全員が引っ張られるようになります。

そこで、いきなり握手したり、拍手を促したり、小声で話したりと、意表を突くことで子供たちの“動き”を変え、その意識をこちらに引き込みました。
まずは、コミュニケーションができるカラダと心のあり方を示すことにしたのです。
そのアプローチの一つが拍手です。
「発表する」「人の意見を聞く」という呼応関係が生まれると、適したタイミングで拍手ができるようになっていきます。拍手はお互いが認め合い、呼応できる関係づくりの第一歩です。

パフォーマンスを取り入れながら、子供の発言や行為に意味付け・価値付けをしていく指導を日常的に取り入れなければ、知的な学び合いに向かう姿勢は生まれません。
予定調和の授業ありきで進めていくと、子供のイレギュラーな行為を全て封じ込めることになります。そうではなく、「子供のいいところをピックアップしてほめて価値付ける」「“つぶやき”を大きく取り上げる」を繰り返しながら、マイナスの行為を子供自身がしなくなるように仕向けていくことが大切です。
そのためには、声の大きさやカラダの向きを臨機応変に変え、教室間の移動を意識しながら、「一人一人に話しかけている」空気感をつくる言葉かけが大切です。

菊池先生と先輩との言葉の掛け合いに、6年生たちは引き込まれていった。

※次回は、1月16日(火)AM6時に公開予定です。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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