菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #2 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究サークル「菊池道場」主催、高知県いの町教育特使、教育実践研究家

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

「コミュニケーション力」の育成に力を入れてきた菊池省三先生。その実践を紹介しつつ、コミュニケーション豊かな教室づくりについて提案する連載第2回をお届けします。今回は、教室の「空気づくり」について掘り下げていきます。

「ほめて認めて励ます」プラスのアプローチで

教室はみんなで学び合うところです。そして、教室の学び合う空気は、みんなが協力して一緒につくり上げていくものです。子供の活発な学びは、自分に自信をもち、お互いに認め合える信頼関係がある温かい学級が土台にあってこそ成り立つものです。

温かさ──これこそが教室に求められる “空気” です。

温かい学級とは、一人ひとりが自分らしさを発揮し、自分の居場所として実感できる学級。「うちのクラスはこんなクラスなんだよ」と自信をもって話すことができる学級でありたいと思います。

温かい空気づくりに必要なのは、まず一人ひとりの子供が安心感を持てること。「どんな意見を言ってもいい」「間違えても大丈夫」「いろいろな意見があって当たり前」だと、子供たちに実感させることが大切です。

そのためには、教師には「ほめて認めて励ます」プラスのアプローチが必要です。「ほめて認めて励ます」というのは、教師が子供のプラス面に目を向けることであり、望ましい方向性を示すことでもあります。

「○回手を挙げて発言した」などの表面的な現象だけではなく、子供の内面や非言語の部分にも目を向けなければなりません。

例えば、発言している子に対してうなずきながら聴いている、発表で詰まってしまった子がいたら助け船を出してあげた、一人でも黙々と掃除をしていたなど、周りの子との関わりや過去との比較、その子の非言語の部分や内面をも含めて、成長を認めるということです。ですから、ほめる際には行為(事実)だけでなく、その行為にはどのような良さがあるのか、必ず意味付け・価値付けをして言葉かけをします。

意味付け・価値付けをすることで、ほめられた子だけでなく、他の子もその行為のプラス面を意識するようになります。また、教師がプラスの視点で子供たちにアプローチすることで、子供たち自身もまたプラスの視点を持つようになっていきます。

温かい空気づくりにおいては、子供たちに次の三つの視点を保障する必要があります。

  • 一人が美しい……自分の意見を持ち、一人で行動できること。他者の意見に流されず、時にはたった一人になっても自分の立場を貫くこと
  • 一人をつくらない……異なる行動や考えでも排除しないということ。むしろ積極的に関わってお互いを認め合おうとすること
  • 一人ひとり違っていい……自分も相手も認めるということ

これらが保障されないと、子供たちは自分らしさを発揮できません。

そのためには、教師は普段から子供の細部まで見渡すことが必要です。「○○さんは、さっき廊下に落ちていたゴミを拾ってさっとゴミ箱に捨ててくれました。まさに一人が美しい、ですね」と価値付けてほめます。

実際の行動を取り上げることで、子供たちは「一人が美しい」とはどのような行動なのか、より実感できるのです。

この三つの視点が発揮されれば、子供たちは人と意見とを区別できるようになり、学級の人間関係は、群れから集団へと成長していきます。

1年間の見通しを持って “空気” の温度を上げていく

心理学者のタックマンは、チームビルディングの過程について、「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」「解散期」の5段階を経てチームが形成される、と提唱しています。この考え方は「タックマンモデル」と呼ばれ、ビジネス分野で応用されています。

タックマンモデルを学級の成長段階に当てはめると、学級は「形成期」「混乱期」「標準期」「達成期」の4段階を経て成長していくのではないかと考えています(図参照)。

「形成期」は、新しい学級でスタートした初期の段階を指します。
この段階では、子供たちがお互いをまだ把握していないため、不安や緊張感が生じます。1~2か月間の短い時期だと捉えがちですが、1学期の間は大まかに「形成期」であると考えた方がいいでしょう。

「形成期」においてはまず、1年間の見通しを子供たちに示すことが重要です。人間関係は上がったり下がったりの曲線を繰り返していくこと。学級全員が自分らしさを発揮し、お互いに認め合う教室を目指していけば、曲線はやがて右肩上がりに上がっていくこと。そして、学級全員で成長し合うことで、その曲線はどんどん上がっていくことを話します。上のようなタックマンモデルの図を示しながら、説明してもいいでしょう。

曲線を右上へ伸ばしていくには、この時期に「教室は安心できる場所だ」と子供たちに実感させる温かい空気づくりが必須です。「形成期」にこそ、プラスのアプローチで、子供たちに安心感をもたせるよう心がけましょう。

「形成期」を経て、やがて「混乱期」を迎えます。目標に対する意識の相違や対立などが生まれやすいのがこの時期です。人間関係がまだ不十分なのだから当たり前です。

「形成期」に、1年間の具体的な見通しを教師が示さないまま子供たちに学級生活を送らせると、人間関係が表面的なまま「混乱期」に突入します。「混乱期」をいかに乗り越えるかは、学級経営の重要なポイントです。

チームの土台となる人間関係は、「混乱期」に本音を出し合い、お互いに信頼し合うことで、共通理解が生まれてくるからです。

この時期を意識せず(できず)、あやふやな人間関係のままで過ごしていくと、「標準期」以降の上昇が望めないばかりか、そのまま下降し、学級が荒れていきます。

すべての教科の基盤となる、温かい教室の “空気づくり” は一朝一夕にできるものではありませんし、教師一人でつくるものでもありません。教師と子供が一緒につくっていくものであることを念頭に置きながら、少しずつ教室の “温度” を上げていきましょう。

言葉かけや掲示物などによるプラスのアプローチで、子供たちの行動を意味付け・価値付けていく。

※この連載は隔週火曜日に公開します。次回公開は、7月19日(火)AM10時の予定です。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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