プール学習で子どもと約束した4つのルール|7月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、プール学習についてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年ベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

プール学習を目前に控えた教員室での会話

(島原先生)
プールに入る季節になったなぁ。るなさん、プールに入る日のカウントダウンをしているよ。

(根本先生)
そうなのね! ゆうかさんは、小さい頃に遊園地のプールで迷子になったことがあって嫌な思い出があるようで、プールの話をするとしょんぼりするの……。

(皆川先生)
水泳が始まると私たちも体力勝負になるわよ。プールでの学習は、子どもたちが楽しみにしていることの一つよね。

(島原先生)
プールに入ることが大好きなるなさんがいれば、そうではないゆうかさんもいます。

(根本先生)
水が大好きなしゅんたさんもいますね。水泳を楽しみにしているほかの子どもたちもいますし、何を大切にしたらいいんでしょうか?

そうですよね。楽しいプールだけれど、命を守る学習でもあるから、お互いに気を抜かないようにしましょうね。

【POINT1】ルールはシンプルに

プールに入ることが大好きな子どもたちは多く、中には水への強いこだわりがあると、授業が終わってもなかなかプールから出たがらないといったこともあります。また、以前、プール学習の前に雷鳴が遠くに聞こえたので、安全面を考慮し、急きょ授業を取りやめにしたことがあります。その際、まだ天気が荒れているわけでもなかったので、プールに入れないことへの気持ちの切り替えがうまくいかず、納得させることに苦労したことがあります。

プール学習でのルールとして、下記の4つを挙げてみました。細かな項目に分けるとルールが多くなってしまうので、できるだけシンプルに指導したいものです。

  1. 命を守る学習であることを確認しておく
    プールでの学習は普段より楽しく感じてしまうことは仕方ないことかもしれません。しかし、家族で遊びに行くプールとは違い、学校では「命を守る学習」であることを確認しておきましょう。
  2. プールでの「走る」「ふざける」は、危険な行為
    プールサイドでは思わぬケガにつながることがあります。水で濡れている地面を走って転倒してしまう。ふざけて遊んでいるつもりでも、水の中にいたことでいつもの体の感覚とは違うので、大きな事故につながることがあります。プールでの「走る」「ふざける」は、危険な行為であることを確認しておきましょう。
  3. プールから出る合図を子どもと確認する
    例えば私の学校の場合、プールから出る合図は鐘の音です。手で振ることのできる鐘を鳴らしてプールから出るという合図にしています。プール学習中にも必要ですが、事前に指導できるのであれば、プールから出る合図を確認しておきましょう。イラストや先生が実際にして見せることで理解しやすくなることが多いです。
  4. 雷が鳴ったら、プールから出る(着替えて教室へ避難)
    天候が怪しくなったり、雷雲が近づいたりしたときは、途中で終わることもあると伝えておきましょう。途中での変更が苦手な子どもがいるからです。

他にも守らせたいルールはありますが、多過ぎたり、語尾が否定形で終わるようなルールは伝わりにくくなります。提示するときは、実態に合わせて伝えましょう。

こちらも参考になります↓↓
安全な水泳授業~プール事故防止のための事前学習~

【POINT2】教室よりも褒め数を増やすつもりで

上記を細分化したような、プール内での約束事は、いくつかあることでしょう。プール指導が始まった何回かは、約束ごとを守った、あるいは守ろうとしたら、すかさず褒めましょう。そして応用行動分析(ABA)を活かし、良い行動を強化していくのです。教室よりもどんどん褒めていきましょう。

応用行動分析(ABA)についてはこちらもご覧ください↓↓
不適切な言動を繰り返す生徒に、支援員として何ができますか?

【POINT3】浮力を利用した動きのメリットとデメリット

水の中での運動は、単に「浮く・泳ぐ」だけではなく、アクアビクスや水中歩行などもあります。体に負担をあまりかけずに取り組むことができて、全身の筋力へ作用するので運動能力の向上も期待できます。水の中の運動のメリットとも言えます。

しかし、「固有受容覚」や「前庭覚」の発達段階等によっては、体の動かし方にぎこちなさのある子どもがいるため、個々の子どもの発達段階を把握することが大切になります。中には、地上での動きのように体を動かせないことにイライラを募らせたり、その他の要因でパニックになったりする子どもがいます。

無理強いはせずに、現在できている動作がより確実にできるよう取り組むことがポイントになります。水位も調節しながら、体の動きを一つ一つ確かめ、ゆっくり動かすようにし、発達の段階に見合った運動から行うようにするとよいでしょう。

プールでの学習だけでは難しいので、日常の体育のほか、「固有受容覚」や「前庭覚」の発達を促す指導(自立活動)で組むとよいでしょう。また、自己を肯定的にとらえることができるように、子どもたちには「できた」という経験と自信がもてるような活動にしたいものです。

【POINT4】保護者との連絡を密に

体調の変化がすぐに表れない子どもがいます。また楽しすぎて、いつもよりも頑張ってしまう子どももいます。トイレが近くなる子どももいます。プール学習時の子どもたちの様子は個人差があり、書き上げるときりがなく、これは、通常の学級の子どもでもいえることです。プールに入る同意書を保護者からもらうときに、知っておいたほうが良いことや想定される課題などを共有しておくことが大切です。


いかがでしたか? 子どもたちにとっては待ちに待ったプール学習ですが、命の危険と隣り合わせでもあることを、今一度認識して、指導に臨みたいですね。この夏、子どもたちの「できた!」が一つでも多く増えますように!

イラスト/terumi

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