菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 ♯1 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

人間社会で生きていく上で欠かせない「コミュニケーション力」の育成に力を入れてきた菊池省三先生。この連載では、具体的な実践例を紹介しながら、コミュニケーション豊かな教室づくりについて提案していきます。子供も教師も、ともに成長していく教室を目指しましょう。

今こそ必要なコミュニケーション力

学校教育の目標は言うまでもなく、「公(おおやけ)社会に役立つ人間を育てる」ことです。

「公社会に役立つ人間を育てる」とは、自分を表現し、相手を理解し、課題を解決しながら物事をつくりあげていくこと、すなわち民主主義の根幹になる力を育てることです。
教室は、一人ひとりが自分の意見を持ち、相手の意見を認め、お互いに高め合っていく場でなければなりません。そのとき、絶対に必要なのが、コミュニケーション力であると私は考えています。

私がコミュニケーション力の育成を意識しはじめたのは、公立小学校の担任だった30代の頃。新しく担任することになった子供たちに自己紹介をさせたところ、自分の名前さえ言えず泣き出してしまう子供の姿に衝撃を受けたことでした。

友達の顔色をうかがい、お互いに牽制しあう、冷ややかな学級を目の当たりにした私は、それまで培ってきた指導方法では太刀打ちできないことを痛感しました。
どうすれば、一人ひとりが安心してありのままの自分を出し合うことができるのか──。教育書はもちろん、ビジネス書等様々な分野の書籍を読んだり、先輩教師にアドバイスを求めたりしながらたどり着いたのがコミュニケーション力です。

当時、学校教育でコミュニケーション力の育成についての研究・実践はほとんどなかったため、一つひとつ私なりに模索しながら、子供たちと向き合ってきました。手探り状態で始めた取り組みでしたが、一年間が過ぎる頃には、子供たちは確かに変わりました。固い殻を脱ぎ捨て、自分を表現する積極型の子供に育っていきました。一人ひとりの育ちと同時に、学級も温かい絆でつながっていきました。

一年間の指導を通して感じたのは、コミュニケーション力の指導は、単に「話す」「聞く」技術を教えるだけでなく、子供の人間形成に大きな影響を与えるのではないかということでした。

一人ひとりが豊かなことばを獲得し、自分を表現する。友達との学び合いを通して様々な意見や考えを知り、相手を理解する。この繰り返しが、自分に自信をもたらし、自分と同じように相手の存在も大切に思う信頼感を育み、温かい学級を生み出していくことを確信した私は、対話・話し合いを通してコミュニケーション力を高めていくことに力を入れてきました。そして、コミュニケーション力の授業は、今も私のライフワークとなっています。

コミュニケーション力が育つと、子供たちの話合い活動も白熱する。

人間関係が教室の空気感をつくり出す

幼稚園・保育所から大学まで全国の様々な学校等で授業を行っています。

教室に入ると、初めて出会う子供たちは、緊張と期待が入りまじった表情でいっぱいです。こちこちに固くなった子供を見ると、事前に担任や他の先生に「きちんと授業を受けなさい」と言われたのかもしれません。そんな子供たちに対して、私はまず笑顔になるような言葉かけやパフォーマンスで、その緊張を解いていくようにします。今から行う授業は、みんなが笑顔で楽しむものだということを感じてほしいからです。

授業後、子供たちからは「今日はたくさん考えた」「いろんな意見を知ることができた」「友達と意見を出し合ったのがすごく楽しかった」という感想をもらいます。参観していた先生方からも、「いつもは意見を出さない子も、今日は発表していた」「あの子がこんな考えを持っていたのに驚いた」という話を聞きます。“静かに座って先生の話を聞く授業” に慣れている子供たち・先生方にとって、アタマとカラダをフルに使って子供同士がかかわり合う授業は新鮮に映ったのでしょう。

全国各地で初めて出会う子供たちと接しながら、担任を持っていた頃にはあまり意識してこなかったこと、より意識するようになったことが、ここ数年でよりはっきりしてきました。

その一つが、教室の “空気”、つまり担任と子供たちが醸し出す教室の空気感です。

若い頃、先輩教師から「2~3分いれば、その教室がわかる」と聞き、衝撃を受けましたが、自分も経験を重ねるうちに実感するようになりました。教室に漂う空気感は、人間関係や担任の指導など、学級経営のすべてを語っているのです。
教育学者の齋藤孝・明治大学文学部教授が著作の中で、「空気は、人と人との関係で決まる」と述べていますが、まさにその通り。教師と子供たち、子供同士の人間関係が教室の空気感をつくり出しているのです。

子供たちの主体的な学びを育てる土壌となる、活発な意見を交わす場をつくるためには、どのような空気を醸し出していけばいいか。
すべての教科の基盤となる“空気づくり”に、教師はまず目を向けることが重要です。
この連載では次回以降、この”空気づくり”について、さらに考えていきたいと思います。

※この連載は隔週火曜日に公開します。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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