菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #3 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

「コミュニケーション力」の育成を重視する菊池省三先生の実践は、全国各地の自治体によって追試、研究が進められています。そうした菊池実践の最新進化形を紹介し、コミュニケーション豊かな教室づくりについて提案する連載第3回。今回は、教師の「パフォーマンス力」について考えていきます。

“「楽しい」の3段活用” を意識して

私が行う授業の多くは、子供たちと初めて出会う授業です。毎回が “学級開き” です(笑)。「どんな先生なんだろう?」「真面目に受けなければ」と最初は緊張している子がほとんどです。

「子供たちと一緒に授業をつくっていきたい」と私が思うように、子供たちにもそう感じてもらえなければ、コミュニケーション豊かな授業は成立しません。そのためにどんな言葉かけやアクションが必要かを常に考えています。

私は吉本新喜劇が大好きで、今でも大阪を訪れたときには、せっせと劇場に通っています(笑)。お笑いそのものはもちろん、その場の空気感がとても心地いいからです。

吉本新喜劇の空気感は、授業づくりの視点からも、とても役立っています。若手芸人から中堅、ベテランが漫才や落語で劇場の空気をどんどん盛り上げ、最後にしっちゃかめっちゃかの新喜劇で観客の笑いを爆発させる構成は見事だなあ、といつも感心させられます。

演者のキャラクターや芸と観客の反応が吉本新喜劇の笑いをつくっています。だから、毎回違った舞台になるのです。

授業も同じではないでしょうか。最初は演者である教師が中心となって教室の空気を温め、観客である子供たちを引っ張り込み、一緒に演者となって授業をつくっていくのです。教師のキャラクターによって、授業の空気感は大きく変わります。

子供たちに、授業前に「楽しそう!」と期待を持たせ、授業中は「楽しい!」と夢中にさせ、「楽しかった!」と満足させて授業を終わる、“「楽しい」の3段活用” を意識しながら、授業に臨みたいと思っています。

自分らしさを活かしたパフォーマンスを

そのために欠かせないのが、教師のパフォーマンス力です。

教師のパフォーマンス力というと、かぶり物や仮装など大きな仕掛けや、大げさな身振り手振りを連想する人も少なくないと思いますが、そんな大げさなものではありません。教師の自分らしさを活かした子供へのアプローチ、それがパフォーマンス力です。その根底には、「子供とともに授業をつくる」という思いが大切です。

特に重要なのが、授業の冒頭部分の言葉かけやアクションです。教師が一方的に指導するのではなく双方向で学び合うことを、子供たちに即時に感じてもらうためです。

そういう場面での言葉かけは、教師の感動からくる「自己表現的言葉」が中心になります。
そして、「いいねえ」「なるほどねえ」とほめながら、「先生はこう思うけれど、みんなはどう?」と子供たちに投げかける会話体になります。短文でキャッチボールをしながら、お互いの距離を縮めていくのです。

私は初めての教室に入ると、まず誰か一人の子に話しかけます。全体に話すのではなく、意図的にAさんやBくんに話しかけるのです。

「今、あなたは最高の笑顔で拍手をしてくれたよね。ありがとう!」と、その子のそばまで近付いて目線の高さを合わせ、少し砕けた話し方でみんなに聞こえるように話しかけます。視線が集まったところで、「先生は命より拍手が大切だと思っているんです。もう一回、みんなで拍手をしましょう」と全員に話しかけると、教室中が大きな拍手に包まれます。

このようなパフォーマンスには、次のような効果があります。

  • ユーモアたっぷりな楽しい雰囲気を生み出す
  • 集中して聞く雰囲気を生み出す
  • 全員が聞くようになり、一体感を生み出す
  • 学びを<教師 対 子供たち>から、<教師と子供 対 子供たち>にして、立体感を出す
  • 子供たちに、自分の聞き方の自由度を保障する

一方的に教師が指導する「授業内容伝達言葉」に対して、「自己表現的言葉」は、教師の主観や個性、その先生らしさがそのまま形になります。教師が自己開示することで初めて、子供たちも自己開示することができるのです。

このとき大切なのは、本心から「なるほど」「いいね」という言葉を発していることです。

講演やセミナーの際、質問を受け、参加者同士で話し合ってもらう場を設けますが、最初から積極的に関わってくる参加者はそう多くありません。大人でさえ難しいことなのに、子供には平然と、最初から積極的な挙手や話合いを求めているのではないでしょうか。

考えがまとまらないうちにいきなり指名され、しどろもどろになりながらも発表したことを、教師が「もっとしっかり発表しなさい」とマイナスにとらえるか、「短い時間の中でよく考えたね」とプラスにとらえるか──教師の授業観が「自己表現的言葉」に表れるのです。

吉本新喜劇での “視察” を活かして、学習発表会で取り組んだ喜劇舞台「えびすやとんとん物語」。演者の子供たちも観客の保護者たちも大笑い。

※このテーマは、次回へ続きます。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 ほかの回もチェック⇒
第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>

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